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何を「一転認めた」のか!河井元法相公選法違反“公判供述”
2021年3月24日 郷原信郎が斬る
河井克行元法務大臣の公選法違反事件の公判で、昨日(3月23日)から被告人質問が始まった。
3月3日に保釈された克行氏が、その後、議員辞職の意向を固めたと報じられていたが、昨日の公判では、議員辞職の意向を示したのに加えて、それまで全面的に否認し無罪を主張してきた公選法違反の事実を「一転して」認めたかのように報じられている。
しかし、産経新聞の公判詳報(《【克行議員初の被告人質問】(1)「結婚20年」「案里の当選得たい気持ち、なかったとはいえない」》 〜(7))を見る限り、実際の河井氏の供述は、「一転して」公選法違反を認めたというようなものではない。
克行氏が公判で、起訴事実について述べた内容は、「河井案里の当選を得たいという気持ちが全くなかったとはいえない、否定することはできないと考えている」という、まさに、誰がどう考えても「否定する余地のない当然のこと」だ。
そして、それ以外の克行氏の供述は、要するに、
(1)妻の河井案里には、政治家として素晴らしい素質があり、広島県民からの支持も見込めたので、2人目の自民党公認候補として立候補しても当選するものと予想していた、という政治家・河井案里への礼賛。
(2)現金を配布してまで、案里氏を擁立し、選挙運動を行ったのは、(「当時の首相安倍晋三氏の溝手顕正氏への遺恨」や、「当時の官房長官の菅義偉氏の岸田文雄氏との総裁選に向けての確執」などという、マスコミで取り沙汰された「背景」によるものではなく)、純粋に、「自民党公認候補での2議席独占」をめざしたものだった(ベテランの溝手氏と若手で女性の案里氏とでは支持層が全然違うので、自民党支持層の投票先が溝手氏から案里氏に移ることはあり得ない、という自民党本部の対応の正当化。)
(3) 広島県連は、長年にわたって、自民党1議席、野党1議席というぬるま湯につかった選挙をしてきた。真面目に地盤培養、党勢拡大をしてきたとはとても思えない。溝手氏や、県連会長を務めていた宮沢洋一氏は、案里が出馬することで楽な選挙ができなくなるとして、案里の立候補に反対した、という自民党広島県連への批判。
の3つである。
克行氏公判供述は「自白」なのか
克行氏は、主張を変えた理由について、
「本当に、案里を参院選に当選させたいという気持ちがなかったのか。家族同然の後援会の皆さんが証言されている姿を見て、連日深く自省しました」
などと、もっともらしく「自白に至った経緯」を話しているが、「案里を当選させたい気持」があったことは、誰が考えても当然のことであり、「深く自省」しなければ供述できないことではない。
検察の主張は、領収書も受け取らず、「違法な裏金」として多額の現金を配布した、というものだ。「違法な裏金」だと認識して現金を配布したというのでなければ、「事実を認めて自白した」ということにはならない。
一方、克行氏側の従前の「無罪主張」は、
《「当選を得させる目的」はあったが、そのために「選挙運動」を依頼して金を渡したのではない。あくまで、案里の当選に向けての「党勢拡大」「地盤培養行為」のような政治活動のための費用として渡した金である》
という主張であり、「無罪主張を翻す」ということであれば、
「案里への投票と、そのための選挙運動を依頼するために金を渡したものであり、政治活動に関するものではなかった」
と認めることになるはずだ。
ところが、弁護人から、「選挙に向けた準備」について質問された克行氏は、
「党勢拡大活動と地盤培養行為を真面目にやっていくことに尽きる。」
と述べており、結局のところ、案里氏の選挙に向けての「政治活動」を行っていたという従前の主張に何ら変わりはない。
克行氏は、
「選挙人買収の目的のみではないが、事実として認める。」
と、抽象的に事実を認めるように言っているだけだ。具体的な「自白」ではなく、「公選法違反」を「結論」として「自認」しているだけに過ぎない。
広島県連に対する批判
克行氏の供述では、案里氏が立候補した参院選での広島県連(自由民主党広島県支部連合会)の対応に対する批判も、相当な時間をかけて行ったようだ。
「県連は県議が主体の組織であり、彼らの政治的な目標は、一義的には県政であることが1番大きな違いです。県政の延長線上に国政選挙がある。国政では与党と野党で政策を異にしていますが、広島では共に県政を運営してきた。彼らにとっては、これを維持することが最重要の政治課題なのです。過去21年続いていたように、県知事選挙と国政において自民と民主系の議席を仲良く分け合うことが、彼らの政治的目標なのです。」
と述べて、県連が、野党側と馴れ合っていることを批判し、参院選に向かって党の結束を訴える絶好の機会だったのに、溝手氏の隣に案里氏を並べたくないとして県連会長が県連大会の無期延期を決めたこと、県連のホームページに溝手氏の情報だけで、同じ自民党公認の案里氏の情報が一切なかったことなど県連の対応について述べた上、弁護人の質問に答えて
「本来は県連がする党勢拡大を自分や案里が主体となってしなければならなくなった」と述べた。
今後の公判の進行
克行氏は
「全てを選挙買収と断ぜられることは禍根を残す。選挙活動を萎縮させる悪影響があってはいけない。できるだけ正確に、あの春から夏にかけて、どういう現場の状況だったのか理解していただけるように説明していきたい」
と述べており、次回以降の公判審理も、従前どおりのスケジュールで被告人質問が行われ、起訴事実のすべてについて、詳細に説明・弁解をしていく方針に変わりはないようだ。
克行氏が昨日の公判で述べた内容は、第1回公判での弁護人冒頭陳述の内容とほとんど変わりはない。
克行氏が、被告人質問で「一転して」事実を認めた、と聞いた時点では、被告人質問の予定も短縮され、論告・弁論、判決までの期間も、短くなることを予測したが、実際には、公判のスケジュールには殆ど影響はなさそうだ。
克行氏の供述は量刑上評価できるか
克行氏は、従前どおり案里氏の選挙に向けての活動を「党勢拡大」「地盤培養行為」のためと供述は変えておらず、多額の現金配布も、そのような「政治活動」を目的とするものであり、それは「本来、県連側が行うべきことだった」とまで言っている。
そうなると、県連の協力が全く得られず、県連ルートで選挙に向けての政治活動の資金提供ができない中で、地元の首長・議員に、選挙に向けての政治活動の資金を提供する手段は「現金配布」しかなかったというのも、従前の主張と同様だろう。
そのような供述をするだけでは、表面的に「公選法違反の大部分を認めた」と言っても、量刑上有利な事情としての評価は限られたものでしかない。今後の被告人質問で、「違法な裏金」であることの認識を認めるとか、案里氏の参院選立候補に至る経緯や、多額の買収資金の原資と党本部からの1億5000万円の選挙資金の提供との関係などについて具体的に供述するなど、これまで明らかになっていなかった事実を自発的に供述するのでなければ、3000万円もの多額買収事件での執行猶予判決を得ることは困難であろう。
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