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台湾派の安倍前首相VS中国派の二階幹事長 ワクチンと総裁選で主導権争い
https://dot.asahi.com/dot/2021060600012.html
2021.6.6 16:00 今西憲之 AERA dot.
外交路線を巡り対立する安倍前首相と二階幹事長(C)朝日新聞社
感謝を述べる蔡英文総統(ツイッターより)
台湾パイナップルを手に笑顔の安倍前首相(Facebookより)
昨年の首相退任後以降、影が薄かった安倍晋三前首相が台湾へのワクチン提供をきっかけに存在感を増している。安倍前首相に近い細田派(清和会)所属の国会議員がこう話す。
「安倍さんは『桜を見る会』問題はなんとか乗り切ったが、河井克行・案里夫妻への1億5千万円提供問題では、頭を抱えていた。首相を辞めた当初こそは、再々登板も噂されたが、その期待もしぼんでいた。だが、台湾へのワクチン提供を電撃的に決めて中国に一泡吹かせた。安倍さんはドヤ顔ですよ」
日本政府が台湾へ寄付したアストラゼネカの新型コロナウイルスワクチン124万回分は6月4日、現地に届けられた。台湾はこれまで新型コロナウイルスを封じ込めてきた「優等生」だったが、5月になって、海外から帰国した航空機のパイロットから感染拡大、新規感染者が急増している。
病院でクラスターが発生するなど、6月に入ると新規感染者数が1日で500人を超える日も出ていた。
さらに台湾はワクチン手配が中国の“横やり”で他国より遅れていた。ドイツのビオンテック製のワクチンが手配に成功していたが、蔡英文総統は「契約がほぼ決まっていたのに、中国が介入して契約ができない」と批判。中国のワクチン提供の申し出を「安全性の担保」を理由に蔡総統は断っていた。
「ワクチンが入手できない台湾の富裕層は、早く接種したいと、アメリカまで行っている。アメリカ行きの飛行機は連日、満席ですよ」(台湾在住のジャーナリスト)
一方、日本では副反応が懸念されるアストラゼネカ製のワクチン接種を見合わせていた。
「アストラゼネカ製のワクチンは下手すれば在庫になってしまう。ワクチンを発展途上国にも広げるCOVAXに乗せればいいという話が出ていたが、今後については未定だった」(官邸関係者)
一気に台湾提供へ動いたのは5月24日だった。台湾の台北駐日経済文化代表処、謝長廷駐日代表はアメリカのジョセフ・ヤング駐日臨時大使と会談したとツーショット写真をFacebookに投稿したが、実はその場にはもう一人の人物がいた。安倍政権で外務副大臣、首相補佐官だった薗浦(そのうら)健太郎衆院議員だ。
「国内で行き場のないアストラゼネカ製ワクチンを台湾に提供できると薗浦氏が2人に打診。ヤング代表も非常にいいことだと同調。日本はアメリカの了解のもと台湾にワクチンを贈るお墨付きを得た。そこで薗浦氏はすぐに安倍氏に連絡をとった。昨年、コロナ禍でマスクが不足した時や、東日本大震災でも多額の寄付をしてくれた台湾と安倍家は祖父の岸信介元首相時代からパイプが太い。実弟の岸信夫防衛相も日華議員懇談会幹事長を務めている。安倍氏はすぐに菅首相はじめ、各方面の了解を取り付けた。中国の動向を気にする外務省は渋ったが、前首相の声に押され、一気に話が進んだ」(自民党幹部)
安倍前首相の「台湾通」は知られるところだ。台湾は最近、名物のパイナップルが中国の禁止措置などで輸出が減少しているとも報じられている。すると、安倍前首相はFacebookに台湾産パイナップルを並べ、「今日のデザートはパイナップル。とっても美味しそう」と書き込んだ。
安倍前首相の奔走が外交関係がない台湾へのワクチン提供が大きなポイントとなった。台湾は日本のこうした動きに対し、中国の“横やり”を心配してかん口令を敷いていたという。
「新規感染者数の増加、ワクチン供給が遅れで蔡総統の支持率は低下していた。日本からの打診に蔡総統はワクチンが飛行機で台湾に到着するまで外に漏らしてはいけないと、厳命。政府あげて、日本からのワクチン受け入れに備えた」(台湾の政府関係者)
台湾のメディアは4日、日本からのワクチン到着をライブ中継で報じた。台北市の最高級ホテルや高層ビルは、日本への謝意を示すライトアップされるなど、大フィーバー。台湾の日本台湾交流協会のFacebookには、感謝のメッセージがあふれた。
蔡総統もツイッターに「言葉では言い尽くせないほど感謝しています」と投稿した。台湾では早くも「安倍前首相の台湾訪問、熱烈歓迎」という声まであがっている。
反対に二階俊博幹事長は中国とのパイプが強いことで有名だ。二階派幹部がこう言う。
「台湾にアストラゼネカ製ワクチンを送ると報じられた時、誰が裏で動いているのかと尋ねていた。二階さんとしては、自分が知らぬうちにワクチンが大量に台湾へ渡ったとなれば、メンツが丸つぶれです。安倍さんの案件と聞き、すごく不機嫌になりました」
菅政権の生みの親でもある二階幹事長と元上司だった安倍前首相の鞘当てが外交の場で続く。菅首相は3日、イギリスで行われるG7サミットを前に安倍前首相の議員会館事務所に足を運び、“詣”。35分間、サシで会談した。
「解散総選挙、自民党総裁選が近いことから安倍さんは周囲に『政局になる』『首相在任中は選挙で負けたことはない』と語るなどやる気満々の様子です。首相の再々登板の可能性はゼロではないが、100人近い最大派閥の清和会をいよいよ継承し、キングメーカーとして実弟の岸防衛相をさらなる重要ポスト、子飼いの下村政調会長を幹事長ポストに押し込むことを狙っているとも聞きます。二階さんとしたら黙って引き下がれないでしょう」(前出の自民党幹部)
秋の総裁選後のキングメーカーとして主導権を握るのは、安倍前首相か、二階幹事長か?永田町が固唾を飲んで見守っている。
(AERA dot.編集部 今西憲之)
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