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※2021年6月18日 日刊ゲンダイ1面 紙面クリック拡大
※紙面抜粋
※2021年6月18日 日刊ゲンダイ2面
【感染爆発ならば菅退陣】
— 笑い茸 (@gnXrZU3AtDTzsZo) June 18, 2021
この五輪はただの博打なのである
日刊ゲンダイ pic.twitter.com/kAz7ZbYa3J
※文字起こし
現金なものだ。衆議院の解散を巡り「内閣不信任決議案で与野党攻防」とあれほど騒いでいた新聞・テレビが、不信任案が否決され、通常国会が予定通り閉会となると、今度は、東京オリンピック・パラリンピック後の「9月解散」のスケジュールを流し始めた。
9月5日のパラ閉幕直後に臨時国会を開き、冒頭か、新たな経済対策を示した後に衆院を解散。投開票日は10月10日か17日を想定。9月末に迎える自民党総裁の任期切れについては、衆院解散を理由に選挙後にずらす。オリ・パラ成功と新型コロナのワクチン接種の進展が追い風になり、菅首相が衆院選を優位に進められれば、総裁選も無風で再選――。こんな政治日程である。
衆院議員の任期が10月21日までのため、残された解散スケジュールは絞られるとはいえ、これはまさに、以前から語られてきた「菅再選必勝シナリオ」。大メディアは与党にとって都合のいい話を、ただただ垂れ流しているだけなのだ。
「東京五輪が一定の成功を収め、国民にワクチン接種が進めば、秋に支持率は好転するはずだ」「ワクチンが行き渡れば選挙は有利になる」
政権内にはいま、こうした期待感が広がっているらしい。しかし、そうは問屋が卸すだろうか。悲惨な結果となる公算が高いのではないか。
捕らぬ狸の皮算用
政府は17日、20日が期限の緊急事態宣言について、沖縄を除く9都道府県を解除し、東京や大阪など7都道府県を21日から「まん延防止等重点措置」に移行させることを決めた。新たな期限は7月11日まで。解除後のイベント観客数も「収容人数の50%以内なら1万人」に広げる。これは東京五輪の有観客開催を見越したもので、すべてが「五輪シフト」である。
だが、専門家の見方は厳しい。異口同音に今後の感染再拡大を予測している。厚労省のアドバイザリーボードで示された試算では、20日の宣言解除後に都内で人出が増加し、インド型変異株の影響も受けると、7月前半には再宣言が必要になるという衝撃的なものだった。インド株の影響が少なく、人出を10%程度に抑えられたとしても、7月後半には再宣言が必要で、リバウンドによる「第5波」が避けられなくなる可能性があるのだ。
東京都のモニタリング会議もきのう、都内の新規感染者数が下げ止まっているとして、「再拡大の危険性が高いと思われる」と分析している。実際、都内の新規感染者は、16日と17日の2日連続で前週の同じ曜日を上回った。
専門家の意見に耳を傾ければ、五輪開催は間違いなく「一大感染イベント」であり、狂気の沙汰なのである。
コロナ担当の西村経済再生相は五輪期間中でも「躊躇なく再宣言を発動したい」と予防線を張るが、五輪シフトで感染防止策を緩め、その結果の感染爆発なら、菅政権は持たないだろう。
自民党内は「議員連盟」を舞台に、「3A(安倍前首相、麻生財務相、甘利税調会長)VS二階幹事長」の主導権争いが激化する政局にかまけている。焦点は次の人事での二階の幹事長ポスト交代とされ、菅がどう判断するのか、という話だが、それは「菅必勝シナリオ」が前提だ。五輪開催が感染爆発の悲劇を招けば、内閣支持率は暴落。「菅首相では選挙を戦えない」となり、一気に「菅降ろし」もあり得る。
政治ジャーナリストの角谷浩一氏がこう言う。
「自民党の下村政調会長が16日のBS番組で、『任期満了直前に解散し、11月選挙もあり得る』とコロナ次第で解散がずれ込む可能性に言及しています。現実を直視すれば、五輪後の政権浮揚というシナリオは甘い。大メディアは大本営発表ばかり伝えていますが、政権の思い通りにいくのでしょうか。捕らぬ狸の皮算用ですよ」
五輪開催なら感染拡大 大メディアの欺瞞と矛盾 |
「国民の命と健康より五輪」の無責任体質は、大メディアも同罪だ。
17日の首相会見では、東京新聞や朝日新聞が「五輪開催によるリスク」を質問していたが、菅は人流抑制や大会組織委のガイドラインなど、「対策」について繰り返すのみで、真正面から答えない。会見場には緩い空気が流れ、他の記者は解散時期や内閣改造など人事について質問し、あっさり菅にかわされていた。
繰り返すが、大メディアが垂れ流す与党の思惑だらけの「菅必勝シナリオ」は、感染再拡大や緊急事態の再宣言がなく、国民が五輪に熱狂して盛り上がることが前提だ。
しかし一方で、大メディアは厚労省アドバイザリーボードなどの専門家の警鐘もしきりに報じている。五輪開催を後押ししている読売新聞でさえも、<インド型感染拡大なら 五輪中「再宣言レベル」>と伝えている。五輪で感染爆発なら、「菅再選シナリオ」は崩れるわけで、大メディアだってこのまま何事もなく、五輪が終わると確信してはいまい。
ところが、朝日新聞が社説では「五輪中止」を求めながら、同日にホームページで「オフィシャルパートナーとしての活動と言論機関としての報道は一線を画します」とスポンサー継続の意思表明をしたように、五輪を巡っての大メディアの立ち位置は欺瞞と矛盾に満ちている。朝毎読日経が揃ってスポンサーであり、テレビはNHKと民放全局が五輪の放送をするから、どうにも曖昧なのである。
政治評論家の森田実氏が言う。
「新聞やテレビを見ていると、メディア全体が『五輪をやりたい』で足並みを揃えていることがよく分かります。それは国会が閉幕したら、一気に次は秋の総選挙というモードになったこと。その前に7月4日投開票の東京都議選があるのに、あまり報道せず、世論に関心を向けさせないようにしている。7月ですよ。対象は都民ですよ。つまり、五輪推進派が過半数を割るようなことがあれば、都民は『五輪NO』の意思を明確にしたことになるのです。本来ならメディアは都議選についてもっと論じるべきなのに、菅政権や五輪推進派が有利になるよう、避けているのです」
「きっと大丈夫」の楽観論
IOC(国際オリンピック委員会)のコーツ調整委員長が既に来日し、米国内の五輪放映権を独占するNBCのCEOが「最も利益の高い五輪になる」と発言したことが報じられ、五輪開催への既成事実化とムード醸成が進む。
テレビを筆頭に、大メディアは無批判五輪翼賛報道が全開。群馬県太田市で事前合宿中のソフトボール豪代表の練習を市民が観戦したとか、野球の日本代表が内定し<侍ジャパン 盤石の布陣>といった見出しが躍る。
だが、感染爆発なら、飲食店は再び苦しみ、企業倒産もまた増える。その危険性から目を背け、政権もメディアもみな「きっと大丈夫」「ワクチンがある」の楽観論。
「五輪中に感染が蔓延して衆院選になれば、自民は目も当てられない。逆に、ワクチン接種が成功して五輪も『感動した』となれば我々が苦しくなる。はっきり言ってギャンブルだ」と言った野党幹部がいたらしいが、その通りで、要は、この五輪はただの博打なのである。国民の命と暮らしは置き去り。バンザイ突撃ならぬバンザイ五輪だ。
「『トム・ソーヤの冒険』で有名な作家、マーク・トウェーンの格言に『人間の一生に、賭けをしてはならない時が2度ある。それをする余裕のない時と余裕のある時である』があります。政治権力者は、国民の生命や安心を賭けの対象にしてはいけないのです」(森田実氏=前出)
17日の会見で菅は、東京五輪について「世界が団結し、難局を乗り越えることを日本から世界に発信したい」と力を込めた。しかし、博打に負けて感染爆発で最悪の結果を招けば、日本という国の愚かさを発信するだけである。
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