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※週刊朝日 2021年6月25日号 紙面クリック拡大
室井佑月・作家
イラスト/小田原ドラゴン
室井佑月「理不尽な博打」
https://dot.asahi.com/wa/2021061600008.html
2021.6.17 07:00 室井佑月 連載「しがみつく女」 週刊朝日 2021年6月25日号
作家・室井佑月氏は、東京五輪開催に向けて動く政府と、追及しきれないメディアの問題を指摘する。
* * *
6月4日のJIJI.COMによると、4日、菅首相は5月28日の記者会見で質問の機会が与えられなかった報道機関に対し、書面でこう回答したという。
東京五輪・パラリンピックの開催目的については、「世界最大の平和の祭典であり、国際的な相互理解や友好関係を増進させるものだ。安全、安心な大会を実現することにより、希望と勇気を世界中にお届けできるものと考えている」。「どんな状況であれ五輪中止は絶対ないのか」という問いに対しては、「国民の命と健康を守っていく」。
ぜんぜん質問に答えてない。世界中が新型コロナウイルスで大変なときに、祭典をやる意味が「希望と勇気を届ける」? 逼迫(ひっぱく)している医療体制をさらに逼迫させようとする行為のどこが平和な行為? 世界中に勇気と希望を届ける? 東京五輪で変異株が出来て、世界に恐怖を届けることになるやもしれん。
メディアもメディアだ。何回おなじ質問をしても、首相は壊れたレコードみたいにおなじ答えを返す。それを見越し、なぜ突っ込んだことをいわない?
「コロナ禍が拡大し惨事になった場合、責任は誰がどう取るんですかね?」「やろうとしていることは世界平和とは真逆なんじゃないんですか?」「国民にとって、自分の命や健康と、政府が東京五輪で与えられるという勇気と希望、どっちが重いものだと思います?」「スポーツの力でコロナと戦えるんですか? たとえば五輪観戦すると、コロナにかかっても軽症で済むとか?」という嫌みでもいい。
この原稿を書いている6日の時点では、なにがあっても東京五輪は開催されそうだし、それはなぜなのかをメディアは政府にきちんと問いただせていない。
菅首相は、今年行われる衆議院選挙に、五輪で弾みをつけて挑みたいだけだとわかってる。それと、史上最大規模に膨らんだ五輪開催費の闇を、自分が現役のときはうやむやにしたい勢力がいるってことも。
それらは誰もが知ってる事実なのに、いつまでたっても深く追及されていかない。
普通に考えて、有り得ない。2週間あまりのスポーツのお祭りと、あたしたちの命と健康が天秤(てんびん)にかけられていいわけがない。今、政府がやってることはそれを担保にした博打(ばくち)なのだ。で勝ったら自分らの手柄、負けたら1億総懺悔(ざんげ)にしようとしてる。
その博打、あたしたちには理不尽すぎる。勝手に強制参加になってしまうのが辛い。五輪反対の人に対し、意味がわからないといってる人がいるけど、馬鹿をいうな、おまえらのいってることこそ意味がわからないっつーの。
室井佑月(むろい・ゆづき)/作家。1970年、青森県生まれ。「小説新潮」誌の「読者による性の小説」に入選し作家デビュー。テレビ・コメンテーターとしても活躍。「しがみつく女」をまとめた「この国は、変われないの?」(新日本出版社)が発売中
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