ずっと続く米国の選挙不正疑惑 2021年4月14日 田中 宇 私は、昨秋の米大統領選挙で民主党が郵送投票制度を悪用したり(本人確認ほとんどなしに投票でき、消印なしでも有効と判断されるので郵送票を大量に偽造して開票場に持ち込める)、コンピュータ方式の投票機をハッキングし不正操作するやり方で選挙不正をやってトランプを負けさせ、バイデンを勝たせたのでないかと疑ってきた。私だけでなく、共和党支持者の6割以上が今もそう考えている。権威筋やマスコミは、民主党支持のNYTやCNNだけでなく共和党支持のFOXやWSJを含めて、選挙不正などなかった、選挙不正があったという話はトランプや共和党支持者たちの危険な妄想だと言っている。日本の権威筋やマスコミも同様だ。米国の選挙不正疑惑は妄想として片づけられ、終わった話になっている。 (トランプ排除やコロナは米欧覇権とエスタブ支配を破壊する) (米議事堂乱入事件とトランプ弾劾の意味)
しかし、米政界のその後の動きをみていくと、実は選挙不正疑惑が終わっていないことがわかる。議会上下院の多数派と大統領という連邦政府のすべてを握った民主党は、新たな選挙改革として、郵送投票制度の大幅な拡大や、有権者の本人確認を「やりすぎている」州当局を連邦側が権限剥奪できる制度を盛り込んだ「人々のための法」(For the People Act。HR1 2021)と称する法案を連邦議会で出してきている。民主党は「郵送投票の拡大や、ID確認の抑制は、投票所が遠いとか運転免許証を持ってない貧困層やマイノリティが投票しやすくするためのもので、だから人々のための法なのだ」と言っている。 (Here's why H.R. 1 is not election reform) (Why HR1 Threatens Election Integrity) しかし、共和党支持者からすると、郵送投票の拡大もID(免許証など本人確認書類)確認の抑制も、昨秋の総選挙で民主党側がやった手口の選挙不正をさらにやりやすくするためのものにしか見えない。「貧困層やマイノリティのため」という理由づけは、民主党ならではの巨大な偽善にしか見えない。共和党支持者の多くは、民主党の「人々のための法」を見て「やっぱり民主党は昨秋に選挙不正をやったんだ。不正を恒久化するために、こんな偽善法案を出してきたんだな」という確信を強めている。この法案は、共和党が強く反対して紛糾しているため、上院で共和党議員の10人以上が賛成しないと可決しないことになり(Filibuster)、否決される可能性がある。可決されなくても、共和党側から見れば、民主党が選挙不正できる体制の恒久化を狙っていることに変わりはない。 (Biden Unhinged: Calls Attempts To Stop Election Fraud ‘Sick’ And ‘Un-American’) (Trump: Ending Filibuster Would Be ‘Catastrophic’ For GOP) 共和党も、選挙改革法案を出している。共和党は、すべてを民主党に握られている連邦議会で対抗案を出しても通らないため、共和党がわりと優勢な全米各州の州議会で選挙改革法案を出している。動きが最も進んでいるのはジョージア州だ。3月下旬に共和党が出した選挙改革法案が議会を通過し、知事が署名して発効させた。ジョージアの選挙改革法(Elections Integrity Act of 2021)は、これまで署名の同一性確認という不正しやすい方法で行われていた期日前投票(そのほとんどが郵送投票)の際の本人確認を、ID確認によるより厳格な方法に換えた。これまで監視が甘かった投票箱の24時間監視体制も導入した。 (Kemp: Election Integrity Act Makes it Easy to Vote, Hard to Cheat) ジョージア州の新法と似たような選挙制度改革法案が、全米50州の州議会上下院で共和党主導で審議されている。以前の記事「トランプの今後」に書いたとおり、各州での選挙改革は、トランプ陣営が大統領辞任後に進めてきたものだ。トランプ自身はこの件で表に出てこない(2024年の選挙に出るつもりだからだろう)が、事態はあの記事に書いたとおりの流れになっている。ジョージアのケンプ知事(Brian Kemp)は共和党だが、昨年の選挙後にトランプ敵視に回り、選挙不正の調査を拒否した。しかし民主党が連邦政府のすべてを取って共和党を丸ごと極悪に見立てて攻撃してくる事態になり、ケンプもさすがにトランプの側に転じて選挙制度改革の先陣を切った。 (トランプの今後) ("Boycott Georgia" - Furious Dems React As Gov. Kemp Signs "Election Integrity" Bill) ジョージアの新法に盛り込まれた郵送投票の際の本人確認の強化や、投票箱に偽造票を詰め込む不正をやりにくくする監視強化は、これまで野放図だった米国の選挙制度を改善するものに見える。昨秋の米選挙では、消印のない大量の郵送票が出現したり、開票中の夜中に出所不明の投票箱が持ち込まれたりといった動きで、優勢がトランプからバイデンに替わったという不正疑惑が指摘されている。もし民主党が選挙不正をしていないなら、ジョージアの新法は、次回以降の選挙で不正疑惑を打ち消す格好の制度改革だ。民主党側(マスコミ権威筋)は、この新法に賛成するのが筋だ。 (As Democrats Claim Voter ID Is Racist, New Poll Shows Nearly 70% of Blacks Support It) だが実際は、民主党側がジョージアの新法を猛烈に非難(というより誹謗中傷)している。象徴的な非難は「投票時のID確認を厳格化することは、本人確認書類を持っていないことが多い貧困層やマイノリティ(多くが民主党支持)の投票を妨害し、人種差別的で共和党のエゴそのものだ(自家用車を持てる中産階級以上はIDとして運転免許証を持つが、貧困層は車を持てず免許証もない)」というものだ。マスコミでは「ジョージアの新法は人種差別する極悪法」と喧伝されている。 (Political science professors explain Georgia’s Elections Integrity Act of 2021) 実のところ、これは人種差別や貧困の問題でなく、米国が良い本人確認システムを作らずに放置している問題だ。全国民に確実にIDカードを持たせることは自由の侵害と批判されたりするので、米日豪などで不人気だ。日本では選挙時に有権者に投票所入場券を郵送して迅速な本人確認をしている。米国の郵便システムは日本ほど整っていないが、世界最強の大国なのだから何か他の有効な本人確認システムを作れるはずだ。世論調査によると米国民の大半が、投票時にID確認した方が良いと考えている。当然だ。 (Majority Of Americans Reject Democrats' "Election Integrity" Outrage, Support Voter IDs) 本人確認の不備など、米国の選挙制度がお粗末なまま放置されてきたのは意図的なものだ。米国は「2大政党制」の政治体制だが、これはエスタブや軍産・諜報界など支配層が2党に分かれて談合しつつ、民主主義のふりをして「2党独裁」の体制を維持するためのものだ(英国が発明)。選挙のたびに、厳正な投票の結果が示す民意に従うのでなく、2大政党の主張や利害をすりあわせて談合し、投票時や開票時に選挙不正をやって2党談合の結果を反映した歪曲された選挙結果を表出させ、どちらが与党になるかを決めてきた。米国の2大政党は勢力が拮抗し続けているが、これもわずかな不正で選挙結果をねじ曲げられるようにしておくための意図的なものだろう。 (Pennsylvania Agrees to Remove Names of Dead Citizens From Voter Rolls: Settlement) 米国の政治は、民主主義でなく2党の談合が最重要だ。だから選挙不正をやりやすいお粗末な選挙制度が意図的に放置されてきた。在野の勢力が選挙不正をマスコミや裁判所に訴えても、マスコミも法曹界も談合の一味なので無視・却下されて終わる。これまでの米国は、選挙制度の改革も2大政党が同意して超党派でやってきた。 (How conspiracy theorizing may soon get you labelled a ‘Domestic Terrorist’) 談合が成立している間はそれがうまくいっていたが、2017年からトランプが大統領になって、共和党を席巻しつつ軍産諜報界エスタブの談合支配体制を壊し始めた。トランプは選挙に強く、かなりの民意の支持があった。エスタブら支配層は、2020年の選挙でトランプを排除する必要があり、郵送投票や機械投票のお粗末な選挙制度を使って不正をやってバイデンを勝たせた(と共和党側は考えている)。 (Biden Taps Susan Rice To Expand Vote By Mail) 共和党支持者の大半は、反エスタブなトランプを支持し続けている。共和党側の協力が得られなくなったので、米政界を談合式の2大政党制に戻すことはできない。エスタブとしては米国の政体を、永久に民主党が与党で、共和党が万年野党の新体制に転換する必要がある。それには2020年にやった選挙不正の手口を恒久化せねばならない。民主党側は連邦政府の3機関のすべてを取ったが、地方の各州ではトランプの共和党が強い。各州はジョージアを皮切りに、民主党側による選挙不正をやりにくくする選挙改革法を次々に出してくる。連邦議会では、各州の選挙改革を上書きして無効にする民主党側の選挙改革法(人々のための法)を可決しようとしている。 (Saturday Satire? Dems 'Will Not Legitimize Georgia's Racist Election Law By Reading It To See What It Says') 各州(共和党側)が新法で投票時のID確認を強化しようとしても、連邦(民主党側)の新法で「それはやりすぎのID確認であり人種差別だ」と判断され無効にされる。今後の米国の選挙は、2つの選挙改革の間の戦いになる。民主党側は、黒人など民主党支持者が多いワシントンDCとプエルトリコを州に昇格して上院議員を出せるようにして、拮抗してきた議会上院を永久に民主党多数にしようともしている。 (Here's How DC Statehood Could Backfire On Democrats) マスコミは連邦・民主党側であり「ファクトチェック」とか「フェイクニュースの取り締まり」と称して共和党側の主張を間違いだと断定し、「共和党は白人優位主義の極右で、彼らの選挙改革は改革のふりをした人種差別や民主主義抑圧だ」と喧伝する。 (Fact Check-Delving into social media claims about H.R. 1 (the For the People Act)) 米国は民主党の一党独裁体制になっていく可能性が高い。それは以前の2大政党制(2党独裁)に比べて本気の政争が増えて不安定だし、民主主義っぽさが失われて独裁性が露呈する。「うちと同じじゃないか(笑)」と中共から揶揄され、「うち以下だ」とプーチンから嘲笑されてしまう(ロシアは自然な多党制)。マスコミは「米国は世界で最も良い民主主義で、中露は独裁や権威主義の極悪体制だ」と報じ続けるが、それが歪曲報道であることが、わかる人にはわかっていく。 (ニセ現実だらけになった世界) 日本人の多くは「米国が最優良の民主主義」という報道を軽信し続けるだろうが、実のところ、一党独裁になる米国より、官僚隠然独裁の日本の政体の方が、本質がうまく隠蔽されている点で「すぐれている」。日本の選挙制度は、米国よりはるかに厳正で優等だ。日本では郵送投票が要介護や外国在住の人などに限定され、本人確認もきちんと行われている。郵送投票は、途中の配送過程で起きる不正を防ぎにくい。投票用紙や封筒などを偽造して配送過程に紛れ込ませれば不正ができる。日本ではコンピュータを使った電子投票も導入していない。電子的に偽造できるからだ。ログも改竄すれば足跡を消せる。一時的に投票用スクリプトを書き換えて共和党に入れたつもりが民主党に入っているようにもできる。 (米民主党の選挙不正) (Mississippi Gov: ‘I Don’t Think Mail-In Voting Should Be Allowed,’ ‘Lots Of Opportunities For Fraud’) すでに述べたように、米国では2大政党間の談合結果を選挙結果として反映できるようにするため、ID確認確認の不備や郵送投票、電子投票といった不正をやりやすい制度が意図的に残されている。日本はそれと異なり、誰が選挙に勝って与党になっても官僚機構に依存しないと行政をやれず、事実上の官僚独裁体制になっている。官僚機構にとっては、政党が選挙不正をやって毎回勝ち、官僚機構に依存しない行政をやり出すことが脅威だ。だから官僚機構は日本の選挙制度を厳正に保っている。 (McConnell Slams "Outrage Industrial Complex" As Corporations Behave Like "Woke Parallel Government") 従来の2大政党制の体制下で、米国の大企業は両方の党を支援する超党派的な姿勢を維持してきた。民主党は最近、大企業が共和党主導のジョージア州の選挙制度改革を人種差別的だと非難するように仕向け、大企業と共和党を対立させ、大企業が超党派を好む傾向を捨てて民主党だけを支持するよう誘導している。その一方でトランプなど共和党の反エスタブ勢力は、ジョージアの選挙制度改革を非難したコカコーラなど大企業の製品をボイコットする政治運動を開始し、共和党を反エスタブのポピュリスト政党にする動きを進めている。 (CBS Tells Companies How To ‘Help Fight’ Georgia’s New Voting Law, Spreads Misinformation) (Georgia Republicans want Coca-Cola products removed from their offices after CEO criticizes new voting law) 民主党政権は、グーグルやフェイスブックなどのネット大企業を独占禁止法違反の容疑で捜査する姿勢も見せている。ネット大企業は昨秋の選挙騒動でトランプを敵視し、民主党側であることを鮮明にした。だが彼らは同時に、ネット以外の大企業と同様、2大政党がうまく談合していく従来の政体に戻した方が良いと考えているふしもある。そうしたネット大企業のどっちつかずの姿勢を打ち砕き、民主党の一党独裁を支持しろ、さもなくば独禁法違反とみなして解体してやる、というのが民主党政権の意図のようだ。 (Congress, in a Five-Hour Hearing, Demands Tech CEOs Censor the Internet Even More Aggressively) 米国では玉虫色の超党派的な姿勢が許されなくなり、左翼独裁的な民主党エスタブ側と、万年野党に落とされたポピュリストの共和党草の根側との対立が激化していく。民主党による選挙不正の疑惑はずっと続き、不正の恒久化を狙う感じが強くなる。これは連邦と共和党系諸州の対立でもある。マスコミとオルトメディアの対立でもある。「専門家」など、ほとんどの人が米国の新事態に気づいていない。著名な専門家が「ジョージアの選挙改革は人種差別だ。共和党はダメだ」と言ってたりする。前からのことだが、自分の頭で考えていない。笑える。面白い事態だ。 http://tanakanews.com/210414election.htm
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