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※2021年6月23日 日刊ゲンダイ1面 紙面クリック拡大
※紙面抜粋
※2021年6月23日 日刊ゲンダイ2面
【よくも正気で嘘をつけるものだ】
— 笑い茸 (@gnXrZU3AtDTzsZo) June 23, 2021
橋本聖子大臣の自我が壊れない摩訶不思議
日刊ゲンダイ pic.twitter.com/litwBsZqKr
※文字起こし
政府、大会組織委、東京都、国際オリンピック委員会(IOC)、国際パラリンピック委員会(IPC)の代表者による5者協議が21日に行われ、東京五輪は有観客で開催することが決まった。観客数は「上限1万人」で決着と思ったら、「大会関係者は別枠」だとか「開会式は2万人」とか、次々と“特例”措置が既成事実化している。揚げ句に競技会場での酒類販売を検討――。横紙破りとはこのことだ。
政府の新型コロナウイルス感染症対策分科会の尾身茂会長ら専門家有志は、五輪について「無観客開催が望ましい」と提言。観客を入れるのであれば、現行の大規模イベントの開催基準より厳しい基準を採用すべきだとした。
21日の会見で専門家の提言との整合性を問われた組織委の橋本聖子会長は、「中止は提言になかった」と都合よく解釈。「観客を入れた時のことも想定した提言をいただいた」「組織委員会の感染対策については大変高い評価を尾身会長からいただいた」などと言って、「有観客で上限1万人」の開催を正当化してみせた。
「政府も組織委も最初から有観客開催の結論ありきで、専門家の知見も無視して突っ走ろうとしている。コロナ禍で五輪を開催することに対する国民の不安は大きいのに、開催の是非をスッ飛ばして、いつの間にか観客数の上限が論点にされていたのです。そのうえ大会関係者は観客ではないから別枠、子どもたちに観戦機会を提供する学校連携観戦チケットも別枠などと、なし崩しで観客数を増やそうとしている。IOCにおもねると同時に、秋の解散総選挙に向けた政治的思惑から、盛り上がりを演出するためにどうしても観客を入れて開催したいのでしょうが、人が移動したり集まったりすれば感染拡大リスクが高まることは周知の事実です。リーダーには冷静で科学的な判断が求められるのに、現実から目をそらし、行き当たりばったりで大会成功を夢想しているだけとしか思えません」(法大名誉教授の五十嵐仁氏=政治学)
酒類提供は「朝令暮改」で断念
会場での酒類提供については組織委が22日の夜になって、“朝令暮改”で断念する方針を固めたが、まさしく行き当たりばったりで、五輪開催の迷走を象徴している。
検討から一転、酒類提供を断念したきっかけは、22日午前の丸川五輪相の発言だ。
閣議後会見で、酒類の提供について「大会の性質上、ステークホルダー(スポンサー)の存在がどうしてもある。組織委員会としては、そのことを念頭において検討されると思う。大声を出さない、拍手だけで応援する観戦スタイルをしっかり貫かれるような形で、検討いただきたい」と話した。
語るに落ちるで呆れるほかないが、あからさまなスポンサーファースト、五輪ファーストに批判が集中し、酒類提供を引っ込めざるを得なくなった。こうなるとスポンサー企業もいい迷惑で、五輪スポンサーがこれほどイメージダウンにつながる五輪もないのではないか。
それにしても不気味なのが、橋本や丸川が無表情のまま、五輪に関して白々しい嘘や支離滅裂な答弁を繰り返していることだ。当事者の責任感というものがまったく感じられない。まるで他人事なのだ。
2人とも、組織委の森喜朗前会長が女性蔑視発言で辞任に追い込まれたため急きょ登板することになったが、おそらく森発言の悪影響を和らげるために「女性だから」という理由で登用されたのだろう。橋本は当初、会長就任を嫌がったというから、貧乏くじを押し付けられたという見方もあるし、“お飾り”という言葉がしっくりくる。それにしても、彼女らの発言は「別の地平」から聞こえてくるようだ。視線の先に国民が不在なのである。
情緒に訴える「スポーツの力」や「絆」の欺瞞 |
「五輪に向けて練習を重ね準備をしてきたアスリートを応援したい思いは多くの国民が持っています。そういう気持ちに政治家たちが水を差している。飲食店には酒類の提供禁止を要請して、国民にも我慢を強いているのに五輪会場内では飲酒OKと言い出したり、五輪期間中は『テレワーク・デイズ』と会社員に移動の自粛を求めながら、五輪観戦で何万人もが移動する人流増加をつくりだそうとしたり、支離滅裂なのです。これでは、今までの自粛や我慢は何だったのかという話になる。なぜ五輪だけは特別なのか、納得できる説明がなければ、政府や自治体の要請にも従わず好き勝手やるという人が増えるのも仕方ありません。五輪が批判の対象になれば、出場する選手たちも気の毒です」(政治ジャーナリスト・山田厚俊氏)
金満病のIOCに大会中止の選択肢はハナからなかった。開催さえできれば、全世界に中継され、放映権料が懐に入る。有観客にこだわったのは、むしろ日本側だったと報じられている。産経新聞(22日付)によれば、とりわけ菅首相と橋本の強い意向があったという。
<「最大1万人でどうだろうか」。菅義偉首相は15日午前、丸川珠代五輪相とスポーツ行政を所管する萩生田光一文部科学相を官邸に呼んだ際に、こう切り出した>
<大会関係者によると、有観客を強く望んだのは橋本会長だったという。組織委が4月末に設置したコロナ対策の専門家会議でも、議論の中心は開催可否より、観戦リスクの分析や対応策の検討>
その産経のインタビューで橋本は「安心・安全をどこまで(国民に)お伝えすることができるかにすべてをかけてきた」とか言っていたが、壊れたレコーダーのように「安心安全」を繰り返すだけで、その具体的な中身について説得力のある説明を聞いたことはない。
ぎょっとするほどの無表情
18日の会見で本紙記者が「安心安全とはどういう状況を指すのか」と質問した際も、「安全というものが理解をされることによって、安心に少しずつつながっていったかなというふうに思っております」と、まったく要領を得なかった。
アスリート出身の橋本が有観客を望む気持ちは分からないでもない。最高の舞台で記録を残したい選手にとって、観客の声援は何よりの励みになるだろう。観客も世紀の瞬間を見届けようと競技場に足を運ぶ。本気の勝負に熱狂し、思わず声が出る。その一体感がスポーツ観戦の醍醐味ではないのか。
過去7回の五輪出場を誇る橋本だからこそ、応援の「大声禁止」がいかに荒唐無稽で無理難題かということを誰より分かっているはずだ。カネのことしか頭にないIOCのバッハ会長や五輪を選挙戦略に利用する菅のために、アホらしい五輪プレーブックも作って、嘘をつき続けるストレスによく耐えられるものだ。アスリートファーストに立っていたら自我が崩壊するのではないかと心配になってしまう。
「橋本会長はもはやアスリートではなく政治家なのです。森元首相のお気に入りで、本人も組織委会長就任にあたって政治的中立性を担保するために自民党こそ離党しましたが、国会議員を辞めることはかたくなに拒否した。丸川五輪相もそうですが、レールに乗って自分より上の人間の意向に従うだけ。思考停止に陥っていて、操り人形のようです。五輪強行でコロナ感染拡大のリスクがあることも分かっていながら、中止を進言する勇気もない。破滅に突き進んだ先の大戦とそっくりの展開になってきました。橋本氏と丸川氏の無表情を見ているだけで、この五輪の異様さが分かります」(五十嵐仁氏=前出)
今般の五輪でメダルを獲得した選手が、いずれは橋本のようになるのかと想像すると、ますます純粋に応援できなくなる。
選手より、国民の安全より、カネと名誉と政権延命。そのヨコシマな思惑を覆い隠すために「スポーツの力」や「絆」という情緒的な言葉がことさらに強調されるのだ。その欺瞞に気づいた国民は、1カ月後の開会式を暗澹たる気持ちで迎えることになる。
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