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オリンピック開会式は中途半端な出し物ばかり…かつてないほどつまらなかった 三枝成彰の中高年革命
https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/sports/292685
2021/07/31 日刊ゲンダイ
聖火点火のシーンには「ボレロ」が(C)JPMA
まずは前回の記述に一部誤認があったので、改めて書く。
広告代理店はIOC委員の子女の米一流大入学や現地での生活費の世話まですると聞いた。その費用はクライアントの企業に肩代わりさせる。その見返りに代理店は、企業のスキャンダルや世の中に出したくない不都合な情報がマスコミに流れないように一役買う。確かめようもないが、業界ではまことしやかにささやかれており、私はあり得る話だと思っている。実に巧妙な仕組みだ。
そんな利にさとい広告代理店にオリンピックの仕事を丸投げしていては知性や文化的な意味づけなど期待すべくもない。マーケティングや流行で企画を立てるからだ。
今回の開会式は、かつてないほどつまらなかった。
ビートたけしさんが「金返せよ」「外国恥ずかしくて行けないよ、俺」と言われたが、まったく同感だ。あれを褒めそやし、歯の浮くような賛辞を述べているコメンテーターもいたが、「そう思っているはずがないのに、みんなが本音を言えない世の中になったんだな」と改めて思った。
全体として散漫で盛り上がりに欠け、身を乗り出して見たくなるものはひとつもない。中途半端な出し物ばかりを延々と見せられるのは苦痛だった。
「イマジン」は良かったが、世界の歌手に歌い継がせるのは古い。「ウィ・アー・ザ・ワールド」のパクリのようだ。
現在はジョン・レノンとオノ・ヨーコさんの共作とされているので、辛うじて日本人に関連してはいるのだが、肝心の歌詞の翻訳が画面に出なかった。「想像してごらん、国境も宗教も所有も存在しない、貧しさも飢えも必要ない、みんな兄弟同士で世界を分かち合っているんだから」というこの曲はベトナム戦争をやめさせ、数百万の命を救った反戦歌だ。その歌詞には政治批判とも受け取れる激しさがあるから流さなかったのか。
ラヴェルの「ボレロ」を聖火点火のシーンに使ったのも、よく分からなかった。恐らく別の楽曲を使うはずが、何かの事情で土壇場で差し替えたのではないか? どうせ使うなら、日本人の曲にしてほしかった。
ただ、MISIAの「君が代」はアバンギャルドなハーモニーを用いた編曲が奇抜だった。「『君が代』を冒涜(ぼうとく)している」と怒った人もいるかもしれないが、芸術表現に賛否両論あるのは西洋では当たり前だ。むしろ否定が多いのを良しとする気風がある。日本人があそこまでできたのは初めてだろう。世界が注視する中で披露したのは評価できる。
個人的に感動したのは、天皇陛下がおひとりで読み上げられた開会の宣言だ。簡潔な内容だっただけに、お言葉の裏に、いまも開催に反対されているお気持ちが感じられた。
逆に橋本組織委会長とバッハIOC会長の言い訳じみたあいさつの長かったこと! 小池都知事があいさつしなかったのと、安倍前総理が欠席したのは、はっきり言ってひきょうだ。主催者は日本国ではなく東京都であり、その長たる小池知事が、まずあいさつすべきだ。安倍さんは今回のオリンピックを東京に招致した張本人である。リオでマリオの扮装までしておいて、批判の矢面に立ちたくないというのか。いかなる批判も甘んじて受け、関係者の盾となるのが本当のリーダーだろう。
経済団体やスポンサー企業のトップの姿がないのも、かつてない光景だった。ドイツのメルケル首相ら各国首脳も欠席ばかりで、アメリカもバイデン大統領夫人。めぼしいのはマクロン仏大統領ぐらいだが、次期パリ大会を招致している手前、来ざるを得なかったのだろう。理由が何にせよ、ワクチンを打っているのだから来てもよさそうなものだが、やはりアンチ・オリンピックの気持ちを表すために来なかったのかも、などと勘繰りたくなる。
オリンピックという祭典が、ひとつの限界に来ているのかもしれないと感じた開会式だった。
三枝成彰 作曲家
1942年、兵庫県生まれ。東京芸大大学院修了。代表作にオペラ「忠臣蔵」「狂おしき真夏の一日」、NHK大河ドラマ「太平記」「花の乱」、映画「機動戦士ガンダム逆襲のシャア」「優駿ORACIÓN」など。2020年、文化功労者顕彰を受ける。
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