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世界が評価したテニス大坂なおみ選手の「政治的な動き」 日本外交と政治の正体
https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/sports/289089
2021/05/14 日刊ゲンダイ
大坂なおみ、五輪開催は「危険あるなら議論すべき」(C)ロイター
「スポーツ界のアカデミー賞」とも称され、世界のスポーツ界で活躍した個人や団体を表彰する「ローレウス・世界スポーツ賞」の女子年間最優秀選手賞をテニスの大坂なおみ選手が受賞した。
メッシやジョコビッチ、ボルト、シューマッハ、ウッズら過去に受賞している男子年間最優秀選手賞を見れば、その凄さが分かる。
大坂選手は、昨年は全米オープンで優勝したものの、現在の世界ランキングは2位である。その大坂選手が今回、受賞した理由は「競技面の他『ブラック・ライブズ・マター』(黒人の命は大切、略称BLM)の人種差別抗議運動の支援などへの評価」だった。
大坂選手がBLM運動に積極的に参加したのは昨年の全米オープンの時だった。優勝するには7試合必要だが、大坂選手は試合のたび、異なる名前が記されたマスクを着けて登場した。第1戦の際、警察官に殺害された黒人の名前が書かれたマスクを7枚持っていることを明かし、「なんとか決勝まで勝ち残り、すべてのマスクをお見せしたいです」と語っていた。
決勝の第1セットは相手に圧倒され、第2セットも0―2とリードされたが、奇跡的に立ち直った。BLM運動への関与が、彼女の優勝につながったのは間違いない。
残念なことに日本国内では「スポーツ選手は競技に専念しろ」という声が上がった。
政治は全ての人に関係する。自分を取り巻く環境を改善したいと思えば政治的な発言をするのは当然だ。「ローレウス・世界スポーツ賞」は「スポーツの力をもって社会問題に立ち向かい、スポーツの素晴らしさを世の中に広める」ことを理念としている。
大坂選手の受賞で感心したのは、受賞に際しての彼女の言葉だった。
「今後の目標は、できる限り多くの人をサポートし、できる限り多くの人に影響を与え、もっと影響力のある、良い人間でありたいと思っています」
自分の将来のあるべき姿をこれだけ明確に主張できる人は、現在の日本の若い世代にあまりいないのではないか。政治、つまり社会環境のありようを考えることは、スポーツ選手にとっても決して異次元の問題ではない。日本社会もまた、「スポーツや文化の力をもって社会問題に立ち向かう」人々を歓迎するようになってほしい。
孫崎享 外交評論家
1943年、旧満州生まれ。東大法学部在学中に外務公務員上級職甲種試験(外交官採用試験)に合格。66年外務省入省。英国や米国、ソ連、イラク勤務などを経て、国際情報局長、駐イラン大使、防衛大教授を歴任。93年、「日本外交 現場からの証言――握手と微笑とイエスでいいか」で山本七平賞を受賞。「日米同盟の正体」「戦後史の正体」「小説外務省―尖閣問題の正体」など著書多数。
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