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広島県が独自にPCR検査開始 県民・県内就業者は皆無料 街の薬局が使命感で担う
https://www.chosyu-journal.jp/shakai/20720
2021年4月4日 長周新聞
広島県では4月1日から、県民や県内就業者なら誰でも無料で受けられる新型コロナウイルスのPCR検査が始まった。年度が替わり、就職、転勤、進学、歓送迎会、花見、卒業旅行、連休(GW)など、人の移動や飲食の機会が増える時期を迎えるなかで、社会経済活動を継続しながら、感染再拡大を抑止するため、感染拡大の予兆をいち早く探知して対策を講じるためのモニタリング措置だ。PCR検査拡充に後ろ向きな国の方針とは一線を画した地方自治体独自のとりくみとなり、エリアや業種を絞らず、県内全域で継続的に実施する検査は全国初となる。国レベルでは「緊急事態」「解除」「まん延防止措置」など言葉やスローガンばかりが飛び交うなかで、地方都市から始まった実態をともなった感染防止策に注目が集まっている。
広島県ではこれまで広島市(2カ所)、東広島市、福山市、三次市の5カ所にPCRセンターを設置し、高齢者施設などの福祉施設、医療機関、理美容業、飲食店、消防の救急隊員、廃棄物処理業、鍼灸マッサージ業等で働く人たちを対象に無料のPCR検査を実施してきた。4月から当面の間は、この対象を業種を問わず全県民、県内の就業者に拡大する。
薬局入口に掲示されたPCR検査受付のポスター
高熱などの有症状者は、かかりつけ医や積極ガードダイヤル(受診・相談センター)を通じて身近なクリニックで検査を受けることになっており、PCRセンターでは無症状者が対象となる。
広島県によると、昨年12月から今年3月までの県内の感染者のうち積極的疫学調査(陽性者の濃厚接触者等への検査)で感染が判明したのは約3割で、残り7割は医療機関経由とPCRセンターで判明している。
PCRセンターでは、昨年12月から約4万人が受検しており、そのうち広島市中心繁華街の流川(中央新天地集会場)とドライブスルー方式の観音(旧広島西飛行場)では約2万5000人が受検。その陽性率の推移を見ることで市中感染の状況を把握できるため、広島県は「医療機関や検査会場へのアクセスがよければ、それだけ陽性者を早く、多く見つけることができ、早めに対策を打てる」(湯崎知事)と強調する。
感染者の6〜8割にのぼるといわれる無症状者を早期に隔離・遮断しなければ、感染拡大の抑止はできず、感染が拡大してしまってから自粛や時短・休業などの制限措置をとるのでは地域経済への打撃が計り知れない。
いまだ行き届いていないワクチンの効果も未知数であり、変異株も出現するなかで、社会的な副作用の大きい行動・営業制限などの手段に至らしめないためにも検査拡充は地方都市にとって喫緊の課題となっている。
広島県では2月には1週間のみ、広島市中区の居住者(約6000人)と事業所従業員(約2000人)を対象にしてPCR検査の集中実施トライアルをおこない、会場となった旧市民球場跡地や薬局で受検した6573人のうち陽性者は4人という結果となった。居住者では高齢者が半数を占め、検査の予約を調整するコールセンターに負担が増して費用対効果が小さかったため、「若年層の受検を促すため、より身近な場所で受検できる体制を整備する」「予約を必要としない仕組みをつくる」ことが課題として浮き彫りになった。
広島市内に設置されているPCRセンター(新天地公園集会場、広島市中区)
身近な場所で検査 市内の薬局205店舗参加
そのため4月からはPCRセンターだけでなく、広島市全域の薬剤師会(広島市薬剤師会、安佐薬剤師会、安芸薬剤師会、広島佐伯薬剤師会)の協力のもと、広島市内に限り薬局で検査キットの受け渡しと回収ができるようになった。住民に身近な場所にあって、1カ所に人が集中することがないため予約も不要で、コンビニ感覚で受検ができる。
検査に参加する薬局は、中区(40店)、南区(31店)、東区(22店)、西区(31店)、安佐北区(15店)、安佐南区(26店)、安芸区(12店)、佐伯区(28店)の計205店舗で、市内にある薬局の約3割にのぼる。
PCR検査を受け付けている薬局入口の幟
薬局で配布されるPCR検査キット。透明の容器に唾液を入れて提出する
対象薬局には「PCR検査受付中」の幟やポスターが掲示され、県のホームページでも店舗名や住所を公表している。ウォンツやすずらん薬局など一定のスタッフ人数を抱えるチェーン店をはじめ個人店舗も多く参加している。薬局には若干の手数料が支払われるものの「ほとんど奉仕に近い形で協力してもらっている」(県健康福祉局)という。
薬局を通じた受検【図参照】は、@受検者は身分証を持参して薬局で検査キットや問診票(同居家族など複数も可能)を受けとり、提出日を知らせる。不自由な人はヘルパーなど代理の受けとりも可能。A提出日に自宅で検体(唾液・約2_g)を自己採取し、午後1時までに薬局に提出(家族分もまとめて提出可能)する。速やかに薬局に持ち込めない場合は冷蔵庫で保管する。B県の委託業者が薬局を巡回して検体を回収し、検査機関に搬送する――という流れだ。
検体提出日を、中区・東区・安佐北区・安芸区では月・水曜日、その他を火・金曜日に分け、薬局は事前に提出申請の検体数を県に通知することによって効率的な回収と検査をおこなう。検査機関(民間業者)では「プール方式」を採用し、5人程度の検体を混ぜて検査し、陽性になった場合のみ、元の検体すべてを個別に検査する。これにより検査時間や手間、コストが大幅に圧縮される。
検査結果は翌日には判明する。検査機関から保健所に報告され、陽性者だけに保健所から電話連絡が行き、ホテル・療養施設など県が用意する施設で8日間程度の隔離が求められることになる。
検査は1人何回も受けることが可能で、家族分もまとめて受検できるため若年層の受検につなげる狙いもある。薬局を窓口にしたPCR検査は5月末まで実施する予定だが、人の移動が多い時期に感染再拡大の兆候が見られた場合には、モニタリングからPCR集中実施に切りかえることも想定しており、広島市での効果を見たうえで県内全域での展開につなげていく構えだ。
広島市薬剤師会の中野真豪会長は会見で、薬局を窓口にしたPCR検査モデルを県に提案した経緯を明かし、「地域の住民の最も身近な医療施設である薬局、薬剤師がコロナ感染対策事業を担うことは当然の責務」「感染者数の状況が落ち着いているなか、今後の感染拡大防止のため、地域住民に身近でかつ常設の無料PCR検査アクセスポイントを多数設置することが、広島県でステージ1を維持していくのに有効」であり、「公衆衛生を担う薬局が常設のアクセスポイントとして、感染再拡大防止の一助になれる」と強調している。
「感染者を根こそぎ洗い出すことができなくても、“年末、県外のおばあちゃんの家に帰りたかったけど帰れなかった……”という若い人など、無症状の人が気軽に検査を受けて陰性を確認して安心して帰省できるようにしたり、県外イベント等に行って帰ってきて不安を抱えるのではなく、そこで検査を受けて安心して日常に戻ることができる。精神的健康を維持するうえでも確実に効果がある。身近な薬局で気軽にPCR検査を受けていただき、県民みんなで、高齢者を守る、持病を持っている人を守る、大切な誰かを守る……一人一人の“みんなで近くの誰かを守ろう”という思いがウイルス以上に広がっていくことが大切だ。薬剤師の“みんなで守ろう”という思いが伝われば幸いだ」と意気込みをのべた。
PCR検査を受け付けている広島市内の薬局店主(薬剤師会役員)は「当初はコンビニとの提携も検討されたが、取り扱いに注意が必要な検体を扱うため、公衆衛生の面で専門知識を持っている薬局の方が望ましいとの結論になり、薬剤師会として市民の安心を担保するために協力できないかと県に働きかけて実現した。感染対策や健康相談もできるし、早期の受診勧奨もできる。地域の人からも“結婚式に参加したいのだが調べられないだろうか”と相談されたり、経済活動を制限される飲食店などからも“ワクチンが行き渡るまで安心して営業できる状態をつくりたい”という声も聞かれ、県との協議を重ねて検査体制の整備が検討されてきた。PCRセンターだけでは、足が悪い高齢者や交通手段を持たない人は行きづらい。身近な薬局だからこそできることがある。この結果を通じて、町の薬局の有用性が再認識されるなら本望だし、同じような方式が大都市にも広がっていけばいいと思う」と話した。
別の薬局店主は「検査を受けたくても受けられないという状況ではなく、県民や県内で働く人が誰でも無料で検査を受けられる体制をつくれたことは画期的だ。ただ高齢者は受ける人が多いが、現役世代や若い人は仕事や学校などへの影響を考えて受検することにリスクがある。今後検査の精度を上げていくためには、そのような社会的な背景(感染者の社会的リスク)を解決することも必要だと思う。無症状者を放置して、感染者が増える度に休業要請をして協力金に何十億円かけるよりは、検査を拡充して無症状者を隔離しながら経済を回していく方がよっぽど経済効率もいいはずだ。ただ自粛と解除をくり返すだけで何も変わらない状況が続いているが、旅行やイベントを回復させていくためにも無症状者の検査が全国的に広がっていってほしい」と期待をのべた。
先進的取組に注目 各地にもっと広げては
一方、政府は「費用対効果が悪い」などの理由で無症状者へのPCR検査の拡大には消極的で、2月に広島県が大規模PCR検査の方針をうち出したさいにも「全員を対象とするような大規模検査は、かなりのコストと医療資源が必要になる一方、検査に時間を要するほど、検査で陰性になっても、その後に感染する可能性が高くなってしまうことに留意が必要」と地元紙に回答。広島市を二度目の緊急事態宣言の対象地からも除外した経緯がある。
湯崎知事は「国もPCRのモニタリング検査をしているが、緊急事態宣言を発令した一部だけだ。回収率も低く、身近なところで自発的に検査ができる場所が必要。感染状況が厳しくないところは別にしても、一定の大きな都市を抱えている自治体は広く検査をして予兆をキャッチしていくことは有効だ。国もやっているわけだから、それをもっと拡大していいのではないか」と指摘した。
検査費用の予算は全体で約1億800万円になる。その後に規模を縮小したものの、2月時点の市内80万人を対象にしたPCR検査予算(10億円)からは大きく減った。
県健康福祉局によると「PCR検査が高額だった昨年末時点から比べると現在は民間業者の検査能力が上がり、一検体あたりの検査費用が4分の1から5分の1にまで下がった。複数検体を同時に検査するプール方式を採用したことや薬剤師会の協力もあってコストが圧縮できた」という。財源は今年度予算に計上し、厚労省の交付金か一般財源を使うかを調整中だという。
昨年は4月から全国的に感染者が急増して緊急事態宣言を発令し、経済活動や生活が大きく制限された。あれから1年が経過しながら、政府は無症状者への検査すら拡大せず、「宣言」と「解除」をくり返すだけで、全国的に再び「第四波」の予兆が出始めている。パンデミックによる打撃に晒されてきた地方自治体では独自の自衛策が求められており、広島県の先進的なとりくみに注目が集まっている。
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