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「ウクライナ軍事侵攻とプーチン体制」(時論公論)石川 一洋
2022年03月09日 (水)
石川 一洋 解説委員
https://www.nhk.or.jp/kaisetsu-blog/100/461880.html
21世紀にこのような侵略戦争が起きてよいのでしょうか。ロシアがウクライナに軍事侵攻して、一般市民にも多くの犠牲者がでて人道的な危機が各地で起きています。
今日は現在の戦況からロシアの意図を読み解くとともに戦争がプーチン体制に与える影響を考えていきます。
私がかつて訪れたウクライナの美しい大地や街は戦争という大きな恐怖に覆われています。
●戦況から見たロシアの狙いは
ロシア軍はキエフに向かう北、第二の都市ハリコフへの北東、そして南東という三方から侵攻しています。当初キエフを電撃的に占領して、早期決着を目指していたものとみられます。その思惑はウクライナ側の激しい抵抗で失敗しました。ウクライナ軍はロシア軍の車列を街に引き入れては包囲し、せん滅するという戦法でかなりな損害を与えた模様です。ロシア軍は戦術を変え、慎重にキエフ包囲網を築こうとしています。
私が今注目しているのは 親ロシア派が支配してきた南東部のドンバス周辺での戦闘です。ここにはウクライナ軍の精鋭部隊が配置されていました。ロシア側は徐々にウクライナ軍を包囲して、戦闘能力を失わせようとしています。ここでウクライナ軍が敗北すると北東部も背後から衝かれ、戦局はロシア有利に動くだけに重要な戦いです。
ウクライナは軍事力ではロシアに対して不利です。しかし国民の支持があるのが大きな強みです。ロシアに占領された南部の大都市へルソンでは、ウクライナ人が国旗を手にロシア軍の侵攻に抗議しました。軍事占領下で非常に勇気ある行動です。ロシア軍が占領した地域を赤くしていますが、実はロシア軍はもしかしたら点と線しか支配していないのかもしれません。
軍事力ではウクライナ国民の心は支配できません。ウクライナ国民にとっては自らの主権を示す戦いとなっています。
▼乾いた地図の上で状況を説明しましたが、しかしあまりに多くの犠牲が出ています。血に塗られた地図となっています。ロシアのプーチン大統領は、主権国家に対して国際法を無視して軍事侵略する決定をしました。子供を含む多数の民間人が犠牲になっています。210万人を超える人々が国外に逃れ、ハリコフなどでは人道的な危機が起きています。長期の紛争が続いたドンバスでも市民の犠牲を伴う激しい戦闘が続いています。ウクライナという美しい国でいかほどの血が流されているのでしょうか。
●プーチン体制への影響と国内引き締め
さてここからはプーチン体制の対応です。
一言で言えば「戦時体制」です。プーチン大統領は、「ロシア軍の行動に関して偽情報の拡散を禁じる法律」に署名しました。どういうことかと言いますと、「特殊軍事作戦」であり戦争や侵略ではない。戦争や侵略という言葉を使ったら“偽情報”にあたる。つまり私がいま解説したようなことをモスクワから話せばこの法律に基づき訴追される恐れがあるということです。外国のメディアがロシア国内での取材活動を停止し、数少ない異なる意見を伝えてきたロシアのメディアも口を塞がれています。「戦争」という言葉を禁じながら、情報の面でも完全に「戦時統制下」に入ったといえるでしょう。戦争の状況が国民に知られることを恐れているのです。
プーチン大統領は愛国主義に訴えて国民を纏めようとしています。「ウクライナをアメリカの支配から解放するためだ」との主張をテレビなどで繰り返し伝えています。この宣伝は一定の効果を上げ、軍事侵攻の決定を支持する人は71%で反対の21%を大きく上回っています(全ロシア世論研究センター)。法的な罰則で反対と言いにくい社会の雰囲気も影響しています。また欧米の厳しい制裁がロシア国民を逆に纏めているという側面もあります。厳しい制裁によってロシアは「欧米と戦時体制」になったという意識が国民に強まり、北風には団結するというロシア人特有の防衛本能を示しているようにも思えます。
▼ただロシア国民の間には、何故大統領が兄弟あるいは同じ民族と呼ぶウクライナと戦争をしなければならないのか、はっきりと反対の声は上げなくても疑問に思っている人は多いのです。ウクライナに兄弟や従妹など親戚がいる人も多いのです。家族親戚の中に戦争が入ってくる悲劇は現実のものとなっているのです。
戦争反対という言葉が使えないのでロシア人は様々な工夫をしています。SNSで拡散する黒の背景に8文字の伏字。Нет войны 戦争反対の気持ちを示しているのです。今後戦争の実像がじわじわと人々に伝わる中で、反戦の意識が広まる可能性は十分あるとみています。
●プーチン体制に揺らぎはないのか。私はあると思います。
プーチン大統領を後継者に指名した故エリツィン元大統領。その業績を伝えるエリツィンセンターが戦争反対を発表しました。「30年前ロシアとウクライナは一緒に国際社会に入り、民主化と市場経済の道を選択した。そのロシアとウクライナが戦争の反対側にたっている。兄弟殺しの戦争の強い側の(ロシア)市民としての責任を自覚し、直ちに戦闘行為を停止するよう求める」。エリツィン家につながる新興財閥のデルパスカ氏やアブラモ―ビッチ氏も平和や停戦を求めました。プーチン体制を支え、いまだに隠然たる影響力と富を持つエリツィンファミリーが反対の声をあげたのです。
大統領の決断は、ごく少数の側近と決めた可能性があります。軍や治安機関を含めて体制内部にも私は大統領の判断は国益を損なうと思うエリートはいるとみています。
▼プーチン大統領はかたくなな姿勢を崩していません。大統領の考えを変えるためにも、「この戦争はプーチンの戦争だ、国際社会は戦争を早急に終わらせ、ロシアとの関係を正常化したい」というメッセージをロシア国民とエリート層に伝え続けることが重要です。
●今後の和平交渉の見通しです。
現状は極めて厳しいといえるでしょう。プーチン大統領はおそらくウクライナの継戦能力を完全に奪うまで、戦闘は続けるつもりでしょう。一方国際社会もロシアへの圧力、制裁をさらに厳しくしています。
難しいのは、ロシアという核兵器大国で国連の安全保障理事国が起こした戦争だということです。アメリカとNATOはロシアと直接の軍事紛争に入ることは、核戦争の恐れもあるとして、避けています。つまり戦争の現場では、軍事支援などはあるもののウクライナが独力で戦わなければならないのです。
外交と戦争が結びついて行われ、ロシアと国際社会の支援を受けたウクライナがまさに力比べをしています。戦闘の現場ではロシアが有利で、国際社会ではウクライナ支持が圧倒的です。
▼この戦争も最終的には外交で解決することになるでしょう。
外交という戦いの場でもウクライナを一人でロシアの前に投げ出すのではなく、国際社会の代表がドイツでもフランスでもあるいは近隣諸国の仲裁者としてトルコでも参加し、ウクライナを支えながらロシアと向き合うべきだと思います。
▼戦争は多くの女性を苦しめています。
3月8日、国際女性デー、ロシアやウクライナではいわば女性のお祝いです。普段はどの家庭でも妻や娘や母にあるいは同僚や友人にバラや春の花を贈り、ささやかな幸せを感じる一日です。なんと暗い悲しい女性の日となったことでしょうか。当事者である両国の指導者、特にこの悲劇を始めたプーチン大統領。両国の女性の苦しみと悲しみを終わらせることができるのはあなただけです。まず即時の戦闘停止と侵略の中止を求めます。
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