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「中止すれば経済損失」は本当か コンコルド効果の可能性 それでもやるのか?東京五輪最終攻防
https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/sports/290243
2021/06/09 日刊ゲンダイ
開催準備に莫大な費用はかかったが…(国立競技場)/(C)日刊ゲンダイ
新型コロナウイルス感染拡大下の東京2020オリンピック・パラリンピック大会開催は、感染爆発抑制が見通せない限り日本経済に深刻な打撃をもたらす恐れがある。中止は経済効果を損なうという主張は机上の空論に過ぎない。
大会中止の経済効果を試算したリポートは複数のシンクタンクや研究者が公表しており、大半は中止すれば経済損失が巨額にのぼると迫る。予定日まで2カ月を切っており、損失が出るなら予定通り開催した方がいいと考える人がいてもおかしくはない。
だが、野村総合研究所の木内登英エグゼクティブ・エコノミストが5月25日に公表したリポートは一味違った。見出しこそ「中止の経済損失1兆8000億円」だが、開催時の感染拡大リスクが経済効果を打ち消すことを指摘した。感染拡大のパターンが想定しきれないためか、具体的な損失額は明示していない。
一方で、感染拡大に伴う政府の緊急事態宣言が押し下げた国内総生産(GDP)は、宣言1〜3回目で各約4兆9000億〜約6兆4000億円に上ると試算。<大会を中止する場合の経済損失は、緊急事態宣言1回分によるものよりも小さいのである>と断じた。
木内氏は日本銀行の審議委員を務め、黒田東彦総裁の大規模金融緩和継続に「少数派」として反対してきた。現在所属する野村総研の筆頭株主である野村ホールディングスは、東京大会の「ゴールドパートナー」を務めている。木内氏の指摘は重い。
そもそも、感染対策で訪日外国人観光客の入国を中止した段階で、当初もくろんだ観光需要は喪失した。国立競技場など各種競技会場やインフラ整備、準備費用は大半を支出済みで、その分の経済効果は既に得ている。
中止でこれらが無駄になるという考え方は、「コンコルド効果」と呼ばれる。<認知バイアスの一種で、投資の継続が損失の拡大につながると分かっていても、それまでに費やした労力やお金、時間などを惜しんで投資がやめられない心理現象>(野村証券「証券用語解説集」)だ。
超音速旅客機コンコルドの失敗は、<開発途中で既に採算が取れないことが想定されていたにもかかわらず、開発・就航を続行>(同)したためだ。
政府や東京都、組織委員会、国際オリンピック委員会(IOC)は、まさにこの認知バイアスに陥っている。武藤敏郎組織委事務総長は根拠を示さず「五輪を開催する方がはるかに経済効果がある」と言う。菅義偉首相は、かたくなに中止時の基準提示を拒んでいるが、強行開催に伴う感染爆発のツケを払うのは国民だ。 (つづく)
後藤逸郎 ジャーナリスト
1965年生まれ。毎日新聞大阪経済部次長、東京本社特別報道グループ編集委員などを経て現職。著書に「オリンピック・マネー 誰も知らない東京五輪の裏側」(文春新書)。
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