日本社会を打ち出の小槌にするな ーバラマキ外交の原資はどこから?ー https://www.chosyu-journal.jp/seijikeizai/4788 安倍政府は2012年12月の発足後、初外遊先となったベトナムで466億円の円借款を表明したのを皮切りに、精力的なばらまき外交を展開してきた。約4年半でのべ百数十カ国を訪れ、ODA支援や諸諸のインフラ投資を総計すれば100兆円をはるかにこす。最近もインドに総額で5兆円を超す支援を約束し、イギリスが日立から買う原発に2兆円規模の政府補償まで検討し始めた。ばらまき癖はエスカレートする一方だが、いったいどのようなばらまきがやられ、だれが利益を得ているのか。「カネがない」はずの国家財政のどこからばく大な「ばらまき資金」を捻出しているのか。その実態を見てみた【表参照】。 安倍首相は14日にインドを訪問し、モディ首相と会談した。日本の新幹線方式を導入する高速鉄道の建設支援などに約1900億円の円借款を供与すると表明するためだ。日本はすでに2016年度までにインドへ5・3兆円の円借款を供与しており、今回の円借款も加えるとその規模は5・5兆円規模にふくれ上がる。これは日本が円借款を供与する国のなかで最大規模である。 ムンバイ〜アーメダバード間の約500`を結ぶ高速鉄道建設は総額2兆円規模で、両駅間には線路とともに12駅をつくる予定だ。すでに双日、三井物産、日立製作所などの日本企業が軌道敷設工事を受注し、JR東日本や川崎重工は企業連合をつくって、車両建設、車両部品供給、土木・建築・軌道・電気・信号・運行管理システム・旅客サービス設備・一定期間のメンテナンスなどに食い込むため暗躍してきた。インドへのばく大な円借款はこうした企業の海外進出・ビジネスを全面支援することが最大眼目である。日印間でかわした調印内容は償還期間は50年で金利は0・1%(各事業ごとに償還条件は違う)、調達条件は「タイド」(調達先は円借款供与国限定)で、大半がひも付き事業である。こうして日本からインドに供与された円借款はインド政府の手を通って、最終的にはインドの高速鉄道事業を受注した日本の大企業がつかみどりし、ため込んでいく構図になっている。 しかも今回の円借款は「プログラミング(課題解決型)ローン」と呼ばれ、日系企業のニーズの高い港湾や道路などのインフラのなかから、メニューを選ぶもので、「インドの支援」は建前でしかない。国内の製造拠点を足蹴にして海外へ進出する日本企業のために尽くすことが目的だ。 インドではホンダが二輪車の工場を構え、スズキも四輪車の生産を始めている。スズキは第2、第3の工場稼働を計画し、豊田通商など自動車向け部品会社の進出も加速している。こうした日本企業が多数進出するインド西部のグジャラート州に合計250億円規模の円借款を出すことも明るみに出た。これも道路や電力、水道などのインフラを整備し、企業活動の環境整備に使われる。ここには日本語教師を今後5年間で1000人養成し、人材育成する計画も含んでいる。 ODAや円借款で現地政府に貸し付けた資金が数十年後に帰ってくるメドはない。途中で「日本に戻さなくてもいいです」といって帳消しにする「債務救済措置」(公的債務免除)が横行しているからだ。そうしたケースは企業進出が活発な東南アジアやアフリカに多い。2003年から2016年の13年間で2兆2848億円(のべ94カ国)もの貸付が帳消しになっている。 英原発建設に政府補償 さらに国民を驚愕させたのは、日立製作所がイギリスで進める原発建設計画をめぐって、日本政府が全額補償の検討を開始したことだ。日立は現在、2012年に買収した英電力会社ホライズン・ニュークリア・パワー社を通じ英中部で原発2基の新設計画を進めている。事業費は2兆円を超す規模といわれ、2020年代前半の稼働をめざしている。 だが原発をめぐる情勢は2011年の福島原発事故で大きく変化した。ベトナムでの新設計画が中止になるなど世界で新設計画はストップし、日本での新設計画は軒並み破綻した。発電コストは高すぎるし、事故リスクは甚大であり、欧米の原子力メーカーは早くから原発事業から足を洗っていった。ところが日立はそれを「チャンス」と位置づけて英電力会社・ホライズン社を買収し、英国での原発建設に乗り出した。しかも日本政府はそれを国際協力銀行(JBIC)や日本政策投資銀行が投融資し、全事業費の4割に及ぶ1兆円規模の援助をする計画を打ち出した。今回はこの政府系金融機関を通じた支援に加え、メガバンクが融資する資金も含め政府が全額補償すること、すなわち2兆円規模の原発建設資金をみな日本政府が肩代わりすることを検討し、年末に結論を出すとしている。 福島原発事故で住民に多大な被害を与え、いまだに事故の全貌も掴めず、終息すらできないのが東電である。さらに米原発事業の巨額損失で債務超過に転落し破綻したのが東芝である。こうしたなかで日本だけが、日米原子力協定による原子力産業の維持の責任を負わされて、原発輸出に奔走し、しまいには他国に建設する原発費用まで政府が肩代わりするところまできた。東芝は原発事業から逃げ遅れ、米原子力メーカーに巨額の損失をかぶせられた。日立の原発も同様の損失を抱える危険をはらんでおり、完成後に事故を起こせば、その補償額も計り知れない額になる。それを見越した政府補償であり、単なる2兆円規模のばらまきで終わるとは限らない。今後のばく大な巨額損失、国家財政からの補償まで、場合によっては国民がかぶらなければならないという破滅的な仕組みでもある。 近年でもっとも巨額なばらまきは、トランプが大統領になって初めての日米首脳会談で安倍首相が約束した「51兆円のインフラ投資」である。日本政府はなにも要求されていないのに、アメリカで70万人の雇用を創出することをうたったインフラ整備の資金拠出(10年間で51兆円の投資)を表明した。この内訳は@米国でのインフラ投資に17兆円、A世界のインフラ投資で連携する事業に22兆円、Bロボットと人工知能(AI)の連携に6兆円、Cサイバー・宇宙空間での協力に6兆円というものだ。しかもそこに老後の生活のために積み立ててきた年金積立金を注ぎ込もうとしていることも表面化した。アメリカとの関係でいえばオバマ前大統領のとき、リニアモーターカー整備にかかる5000億円(総工費1兆円の半額)の融資をみずから買って出たのも安倍首相だった。 原資は郵貯や年金など 問題はこのような資金がいったいどこから出ているのかである。通常、公表される一般会計の予算は90兆円規模で、このうち外務省のODA予算は年間5000億円規模だ。第2次安倍政府登場後、ODA予算は2012年=4180億円、14年=4230億円、16年=4342億円と推移し、18年度の概算要求では4903億円を要求した。ODA予算の額が大幅に増えたのは確かだが、とても100兆円規模のばらまきを続ける資金額には届かない。 だがODA資金の詳細を見ると、外務省が公表しているODA事業予算は総額2兆1000億円にのぼり、外務省のODA予算はODA事業予算全体の4分の1に過ぎない。ちなみに2017年度ODA事業予算の財源構成は、外務省のODA予算を含む一般会計が5527億円、特別会計が14億円、出資・拠出国債(交付国債の一種で日本が国際機関へ加盟する際に、出資・拠出する現金の代わりに発行する国債)が2312億円で、もっとも大きいのは郵貯資金や年金資金で構成する財政投融資等の1兆3147億円だった。 2012年度のODA事業予算は総額1兆7016億円で、このとき財政投融資等は8768億円だった。それが安倍政府登場以後、財政投融資等のODA事業費に占める額が伸びていき、この5年間で4000億円以上も増加した。焦げ付いたり、目減りしようがお構いなく、国民資産の郵貯・年金資金を海外にばらまく原資に使い、大企業に奉仕する姿が浮き彫りになっている。 さらにもう一つの原資には、特定の歳入と特定の歳出をもつ特別会計が絡んでいる。これは税収以外の年金を扱う年金特別会計や労働保険特別会計など14の特別会計で構成している。2017年度の特別会計の総計は196・8兆円で一般会計よりはるかに大きい。年金資金や外貨準備高などとり扱っている資金額が大きいのも特徴だ。しかし一般会計予算と違って全貌はほとんど明らかにされたことがなく、「ブラックボックス」ともいわれる予算である。 このなかに約130兆円規模の外貨準備高を運用する外国為替資金特別会計があり、これも海外へのばらまきに運用されている。同特別会計は2013年4月にこれまでの「円高対応緊急ファシリティ」を「海外展開支援融資ファシリティ」に改変した。それは日本企業の海外展開支援に外貨準備高など、外為特会の資産を積極的に運用するための制度改定だった。2015年度末の「海外展開支援融資ファシリティ」は564億j(約6・7兆円)にのぼる。 こうしてあまり表に出ない200兆円を超す規模の特別会計、120兆円規模の外貨準備、150兆円規模の年金資金、280兆円規模の郵貯資金など、国民の金融資産1800兆円に裏付けされた資産が回り回った形となって、吐き出されている。 国民生活とかかわっては増税につぐ増税で、介護、医療費の自己負担の増加を押しつけ、介護苦による殺人や自殺が絶えない。3万人規模の自殺者が毎年出て、家族にも近所の人にも発見されずに孤独死したり餓死する悲劇がよそごとでない事態になっている。失業や貧困、生命の再生産すらできない少子高齢化が進み、日本の人口が1億人以下に落ち込むことも現実味を帯びている。ご飯を食べることができない子どもたちが増えすぎて、子ども食堂をつくらなければならない事態にもなった。このなかで海外に数十兆円もばらまきながら一方では「カネがない」と搾りあげていく国民収奪政治が横行している。 国内に富を反映させるのではなく、多国籍化した大企業に利益誘導し、彼らの懐に富を移転していく経済構造、政治構造のもとでは、生活の改善も景気回復もあり得ないことを示している。国家を私物化し、社会と国民に寄生して暴利をむさぼる一握りの勢力と、まともな社会を求める圧倒的多数の国民との矛盾は非和解的なものといえる。一方が富を独り占めする以上、巻き上げられる側におこぼれが滴り落ちてくるようなものではなく、トリクルダウンなど人欺しである。森友や加計どころでない資金を国家財政からかすめとっている独占企業の存在にも光を当てなければならない。
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