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【独自】「7月末までに高齢者ワクチン接種完了は無理」全国の地方自治体の6割回答 菅首相の指示で混乱
https://dot.asahi.com/dot/2021050200013.html
2021.5.3 07:05 今西憲之 AERAdot.
菅首相と橋本聖子東京五輪組織委会長(C)朝日新聞社
武田総務省が全国の自治体の首長へ宛てたメール
3度目の緊急事態宣言下のゴールデンウイーク中も新型コロナウイルスが猛威をふるっている。厚生労働省によると、5月1日に全国の新型コロナウイルスの重症者は、前日から30人増えて1050人となり過去最多を更新した。大阪では連日、新規感染者が1000人を超え、連休中も医療崩壊で危機的な状況が続き、早くも再延長の議論が行われている。
「再延長の議論は官邸で完全に二分状態です。医療専門家や田村厚労相、西村経済担当相の見解は再延長派です。菅首相側近は宣言で強い休業措置を続けると経済が持たない、という意見が依然、強いです」(政府関係者)
しかし、休業、自粛要請ばかりで肝心のワクチン接種は一向に進まず、国民の怒りは爆発寸前だ。日本国民の接種率(4月末時点)はわずか1.3%と経済協力開発機構(OECD)加盟国37カ国で最下位だという。それに比べ、米国は37%、英国は約36%、さらに中国、シンガポール、韓国などアジア諸国より低い。その批判を抑えようと、菅義偉首相が連日、檄を飛ばしている。
「7月末までに高齢者のワクチン接種を終わらせろ」
そのとばっちりを受けているのが、武田良太総務相だという。
「これまでワクチン接種は、田村厚生労働相や河野ワクチン担当大臣が中心だった。しかし、スピードが遅く、なかなか進まない。菅首相の“ポチ”と言われる武田大臣が呼ばれ、『とにかくワクチンを打ちまくれ』『何とかしろ』と厳命されたので、あたふたしています」(総務省関係者)
しかし、現実は厳しい。厚労省が4月末、全国の地方自治体に内々で調査したところ、1741の市町村のうち6割以上の1100の自治体が「7月中に高齢者のワクチン接種完了はできない」と回答している。
主な理由は「ワクチンが国から届かない」「予約を受け付けると瞬殺で埋まってしまい、現場が大混乱」などなど…。
「市町村はワクチン接種の担当者だけでは手が足りず、他の部署から急遽応援を求めて、クレーム処理にあたっているそうです」(厚労省関係者)
兵庫県明石市の泉房穂市長がAERAdot.の取材にこう語った。
「明石市にはワクチンが1箱だけ届きました。接種できるのは300人くらいです。それで予約を受け付けると殺到して、現場が大変。十分なワクチンを供給できないのは、国、菅首相の責任です。これで何とかやってほしいというのは、無責任すぎる。ワクチンが届かないのですから、7月末に高齢者の接種が完了なんて、できるわけないわ」
AERAdot.で既報したたように、菅首相の命令を達成しようと武田総務相が全国の知事や市町村長に直接、メールを送って「7月末に終わらせるように」と訴えている。総務省関係者がこう明かす。
「厚労省調査に対し、『7月中には終わらない』と回答した市町村にはローラー作戦で電話をかけまくり、カネ(財源措置)というニンジンにぶら下げながら、『7月中に接種が終わるような接種計画だけでも作ってくれ』、そして7月中は無理という回答だけでも『撤回・修正してくれ』という上意下達の指示を出しています。都道府県の副知事や市町村の幹部に直談判しようと、出向している官僚をリストアップ。官邸の意向がダイレクトに伝わるよう訴えています」
しかし、自治体からは『ワクチンが足りていない』『ワクチンが届く日程をわからないと、間に合うとは断言できない』『ワクチンが来ても医療従事者が確保できるか』など前向きな回答が得られない状況が続く。
九州地方の市長はAERAdot.の取材に対し、総務省のローラ作戦を認めた上で、呆れながらこう明かした。
「総務省から何度か連絡がきています。菅首相が7月末と国民に約束したから至上命題と言ってきた。しかし、ワクチンは届きません。うちのような田舎町だと、医療従事者の確保もそう簡単に確保できません。そこを説明すると、ガッツと気迫で頑張ってくれと精神論のようなことを担当者は言っていました。連休明けには7月末にできるか、回答してくれと言っていたが、要は連休も働けと強要しているようなもの。ワクチンも届かない状態でどうしろと言うのか。官僚ってどうしてこんなバカなことを言うんですかね。ガッツと気迫でコロナを克服できるわけありません」
中には「ワクチンを保存するフリーザーが確保できない」「ワクチン接種の案内状の印刷費用の予算をつけてほしい」「ワクチン接種のインターネットのウェブ予約がシステム障害で電話対応しかできない」などと訴えている自治体もある。
ワクチンが届いても冷蔵保存できる設備がなければ、接種どころではないし、接種案内を印刷する予算がなく、ウェブ予約のシステムが故障すれば、大混乱することは必至。
「人手不足で医師の確保が難しく、週末は接種できない。接種完了は早くて8月末」と回答する自治体が大半を占めるなど、菅首相の掛け声とは真逆のお寒い状況となっているのだ。
菅首相は総務大臣経験者で、自身の長男も総務省幹部との「口利き」接待に同席していたほど密接な関係にある。いわば、菅首相の「ホームグラウンド」だ。
「菅首相は今や官邸で『裸の王様』状態。自分が直々に指示したんだから7月末までに高齢者接種は可能と思い込んでいる。コロナ感染拡大が収まらなくても、ワクチン接種が進めば、緊急事態宣言の早期解除と東京五輪開催の両立は可能と本気で考えているようです」(政府関係者)
自民党幹部はそんな菅首相をこう突き放す。
「菅首相の支持率低下の要因は、ワクチン接種が進まないことが大きい。感染拡大が収まらず、ワクチン接種がダメなら、東京五輪・パラリンピックも中止か、無観客など縮小するしかない。そうなると、菅首相に次の目はなく、自民党総裁選の出馬すらできないだろう。菅首相は自前の派閥がなく、無派閥の親しい議員を束ねることで一定の結束をはかってきた。しかし、支持率低下などで無派閥の議員らも菅首相から離れつつあります。その焦りから総務省を使って、ワクチン接種を早めようと賭けに出た。7月末と期限を切ったことで、達成できなかったら、公約が守れなかったと退陣もあり得る」
国民だけでなく、自民党の多くの国会議員が菅首相の「公約」が実現するのか、注視している。
(今西憲之 AERAdot.取材班)
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