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(回答先: 最美の音楽は何か? _ モーツァルト『レクイエム ニ短調 K. 626』 投稿者 中川隆 日時 2021 年 8 月 09 日 10:01:38)
モーツァルト『歌曲 クローエに K.524』
An Chloe, K.524
An Chloe, K. 524 · Elly Ameling/Jörg Demus
W A Mozart An Chloe, K 524 Elly Ameling & Dalton Baldwin, 1977
Elly Ameling · Dalton Baldwin
▲△▽▼
歌曲 「クローエに」 K.524
Allegretto 変ホ長調 2分の2
〔編成〕 p伴奏
〔作曲〕 1787年6月24日 ウィーン
ヤコビ(Johann Georg Jacobi, 1740-1814)詞。 原詩は13節あるが、その最初の4節が用いられている。
音楽史上のさまざまな奇蹟に満ちた35年間は、どの年においても後世の我々を惹き付けてやまないドラマがあるが、中でも1787年は不思議な魅力を持っている。 その中心となるのは何よりも、この年の5月28日に父レオポルトが他界したことであろう。 この1787年はモーツァルトの歌曲の年とも呼ばれ、9曲もの歌曲が作られているが、父の死の直後に(6月24日)作られた2曲『夕べの想い K.523』と『クローエに K.524』にはどうしても父親に対する作曲者の胸のうちを読み取ろうとしがちである。 しかしオカールは言う、「彼の作品目録のなかに、彼に衝撃をあたえたその死別への直接の反応を表わした作品がないかと捜してもむだである」と。
この歌曲が書かれた動機はわからない。 ゴットフリート・ジャカンなどの仲間うちで歌う目的だったのか。 歌詞の展開に従って音楽が明るい曲想に包まれつつロンド形式のように進行し、
テクスト付きのピアノ・ロンディーノである。 非常に魅惑的だが決してリートではない。
[アインシュタイン] p.515
と評されている。 礒山は「歌曲は演劇的発想の結実」という見方からすると、1787年の歌曲群に「ドラマ的な趣向」があることを指摘し、その中でこの『クローエに』では
あたかも目に見えるかのような情景を描いて進行する。 それはちょうど、『後宮からの誘拐』におけるベルモンテのアリア「コンスタンツェよ」を思わせる。
[礒山] p.128
と言う。 そして作曲者のユーモアが次のように仕掛けられていると続けている。 引用が長くなるが、非常に興味深い見方であるので紹介したい。 ただし同書では楽譜も載っているが、それは割愛する。
たとえば第2節、「(抱きしめる)この腕の中に!」は3回にわたってくりかえされ、三度目にはフェルマータで強調されて、喜劇の一シーンのよう。 『コシ・ファン・トゥッテ』におけるアルバニア人の大げさな求愛の情景が浮かんでくる。 ここはぜひ、おかしみを歌いださなくてはならないところだ。
第3節、「死んでいく sterbend」の文字通りくずおれて倒れ伏すかのような描き方、第4節「酔い痴れた視線」のフワウワ泳ぐような描き方も面白いが、圧巻は、最後の2行でやってくる。 「ぐったりして ermattet」は、短いモチーフを三度、その都度音を下げながらくりかえし、女性の傍らに座りこむ男を描く。 ここからひと呼吸置いたタイミングで「しかし幸福に aber selig」のおおらかな旋律が湧きあがる効果は卓抜だ。 それはくりかえされ、狂気乱舞へと達し、最後しみじみとした「君のそばで neben dir」のフレーズにいたって終わる。
私は、このくだりでモーツァルトが、セックスの体験を暗示的に、いや、ほとんど赤裸々に音楽にしたにちがいないと思う。 この「ぐったりして」のユーモラスな表現は、そのほかには考えられない。 思うにこれは、友人仲間で、大受けをしたのではないだろうか。 ひたすら可憐な少女を思い浮かべ、ただただ美しく歌ったのでは、この作品の面白さが半分も発揮されないことは、強調しておきたいと思う。
1789年に姉妹作の『夕べの想い』とともにウィーンのアルタリアから出版され、すぐ人々に愛唱されたという。
〔歌詞〕
Wenn die Lieb'aus deinen blauen,
Hellen, off'nen Augen sieht,
Und vor Lust, hinein zu schauen,
Mir's im Herzen klopft und glüht;
愛の姿がお前の青い
明るい、開いた瞳から見えるとき、
それを覗き込みたいばかりに
ぼくの心はときめき、燃え立つ。
Und ich halte dich und küsse
Deine Rosenwangen warm,
Liebes Mädchen, und ich schließe
Zitternd dich in meinen Arm!
そしてぼくはお前を抱いて接吻する、
お前のばら色の頬に、温かく。
いとしい娘よ、ぼくは抱きしめる、
震えながらお前を、この腕の中に!
Mädchen, Mädchen, und ich drücke
Dich an meinen Busen fest
Der im letzten Augenblicke
Sterbend nur dich von sich läßt
娘よ、娘よ、ぼくは押しつける
お前をこの胸にしっかりと
この胸は、臨終の瞬間に
やっとお前を離して、死んでいくのだ。
Den berauschten Blick umschattet
Eine düst're Wolke mir
Und ich sitze dann ermattet
Aber selig neben dir.
ぼくの酔い痴れた視線を包むのは
薄暗い雲。
それからぼくは座る、ぐったりして、
しかし幸福に、君のそばで。
礒山雅訳 [礒山] p.127
http://www.marimo.or.jp/~chezy/mozart/op5/k524.html
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