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米情報機関、中国・武漢ウイルス研究所のデータ入手との報道…ニパウイルスめぐり新疑惑も
https://biz-journal.jp/2021/09/post_249412.html
2021.09.06 18:00 藤和彦「日本と世界の先を読む」 文=藤和彦/経済産業研究所コンサルティングフェロー Business Journal
中国・武漢(「gettyimages」より)
米国の情報機関を統括する国家情報長官室は8月27日、新型コロナウイルスの起源に関する調査報告書の概要を公開した。その内容は「ウイルスが動物から人に感染したのか」「中国科学院武漢ウイルス研究所から流出したのか」という2つの仮説を裏付けるのに十分な証拠がなかったことから、結論が出せなかったというものである。
中国政府からの協力が得られない状況が続いており、想定内の結果であったが、報告書の内容で注目すべきは「新型コロナウイルスは遺伝子操作されて発生したという可能性は低い」との見解を示していることだ。筆者はこの見解に違和感を抱いている。
エネルギー省傘下のローレンス・リバモア国立研究所は昨年5月、「新型コロナウイルスからCGG−CGGという組み合わせの塩基配列を発見された。このような塩基配列は自然界では存在せず、ウイルスの感染力を高めるなどの実験を行う際に人為的に注入されることが多いことから、『武漢ウイルス研究所から流出した』とする仮説は妥当である」との報告書(非公表)を作成しているからだ。
報告書はさらに「ウイルスが生物兵器として開発されたものではない」との見方を示している。トランプ前政権が今年1月に公表した新型コロナウイルスの起源に関するファクトシートでは、人民解放軍が生物兵器禁止条約に違反する形で武漢ウイルス研究所で秘密裏に生物兵器を開発していた可能性を排除しなかった。バイデン政権はこの点を否定したことになる。
だが報告書の内容とは裏腹に、世界では新型コロナウイルスのパンデミックを契機に生物学的脅威に対する意識が高まるなか、「生物兵器禁止条約の遵守を徹底するためにより強力な権限が必要だ」との声が高まっている(9月1日付フィナンシャル・タイムズ)。
現在の条約は生物兵器の開発、貯蔵、移転、使用を禁止しているが、加盟国に条約を遵守させるための強い措置を規定していない。防衛や予防のための研究開発は許されており、攻撃目的にも使えるような二重用途の研究も完全には禁止されていない。
8月30日からスイスのジュネーブで生物兵器禁止条約に関する専門家会合が開かれているが、「専門家たちは重大な生物学的事象について第三者による透明性のある正式な事実検証を行う」国際的な枠組みの構築を求めている。武漢ウイルス研究所の運営や資金提供の面で人民解放軍が関わっていることから、「我々が知らないことがたくさんあり、中国は透明性を持たせることに前向きでない」と憂慮する専門家が多いからだ。
これに対し中国は「政府は条約を守ることに真剣に取り組んでいる」とした上で、「米国は製薬会社の懸念を背景に生物兵器を査察する仕組みを構築する努力に水を差し続けてきた」と反論している。WHO(世界保健機関)による調査と同様、ここでも中国は米国を一方的に非難するばかりで、自らの姿勢を改める気配を一切見せていない。
■ローレンス・リバモア研究所が分析作業
事態が悪化をたどるなか、「武漢の新型コロナウイルス初期感染者の検体から遺伝子操作が行われたニパウイルスが検出された」という、とんでもない情報も出てきている(8月25日付Zerohedge)。米国の医師が、武漢ウイルス研究所の職員がアップロードした初期の新型コロナウイルス患者のデータを調べたところ、遺伝子操作が行われたニパウイルスを発見したというのである。遺伝子操作の目的はワクチン開発である可能性が高いという。
中国ではニパウイルスの感染例は報告されていないが、武漢ウイルス研究所の職員が昨年12月、シンガポールで開催されたニパウイルスに関する会合に出席している。同研究所でニパウイルスの遺伝子組み替え実験を行っていた可能性が出てきたのである。
ニパウイルスは、オオコウモリ(体長は最大2メートル)の糞尿がついた果実を人間が食べると感染するといわれている。今年1月、オランダを拠点とする「医薬品アクセス財団」が「次のパンデミックのリスクは、死亡率が最大で75%とされるニパウイルスの感染爆発である」との警告を発した。WHOも「世界で最も危険なウイルスの一つ」に位置づけている。
ニパウイルスの最初の感染例は1999年、マレーシアのニパ川沿いに暮らしていた養豚業者だった。マレーシアではパーム油と木材生産のために数十年にわたり熱帯雨林の伐採が進んでいた。この森林破壊で追いやられたオオコウモリの多くが養豚場の近くで群れをつくり、このあたりで育つマンゴーなどの果樹を餌にするようになった。人間への感染は、オオコウモリの尿が付着したナツメヤシの実を食べた豚と接触したことが原因だとされている。その後、アジアを中心に12カ所で集団感染が確認されている。
ニパウイルス感染症の初期症状は風邪に似ており、発熱や頭痛、筋肉痛、嘔吐、喉の痛みなどが生じる。重症化すると急性呼吸不全を起こし、2〜3日で危篤状態になるといわれている。無症状者から感染が広がる可能性も指摘されている。「新型コロナウイルスのような感染力が強いニパウイルスが出現したら」と思うだけで背筋が寒くなる。
「米情報機関が武漢ウイルス研究所の膨大なデータをハッキングにより入手した」と報じられている(8月5日付CNN)。この「宝の山」を生物学に関する専門知識が豊富なローレンス・リバモア研究所が中心となって分析作業を進めている最中であり、今回の報告書にはその内容は反映されていないと考えられる。同研究所には一刻も早く「武漢ウイルス研究所流出説」を決定づける証拠を明らかにしてほしい。そうしないと国際社会は中国の傍若無人な振る舞いを止めることはできない。
(文=藤和彦/経済産業研究所コンサルティングフェロー)
●藤和彦/経済産業研究所コンサルティングフェロー
1984年 通商産業省入省
1991年 ドイツ留学(JETRO研修生)
1996年 警察庁へ出向(岩手県警警務部長)
1998年 石油公団へ出向(備蓄計画課長、総務課長)
2003年 内閣官房へ出向(内閣情報調査室内閣参事官、内閣情報分析官)
2011年 公益財団法人世界平和研究所へ出向(主任研究員)
2016年 経済産業研究所上席研究員
2021年 現職
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