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呪われた政権。ボロ神輿で担がれた菅首相が自民にポイ捨てされる日
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2021.02.16 高野孟『高野孟のTHE JOURNAL』 まぐまぐニュース
今となっては発足時の「人気」が信じられないほど、支持率低下が著しい菅政権。新型コロナ対策の失敗や相次ぐ議員の不祥事、さらには東京五輪組織委の会長職にあった森元首相の女性蔑視発言やその後の人事を巡るゴタゴタ等々、まさにトラブル続きと言っても過言ではありません。この先、新型コロナの収束は見込めるのでしょうか。そして東京五輪の開催は可能なのでしょうか。今回のメルマガ『高野孟のTHE JOURNAL』では著者でジャーナリストの高野孟さんが、「誰が考えても五輪は無理」としてその理由を明らかにするとともに、今後どんなに批判の矛先が自分たちに向こうとも、自民党が9月の総裁選まで菅首相を担ぎ続ける可能性もあり得ると記しています。
※本記事は有料メルマガ『高野孟のTHE JOURNAL』2021年2月15日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会に初月無料のお試し購読をどうぞ。
プロフィール:高野孟(たかの・はじめ)
1944年東京生まれ。1968年早稲田大学文学部西洋哲学科卒。通信社、広告会社勤務の後、1975年からフリー・ジャーナリストに。同時に内外政経ニュースレター『インサイダー』の創刊に参加。80年に(株)インサイダーを設立し、代表取締役兼編集長に就任。2002年に早稲田大学客員教授に就任。08年に《THE JOURNAL》に改名し、論説主幹に就任。現在は千葉県鴨川市に在住しながら、半農半ジャーナリストとしてとして活動中。
森会長辞任でますます加速する菅政権の崩壊――進むも地獄、引くも地獄のどん詰まり
菅義偉政権が発足してから5カ月が経ちました。朝日新聞の調査で見ると発足時に65%あった内閣支持率が下がり続けて、1月には早くも不支持45%が支持33%を上回る逆転が起きた。この最初の4〜5カ月の下がり方は、歴代では麻生内閣が最速でしたが、菅はほぼそれに近いスピードです。
この政権は呪われている?
振り返って見ると、昨年9月16日の政権発足以来、いいことは何一つもありません。9月25日に言わば初仕事として打ち出したのがGoToキャンペーンを拡大するという方針で、つまり「イノチ(コロナ封殺)よりカネ(経済)」という政権としての基調が定められた。これでその後の第3波への対応の失敗が約束されたわけです。次が10月1日の学術会議の人事拒否事件。これは、菅が最も信頼する警察官僚の杉田和博官房副長官による時代錯誤の「赤狩り」で、内閣の評判を酷く傷つけました。10月19日からは、初めての外遊で、ベトナムとインドネシアを訪れましたが、意味不明、インパクトはゼロ。
11月に入ると、首都圏を中心に感染者が急増、第3波が押し寄せつつあるのは明らかでしたが、政府は何とかして緊急事態宣言を出さずに済ませようと、小池百合子都知事はじめ各都府県に対し、飲食店などの営業時間を午後10時から8時に繰り上げるよう求めました。ところが知事たちは、権限がない都府県では店に「お願い」することしか出来ず効果がないと主張。具体策を出せないまま、西村康稔コロナ担当相が精神論だけの「勝負の3週間」を呼びかけたのですが、その間にも新規感染者数は過去最高を更新し続けるという大失敗に終わり、結局、12月14日のGoTo一時停止、1月2日の知事たちの申し入れに応じて7日から緊急事態宣言、1カ月後の延長という負の連鎖に追い込まれてきたのでした。
ところが問題はコロナだけではない。安倍晋三前首相の「桜を観る会」不正会計問題は安倍本人が検察の事情聴取を受ける事態に発展し、河井夫妻の巨額買収事件は案里議員の有罪確定、議員失職に至る一方、その余波で広島の鶏卵業者から吉川貴盛元農相に賄賂が渡されていたことが明るみに出て、こちらも議員辞職――というスキャンダルまみれ。さらには、国民に自粛を呼びかけておきながら、菅自身を含めて与党議員が何人もステーキ会食したり銀座の高級クラブ遊びに耽っていたというおまけまで付いて、こちらでも辞職する議員が出ました。もう満身創痍。そのため、秋の臨時国会は、本来なら会期を延長してでもコロナ対策を議論しなければならないというのに、12月4日でさっさと早仕舞いしてしまいま
した。
それで上述のように緊急事態宣言とその1カ月延長で何とか感染の増勢を抑えられるかと思い始めた2月初め、今度は菅首相の長男の総務官僚への違法接待疑惑、そして森喜朗=東京五輪組織委員会会長の失言・辞職……。この政権は「呪われている」としか考えられません。
森辞職で東京五輪にいよいよ暗雲
菅の長男=正剛の問題は相当酷い。大学時代からやっていたバンドを辞めてブラブラしていた彼を、2006年に第1次安倍政権で総務相になった菅が総務大臣秘書官に雇い、同政権が1年で終わると、総務省の所轄下にあるテレビ会社「東北新社」に就職させたというのですが、これは露骨極まりない公私混同による身内への利益誘導でしょう。バンドマン崩れのしょうもない息子を自分が最高責任者を務める役所に国費で雇わせるという感覚が、まるで理解不能。ブラブラしている息子に困り、知り合いの工務店に大工見習いで置いてもらうよう頼んだというのなら「苦労人」の菅らしい、ほほえましいエピソードになるのですが…。
しかも、東北新社の幹部社員になった長男は、同社に対する監督権限を持つ総務官僚たちを違法接待する役目を担当していた。それは東北新社としては非常にメリットの大きい役所とのパイプ役であったはずで、その証拠に同社は菅に対して14年〜18年だけでも250万円の政治献金をしています。笑ってしまうほどいじましい話で、普通の民主国家ならこれだけで首相辞任、議員辞職だと思います。
そこへもってきて森会長の失態ですから、満身創痍でもまだ顔だけは無傷で残っていたのに、そこも泣きっ面に蜂、という有様です。
森喜朗とは私も長いお付き合いで、1980年代中頃の中曽根政権の時代に、ナベツネ(読売)、シマゲジ(NHK)と並ぶ「政治記者3悪人」のもう1人であった故・三浦甲子二=テレビ朝日専務から「次は竹下時代だが、その先の有望株を集めて勉強会を作りたい」というご下問があり、藤波孝生、森喜朗、羽田孜、加藤紘一の4人を官僚・学者・記者・文化人などで囲む「青の会」という集まりを組織しました。田原総一朗さんが座長格で私が事務方。まだ東大にいた舛添要一、作曲家の三枝成彰、朝日の船橋洋一、毎日の嶌信彦などもいました。4人の政治家の中では藤波が年長で、他の3人からも派閥を超えた信望を集めていたので、藤波政権を作ることが暗黙の合意となっていました。
森は座談の名手で、芸者も侍るような宴会でその場を盛り上げるということに関しては、この人の右に出る者はおらず、その場でも常にそうでした。ところがそれでまずいのは、御座敷の宴会以外の場でも同じような軽い調子で余計なことをしゃべってしまう。それがこれまでの数々の「失言」事件を生んできたのだと思います。
奇しくも、ちょうど20年前の2月10日に水産練習船「えひめまる」がハワイ沖で衝突・沈没、9人が亡くなる事故が起きました。当時の森首相は、土曜日なので戸塚カントリークラブでゴルフをしていた。午前10時50分にSPの携帯電話を通じて第1報が入ったが、そのまま1時間半ほどプレーを続けたことが問題になった時に、彼は「関係者から、直ぐにはその場を離れないように言われたのでゴルフ場で待機していた」と言い逃れようとした。が、日本人が何人も亡くなっているというのにゴルフ遊びはないだろうと言われ、テレビも森がゴルフに興じる映像(ただしこの日ではなく別の日のもの)を繰り返し流して煽ったので、それでなくとも下降していた支持率がさらに落ち、結局、「森では7月参院選が戦えない」ということで4月に辞任することになりました。
自らの言動のせいで2度までも要職を失うというのも珍しいことで、この人の業の深さを感じますが、それだけでなく、ちょうどこの時期に支持率を一段と下落させるような泣きっ面に蜂のような事態が起き、4月にはいよいよ行き詰まり、辞任せざるを得なくなるかもしれない菅の運命をも暗示しているように見えます。いや、もっと言えば、森の業が菅の背中に取り憑いて地獄への道に引っ張り込んでいるような感じさえするのです。
菅の最後の望みはワクチン
すでに五輪開催への万策尽きた状態で、菅が最後の望みを託すのが、ワクチン接種の急速な普及でコロナ禍を収束させることです。そのため1月18日に急遽、河野太郎をワクチン担当大臣に指名し、「まだか、まだか」の矢の催促。それでようやく2月12日にファイザー社製のワクチンの日本向け第1便が到着しました。未確認情報では40万回分とされていますが、それにしては実施計画は控えめで、2月下旬からまず医療関係者1万人程度で始めるとされています。が、このテンポでは約400万人の医療関係者に第1回摂取を行い、それから3週間を空けて第2回摂取を完了するのは一体いつのことなのか。
仮に3月中に400万人に第1回を終えても、第2回を終えるのは5月一杯。そのように机上で計画を立てても、本当にそれまでに医療関係者だけで800万回分のワクチンが届くのか。今のところ何の確証もないのです。それに続いて4月からは65歳以上の高齢者3,600万人に接種が始まる予定ですが、それも、2回計7,200万回分のワクチンが届いていなければ話になりません。
ドイツの場合のように、第1波は見事に抑え切って世界の賞賛を浴びたものの、昨夏からブリ返して10月以降には感染者が急増。慌ててアストラゼネカ社のワクチン接種を進めたが、国民の4%に達したところで同社から供給を止められてしまい、その結果、メルケル首相が「我々は事態をコントロールする術を失った」と告白する破目となりました(2月12日付NYタイムズ)。日本も、ワクチンが届かなければたちまちお手上げです。
何もかも仮の話になってしまいますが、仮にワクチンの供給に不足がなく、順調に接種が広がった場合でも、直ちに終息ということにはならない。例えば、世界で最も接種が進んでいるイスラエルでは、すでに国民の4割が第1回の接種を受け、2割強は第2回の接種も終えていて、その限りでは感染を防ぎ重症化を減らすのにかなりの効果があるというデータも出つつありますが、国全体では新規感染者数は一向に減らず、1日6,000人から9,000人の間で高止まりしたままで、ロックダウンを解除できないでいます。12月から接種を始めたイスラエルでこうなのですから、日本が3月から本格的に始められたとして5月や6月までに終息宣言を出すなどあり得ないことなのです。
デッドラインは6月でなく3月
しかも、五輪を開けるかどうか決断を下さなければならないのは、開催の前月の6月ではなく、3月なのです。3月25日の福島発の聖火リレーを始めてから、途中で「やっぱり止めます」というわけには、いくら何でもいかないでしょう。その時点で必ず開催できるという確信を世界に向かって宣言できないのであれば、中止をせざるを得ません。
しかも日本の状況だけではなく、世界の状況があるわけで、ユニセフとWHOの2月10日付の共同声明が言うように、「これまでに全世界で1億2,800万回分のワクチンが接種されたが、その4分の3は豊かな10カ国で行われている。25億人が暮らす120カ国には何も届いていない」という中で、お祭り騒ぎのようなことができるはずがないでしょう。ワクチン接種を進めている米国でさえ、夏までに本当に収まって選手団を送り出せるのかどうかわからない――というより、まず無理でしょう。米国が出ないような五輪を米NBCは世界テレビ中継をするでしょうか。
こうして、誰が考えても五輪は無理。ところが菅はそれを自分から言い出すことはできません。それで突っ張ってここまで進んできたのですが、3月末を超えてそれを続けることはできない。かといって中止とすれば袋叩きで、自民党内でもたちまち「菅降ろし」が始まることになります。まさに進むも地獄、引くも地獄の瀬戸際に追い込まれているのです。
もっとも、そこで急いで総理の首をすげ替えると、次の人は4月3補選、7月都議選など難しい選挙を戦って早々に傷つく可能性もある。そこで、もうヨレヨレボロボロになった菅を、それでもいいから首根っこを壁の釘に吊るすように置いておいて、9月の自民党総裁選前にすべての悪いことを彼におっ被せて投げ捨てた上で新総裁を選出、気分一新、10月21日までの総選挙に臨むという選択も、自民党としてはあるかもしれません。菅には余計に残酷な終わり方になりますが、それも自ら招いたことですから、仕方がないことです。〔本稿は、2月13日に千葉市で行った講演をベースにその一部を要約し補足したものです〕
image by: 首相官邸
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