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これ一発で自民“下野”の可能性も。野党が公約として掲げるべき「最終手段」
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2021.06.23 冷泉彰彦『冷泉彰彦のプリンストン通信』 まぐまぐニュース
専門家らの提言を無視し、有観客での五輪開催を既定路線とした菅政権。もはや国民の政治不信は高まるばかりですが、このような状況を識者はどう見るのでしょうか。今回のメルマガ『冷泉彰彦のプリンストン通信』では著者で米国在住作家の冷泉彰彦さんが、今のままでは日本経済の低迷を招いた「ロッキード政局」の二の舞になりかねないと分析。そこから脱却するためには荒療治が必要とし、「東京五輪のケジメ監査」のための管理内閣構想を提案しています。
かつての「ロッキード政局」を参考に「五輪政局」を考える
偶然ですが、本メルマガでは「フラッシュバック」というコラムで、45年前の同月同週の歴史を回顧するという作業をずっと続けています。現在扱っているのは、1976年6月、ちょうどロッキード事件が大きな問題になる一方で、自民党内では「三木おろし」に対して「三木ねばり」が対抗するという奇妙な状況が続いていました。
どうして自民党内で、自分たちの総理を引きずり下ろしたいという勢力が出てきたのかというと、三木政権が続くと「ロッキード事件でカネを受け取っている政府高官」についての捜査が進捗した場合に、「指揮権発動をしない」つまり「田中角栄を逮捕してしまう」という「危険」があったからです。これを阻止すべく、椎名悦三郎をリーダーとして、そこに田中派、福田派、大平派という保守3派が結集していたのでした。
では、三木は国民的人気を獲得していたのかというと、そうではありませんでした。三木のイメージは崩れていませんでしたが、三木という人は自民党の総裁であり、自民党として選挙を戦えば敗北は目に見えていたからです。そんな中では、自民党内ではこのまま三木に解散をさせると、保守派は議席を減らして権力を失い、残った三木派などが中道勢力と組んで連立政権を作るなど、ロクなことにはならないとして、警戒感を高めていたのです。
単純化して言えば、民意は自民党を見放していました。では、野党はどうかというと、民社という不思議な中道右派政党があり、この頃の公明は「都市型の革新勢力」を自認していましたが、この両党は合わせて50議席にも満たない中でそれほど大きな力は持っていませんでした。
これに対して野党第一党の社会党は直前の72年の総選挙では118議席(得票率22%)、共産党は38議席(10.5%)という大きな勢力を有していました。ですが、今でいう「リベラル」な勢力は社会党の右派に少しいるだけで、残りの社会党と共産党は、「利潤追求を前提とする自由経済」を否定しているばかりか、公然とではないにしても「政権を取ったら自由陣営を抜けて東側同盟に変わる」姿勢を見せていたのです。
何しろ、核兵器は良くないが東側の核は人民の核だから正義だとか、プロレタリアート独裁、つまり革命の過程で社会主義国が民主主義を停止して強権に移行することが正しいなどということを、「実行不可能なことは分かっていながら、より左派のポジションを取ると格好良いし、組合活動に気合が入る」というだけで主張し続け、これに対して政権の受け皿になるべく「現実に目を向ける」勢力は、「右傾化」だとして犯罪者呼ばわりしていたのでした。
そんな中では、有権者としては野党に対して「チェック・アンド・バランス」の機能は期待しても、政権交代の受け皿は期待できるはずがありません。実際に、この1976年の任期満了衆院選では、自民党は大敗したものの、保守系無所属を入れて過半数を維持し、与野党の政権交代は起きませんでした。
ですが、これから15年にわたって政治は混迷を続け、中曽根の5年間というのはあったものの、一貫して「政治不信」という魔術的な言葉が、あるときは政界を縛り、あるときは何かに結集しという形で、例えば「新自由クラブのブーム」や「土井たか子ブーム」があったりしたわけです。結果的に、1993年には細川内閣の発足という形で、自民党政権が一旦終焉を迎え、また1994年には村山内閣という形で自民党は政権復帰するわけですが、政治的には不安定な時代が続きました。
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今から思えば、1975年以降の政治の混迷というのが、国家の方向性を曖昧にし、産業構造改革を不可能にし、以降の日本経済の低迷を招いたとも言えます。つまり、世論と政治の相互不信と言う現象です。
この点において、現在の政局にはある種の類似が見られます。五輪政局とでも言っていい状況があり、とにかく有観客開催に走る政権に対しては、不信任が拡大しています。その一方で、野党には維新と都民ファという都市型保守政党(小さな政府論)と、都民ファに近い国民民主党、そして立憲民主党があり、イデオロギーはバラバラ、官公労との関係は正反対、そのくせポピュリズム的な姿勢では一緒で、人気獲得合戦ではライバル関係という妙な関係にあります。
そんな中では、結局のところ野党が連合しても統治ということでは実務は回らないし、方針も一本化できないのは目に見えています。つまり、自公政権からすると、敵失が大きいので、民意から離れた政策ができてしまうという、異常な状態があるとも言えます。
問題は五輪です。このまま有観客で開催され、仮に大失敗となれば、菅内閣は退陣して看板を変えての総選挙となるかもしれません。その一方で、大失敗ではない、感染はあったが、感染爆発でもないというような曖昧な結果になったとすれば、投票率は低迷して一種の消化不良な政治不信が、世論の奥底に溜まっていくように思います。
その一方で、日本の場合は今でもワクチン懐疑派が、かなりの多数を占めており、感染の終息もそう簡単には見通せない現状があります。あくまでワクチンを前提の経済再開を目指す自民党政権に対して、仮に野党がワクチン懐疑の感情論を結集して対抗するようなことになれば、経済社会の低迷が続くことになります。
また、2030年には札幌で冬季五輪の開催招致という計画がありますが、このまま漠然とした「アンチ五輪感情」が根を張ってしまうと、結果的に招致断念ということになる可能性があります。北海道の政局というのは、意外と複雑で、そうした結論が出てくる可能性は十分にあるのです。そうなれば、せっかく巨費を投じて北海道新幹線の札幌延伸をやり、しかも万難を排して東京=札幌の4時間台運転を実現しても、北海道経済の再生は難しくなり、衰退が加速するかもしれません。
そんな中で、一つの提案があります。
それは、野党が「ワン・フレーズ」で結集するということです。それは、東京オリパラの「ケジメ」をつけるという公約です。
外交、軍事、経済財政などについての違いについては、この際、一切の合意や調整を諦めて、とにかく「五輪のケジメ」という1点を政策協定として合意して、総選挙に臨むのです。
ケジメというのは、3点です。1つは、コロナ感染対策において、オリパラ開催を優先して法令やガイドラインを歪曲したり、違反したケースについて徹底的に検査、報告を行うということです。2つ目は、同じく、オリパラに要した費用について、徹底的にガラス張りとして監査を行い、仮に浪費や公私混同があれば法律の範囲で摘発するだけでなく、可能な限り公表するということです。3つ目は、招致に要した費用について改めてガラス張りの監査を行なって、その結果を公表するということです。
この3点に関して、刑事告発も辞さない姿勢で臨み、最悪の場合でも公表を行うということ、すなわち「ワン・フレーズ」の公約を掲げて、与党と対決するのです。
その場合に、オリパラの「成功の度合い」にもよりますが、3つのシナリオが考えられます。
a)自民党は「オリパラは潔白であり、監査など笑止千万」と居直る。そこで与野党激突となり、野党勝利の場合は厳格な監査が行われ、その結果を受けて、責任ある政治家は失脚して政界再編。
b)菅政権がこの「ケジメ監査案」に乗っかって延命を図り、清和会や小池Gが没落、菅総理が野党の穏健派を抱きこんで政界再編。
c)自民党の造反派が「ケジメ監査案」に乗っかって、彼らが主導する中でマイナーな政界再編。
勿論、以上は思考実験のための「叩き台」に過ぎませんが、しかしながら、こうでもしないと、世論の中にある「裏切られた」という感情は行き場を失って、社会を不安定にし、結果的に国としての衰退を加速してしまうのではないかと思うのです。
また、このぐらいの荒療治をして、悪者を特定し、同時にIOCを含めた近代五輪に改革を迫るぐらいのことをしないと、日本の世論は今後「2度と五輪旗を見たくない」ということになりかねません。札幌招致など、全く雲散霧消してしまいます。国際的にも、北京、パリ、LAの各大会についても、暗雲を投げかけてしまうように思います。
問題を曖昧にして、反発感情を屈折した形で、意識の表面からどこかに押し込めても、結局はそういった不信感というのは、延々と残って国としての様々な決定を妨害し、最終的には政策を最善手から「外して」いくことになる、そんな危険性を感じています。この「オリパラのケジメ監査」のための管理内閣構想というのは、そうした国と社会の活力を維持するための一つの考え方として、皆さまのご検討に供したいと思うのです。(メルマガ『冷泉彰彦のプリンストン通信』より一部抜粋)
image by: 首相官邸
冷泉彰彦 この著者の記事一覧
東京都生まれ。東京大学文学部卒業、コロンビア大学大学院卒。1993年より米国在住。メールマガジンJMM(村上龍編集長)に「FROM911、USAレポート」を寄稿。米国と日本を行き来する冷泉さんだからこその鋭い記事が人気のメルマガは第1〜第4火曜日配信
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