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西浦博 教授が緊急報告、「第4波」が“これまでと違う”と言わざるを得ない「4つ」の理由
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/82810
2021.05.04 西浦 博 京都大学大学院 教授 現代ビジネス
英国株への置き換わりが進む日本
2021年5月1日現在、流行が上昇傾向にあるほとんどの地で、感染性や重症化率が高いと言われるイギリス由来の「英国株」が「従来株」を置き換えて拡大しつつあります。
大阪・兵庫では、酸素投与をしたい患者さんがいるのに家で待機を余儀なくされていることも多く、相当に良くない状況です。大阪を支援している行政の友人は「これまでの流行が、まるで単なる練習試合だったのか」と話していました。誤解を恐れず言うと、それほどまでに思わせてしまう状況なのです。
そして、大阪と兵庫で連日亡くなる方が出ているのは、対策が遅れたことだけでなく、対応する現行の医療システムにも原因の一端があるかと思います。いまこそ、従来株によるこれまでの流行と、英国株に置き換わりつつあるこの「第4波」とでは何が変わったのかを科学的に整理して理解することが必要です。
今回は、人口全体の対策に関連する点について検討します。(未成年の感染が増えたかもしれないという話もありますが、それは別の原稿で詳しく紹介します)
大きく整理して4つの点で、「第4波」はこれまでと異なることがわかってきました。
1 従来株と同じかのような誤解をしたままでは、対策が遅れると、他地域で大阪のような事態になる可能性がある 2 生産年齢人口で中等症患者や重症患者が出ている 3 素早い「まん延防止等重点措置」は流行のスローダウンに使うことはできる 4 長期的見通しが大きく変わった(高齢者の予防接種だけでは医療崩壊のリスクが残る) |
これら1つ1つについて説明したいと思います。
(1)対策の遅れが“もたらすもの”
英国はもちろんのこと、日本でも英国株が従来株の1.3〜1.5倍程度の感染性を有することが分かっています*1。
夏場に起こった従来株による第2波は夜間繁華街を中心に流行が起こっていたので、東京では一部の飲食店に対して営業時間の短縮の要請が行われ、また大阪でも一部限定的な休業要請も行われたりするなどしましたが、緊急事態宣言は発出されませんでした*2。
また、第3波では緊急事態宣言の対象地域でのイベントの開催は最大でも5000人以下に制限され、テレワーク、交通機関の減便などもありましたが、主には飲食店の営業時間短縮を中心とした措置と緊急事態宣言に伴う移動自粛などの呼び掛けを通じて、感染者数を減少に向かわせることができていました。
しかし今回、大阪でのまん延防止等重点措置によって大阪市の飲食店で営業時間の短縮が行われ、市内の繁華街の夜間滞留人口が劇的に下がったものの、流行が下火に至るほどまでには再生産数(感染者1人あたりが生み出す二次感染者の数)を下げられませんでした。
学校の部活動自粛や週末の外出自粛なども呼び掛けられましたが、その中でも再生産数は概ね、流行が下火へ向かう目安の「1」をほんの少し超える水準まで下げられる程度に留まりました*3。
どうして、より強い対策を伴う緊急事態宣言を発出できる判断の機会が何度もある中で、重点措置の効果を長く待ったのかは、流行が終わってから総括しましょう。ここで他の地域を含めて理解すべきは、従来株から英国株への置き換わりが進んでいる状況下では「感染性が上昇していて、従来の対策では下げ切れない蓋然性が高い」ということです。
フランスでも同様の研究が報告されています。フランスでは「門限の設定」を流行対策にしており、2月まではそれによって入院者数の度合いを一定に保てましたが、3月に英国株に置き換わってからは感染性が高くて門限設定という対策だけでは効かずに他の措置が必要になりました*4。
これは流行対策を構築する上では極めて良くないニュースです。飛沫が飛びやすい食事や飲酒の機会は未だ感染が起こりやすい場なのでしょうが、職場や施設、家庭内などでも伝播しやすい機会があり、対策の対象範囲を広げる必要があることを示唆しているからです。
さらに、リアクションが遅い日本の政治・行政にとっても良くない事態です。感染性が高いと感染者数が増える指数関数的な増殖スピードも速くなります。これまで、この感染症の流行対策では社会・経済的インパクトに気を払う必要性が高いため、判断に時間を要することがほとんどでした。
大阪の第4波の重点措置が典型例ですし、一部の自治体で大型連休前に重点措置や緊急事態宣言を見送ったところもあります。気づいたときには相当に増えている状態が起こり得ます。今後、対策の遅れが少しでもあると一気に患者が増えてしまう可能性が危惧されるのです。
(2)生産年齢人口で中等症・重症患者が…
20歳から40歳代で酸素投与を要する中等症の方が圧倒的に増えました。また、60歳未満も含めて肥満あるいは基礎疾患を持つ方を中心に重症化する患者が増えました*5。
第3波では60歳以上の方で重症者の82.5%が占められていましたが、「第4波」ではそれが65%程度まで落ちてきています。これまでは20歳代や30歳代で感染しても軽症で治ってしまう方がほとんどでした。
でも、英国株では、そんな若者も肺炎を起こしてしまい、苦しくて我慢できない程度になる方もいるのです。すると、中等症患者として入院して酸素療法をすることが必要になります。
一方、英国では、致死率がこれまでの1.5倍程度に上がったという報告がありますが*6、これと同じ結果が日本で出るかどうかについては慎重に見極める必要があります。
なぜなら、生産年齢人口の重症者は高齢者よりも回復しやすいと思われます。肺炎による肺組織の障害ダメージが治癒しやすいかもしれません。この感染症は早期の治療によって救命できることも多く、死亡リスクが高くなるということは、医療がどれだけ崩壊しているかにかかっている部分も多いと考えられるのです。
それはつまり、自宅等で療養しないといけない中等症・重症の患者がどれくらい出るかということなどです。これまでも第3波で医療が逼迫している時に致死率が高くなっていることを示唆するデータがありました*7
医療が逼迫するのは新型コロナウイルス感染症以外の病気の患者さんを助けにくい、ということはもとより、そもそもこの感染症の患者さんも救命しにくくなることを意味しています。病床を増やすことも重要ですが、何よりも感染者を増やさずに乗り切るのがベストなのです。
(3)「まん延防止」は“スローダウン”に使える
「まん延防止等重点措置」について正しい理解をしておくことも必要です。この措置が英国株に対して「効かない」と言うのには語弊があります。再生産数はちゃんと対策で下げることができますが、「不十分なので1未満に下げ切れない」というのが実態です。
私たちの研究グループで推定しても、措置前に大阪で1.8くらいだった再生産数が措置によって1.3程度までは下がっていることが見て取れました。部活動や週末の外出自粛などの追加措置の後は1近くまでじわじわと下がっているようです*8。
つまり、重点措置は全く無駄なのではなく、措置の内容をよりよいものに常にアップデートしながら、とにかく早期に対策を浸透させることによって感染者の増加をスローダウンさせることには使えると考えられます。どうしようもないくらいに感染者数が増える前に、その増加をストップして低いレベルで感染者数を留めておくというイメージです。
感染性が上がったと言っても、1.5が2.25に上がる程度ですし、伝播の場として、従来と似た屋内環境の濃厚接触で起こりやすいことも一緒です。何ともならないわけではありません。
ただし、その措置を可能な限り、「遅滞なく講じないといけない」ことがスローダウンのために必要になります。そうしないと、長い間ずっと感染者数の発生が多いまま高止まりしてしまうこともあるからです。
この後、さらに分析を追加して、感染者数を減らすことができるような急所を見つけられるのか。人口全体に対策の影響が及びすぎないよう、伝播の起こりやすい場を以前のように選択的に見つけて措置を講じていけるのか。その保証はありませんが、感染者数を一旦減らして、しっかり観察・分析をしていかなければなりません。
また、スローダウンさせるための協力は従来よりも遡及効果の高いものが求められますが、為政者が今の状態から“脱皮”して、「票」ではなく、真に国民のことを思って責任を取れるのか、真価が問われます。
そう考えると、当面は緊急事態宣言の措置で実効性の高いものを見定め、措置のオンとオフを繰り返すことになるものだと思います。五輪イベントなどを前に短期的にオフにしようとしている場合ではないのです。
(4)長期的見通しが大きく変わった
更に重要なこととして、長期的な見通しが大きく変化していることに気付くことが必要です。英国株で多くが置き換わったいま、高齢者以外の成人も感染すると医療を必要とする事例が増えてきました。
これは、高齢者の予防接種が完了すれば医療が逼迫するような社会的喧騒がすぐ終わるわけではないことを強く示唆します。酸素投与や人工呼吸が必要な生産年齢人口の患者をしっかり診ることが現場に更に課されることになります。感染者数を常に少なく抑えて制御することが必要です。
最後に繰り返しますが、感染性があがったと言っても伝播の特徴は同じですし、何もできないわけではありません。政治・行政と医療へのプレッシャーが確実に大きくなり、流行期間が延びたということです。正しく怖れることはもとより、感染者数の異常な増え方を止めることに、これまで以上に皆さんの協力が求められます。
【註】
*1 厚労省アドバイザリーボード、4月27日 資料3−2のP30:https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000774314.pdf
*2 Nakajo & Nishiura, 2021; https://doi.org/10.3390/jcm10061256
*3 厚労省アドバイザリーボード4月27日 資料3−3のP27;https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000774315.pdf
*4 https://www.eurosurveillance.org/content/10.2807/1560-7917.ES.2021.26.15.2100272
*5 厚労省アドバイザリーボード4月27日 資料3−5のP20;https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000774317.pdf
*6 10.1136/bmj.n579、10.2807/1560-7917.ES.2021.26.11.2100256
*7,8 厚労省アドバイザリーボード4月27日 資料3−3のP35;https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000774315.pdf
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