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※2021年5月31日 日刊ゲンダイ1面 紙面クリック拡大
※紙面抜粋
※2021年5月31日 日刊ゲンダイ2面
【「五輪が始まれば皆熱狂する」】
— 笑い茸 (@gnXrZU3AtDTzsZo) May 31, 2021
菅首相の発想はヒトラーと同じ
日刊ゲンダイ pic.twitter.com/L7yicIIOcJ
※文字起こし
「緊急事態宣言下での五輪開催は、もちろんYES」「アルマゲドン(世界最終戦争)でもない限り実施できる」。IOC(国際オリンピック委員会)委員らの無神経な発言に国民が猛反発しても、政府がダンマリだったワケが分かった。
「開催されれば、世論は五輪を支持すると確信している」と、IOC広報部長が5月12日のオンライン会見で発言していたが、菅首相も同じ感覚だからだ。
官邸や自民党の幹部が「とにかく開きさえすれば、日本中のムードは変わる」「日本人選手が活躍すれば盛り上がる」と吹きまくっている。
菅は先週金曜(5月28日)の記者会見で、緊急宣言下の五輪開催の是非について質問されると、毎度のごとく真正面から答えることはなかったものの、「さまざまな声に耳を傾け、配慮しながら準備を進める」と開催に躊躇することはなかった。
新型コロナ感染が収まらず、医療逼迫が続き、インド株の脅威が高まっているから、緊急宣言は3度目の延長となったのに、なぜか五輪開催だけは高らかに宣言する。その矛盾が不思議で仕方なかったが、菅が「五輪が始まりゃ、メダルラッシュでみんな忘れる」とタカをくくっていると考えれば合点がいく。
「前回のリオ五輪で日本は史上最多の41個のメダルを獲得しました。今回はその数を超える可能性があります。開催国ですから日本選手は調整に恵まれている。既にテニスやゴルフなどトップ選手の不参加表明もある。野球やソフトボールなど日本の得意種目が採用されている。必然的にメダルを取りやすい環境にあるのです」(五輪を取材するスポーツ記者)
国民は政府とIOCに嫌気
だが、甘い。五輪に熱狂すればすべてチャラとは、あまりに国民をバカにしすぎやしないか。いまや世論の6割が延期ではなく「五輪中止」を求めているのだ。医療関係者が公然と中止の声を上げ、世界中からも毎日のように反対表明が届く。
世論が中止を求めるのは、もちろん「国民の命と健康を本当に守れるのか」という感染拡大懸念が一番だが、それ以上に、コロナは無関係とばかりに強引に開催に突き進む“ぼったくり集団”IOCとそれに足並みを揃える日本政府に嫌気が差しているからだろう。
組織委の森喜朗前会長ですら、「同じ人がパーティーばかりやっている」と嫌みを言っていたが、3000人という「オリンピックファミリー」の貴族感覚や特権意識は、いまや日本国民の知るところだ。IOCが酷暑の夏開催にこだわるのは、2032年まで6大会で8000億円という放映権料を支払う米テレビ局のためだというのも周知の事実である。
「有観客」に執着するのは、チケット収入900億円をパーにしたくないからだし、「五輪盛り上げ」の演出には観客が必要という菅政権の思惑も見え隠れする。
要は「平和の祭典」なんて名ばかりの、薄汚れた実態を見せつけられ、国民の半分以上が「五輪なんて大嫌い」になってしまったのである。スポーツジャーナリストの谷口源太郎氏がこう言う。
「理念も何もないから、スローガンもどんどん変わる。最初に掲げていた『復興』はどこへ行ってしまったのか。『人類がコロナに打ち勝った証し』なんて、傲岸不遜にも程がある。元アスリートからも五輪開催反対の声が上がっています。今後、国内外の選手の間でも批判的な見方が増えていくと思います」
「パンとサーカス」の愚民政策で国民を思考停止させる |
理念がないだけでなく、もはや経済効果にも期待できない。それどころか、このまま五輪開催を強行すれば、経済的には逆効果という試算も出てきた。
野村総合研究所の木内登英エグゼクティブ・エコノミストが5月25日に発表したリポートによれば、五輪を中止した場合の損失額は1兆8108億円。だが、この金額について木内氏は<必ずしも軽微とは言えないかもしれない。しかし、2020年度名目GDPと比べると0・33%の規模であり、景気の方向性を左右する程の規模ではない><緊急事態宣言1回分によるものよりも小さい><大会の開催・中止の判断、観客制限の判断については、経済的な損失ではなく、感染リスクへの影響という観点に基づいて慎重に決定されるべき>と主張している。
ちなみに、木内氏によれば1回目の緊急宣言による経済損失は約6・4兆円、2回目は約6・3兆円、3回目は現時点で既に約1・9兆円だ。年明け以降、ほぼ半年にわたる緊急宣言継続という苦痛を強いられ続けている国民は、これ以上、IOCや菅政権の我欲に付き合っちゃいられないのだ。
そもそも海外からの観客を断念した時点で、五輪は意義を失っている。五輪憲章では、オリンピズムとは「文化や教育とスポーツを一体にし、努力のうちに見いだされるよろこび、よい手本となる教育的価値、普遍的・基本的・倫理的諸原則の尊重などをもとにした生き方の創造である」と明記されている。世界中から集まる観客との交流を通じ、国際化や異文化への理解を深め、世界平和を実現するというのが、五輪開催の最も大きな意義なのに、東京五輪はそれがかなわない。
「いま準備が進められている『バブル方式』での選手の感染対策にしても、『反オリンピズム』もいいところです。選手を檻の中に閉じ込めるように隔離するのですから。自由な交流で相互理解を深めるというオリンピズムの原点に真っ向から反します。IOCは自ら五輪を破壊していることを理解しているのでしょうか。もっとも、バッハ会長が就任直後に提唱した『アジェンダ2020』の改革案は『大会さえ永続的に継続されればいい』という考え方でしたから、オリンピズムなど、とっくに形骸化していたのですけどね」(谷口源太郎氏=前出)
菅首相が描く「オールジャパン」の祭典
理念もなく、経済効果もなく、意義もない。そんな五輪に執着する菅の目的は政権浮揚と保身だ。
「五輪が始まれば皆熱狂する」という発想は、1936年のベルリン五輪を開催したヒトラーのナチスを彷彿させる。「パンとサーカス」にたとえられる愚民政策に五輪をトコトン利用し、メディアを総動員して「アーリア人の優秀性」を喧伝。89個ものメダルを獲得して他国を圧倒し、国民を熱狂の渦に巻き込み、思考停止に陥らせたのである。これぞまさに、菅が思い描く「メダルラッシュのオールジャパンの祭典」である。
だが、そうは問屋が卸すものか。メダルラッシュに沸いたとしても、それは選手を称えるものであり、菅内閣の支持につながることはない。むしろ感染拡大で政治責任を追及されるリスクの方が高いだろう。
法大名誉教授の五十嵐仁氏(政治学)が言う。
「五輪を開催すれば、政権にとってプラスという状況ではありません。医療資源の奪い合いなどさまざまな問題が噴出している。『五輪がなければ私の親は死ななかった』といった恨みや怨嗟の声が政権に突き付けられることになりかねない。『五輪なんて、やらなきゃよかった』という悲惨な結果になるのではないか。菅首相は、そんなに五輪を開催したいのなら、なぜもっと徹底的に感染対策に取り組み、早くからワクチン接種を進めなかったのか。五輪開催のための前提条件を崩したのは菅首相自身です。この期に及んでの五輪強行はメンツと意地の塊だと、国民にはミエミエです」
これ以上の国民愚弄を許してはならない。
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