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お約束のフレーズ『野党は反対ばかり』の裏にある「本当の意味」
https://friday.kodansha.co.jp/article/189428
2021年06月24日 FRIDAYデジタル
内閣不支持5割越え! なのに、「何も変わらない」って?
第204回通常国会は150日間の会期を終え、6月16日に閉会した。
新型コロナウイルス感染症への対応や、開催が予定される東京五輪・パラリンピックへの対応などについて何も答えず、山積する課題を積み残したままの閉会である。
それにしても、不思議なのはこうした状況下でも「野党は批判ばかり」「どっちもどっち」などの声が多数あること。坂上忍などは今国会中に「ほんっとうに野党のだらしなさ、同じぐらい罪」と自身の番組で語り、SNS上では「あんた国会まともに見たことねーだろ?」「国会中継見たことないんだろうなと思える低レベル」という批判を浴びていたが……。
こうした不思議な現象について、本サイトで「やぎさん答弁」「ご飯論法」について語ってくれた『政治と報道 報道不信の根源』(扶桑社新書)の著者・上西充子法政大学教授は言う。
「意図的に野党を貶めるような言説をする人たちには、お約束のフレーズがあるんです。
例えば『野党は反対ばかり』『どっちもどっち』『結局、テーブルの下で手を握ってるんでしょ』など。SNSなどには、どうせ私たちが政治に関心を持っても何も変わらないと思わせる言葉があふれていますよね。
『選挙で変えるしかない』というのも、確かにそうとも言えるんですが、『野党は反対ばかり』『野党はだらしない』という認識を共有していたら、そもそも野党に投票する気にもなれないじゃないですか。
だから、そういう言説の裏にある悪意みたいなものをきちんと私たちが認識して自分自身で考えていかないと、状況は変わらないと思うんですよ」
「国会の議論の中身を知る前に、ニュースの断片から野党が人を責めているような印象を受け、それと『野党は反対ばかり』という言説が結びついてネガティブな印象を抱いてしまっていると思います」と上西先生は言う(写真:アフロ)
野党議員の追及に…『ああ、嫌だな』
また、ニュースなどの切り取り編集による問題もあるという。
「例えば、テレビのニュースでは、野党議員が強めの姿勢で質疑をするような場面ばかりが繰り返し取り上げられがちですが、ニュースを見た人はそうした“追及する口調”に対して感覚的に『ああ、嫌だな』と思ってしまうケースがあるんです。
若い世代を中心に、野党の追及を“揉め事”“争いごと”のように感じて、『どっちもどっち』『見たくない』と感じてしまう。
そのために、国会の議論の中身を知る前に、ニュースの断片から野党が人を責めているような印象を受け、それと『野党は反対ばかり』という言説が結びついてネガティブな印象を抱いてしまっていると思います」
上西教授は、そうしたうんざり感や冷笑ムードを変えるべく、2018年に「♯呪いの言葉の解き方」というハッシュタグをつけて切り返し方をツイッターで募集している。
「例えば、『野党は反対ばかり』に対しては『与党は賛成ばかり』『なぜこんな法案にあなたは賛成するんですか』、『モリカケばかりで国会が進まない』には『モリカケ以外は進んでますよ。なんでモリカケは進まないのかなあ』など。
それに、『野党は反対ばかり』という人に聞きたいのは、『じゃあ、あなたは何をして欲しいの?』ということです。
『提案もするべき』と言う人には、具体例を挙げて『提案もしていますよ』と言えるし、『反対しないで、本当にこのまま追認で良いんですか』『政府の今の進め方で本当に良いんですか』と聞いたら、多分答えに窮すると思うんです。
『野党は反対ばかり』という言説は結局、玉ねぎの皮を剥いたら何も残らないような言説だと思います」
もちろん野党議員が皆、有意義な質疑や指摘をしているわけではないが、非常に重要な指摘や働きかけは多数ある。
「それに何より今、一番大切なのは『菅政権にそのまま任せていて本当に良いのか』ということです。
今、菅首相はオリンピックをやりたいし、観客も入れたい。一方で『国民の命と健康を守るのが第一だ。オリンピックファーストじゃないんだ』と言う。
言っていることとやっていることが違うし、感染が拡大した時に被害に遭うのは私たちですから。
本当にアスリートのためを考えるなら、最小限の規模で厳重にガードをして行うはずですが、それでは盛り上がらず、政権浮揚につながらないんですよね。
コロナの感染リスクを考えたら、みんなでワーッと盛り上がるわけにはいかないのに、これまでの政権のごたごたを忘れてもらって『オリンピック出来て良かった』みたいな感じになることを期待しているわけですよ」
そこまで私たち国民が舐められ、バカにされていると思うと、腹も立つが。
「現実に、そう動く世論もありますからね。ただ、諦めたり、冷笑的だったりする人もいますが、ここで諦めてどうするの?と思います」
そもそも「野党の役割」って!?
また、「野党は反対ばかり」という指摘が的外れなのは、そもそも「野党の役割」を理解していないせいでもある。
「野党の役割は、大きく分ければ『予算の議決、法案の作成・審議・制定』と『権力監視』で、さらにひとり親家庭やLGBTの方など、なかなか拾い上げられない声をきちんと施策や法案に反映していくこともあります。
不祥事や総務省の接待問題など、お金によって政策が歪められていることを指摘していくのも野党の役割ですよね。
もう1つ重要なのは、政府がやろうとしていることが国民生活に問題になりそうなとき、それを指摘して止める・改正させることです。
オリンピックはまさにその一例で、オリンピックによって感染拡大してしまうだろうから、開催は危険だと指摘してくれているわけですよね。危険を指摘することによって、中止になるかもしれないし、中止にならなくとも、感染拡大リスクを軽減させるための具体的対応を迫ることができるわけです」
映画『なぜ君は総理大臣になれないのか』でおなじみの立憲民主党・小川淳也議員は「野球で言うと、野党の役割は守備についた与党の守備の乱れ、粗(あら)を探すこと」とオンラインで語っているが、これは非常に良い比喩だという。
「例えば今回のオリンピックについて『選手と大会関係者をバブルで包む』『一般の国民とは交わらない』と言うと、一見安全そうに見えますが、ボランティアやホテル関係者などはバブルの内と外を行き来するわけですよね。政府答弁からは見えてこないそうした問題を野党が指摘することで、課題が明らかになるわけです。
また、政府の新型コロナウイルス感染症対策分科会の尾身茂会長の『本来は、パンデミックのところで(五輪を)やるのは普通ではない』という発言がありましたよね。
あれも6月3日の参議院厚生労働委員会における立憲民主党の打越さく良議員の質疑によって引き出されたものなんです。『スタジアム内の感染対策はプレーブックでしっかりやろうとしている。ある程度制御するのは可能だ』という発言に加えて、観客が集まることや移動によって感染拡大リスクが高まることが指摘され、『本来は、パンデミックのところでやるのは普通ではない』という発言につながっていたんです。
野党議員が国会の場で問わないと、あの発言は出てこない。それは小川淳也議員が言う『ここに穴が開いてますよ』『ここに球を打たれたら通っちゃいますよ』という指摘で、『ここにきちんと手当てをしないと感染が拡大しますよ』という重要なアラートなんです」
昨年の「検察庁法改正案」では、浅野忠信さんや小泉今日子さんら著名人による抗議の投稿「#検察庁法改正案に抗議します」が話題に
小泉今日子も連投した怒りのツイート「#検察庁法改正案に抗議します」の意味
もう一つ、野党の大きな役割として、法案審議があるが、その働きが具体的に可視化した一例が昨年の「検察庁法改正案」だ。
「この法案で野党が問題視したのは、国家公務員の定年を段階的に65歳に引き上げるのにあわせて検察官の定年も同じく引き上げ、その際に内閣が必要と認めれば役職をそのままにして勤務延長することができる規定を追加で設けたことでした。
もともとの法案では検事長は63歳になったら検事に格下げになるはずだったのが、この新たな規定が設けられれば検事長のまま勤務延長できることとなる。この法改正のまえに黒川弘務検事長が閣議決定によって特例的に勤務延長が認められており、それを追認するための法改正であるとみられていたんです。
政権にとって都合の良い人物を検事長に留め置いたり検事総長に就任させたりすることが可能になることから、『時の政権が恣意的に検察の人事に介入することが可能になる』として、『♯検察庁法改正案に抗議します』というハッシュタグをつけた投稿がたちまち広がったんです」
「♯検察庁法改正案に抗議します」の投稿は昨年5月9日午後3時半の時点で380万件を超え、5月18日に当時の安倍首相が検察庁法改正案見送りを表明。その翌々日、20日に、文春砲が黒川氏の賭け麻雀を報じたことにより、黒川氏は辞職に追い込まれた。
「この検察庁法改正案の見送りは世論が大きく働き、文春砲がトドメを刺したかたちだったわけですが、そもそも世論が盛り上がるきっかけとして、弁護士でもある参議院の山添拓議員などが国会審議で問題点を分かりやすく指摘したことにより、私たちが法案の問題を理解できた部分が大きいんです。
その分野に詳しい議員が的確に法案の問題点を指摘してくれたことによって、問題のある法案がそのまま成立してしまうことが防げたわけです」
「『どうせやるんでしょ』と私たちが関心を失ってしまったら、政治への関心が薄れ、それこそ政権は安泰です」
『オリンピック、どうせやるんでしょ』と関心を失ってしまったら思うツボ
上西教授は、私たち一人一人の政治の関わり方の重要性について、こんな説明をする。
「政治を自分事として考えて初めて、野党の存在意義もわかってくると思います。
私たちがいて、私たちが見守っている野党議員がいて、その野党の力で政権の在り方を正そうとするという関係性です。私たちの存在がそこに全くないと、野党に丸投げになり、そして『野党はだらしない』で終わりますよね。
私たち自身が野党の質疑を見て、どういう問題が指摘されているかを聞いて、『確かにこの法案を通すのはマズイな』『政府が今やろうとしていることは危険だな』と感じて世論が反応しない限り、政府はその在り方を改めないんですよ。
問題を指摘し、アラートを出す役割が野党にあって、でも野党だけでは変わらないんです。どうしても与党が多数派ですから、数の力の制約がある。そこを補うのが私たちなんです」
これだけ野党が危険性を指摘し、国民の多くが反対しても、開催の方向で、それも大量の観客を入れる方針で突き進んでいるオリンピック。無力感に絶望しそうになるが……。
「『どうせやるんでしょ』と私たちが関心を失ってしまったら、政治への関心が薄れ、それこそ政権は安泰です。
でも、そういう諦めによる安泰は、私たちにとって不幸だと思うんですよ。
今の状況は、戦争を止められなかった状況に似ているとよく言われますが、戦前だったら『戦争やめろ』と言えば捕まって、殺されていたかもしれないですよね。
でも、今は違う。かつ、戦前は、新聞も戦争協力の論調になっていて、一般の人は状況が把握しにくかったと思いますが、今は情報を得ることはできて、状況は明らかに見えるじゃないですか。
だから、見えているものに私たち一人一人がちゃんと関心を持ち続け、自分で見て、判断して、こうした状況を変えるために、ちゃんと自分の考えを持つことが大事。そのうえで投票に行けるといいと思います」
上西充子 法政大学キャリアデザイン学部教授。1965年生まれ。労働政策研究・研修機構研究員を経て、2003年から法政大学キャリアデザイン学部。単著に『呪いの言葉の解きかた』(晶文社)、『国会をみよう 国会パブリックビューイングの試み』(集英社クリエイティブ)など。国会パブリックビューイング代表。
取材・文:田幸和歌子
1973年生まれ。出版社、広告制作会社勤務を経てフリーランスのライターに。週刊誌・月刊誌等で俳優などのインタビューを手掛けるほか、ドラマコラムを様々な媒体で執筆中。主な著書に、『大切なことはみんな朝ドラが教えてくれた』(太田出版)、『KinKiKids おわりなき道』『Hey!Say!JUMP 9つのトビラが開くとき』(ともにアールズ出版)など。
写真:アフロ
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