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※紙面抜粋
※2022年4月1日 日刊ゲンダイ2面
【願望なのか 真実なのか】
— 笑い茸 (@gnXrZU3AtDTzsZo) April 1, 2022
「プーチンはもうオシマイ」報道の真偽
日刊ゲンダイ pic.twitter.com/NH3mUxgrq9
※文字起こし
「いったい、どこで間違えたのか」──。いま頃、プーチン大統領はそう思っているのではないか。ロシアがウクライナに侵攻してから、すでに1カ月。ロシア軍が大苦戦している。
とにかく、ロシア軍の損失は異常だ。NATOの推計によると、死者は最大1万5000人。1カ月で投入した15万人の兵士の1割を失った計算である。捕虜と負傷者を合わせると人的被害は4万人に達するという。英紙タイムズは、20人いた将官のうち7人が戦死したと伝えている。部隊の後方で指揮を執る将官が次々に戦死するなど、通常はあり得ないことだ。ロシア軍のなかで異常事態が発生している可能性がある。
プーチンは、短期間に首都キーウを攻落し、ゼレンスキー政権を転覆させ、傀儡政権を樹立するつもりだったようだが、作戦は完全に行き詰まっている。もはや、ゼレンスキー政権の転覆は不可能だろう。
どうして、ロシア軍は苦戦しているのか。軍事ジャーナリストの世良光弘氏はこう言う。
「ロシア軍の致命的なミスは、“戦力分析”と“現状分析”を誤ったことです。ロシア軍は約15万人の兵士を動員したとされていますが、少なすぎました。ウクライナも正規軍は15万人程度ですが、徴兵制を採用しているウクライナには軍経験者の予備役が90万人程度いるといいます。攻める側は、守る側の3倍程度の兵力が必要なのに数で劣っていては苦戦するのは当然です。しかも、ウクライナは、昨年から対戦車砲の“ジャベリン”や、対空砲の“スティンガー”といった兵器をNATO陣営から供給され、米英の特殊部隊から軍事指導を受けていた。ある意味、待ち構えていたわけです。なのに、恐らくプーチン大統領は、2014年にクリミア半島に侵攻した時と同じように、ウクライナ軍はほとんど抵抗しないと甘く見ていたのでしょう」
プーチンのシナリオは、完全に崩壊している。もはや、立て直すのも難しいのではないか。
支持率は上昇している
この先、プーチンはどうなるのか。
側近の離反や暗殺危機、クーデター説まで飛び交っている。ロシア国内では“反戦デモ”が起きているという報道もある。さらに、ホワイトハウスによると、ロシア軍はプーチンに正しい情報を上げていないという。プーチンはクレムリンで孤立し、裸の王様になっている可能性があるということだ。
しかし、プーチンが苦境に陥っていることは事実だろうが、本当に“プーチン失脚”などということが起きるのだろうか。割り引かなければならないのは、どれも西側諸国から情報が発信されているということだ。
少なくとも、世論調査を見る限り、まだロシア国民の“プーチン離れ”は起きていない。政府系の全ロシア世論調査センターがウクライナ侵攻後に実施した調査では、「プーチンを信任」と答えた人は79.6%と2月上旬(67.2%)から上昇し、国民の74%が“特別軍事作戦”を支持しているという。
毎日新聞(23日付)によると、戦火を逃れてキーウからポーランドに逃れた27歳の女性が、クリミア半島の実家に住む両親に電話すると、「ロシアがウクライナを救うために介入している」「お前は間違っている。ウクライナ政府が言っていることはすべてウソだ」と反論されたという。多くのロシア国民は、プロパガンダを信じ込んでいる。
国際ジャーナリストの春名幹男氏はこう言う。
「いますぐ国内世論が沸騰してプーチンが失脚するという可能性は低いでしょう。ポイントは、国民が食べていけるかどうかです。旧ソ連が崩壊したのは、国民が食べられなくなったからです。その点、ロシアは小麦もエネルギーも自給体制が整っています。ただ、経済制裁によってハイパーインフレが発生し、生活が立ち行かなくなったら、政権は危機に直面すると思う。軍や情報機関がクーデターを起こす可能性はゼロではありませんが、命懸けだし、成し遂げるのはかなり難しいでしょう」
国民の生活が苦しくなり、その不満に軍や情報機関が呼応した時、プーチンは“終わり”を迎えるのかも知れない。
プーチン失脚ならロシアは分裂崩壊
もし、プーチンが失脚したらロシアはどうなるのか。
ウクライナ国防省のフェイスブックには、“ポスト・プーチン”として、アレクサンドル・ボルトニコフ連邦保安局(FSB)長官の名前が記されている。
約20年にわたって大国ロシアを掌握してきた独裁者のプーチンが不在になったら大混乱は必至だ。「プーチン大統領が失脚したら、ロシア国内は長期的な動乱に陥るでしょう」と、筑波大教授の中村逸郎氏(ロシア政治)はこう言う。
「20年にわたるプーチンの強い抑圧から解放されたら、ロシアは無政府状態になり、さまざまな人物がポスト・プーチンの座を狙って動くとみられます。プーチンに近い情報機関FSB所属の人物や、反プーチンを掲げてきた人物などが、それぞれの思惑に基づき、動き出すのではないか。動乱は長期化することになるでしょう」
長期にわたる大混乱の中で起こりうるのが、ロシアの“分裂”だ。
「ロシア国内外から分裂の動きが出てくる可能性があります。国内で言えば、東欧諸国に近い地域からはEU加盟を求める声が上がり、イスラム教徒が多い西シベリア地区は、人口の7割をイスラム教徒が占めるカザフスタンに近づいていくことが考えられます。国外の動きとしては、中国が北方領土を含む極東に勢力圏を拡大してくる可能性がある。また、ウクライナと国境を接するポーランドはロシアの西部を、停戦協議の仲介役を担っているトルコは黒海を挟んだロシア最南部への影響力拡大を狙ってくるとみられます」(中村逸郎氏)
プーチンという“重し”がなくなれば、ロシアはバラバラになりかねないというわけだ。
スタグフレーションが常態化する
現実的には、すぐにプーチンが失脚することはなく、戦争もしばらく続く可能性が高い。この戦争は、そう簡単に終わらないのではないか。
膠着状態が今後、数年にわたって続いたら、世界はどうなるのか。長期化すればするほど、経済へのダメージも深刻化するのは間違いない。
英国のトラス外相が、ロシア軍がウクライナから完全に撤退し、停戦した場合、「経済制裁を解除する」と発言したのも、“返り血”を浴びる経済制裁を、本音では早く終わらせたいということだろう。
実際、すでに「物価高」という形で悪影響が出ている。ロシアは天然ガスの輸出量世界1位、原油は2位の資源大国であるだけでなく、小麦やトウモロコシなど世界有数の農業大国。希少金属の産出国でもある。経済制裁によって燃油価格は不安定化し、物価も続々と高騰している状況だ。
この先、ロシアが中国やインドと急速に距離を縮め、経済のブロック化を進める恐れもある。
冷戦終結後の30年間に築き上げられたグローバル経済も、この戦争でリセットとなる可能性がある。経済評論家の斎藤満氏はこう言う。
「グローバル化によって、人、モノ、カネの移動が国境を越えて自由になり、国際的な分業体制が構築され、各国に一定の恩恵をもたらしてきました。日本の大企業も恩恵にあずかってきた。ところが、この戦争をきっかけに、世界経済は新たなフェーズに突入する可能性があります。最も深刻なのは、ロシアが中国やベラルーシといった国々との関係を深め、西側諸国との間で分断を生むことです。分断によるマーケットの縮小が低成長を招き、中ロの安い労働力に頼れなくなることで物価高にも拍車がかかる。世界経済は今後、スタグフレーションが常態化していく可能性があります」
世界中が「対岸の火事」ではいられない。今後、日本も経済戦争の最前線にさらされることになるわけだが、岸田政権は乗り切れるだろうか。
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