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ウクライナ危機 プーチン大統領 強気の背景は/安間英夫・nhk
2022年07月14日 (木)
安間 英夫 解説委員
https://www.nhk.or.jp/kaisetsu-blog/100/471117.html
ロシアによるウクライナ軍事侵攻で、ロシア軍は東部2州のうち、ルハンシク州での作戦完了を宣言し、残るドネツク州の制圧に向け、ウクライナ軍との間で攻防を続けています。
欧米や日本から制裁を受ける中、ロシアは天然ガスをめぐってドイツや日本などに対して揺さぶりと受け止められる動きに出ています。
最新の戦況を振り返り、プーチン大統領の強気の姿勢の背景について考えます。
【最新の戦況は】
まず最新の戦況です。
ウクライナでは、ロシア軍が6月から7月はじめにかけて東部2州のうちルハンシク州の最後の拠点となっていた都市に攻勢を強め、この州での作戦を完了し、全域を支配下に置いたと発表しました。
ウクライナ政府もルハンシク州から撤退したことを認め、「軍の損失を回避するためだ」と説明しました。
ロシア軍はことし3月末以降、この地域に戦力を集中させてきましたが、ルハンシク州の制圧に3か月かかったことになります。
プーチン大統領は「部隊は休息をとり、戦闘能力を高める必要がある」と述べ、態勢を立て直す必要性に言及しました。
ロシア軍の消耗が激しかったことをうかがわせています。
ロシア軍はドネツク州に重点を移し、主要都市のスロビャンシクやクラマトルスクの攻略に向け、ミサイルを使った攻撃を続けています。
国連人権高等弁務官事務所のまとめでは、ウクライナの市民の犠牲者は、少なくとも7月11日までに子ども343人を含む5024人にのぼっています。
【戦況について双方は】
戦況についてプーチン大統領は、強気の姿勢を崩していません。
欧米の武器支援を念頭に「欧米はわれわれを打ち負かそうとしているようだが、やってみたらいい」とけん制しました。
そのうえで「本格的な攻撃は始まっていない」と述べ、今後さらに攻勢を強める構えです。
一方、ウクライナのゼレンスキー大統領は、欧米に対して武器支援を求め続けています。
戦局転換の鍵と考えられているのが、アメリカから提供される高機動ロケット砲システム「HIMARS(ハイマース)」など、高性能の兵器です。
ハイマースは射程が長く、精密な攻撃が可能で、ロシアに対して優位に立つことができます。
ゼレンスキー大統領はこうした欧米の兵器は「ロシアの攻撃能力を低下させる」として、ロシア軍が支配下に置いている地域で、軍の施設などに攻撃を行い、巻き返しをはかろうとしています。
【ロシア 強気な外交姿勢】
プーチン大統領は、ウクライナで攻勢を強める一方で、外交や経済でも強気に出ています。
欧米や日本でつくるG7は、ロシア産の石炭や石油を輸入禁止とするなど厳しい制裁を打ち出し、6月のサミットでも制裁と圧力を強化する方針を確認しました。
また欧米の軍事同盟、NATO=北大西洋条約機構の首脳会議では、行動指針となる新たな「戦略概念」でロシアをそれまでの「戦略的パートナー」から「もっとも重大かつ直接の脅威」と位置づけました。
さらに北欧のスウェーデンとフィンランドの加盟を承認し、ロシアの意に反して拡大することになりました。
プーチン大統領は、制裁は効果を上げていないとして「欧米にとって誤算だった」としたうえで、「制裁はロシアの軍事作戦の妨げにならない」と指摘しました。
さらに世界的な物価高や、食料やエネルギーをめぐる問題は「ロシアの軍事作戦とは全く関係がない」とも述べ、欧米に原因があるとの主張を展開しました。
NATOについては「われわれは鏡のように対応し、同じ脅威を与える」と述べたうえで、「今後は緊張状態が生じるだろう」とも述べました。
プーチン大統領は、欧米の制裁によってジュースのパッケージに使われているインクですら調達が難しくなっている、またパソコンやスマートフォンも今後使えなくなるのでは、と聞かれ、「自立・自給自足・主権のほうが大事だ」として、モノ不足になっても乗り切っていく考えを強調しました。
こうした一連の発言からプーチン大統領は、「悪いのは欧米」、「自分たちは敵視され被害を受けている」、「欧米の言いなりにならず、自立していく」という考えを固めていることが読み取れます。
しかしこうしたプーチン大統領の強気の姿勢の裏で、政権の関係者から制裁の影響を懸念する発言がでています。
ロシア中央銀行の総裁は、ロシアのGDP=国内総生産の15%が制裁の影響を受ける恐れがあると指摘しました。
またロシア最大手銀行のトップも、ロシア経済が去年2021年の水準に回復するには10年以上かかるかもしれないと指摘し、不安を隠し切れていません。
【天然ガスをめぐる動き】
一方、制裁に対抗しようと、経済で、ロシアの強気の姿勢が具体的にあらわれているのが、ヨーロッパや日本に輸出している天然ガスをめぐる動きです。
ロシア国営のガスプロムは、6月からロシアからドイツに天然ガスを輸出するパイプライン「ノルドストリーム」の供給量を60%削減しました。
ガスプロムはカナダに修繕に出していた部品が戻ってきていないことを理由にあげました。
さらにガスプロムは7月11日から21日まで定期点検のために供給を止めると発表しました。ドイツでは供給停止が長期化するのではないかと不安の声があがっています。
またロシア政府は、サハリンで日本の企業も参加する石油天然ガスプロジェクト「サハリン2」に対しても揺さぶりをかけています。
プーチン大統領は6月末、海外に登記している「サハリン2」の事業主体をロシア企業に変更するよう命じる大統領令に署名し、日本でも衝撃が広がりました。
サハリン2は、ロシア国営の「ガスプロム」、石油メジャーの「シェル」、日本からは大手商社の「三井物産」、「三菱商事」が出資し、その天然ガスは日本の輸入の9%ちかくを占めています。
ただこの問題は、会社の所有とガスの供給をわけて考える必要があります。
仮に会社の所有形態が変わっても、天然ガスを供給する契約は別にあります。
天然ガスは石油と比べて貯蔵や輸送が難しいため、ロシアのような生産国にとって長期契約による安定した販売先がいっそう重要となっています。
ロシアにとって経済大国であるドイツと日本という大口の販売先の代わりを見つけることはすぐには困難で、供給を止めれば、資源頼みのロシア経済や財政にも影響を与える恐れがあります。
日本にとって決して楽観はできませんが、当面は、ロシアも利益を損なう可能性があることを踏まえ、単なる揺さぶりなのか、利益を減らす覚悟で臨んでくるのか、注意深く見ていく必要があります。
そのうえで日本としては、中長期的に代わりの調達先を検討していくことも必要でしょう。
【いつまで続くのか】
最後に、軍事侵攻がいつまで続くのかについてです。
プーチン大統領は「軍事作戦がいつ終わるのか」と聞かれたのに対して「期限について語る必要はなく、決して言わない」と述べています。
また大統領側近のパトルシェフ安全保障会議書記は、作戦の目標は当初と変わらないという考えを示しました。
このことは、プーチン政権がひきつづき▼ゼレンスキー政権の打倒や▼東部2州以外の地域まで支配を広げることをあきらめていないことを意味しています。
ウクライナ側も反撃を強める構えで、戦闘の長期化は避けられないと見られています。
戦闘が長期化するなかで、ロシアは今後も欧米や日本に対してゆさぶりやけん制を強めてくることが予想されます。
しかしこうしたふるまいは、今は制裁に参加していない国々に対しても、資源供給国としてのロシアの信用を落とし、資源に頼る自国 の発展の可能性を閉ざすことにつながりかねません。
ロシアの強気の姿勢に惑わされず、弱みも見据えたうえで冷静に対処していくことが必要だと思います。
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