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(回答先: フリードリヒ・ニーチェ『マンフレッド瞑想曲』 投稿者 中川隆 日時 2021 年 10 月 06 日 22:54:45)
カミーユ・サン=サーンス(Camille Saint-Saëns,1835 - 1921)
ドイツ的ながっちりとした作風で聴きやすい。ユーモアのある作品もあるが、作風が保守的で品格を重んじていることが、成功作では素晴らしい造型につながり、失敗作では心が躍らない地味なつまらなさになっている。
交響曲
第1番変ホ長調 作品2(1851年)
3.5点
シューマンの影響が濃いように聴こえる。とても爽やかで心地よく、気持ちいい曲だ。期待をいい意味で裏切られる。まだ素朴で未熟感も無くはないが、ほぼ気にならない。曲の魅力度合いや密度など、シューマンの交響曲と同レベルに聴こえる。スッキリとしたブルックナー的な開放感やスケール感があり、むしろ厚ぼったい後年の作品より魅力的なくらいだ。名旋律はないが、十分に旋律に魅力がある。これは掘り出し物である。
第2番イ短調 作品55(1858年)
2.5点
1楽章も2楽章も3楽章も地味さが気になる。悪くはないが、煮え切らず、盛り上がらない。耳を捉えるよい旋律もない。内容も厚ぼったい聞きにくさが出てしまっている。なんともいえないつまらなさ、心が踊らない後味の悪さがつらい。
第3番ハ短調 作品78「オルガン付き」(1886年)
4.5点
後期ロマン派のような肥大化したロマンチシズムに覆われているが、サンサーンスらしいまとまりの良さが歯止めとなっている、ロマン派の交響曲の傑作。凄みのある内容は「全てを注ぎ込んだ」という作曲者の言葉が伊達じゃないと感じさせる。スケールが大きくて壮麗で雰囲気に気持ちよく音楽に浸る事が出来るし、オルガンが格好いい。
ヴァイオリンと管弦楽のための作品
ヴァイオリン協奏曲第1番イ長調 作品20(1859年)
3.3点
1つの楽章の中に3つの楽章の要素を持っている曲であり、幻想曲のようなタイトルの方がしっくりくる。全般にメロディーにも甘さと強く情感に訴える艶めかしさがある。音に酔える感じで言えば、ヴァイオリン協奏曲のなかでかなり上位である。かなり華があり表情豊かであり、楽しめる。これは掘り出し物。
ヴァイオリン協奏曲第2番ハ長調 作品58(1858年)
2.8点
初めての協奏曲。1楽章はなんという垢抜けなさであろう。華やかなソロは派手だが、なんというか自分の中から出てきたものというより、雰囲気に流されて書かれたものに聴こえる。2楽章は憂いを帯びた曲だが、これまた初々しさがよい。表情は多くつけられており悪い曲ではないし意欲的だが、個性が足りない。3楽章は連続して続く。これも華があるが個性が足りない。1流作曲家と呼ぶに足レベルにはまだ達していない感じがする。
ヴァイオリン協奏曲第3番ロ短調 作品61(1880年)
3.8点
2楽章のメロディーの美しさが印象的で非常に素晴らしい。管弦楽が厚くて充実感のある交響的な響きでありながらヴァイオリンが全面に出て活躍する楽しさ、メロディーの豊富さや力強さが素晴らしい。サンサーンスの良さが出ている曲。
序奏とロンド・カプリチオーソ イ短調 作品28(1863年)
3.8点
序奏もロンド主題も耳から離れない印象的なもの。エキゾチックな雰囲気の中でヴァイオリン独奏が大活躍するのが楽しい。
ピアノと管弦楽のための作品
ピアノ協奏曲第1番ニ長調 作品17(1858年)
3.0点
1楽章はピアノは派手だが、曲としてはこれという目立つ良さが無い、二流感のある曲。2楽章も派手であり、チャイコフスキーの協奏曲のような管弦楽と対比されたピアノの活躍がある。一流ではないにしても侮れない良さがある。3楽章は深みに欠けるものの、やはりピアノの活躍を楽しめる。
ピアノ協奏曲第2番ト短調 作品22(1868年)
3.8点
どの楽章も華やかであり、ピアノが前面に出て活躍し、ピアノ協奏曲の醍醐味を十分に味わえる。ロマンチックな情緒や激しさなど、手堅い感じは残りながらも素敵なメロディーや表現に富んでいて楽しい。
ピアノ協奏曲第3番変ホ長調 作品29(1869年)
3.0点
1楽章は独奏が派手だがあまり内容が無い。2楽章はまあまあ。3楽章は派手なピアノで、やや通俗的な感があるが、エネルギッシュさを楽しめて割と良い。
ピアノ協奏曲第4番ハ短調 作品44(1875年)
3.8点
全体的にはシューマンの影響を感じる。1楽章は地味だが、柔らかくて控え目ながらもピアノもいい活躍の良作。2楽章はシューマンのよう。キャッチーで華がある。3楽章は名人芸を披露されて楽しい。
ピアノ協奏曲第5番ヘ長調 作品103「エジプト風」(1896年)
3.5点
爽やかで田園的なところもある絵画的な1楽章。2楽章のエキゾチックな主題を初めとした豊富なメロディー。3楽章のノリの良さ。どの楽章も華やかで楽しい気分で聴ける。
幻想曲「アフリカ」作品89(1891年)
2.8点
アフリカ的なエキゾチックなメロディーの動機を使いながら、華やかなピアノが大活躍する曲。サンサーンスの中でもピアノの活躍度は高い。たいした曲ではないが、聴き映えはする。
チェロと管弦楽のための作品
チェロ協奏曲第1番イ短調 作品33(1873年)
2.8点
壮年期の力作として情熱的にきっちり書かれているし、渋くて格好いいし充実感がある。さらに短くて聴きやすいかもしれない。しかしながら、響きもメロディーも堅すぎて、案外表情に乏しい感じがしてしまい、あまり楽しめない。
ロマンス ヘ長調 作品36(1874年)
アレグロ・アパショナート 作品43(1875年)
3.0点
情熱的なチェロ独奏を伴う協奏曲の小品。艶のあるチェロの渋くてかっこいい音色を楽しめる。何か凄さのある曲という印象ではないが。
チェロ協奏曲第2番ニ短調 作品119(1902年)
2.8点
1番と違いほとんど演奏されないそうだ。古典的な完成度では劣るのかもしれないが、自由自在なチェロ独奏の楽しさなどの刺激的な楽しさがあり、自分のようなライトなファンには1番以上に楽しめると思った。
その他の協奏的作品
「ミューズと詩人」(La Muse et le poete)作品132(1910年)
3.3点
ヴァイオリンとチェロの二重協奏曲の構成。耽美的で豊穣な音楽的充実感、自然な筆致、ヴァイオリンやチェロの扱いや2本の絡ませ方の巧さ、イメージの豊さなど、なかなか優秀な曲である。「ミューズと詩人」は出版社が名付けた題名だそうだが、2本の楽器の織りなす詩的なイメージの豊富さから受ける印象を的確に表しているのでまさにピッタリだと思う。
管弦楽作品
交響詩「ファエトン」(Phaeton)作品39(1873年)
3.3点
運動会の音楽のようなダイナミックなノリの良さで親しみやすく楽しめる。ギリシャ神話を題材にしているのにふさわしい雰囲気もある。凄さはないにしても、十分に品質の高い佳作。
交響詩「死の舞踏」(Danse macabre)作品40(1874年)
3.5点
小品の名作。舞踏性と怪奇的な描写的な音が面白い世界を作り上げている。アイデアがたくさん投入される。リストによりピアノ独奏用に編曲されたが、この曲のアイデアを果敢に音にする姿勢や派手な音の動きはかなりリストっぽいと思う。
交響詩「ヘラクレスの青年時代」作品50(1877年)
2.5点
随分と力の入っており、沢山の素材をつぎ込んで書かれているように聞こえた。しかし、音楽が堅くて、頭で書いた印象が拭えない。
アルジェリア組曲(Suite algerienne)作品60(1879年 - 1880年)(4曲)
『スパルタクス』序曲 (1863年)
2.0点
所々で後の展開に期待を持たせるが何も起きず。あまり面白くない。
室内楽作品
組曲「動物の謝肉祭」(Le carnaval des animaux)(1886年)
4.5点
パロディをうまく使いながらのユーモラスな動物の描写と楽器の使い方、ピアノのユニークな大活躍ぶりがとても愉しい曲である。有名な「白鳥」は豊かな詩情をたたえた美しく完璧な旋律の名作。水上の優雅な白鳥の泳ぎを見事に連想させる。
ピアノ四重奏曲変ホ長調 (1853年)
3.0点
作品番号なし。1楽章はメランコリックな感情を全面に出した曲であり、少なからず地味なサンサーンスの室内楽では異色である。2楽章も感傷的であり、傷ついた心を表しているかのよう。3楽章は少し前向きな感情になり、室内楽らしいアンサンブルの楽しみを感じられ、所々に感傷的な感動もある。作品番号なしの若書きではあるが、積極的な若さも出ていて、むしろ作品番号ありの変ロ長調より魅力的。
ピアノ四重奏曲ロ長調 作品41(1875年)
3.3点
全般的にわたり念入りに作り込まれてしっかりと書かれた曲という印象がとにかく強い。心を奪われるかと言われるとそうではないが、4楽章は奪われるものがある。やはりモチーフの積み重ねだけでなく、よい旋律があることは重要であると感じる。ただ、内容の密度の濃さは巨匠だなあと感心してしまう。無骨で分厚いピアノとつくり込みぶりはブラームスを彷彿とさせる。4楽章が良いため聴後の印象がよい。
ピアノ三重奏曲第1番ヘ長調 作品18(1869年)
3.0点
1楽章がつまらなくて先行き不安になる。しかし2楽章はドイツものにはない独特の流麗さを深みのある緩徐楽章に活かしおり、雰囲気がよいので楽しめる。3楽章はユーモラスで新鮮。なかなか面白い。4楽章の快活さもフランスらしい洗練があって悪くない。全体にピアノ三重奏曲のバランスの取り方は割と良い。
ピアノ三重奏曲第2番ホ短調 作品92(1892年)
3.5点
1楽章が憂愁をたたえていて感動的であり特に秀逸。他の楽章もなかなか優れている。どこかこなれていない感のある1番よりもアンサンブルも音楽の緊密さも音楽的な深みずっと上であり、巨匠的と言えるレベルの作品に仕上がっている。
七重奏曲変ホ長調 作品65(1881年) (トランペット、弦五部、ピアノ)
3.5点
トランペット、ピアノ、弦楽の構成。ショスタコーヴィチのピアノ協奏曲1番を連想する構成である。ドイツ的な堅さのあるがっちりとしたまとまりが主体だが、トランペットが中心となって開放感や軽いエスプリを演出している。こじんまりとしていながら華があり聴きやすい。どの楽章もそれなりによく出来ている。
弦楽四重奏曲第1番ホ短調 作品112(1899年)
3.0点
マイナー曲であるが、案外渋くてしっかりした曲であり、けっして悪く無い。地味ではあるが、後期ロマン派らしい耽美的な情緒と、ドイツ的なガッチリとした骨格の太い構築感を感じる。華はあまり無いが、地味すぎることはない。ブラームスが時にみせる根暗なジメジメした感じはある。また、とりとめのない方向感の掴みにくさが大きな欠点となっており、短くないこの曲を聴くのに苦痛を感じるのが不人気の原因か。
弦楽四重奏曲第2番ト長調 作品153(1919年)
3.5点
全3楽章。83歳の作品。音楽が崩れていく一方の時代に、この曲は特に1楽章は非常に古風で端正な形式と和声を持っている。しかし、単なる古臭い古典の模倣ではなく、耽美的なロマンチックさを内包しており、長い時の流れと時代の移り変わりと自身の老いを想うような気分を持っている。その晩年らしい純化された精神世界がなかなか感動する。結構地味ではあるが、隠れた名曲だと思うし、サン・サーンスの音楽は何気に弦楽四重奏に向いていると思う。
ヴァイオリン・ソナタ第1番ニ短調 作品75(1885年)
2.0点
1楽章はピアノの練習曲かと思うほどピアニスティックで驚く。2楽章はメランコリーの表現が個性的。3楽章は長くて音が多いのだが、ちっともいい曲でない。全体的に珍曲に近い曲という印象である。
ヴァイオリン・ソナタ第2番変ホ長調 作品102(1896年)
2.3点
音がふわふわとしていて優雅であり、フランス的である。しかしメロディーは冴えないし、音に重みが無さすぎるし、あまりいい所がなく、いまいちである。3楽章がメロディーに多少の説得力があり、伴奏がタイス瞑想曲に似た夢みる感じで少し評価できる程度。
チェロ・ソナタ第1番ハ短調 作品32(1871年 - 1872年)
2.8点
チェロの機能の活用に関してはかなりのレベルに感じる。低音域が多い。雰囲気が次々と移り変わる。表情豊かともいえるしまとまりがないとも言える。いずれにせよ、いろいろな事をやっていて優秀だが、芸術性が高いという印象でない。
チェロ・ソナタ第2番ヘ長調 作品123(1905年)
3.0点
30分の大作でありかなりの力作。ピアノが大活躍であり、チェロも渋めではあるが機能を生かしたスケールの大きさを見せている。メロディーは印象には残らないものの全体に漲る迫力と作曲者の力の入りように驚く。渋くて男臭い雰囲気が支配的。
オーボエ・ソナタ ニ長調 作品166(1921年)
3.5点
お洒落で都会的だったり、メランコリーな気分になったりと、表情豊かな曲。六人組の音楽に近い所があり、老人とは思えない創造力である。
クラリネット・ソナタ変ホ長調 作品167(1921年)
5.0点
1楽章は今までの長い人生を回想するような無邪気な童心に帰ったような透明な音楽で、大変強く心に響いて泣きそうになる。2、3、4楽章も優秀な素晴らしい曲。最後にまた1楽章の冒頭のメロディーをそのまま回想する部分が人生の締めくくりを感じさせてまた泣ける。86歳のおじいちゃんが書いた大傑作。
バスーン・ソナタ ト長調 作品168(1921年)
3.0点
夢の中に入っていくような1楽章の最初が印象的。回想的な3楽章もなかなか良い。しかし同時期のクラリネットソナタと比較すると普通の曲。
https://classic.wiki.fc2.com/wiki/%E3%82%B5%E3%83%B3%E3%83%BB%E3%82%B5%E3%83%BC%E3%83%B3%E3%82%B9
シャルル・カミーユ・サン=サーンス(フランス語: Charles Camille Saint-Saëns, フランス語発音: [ʃaʁl kamij sɛ̃ sɑ̃(s)], 1835年10月9日 - 1921年12月16日)は、フランスの作曲家、ピアニスト、オルガニスト。
略歴
内務省に勤める官吏の家庭に生まれる[注 1]が、生後数ヶ月で父親は亡くなり、母親と大叔母に育てられる。モーツァルトと並び称される神童で[7]、2歳でピアノを弾き、3歳で作曲をしたと言われている[8]。また、10歳でバッハ、モーツァルト、ベートーヴェンたちの作品の演奏会を開き[9]、16歳で最初の交響曲を書きあげている。1848年に13歳でパリ音楽院に入学して[10]作曲とオルガンを学ぶ[注 2]。特にオルガンの即興演奏に素晴らしい腕を見せ、1857年から1877年にかけ、当時のパリのオルガニストの最高峰といわれた[12]マドレーヌ教会のオルガニストを務める。
1861年から65年にかけてニデルメイエール音楽学校(École Niedermeyer)で生涯唯一の教職に就き、フォーレ、アンドレ・メサジェ、ウジェーヌ・ジグーなどを教える[13]。特にフォーレとは終生の友人となった。普仏戦争終了後の1871年にはフランク、フォーレらとともに国民音楽協会を設立し、フランス音楽の振興に努めた[13][注 3]。
サン=サーンスは作曲家、ピアニスト、オルガニスト、指揮者として国際的に活躍したが、パリでは長い間その作品に反対する意見が多かった[15]。その状況がはっきりと変わるのは、1881年にアカデミー会員に選出され、1883年のオペラ「ヘンリー八世」初演が大成功を収めるころのことだった[16]。57歳の1892年にはケンブリッジ大学から名誉博士号を贈られ[17]、1901年にはヴィルヘルム2世からプール・ル・メリット勲章を授与された[18]。1913年、78歳のサン=サーンスは、レジオン・ドヌール勲章の最高位であるグラン・クロワを贈呈されている。1921年、アルジェリア旅行中に86歳の生涯を閉じ、葬儀は、その多大な功績に相応しく国葬で執り行われた[18]。
作風
「モーツァルトとハイドンの精神で」育った[19]サン=サーンスは、バッハやベートーヴェンの作品にも精通し、若い時期にはメンデルスゾーンやシューマンに影響を受けている[18]。その一方で、彼の音楽は「本質的にフランス的なもの(...)を表現している」とされ[7]、ノルベール・デュフルク(英語版)はサン=サーンスの美学を「厳密な設計、明晰な構築、論理的な展開、節約された線的・和声的手段」と表現し[20]、ロマン・ロランはサン=サーンスを「古典的フランス精神のただ一人の代表者」と評している[21]。こうした美学は生涯を通して大きく変わることはなかった[22][注 4]。
サン=サーンスは、映画『ギーズ公の暗殺』のため1908年というきわめて早い時期にオリジナルの映画音楽を作曲した[注 5]ことに象徴されるように、幅広い分野に多くの作品を残している。なかでも重要なのは、当時のフランスでは新作が冷遇されていた[27]、交響曲や室内楽曲、協奏曲といった分野である[18]。国民音楽協会の開設とあわせ[28]、これらの作品によって彼はフランス音楽史へ大きな足跡を残した[29]。
前半生では、当時先進的とされたシューマンやリストの作品を積極的に擁護し[11]、「現代音楽家」、革命家とみなされていた[30]。「形式の最大限の可変性」を求めて[31]リストの確立した交響詩の形式をフランスにいち早く持ちこんだ一人であり[32]、協奏曲においては形式面や、独奏と管弦楽との関係において多くの実験を行い[33]、フランスにおけるこのジャンルに重要な貢献をもたらした[34]。またワーグナーを早くから擁護する一人でもあったが、のちにフランスに広がったワグネリズムには否定的な立場をとるようになった[注 6]。
他にはバロック音楽にも通じ、リュリ、シャルパンティエ、ラモーらの作品の校訂に携わり[37]、クラヴサンの復興にも関わった[38]。複数の「組曲」や七重奏曲 Op. 65などの作品では、バロック期の舞曲形式へのいち早い興味を示している[32]。
交響曲第3番「オルガン付」やオペラ「サムソンとデリラ」など「もっとも独創的で最良の作品のうちいくつか」が作曲された1870-80年代[39]を経て、晩年には第一次世界大戦を経験して死の直前にいたるまで、すでに保守的とみなされるようになった作風による創作を続けた[40]。公的には依然として栄光を受けていたものの若い世代からは「形式主義的」で「絶望的に古臭い」と攻撃され[41]、彼の影響を認める作曲家はラヴェルなどわずかだった[42]。1910年にサン=サーンスは、「私は最初の頃は革命家と言われた。しかし私の年齢になるとただ先祖でしかあり得ない」と書簡に記している[19]。ただし、晩年の作品ではピアノの書法が線的で軽くなるとともに木管楽器への偏重、遠隔的な和音進行や旋法終止の増加といった特徴がみられ、第一次世界大戦以降の世代の作曲家の美学(新古典主義音楽)と共通する点があると指摘されている[43][42]。
「彼の偉大な名声も、またそれに続く軽視も、共に誇張されすぎてきた」と評される[7]ように、サン=サーンスの音楽はしばしば不公平な評価を受けてきた[43]が、1980年代ごろからふたたび彼への関心が高まり、再認識が進んでいる[28]。
人物
音楽家として、作曲家、ピアニスト、オルガニストとして活躍するいっぽう、少年のころからフランス古典やラテン語を学んだほか、詩、天文学、生物学、数学、絵画などさまざまな分野に興味を持ち、その才能を発揮した[11][38]。文筆家としての活動は多岐にわたり、1870年代以降は音楽批評家として多くの記事を書いているほか、哲学的な著作、一定の成功を収めた詩や戯曲などを残しており[38]、自作の詩による声楽作品も少なからず存在する。
旅行好きとしても知られ[44]、1873年に保養のためアルジェリアに滞在して以来頻繁に北アフリカを訪れたほか、スペインや北欧、カナリア諸島、南北アメリカ[13]、セイロン、サイゴンなどにも足を伸ばしている[45]。異国風の音楽は、「アルジェリア組曲」やピアノ協奏曲第5番「エジプト風」など多くの作品に取り入れられている[32]。
その辛辣で無頓着な言動は人々の良く知るところであり[46][47]、音楽院時代のアルフレッド・コルトーがピアノを学んでいると名乗ったのに対して「大それたことを言ってはいけないよ」と答えた逸話が残っている[48]。対して、サン=サーンスが称賛したピアノの生徒にはレオポルド・ゴドフスキーがいる[49]。
近代音楽にはおしなべて批判的で、ミヨーの多調を用いた作品や[50]、無調音楽に[51]否定的な意見を述べている。また、ドビュッシーの交響組曲『春』に対して、嬰ヘ長調であることを理由に管弦楽に適さないと評し[52]、「白と黒で」を「突拍子もないもの」「キュービストの絵と同じです」と非難している[53][注 7]。ただし一方でサン=サーンスは「近代の和声が基づいている調性は死の苦しみにある。(...)古代の旋法が登場するであろう。そしてそれに続いて無限の多様性をもった東洋の旋法が音楽に入り込むであろう。(...)そこから新しい芸術が生まれるであろう」とも述べており[56]、『動物の謝肉祭』(1886年作曲)の「水族館」[57]や、「幻想曲」Op. 124、「7つの即興曲」Op. 150など、印象主義音楽の語法に接近した作品も残している[58]。
私生活では1875年、弟子の妹であったマリ=ロール=エミリ・トリュフォ(Marie-Laure-Emile Truffot)と結婚し二児をもうけている[注 8]が、1878年には息子たちが相次いで亡くなり、1881年には妻と事実上離婚しふたたび母親と暮らしている[13]。1888年に母親が亡くなってから14年のあいだは定住地を持たず、各地を旅行して過ごした。ただしこれらの出来事が作曲活動に大きく影響することはなく、「リンゴの木がリンゴを実らすように(...)自分の本性の法則に従って」[62]規則正しい創作活動を続けた[63]。
主要作品
オペラ
黄色い王女(La Princesse jaune) 作品30 (1872年)
サムソンとデリラ 作品47(1869年 - 1872年) ※同作品中「バッカナール」は、フィギュアスケートで有名選手が用いるなど特に広く知られた楽曲である
銀の音色(英語版)(Le Timbre d'argent)(1877年)
エティエンヌ・マルセル(英語版)(Étienne Marcel) (1879年)
ヘンリー八世 (1883年)
ガブリエッラ・ディ・ヴェルジ (Gabriella di Vergi) (1883年)
プロゼルピーヌ(英語版)(Proserpine)(1887年)
アスカニオ(英語版)(Ascanio)(1890年)
フリネ(英語版)(Phryné) (1893年)
フレデゴンド(英語版)(Frédégonde)(1895年)
野蛮人(英語版)(Les Barbares)(1901年)
エレーヌ(英語版)(Hélène)(1904年)
祖先(英語版)(L'Ancêtre)(1906年)
デジャニール(英語版)(Déjanire)(1911年)
ロッシュ・カルドンの城、または過酷な運命(Le château de la Roche-Cardon)(1861年)
劇音楽
アンティゴネ (1893年)
気に病む男 (1893年)
デジャニール (1898年)
パリザティス (1902年)
アンドロマク (1903年)
象牙細工師の娘(疑作説あり)(1909初演)
誓い 作品130 (1910年)
戯れに恋はすまじ (1917年)
バレエ音楽
ジャヴォット (1896年)
交響曲
交響曲変ロ長調(未完、1848年)
交響曲ニ長調(未完、1850年)
交響曲イ長調(1850年頃、第1版あり)
第1番変ホ長調 作品2(1853年)
交響曲ヘ長調「ローマ」(Urbs Roma)(1856年)
第2番イ短調 作品55(1858年)
第3番ハ短調 作品78「オルガン付き」(1886年)
協奏的作品(独奏と管弦楽のための作品)
ヴァイオリンと管弦楽のための作品
ヴァイオリン協奏曲第1番イ長調 作品20(1859年)
ヴァイオリン協奏曲第2番ハ長調 作品58(1858年)
ヴァイオリン協奏曲第3番ロ短調 作品61(1880年)
序奏とロンド・カプリチオーソ イ短調 作品28(1863年)
ロマンス 変ニ長調 作品37(1874年) ※フルートでも演奏される
「ノアの洪水」(Déluge)作品45 から「前奏曲」
ロマンス ハ長調 作品48(1874年)
演奏会用小品 ト長調 作品62(1880年)
ハバネラ ホ長調 作品83(1887年)
アンダルシア奇想曲(Caprice andalou)ト長調 作品122(1904年)
ピアノと管弦楽のための作品
ピアノ協奏曲第1番ニ長調 作品17(1858年)
ピアノ協奏曲第2番ト短調 作品22(1868年)
ピアノ協奏曲第3番変ホ長調 作品29(1869年)
ピアノ協奏曲第4番ハ短調 作品44(1875年)
ピアノ協奏曲第5番ヘ長調 作品103「エジプト風」(1896年)
アレグロ・アパショナート 嬰ハ短調 作品70(1884年)
「オーベルニュ狂詩曲」作品73(1884年)
「ウェディング・ケーキ」(カプリース・ワルツ)作品76(1886年)
幻想曲「アフリカ」作品89(1891年)
チェロと管弦楽のための作品
チェロ協奏曲第1番イ短調 作品33(1873年)
ロマンス ヘ長調 作品36(1874年) ※ホルンでも演奏される(下記に再掲)
アレグロ・アパショナート ロ短調 作品43(1875年)
チェロ協奏曲第2番ニ短調 作品119(1902年)
組曲 作品16bis(1919年)※チェロとピアノのための作品16(1862年)から改作
その他
タランテラ 作品6(1857年)(フルート、クラリネットと管弦楽)
「ミューズと詩人」(La Muse et le Poète)作品132(1910年)(ヴァイオリン、チェロと管弦楽)
演奏会用小品ト長調 作品154(1918年 - 1919年) (ハープと管弦楽)
糸杉と月桂樹(Cyprès et lauriers)作品156(1919年) (オルガンと管弦楽)
抒情的小品(オドレット)(Odelette)作品162(1920年) (フルートと管弦楽)
ロマンス ヘ長調 作品36(1874年) (ホルンとピアノ、またはホルンと管弦楽)
ロマンス ホ長調 作品67 (ホルンとピアノ、またはホルンと管弦楽)
演奏会用小品 ヘ短調 作品94(Morceau de concert) (ホルンとピアノ、またはホルンと管弦楽)
管弦楽作品
序曲「スパルタクス」(1863年)
ブルターニュ狂詩曲 作品7bis(作品7から抜粋・再構成)
管弦楽組曲 作品49(1863年)
行進曲「東洋と西洋」作品25 (1869年) (吹奏楽) ※管弦楽版も存在
ガヴォット 作品23(1871年)
交響詩「オンファールの糸車」(Le rouet d'Omphale)作品31(1871年)
英雄行進曲(Marche héroïque)作品34(1871年)
交響詩「ファエトン」(Phaeton)作品39(1873年)
交響詩「死の舞踏」(Danse macabre)作品40(1874年)
交響詩「ヘラクレスの青年時代」作品50
アルジェリア組曲(Suite algerienne)作品60(1879年 - 1880年)(4曲)
リスボンの夜 作品63(1880年)
アラゴン舞曲 作品64(1880年)
ヴィクトル・ユゴー賛歌 作品69(1881年)
サラバンドとリゴードン 作品93(1892年)
エドワード7世のための戴冠行進曲 作品117(1902年)
軍隊行進曲「ナイル川の岸辺で」 作品125(1908年)(吹奏楽)
祝祭序曲 作品133(1909年)
連合国行進曲 作品155(1918年)(吹奏楽)
アルジェの学生に捧げる行進曲 作品163(1921年)(吹奏楽)
室内楽作品
組曲「動物の謝肉祭」(Le carnaval des animaux)(1886年) ※オーケストラで演奏されることも多いが、本来は室内楽曲として作曲された。
ピアノ五重奏曲イ短調 作品14(1855年)
ピアノ四重奏曲ロ長調 作品41(1875年)
ピアノ三重奏曲第1番ヘ長調 作品18(1869年)
ピアノ三重奏曲第2番ホ短調 作品92(1892年)
七重奏曲変ホ長調 作品65(1880年) (トランペット、弦五部、ピアノ)
弦楽四重奏曲第1番ホ短調 作品112(1899年)
弦楽四重奏曲第2番ト長調 作品153(1918年)
ヴァイオリン・ソナタ第1番ニ短調 作品75(1885年)
ヴァイオリン・ソナタ第2番変ホ長調 作品102(1896年)
チェロ・ソナタ第1番ハ短調 作品32(1871年 - 1872年)
チェロ・ソナタ第2番ヘ長調 作品123(1905年)
オーボエ・ソナタ ニ長調 作品166(1921年)
クラリネット・ソナタ変ホ長調 作品167(1921年)
バスーン・ソナタ ト長調 作品168(1921年)
カヴァティーナ 作品144(1915年) (トロンボーンとピアノ)
幻想曲イ長調 作品124(1907年) (ヴァイオリンとハープ)[64]
三部作 作品136 (ヴァイオリンとピアノ)
エレジー(2曲) 作品143、160 (ヴァイオリンとピアノ)
組曲 作品16(1862年)(チェロとピアノ)
デンマークとロシアの歌による奇想曲 作品79(1887年) (ピアノ、フルート、オーボエ、クラリネット)
ピアノ作品
オリジナル作品(自編を含む)
6つのバガテル 作品3
マズルカ第1番 作品21
ガヴォット 作品23
マズルカ第2番 作品24
ピアノ協奏曲第3番 作品29より第1楽章(自編)
オンファールの糸車 作品31(自編)
英雄行進曲 作品34
6つの練習曲 第1集 作品52
メヌエットとワルツ 作品56
マズルカ第3番 作品66
アレグロ・アパショナート 作品70
アルバム 作品72
オーヴェルニュ狂詩曲 作品73
イタリアの思い出 作品80
鼓手の婚約者 作品82
夕べの鐘 作品85
カナリアのワルツ 作品88
アフリカ 作品89(自編)
組曲 作品90
主題と変奏 作品97
イスマイリアの想い出 作品100
かわいいワルツ 作品104
のんきなワルツ 作品110
6つの練習曲 第2集 作品111
弱々しいワルツ 作品120
左手のための6つの練習曲 作品135
愉快なワルツ 作品139
6つのフーガ 作品161
アルバムのページ 作品169
編曲作品(再構成作品も含む)
ベルリオーズの《ファウストの劫罰》より賛歌
「タイスの死」(マスネの《タイス》によるパラフレーズ)
ジョルジュ・ビゼーの《真珠採り》によるスケルツォ
D・ルイ・ミランのリュート(ビルエラ)のための2つの幻想曲
グノーの《ファウスト》より祭典とワルツ
グノーの《ガリア》によるパラフレーズ
グルックの《アルチェステ》のエール・ド・バレエによるカプリス
リストの《ベートーヴェン・カンタータ》による即興曲
バッハ編曲集 全2集
2台のピアノのための作品(自編を含む)
タランテラ 作品6(自編)
ベートーヴェンの主題による変奏曲 作品35(1874年)
オンファールの糸車 作品31(自編)
英雄行進曲 作品34(自編)
ファエトン 作品39(自編)
死の舞踏 作品40(自編)
ヘラクレスの青年時代 作品50(自編)
アルジェリア組曲 作品60(自編)
アラゴン舞曲 作品64(自編)
ヴィクトル・ユゴー賛歌 作品69(自編)
ポロネーズ 作品77(1886年)
交響曲第3番 作品78「オルガン付」(自編)
スケルツォ 作品87(1890年)
アラビア綺想曲 作品96(1894年)
英雄綺想曲 作品106(1898年)
糸杉と月桂樹 作品156(自編)
「プロゼルピーヌ」序曲(自編)
「パリザティス」序奏と三つのバレエシーン(自編)
オルガン作品
3つの小品 作品1(1852年)(ハルモニウム作品)
幻想曲 変ホ長調(1857年)
ブルターニュの歌による3つの狂詩曲 作品7(1866年)
祝婚曲(Bénédiction nuptiale) 作品9(1859年)
奉挙、または聖体拝領(Élévation ou Communion) 作品13(1858年)
3つの前奏曲とフーガ 第1集 作品99(1894年)
幻想曲(第2番)変ニ長調 作品101(1895年)
3つの前奏曲とフーガ 第2集 作品109(1898年)
7つの即興曲 作品150(1916-17年)
幻想曲(第3番)ハ長調 作品157(1919年)
合唱を含む作品
ジン(Les Djinns)(1850年)
クリスマス・オラトリオ(英語版) 作品12(1858年)
カンタータ「プロメテの結婚」作品19(1867年)
オラトリオ「ノアの洪水(英語版)」(Déluge)作品45(1874年)
レクイエム 作品54(1878年)
竪琴とハープ(La lyre et la harpe) 作品57(1879年)
ヴィクトル・ユゴー賛歌 作品69(1881年)
歌曲
歌曲集「ペルシャの歌」(Mélodies persanes)作品26(1870年) (A.ルノー詞、6曲)
「見えない笛」(Une flûte invisible)(1885年) (V.ユゴー詞、フルートのオブリガード付き)
「鼓手の婚約者」(La fiancée du timbalier)作品82(1887年) (V.ユゴー詞)
歌曲集「赤い灰」(La cendre rouge)作品146(1914年) (G.ドクワ詞、10曲)
映画音楽
「ギーズ公の暗殺(英語版)」(L'assassinat du Duc de Guise)作品128(1908年)
著作
日本語訳があるものは次の通り。
『音楽の十字街に立つ』(馬場二郎訳/新潮社/1925年)
ジャン=ミシェル・ネクトゥー編著『サン=サーンスとフォーレ 往復書簡集1862-1920』(大谷千正、日吉都希惠、島谷眞紀訳/新評論/1993年)
- カミーユ・サン=サーンス クラリネット・ソナタ 変ホ長調 作品167 中川隆 2021/10/09 15:13:40
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- カミーユ・サン=サーンス 組曲「動物の謝肉祭」第13曲「白鳥」 中川隆 2021/10/09 14:30:31
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