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菅原一秀前経産相を略式起訴に追い込んだ元秘書が暴露 現金バラマキ、パワハラ、隠蔽工作のすべて
https://dot.asahi.com/dot/2021060800065.html
2021.6.8 18:39 今西憲之 AERA dot.
略式起訴された菅原一秀前経産相(C)朝日新聞社
菅原氏と秘書が交わしたLINE(提供)
菅原氏と秘書が交わしたLINE(提供)
前経済産業相で衆院議員を辞職した菅原一秀氏は、地元の衆院東京9区の有権者に香典や現金など80万円を寄付した公職選挙法違反(寄付行為)で6月8日、東京地検に略式起訴された。
一度、不起訴と判断されたが、検察審査会は2月24日付けで起訴相当と議決。東京地検が再捜査をしていた。その結果、菅原氏が地元有権者に香典や会費、陣中見舞いなどの名目で53万円の現金を配り、供花などで27万円相当の花を贈ったことが判明した。
「長く国会議員を務め、大臣にまでなっているのに菅原氏は遵法精神など皆無。香典などカネのばら撒き以外でも、めちゃくちゃです。ひどい目にあった」
こう証言するのは、菅原氏の元で公設第2秘書を3年間ほど務めた男性のAさん。2016年に知人のツテで菅原氏の公設秘書となった途端、通夜、葬儀に香典を持参して参列することが重要な仕事と言いつけられた。
選挙区内の通夜、葬儀の情報をつかみ、いち早く菅原氏に報告。菅原氏の代わりに、秘書が香典を持参する。香典には必ず「衆議院議員 菅原一秀」と記したものを渡していた。
公職選挙法では地元の有権者へ金品を提供することは一切、禁じられている。香典は議員本人が出席し、持参する以外は認められず、秘書の持参となれば、法に触れるのだ。
「訃報の情報があれば、すぐLINEで伝えます。そして、菅原氏から1万円とか2万円という香典の金額が指示されます。いつでも通夜、葬儀に行けるように秘書は香典袋を5枚ほど常備していた。金額は菅原氏の判断で5千円から3万円だった。後援会幹部など関係が濃い方や地元の有力者になるほど、香典の金額を増やしていた。菅原氏から『関係はどうか?』と聞かれ、支援者名簿にも掲載がない方の葬儀がありました。5千円でいいと指示された。後援会幹部の方のご葬儀では『三万』とLINEがありました。菅原事務所では菅原氏からの指示があり、その通り、動くのが秘書の仕事。自分で考えてやることはありません。大臣にまでなるような人からの指示です。それが違法なこととは、検察の指摘があるまで思いもしませんでした」
菅原氏の秘書たちは通夜、葬儀に加えて、地元の祭りやイベントの情報にはとても気を使っていた。もし、情報が入らないと菅原氏から「とりこぼし」だとして「罰金」を命じられるのだ。
2019年1月18日のLINEには菅原氏から「着いたのか」「ペナルティだぞ。仁切りしていない。厳罰」とAさんにメッセージが入った。「着きました。すみません」と謝罪するが、「なぜしていないのか? 3万」と金額を言い渡している。
「仁切りとは、出席予定会合の主催者に、菅原が行くと伝えていなかったことを意味します。秘書だった時には、こういう理不尽なことで30万円から40万円くらい罰金をとられました」(Aさん)
電話で叱責されることもあり、「アホ、バカと汚い言葉で罵られ『罰金払え』とどやされた。パワハラですよ」という。
東京地検の発表でも菅原氏は香典だけではなく、地元の祭りや会合などにも会費などと称してカネを配っていたことも立件対象となっている。
一連の疑惑が明らかになったのは、2019年10月、週刊文春の報道だった。週刊文春が掲載した写真は、菅原事務所の秘書の一人が「衆議院議員 菅原一秀」と書かれた香典を差し出すシーンだった。秘書は写真を撮られたことはまったく知らなかったという。問題とされた葬儀の香典に関するLINEでの打ち合わせ内容をAさんから入手した。
「ISSHU」とあるのは菅原氏のこと。「香典気をつけて」とLINEでメッセージが入る。秘書が「明日は1030からです。香典はいかが致しますか? 額はおいくらでしょうか?」と尋ねると、菅原氏は「二万」「弐」と返信している。
週刊文春の報道を受けて、菅原氏は周囲に「困った、どうしよう」と秘書たちにも相談していた。Aさんはこう振り返る。
「事務所では日程表や紙ベースのスケジュール表など、シュレッダーにかけ、パソコンから削除するように指示がありました。明らかな証拠隠滅工作でしたね」
菅原氏はその直後、経産相を辞職に追い込まれた。
辞任時、マスコミから香典の経緯を聞かれると、菅原氏は「二万については、自分が葬儀に出席する時に持参する香典の金額だった。秘書が代理で持参するのはダメだという意味。バレないように持参せよという意味ではない。結果的に秘書が香典を出した。しっかり言えばよかったが教育、指導不足だった」とLINEの一部を示し、説明した。
だが、Aさんはこう反論する。
「LINEをよく見てください。二万の次に念押しで弐とあります。菅原本人が葬儀に出席するつもりがあれば、念押ししませんよ」
さらにこう付け加えた。
「週刊文春の報道に対して、後援会幹部を集めて、私や別の秘書たちをやり玉にして『秘書が週刊文春と組んで写真を撮らせ、私を経産大臣から引きずりおろした』『スパイだ』などといい、秘書に責任を押し付けていることがわかった。私も後援会幹部に呼ばれて『お前が文春に売ったのか』と言われた。本当に腹が立った」
数か月後、Aさんは菅原氏から公設秘書から私設秘書に「降格」を言い渡されたのを機に事務所を去ったという。
Aさんや菅原氏の秘書、スタッフは東京地検特捜部から多い人で20回以上、事情聴取を受けた。その中でAさんたちは菅原氏の香典や地域の行事のカネのばらまき以外でも話を聞かれたという。菅原氏が過去、カニやメロンを菅義偉首相、安倍晋三前首相ら有力国会議員、有権者に贈っていたことは、週刊朝日が2009年8月、特報している。
「カニやメロンは報じられてヤバイとやめた。しかし、その後も贈り物を配っていた。2019年4月は統一地方選があり、参院選が迫っていた。有名な果物店から大中小に分けた、カゴを取り寄せて地元後援会幹部をランク付けして持っていくように指示された。私は10人以上に持参しました。検事に話すと『菅原は本当に悪質、買収だ』と怒っていた」(Aさん)
また2017年の衆院選の時、「ボランティアスタッフと聞いていた人に、ウラで時給いくらとカネを払っていた。今思えば、それもアウト」と告白する。
また、菅原氏はポスター貼りと街頭演説の活動に力を入れていることをよく強調していた。その裏ではこんなことがあったという。
「ある時、立憲民主党の枝野幸男代表のポスターが貼ってあることに菅原氏が気づいた。『夜、あのポスターを破ってこい』『菅原一秀と赤文字で車にあるが、それは何かで隠せ』『車は遠くに止めて、歩いて行け』『代わりに俺のポスターを貼ってこい』などと細かく指示してきました。嫌なので行ったふりをしていたら『まだ枝野のポスターがあるじゃないか』と厳しく叱られた。仕方なく、夜闇にまぎれてはがしたことがありました。枝野さんには本当に申し訳ないです。菅原氏には法を守るという意識はありません」(Aさん)
菅原氏は辞職後、SNSで事件についてこう謝罪した。
「私の政治活動において一部公職選挙法に触れる部分があり、当局の事情聴取に多くの時間を使って丁寧に説明してまいりました」「今後のことは一切白紙です」
検察審査会の申立人代理の郷原信郎弁護士はこう語る。
「河井克行夫妻の事件と同様、これだけハッキリ証拠があるのに一度は、不起訴にした。検察はその理由を『大臣を辞職して反省』というが、そんなことでクロをシロにし、検察審査会から起訴相当を突き付けられ、あわてて捜査というのはお粗末すぎる。起訴に追い込んだのは、勇気ある菅原氏の元秘書たちだった。自らの経験を踏まえて、客観的なデータをそろえて、検察に証言したからこそ、事件化できた。また、立件金額80万円としているが、より丁寧に詰めて捜査すれば数百万円になった可能性もあるので、略式起訴には違和感が残る」
菅原氏の略式起訴の一報にAさんはこう語る。
「経産相の辞職を余儀なくされ、しばらく病気、体調不良と言いながら、国会を欠席していた。実際は事務所に来て、戸別訪問までしていた。菅原本人の指示なのに秘書に責任を押し付け、反省なんてゼロですよ。菅原氏を見ていると、香典や地域のイベントでカネがばらまける資金があったからこそ、当選してきたと感じます。私は数々の違法行為を押し付けられた。こういう人物は二度と国会議員になってはいけない」
(AERAdot.編集部 今西憲之)
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