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勝者なき停戦で笑うのはネタニヤフ首相とハマス、そしてバイデンも?
https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2021/05/post-96345.php
2021年5月24日(月)16時10分 ジョシュア・キーティング ニューズウィーク
5月21日、停戦を祝うパレスチナの人々(ガザ地区南部の町) IBRAHEEM ABU MUSTAFA-REUTERS
<イスラエルとハマスは5月20日に停戦合意。戦闘開始前の力関係が大きく変わることはないが、関係する全てのリーダーがある程度、望みどおりの結果を得た>
「イスラエルとパレスチナの間に戦争はない。あるのは戦闘だけだ」──2001年にこう喝破したのは、当時イスラエルの首相を務めていたアリエル・シャロンだ。
この両者の戦いではどちらか一方が勝利するということはなく、戦闘開始前の力関係が大きく変わることもないからだ。
このところ、パレスチナのイスラム原理主義組織ハマスとイスラエル軍の間で10日余り続いていた戦いも例外ではない。今回の戦闘も、双方共に明確な勝利を手にできないまま、5月20日に停戦合意に達した。
しかし、イスラエルのネタニヤフ首相は上々の成果を上げたと言えるかもしれない。
戦闘が始まる前、ネタニヤフの政権運営は苦境に陥っていた。野党の連立協議が進展し、自身の長期政権の終焉が目前に迫っていたのだ。
ところが、今回のハマスとの戦闘で連立協議は吹き飛んだ。これにより、当分はネタニヤフが首相にとどまるだろう。
対するハマスは、イスラエルへのロケット弾攻撃を開始したとき、激しい反撃を招くことは承知の上だった。
実際、イスラエルの攻撃でパレスチナ自治区ガザで多くのパレスチナ人が命を失ったが、ハマスの指導部は今回の結果に満足しているように見える。
ハマスが発射したロケット弾の多くはイスラエルの防空システム「アイアンドーム」で迎撃されたが、それでもイスラエル最大の商業都市テルアビブを攻撃する能力を持っていることは実証できた。
それに、ハマスの政治的なライバルであるパレスチナ自治政府のアッバス議長は、政治的に孤立していて、今回の紛争でも存在感を示せなかった。
ハマスは、パレスチナ抵抗運動の実質的リーダーの地位にまた一歩近づいたとみていいだろう。
一方、バイデン米大統領は今回の紛争で明確な態度を示していないと批判されていた。戦闘開始から1週間以上、停戦を呼び掛けなかった。
しかしバイデン政権の高官たちは、イスラエルとパレスチナの当局、そしてハマスとのパイプを持つエジプト政府やカタール政府と繰り返し電話で接触していたという。最終的に、エジプト政府の仲介で停戦が実現した。
バイデン政権による電話での働き掛けにどのくらいの効果があったのかは不明だ。
それでも、多くの人が恐れていたよりもはるかに早く停戦にこぎ着けたことで、バイデンが言う「静かで執拗な外交」の有効性がいくらかは示されたと言えるかもしれない。
要するに、関係する全てのリーダーがある程度は望みどおりの結果を得ることができた。しかしその一方で、パレスチナの状況は悪化の一途をたどっている。
ガザ地区の住民の苦境は、今回の戦闘による直接の死傷者数だけでは見えてこない。
ガザ地区は長い間、イスラエルの封鎖により苦しめられてきた。しかも、この地区を支配するハマスは、人々の暮らしよりも軍事力の増強を優先させている。上下水道の損傷は激しく、医薬品も十分に行き渡っていない。
世界でイスラエルの行動への反感が高まり、ユダヤ人全般にその矛先が向けられ始めていることも気掛かりだ。最近はアメリカやイギリスなどで、ユダヤ人を標的にした憎悪犯罪が相次いでいる。
今回のような流血を伴う戦闘が双方のリーダーに政治的恩恵をもたらすとすれば、対立に真の終止符が打たれる日は当分訪れそうにない。
©2021 The Slate Group
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