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※週刊朝日 2021年7月16日号 紙面クリック拡大
東京五輪で“最凶”の「ラムダ株」が上陸 ワクチン効果は5分の1?
https://dot.asahi.com/wa/2021070600072.html
2021.7.8 07:00 亀井洋志 週刊朝日 2021年7月16日号
モデルナ製のワクチン (c)朝日新聞社
羽田空港の検疫検査場を視察する菅義偉首相 (c)朝日新聞社
新型コロナウイルスの新たな変異株が、世界を席巻している。日本ではインド由来のデルタ株が第5波の引き金になると見られているが、さらに東京五輪開催を機に、南米で感染が拡大中の「ラムダ株」と呼ばれる“最凶変異株”が上陸する恐れがあるのだ。迫る脅威とどう向き合えばいいのか。
* * *
ラムダ株は南米を起源とする変異株で、ペルーでは4月以降の感染者のおよそ8割を占める。6月30日現在、ペルーの新型コロナ感染症による死者数は世界5位の約19万人(感染者数は約205万人)。人口10万人当たりの死者数で見ると世界最多の583人に上り、“デルタ超え”の脅威が現実味を帯びる。
チリやアルゼンチンでも感染が急増しているほか、国際データベースのGISAIDによると、米国でもラムダ株検出の報告例が増加しており、今後、感染が急拡大する危険性をはらむ。
WHO(世界保健機関)は、変異株を「懸念すべき変異株(VOC)」と「注目すべき変異株(VОI)」に分類しているが、6月14日、ラムダ株をVOIに指定。世界各国に警戒を呼びかけているが、今後の感染状況によってVOCへ格上げされることも想定される。
ラムダ株で懸念されているのは、F490Sという変異がワクチンの効きを悪くするかもしれないことだ。研究者の中には「5分の1程度まで落ちる可能性がある」との指摘もあるが、実際はどうか。防衛医科大学校感染対策室長の藤倉雄二准教授が、「まだ基礎研究段階の知見でしかない」と前置きしつつ解説する。
「ラムダ株ではF490S変異が注目されています。コロナウイルスの突起状のスパイク蛋白質は1200以上のアミノ酸配列でできていますが、このうち490番目のアミノ酸が変化しているのです。著名な英科学誌によると、そこに変異が入るとワクチンの効果を下げ、抗体が効きにくくなるのではないかと書かれています」
まだ専門家たちの評価や検証を受けていない査読前の論文でも、ワクチン効果の低減に言及する研究が散見されるという。デルタ株は従来のウイルスよりも約2倍感染力が強いとされているが、ラムダ株のF490S変異もヒトの細胞との結合に関わる場所にあるというから、強い感染力を備えていることが心配される。藤倉准教授が続ける。
「現実の世界でどういう現象が起きているのか、まだはっきりとした情報はありません。今後、欧米などワクチンの接種率が高いところでも急激に感染者が増えれば、これはおかしいぞということになると思います。臨床医の感覚として第4波でアルファ株(英国由来)が出てきたあたりから、若い人でも重症例が増えている印象がある。重症化を防ぐためにも、ワクチンを接種しておく必要があることに変わりはない」
ラムダ株は6月15日時点で29カ国に広がっているが、現時点で日本での検出例はない。東京五輪の開幕まで3週間を切り、現在、各国から選手団が続々と入国している。水際対策が機能するかどうかが焦点となるが、五輪向けの水際対策は「対デルタ」に偏っている。デルタ株が流行するインド、スリランカ、ネパールなど6カ国を対象に、出国前の7日間、毎日ウイルス検査することを要請。入国後3日間は一緒に来日する選手・コーチ以外と接触しないように求める一方、ラムダ株に対してはほぼノーガード状態だ。厚生労働省のある官僚がこう嘆く。
「現在の水際対策のように、特定の国だけ出国前検査を強化するのは意味がない。ラムダ株に対してザルになりますし、デルタ株もいまや世界中に広がっており、対象になっていない国からすり抜ける。科学的に考えればすべての国を対象にしなければおかしい。政治決断で五輪をやると決めた以上、感染対策も責任をもって緻密にやるべきですが、ここに至っても後手に回っている」
6月19日に成田空港に到着したウガンダ選手団のうち2人が新型コロナに感染していたと判明。1人は空港の検疫をすり抜けており、政府が言い募ってきた「安全・安心な大会」という建前は早くも破綻している。東北大学災害科学国際研究所の児玉栄一教授(災害感染症学)が指摘する。
「新型コロナウイルスの潜伏期は5、6日間ですから、出国時の空港や飛行機の中で感染したら、到着時の検査では陰性になります。出国前7日間の検査も本当に全員がきちんとやっているか、確認しようがないでしょう。やはり、入国後10〜14日間は合宿地に合わせた行動制限、望ましくはホテルでの待機が必要です」
警戒すべきはラムダ株など既知の変異株ばかりではない。ウイルスは常に変異をくり返し、その中でもヒトの細胞にとりつきやすいものが生き残って増えていくと考えられる。従って、未知の変異株が存在すると考えるのが当然だし、今後も感染性や病原性を高めた変異株が現れる可能性がある。児玉教授が危惧する。
「五輪でいろいろな変異株が入ってくると、それらがミックスされる可能性があります。非常に頻度は少ないのですが、A株とB株が同時に感染するとAとBのいいとこ取りのAB株のウイルスが出てくることがあります。インフルエンザでも二つの別のウイルスが同時に感染すると、新型のウイルスができるということが実際に起きている。そうなると厄介です」
ラムダ株やデルタ株より怖い“東京五輪ミックス株”が日本で蔓延し、世界にばらまかれるかもしれないのだ。五輪の強行を厳しく批判しているスポーツジャーナリストの谷口源太郎氏が語気を強める。
「人命に関わる事態の中で、人道に反した大会というほかない。IОC(国際オリンピック委員会)も日本側もオリンピズムなど放棄している。選手や世界各国から集まる人々が開催国の市民と交流し、お互いに理解し合ったり尊敬し合ったりすることを前提としないオリンピックにいったい何の意味があるのか。選手を外部と遮断する『バブル方式』なるものは、選手を人間として扱っていません。隔離状態にして行動も制限するなど徹底した管理下に置く。選手村は牢獄みたいなものです」
世界規模での「人流」が避けられない祭典と、厳格な感染症対策の両立は極めて難しい。長い五輪の歴史の中で、日本が不名誉な十字架を背負うことにならなければいいが……。(本誌・亀井洋志)
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