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エネルギー戦争で敗北しつつある帝国
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2021年1月17日 (日) マスコミに載らない海外記事
2021年1月12日
The SakerブログへのIster寄稿
ロシアのエネルギー産業に対する進行中の戦争を、帝国による復讐行為と見なすことができるが、それは敗北しつつある戦争だ。
2000年代初期に、プーチンがロシアのエネルギー埋蔵の略奪を阻止した後、この経済戦争は、発生期のロシア連邦の石油・ガス産業を、更に、ロシア経済を機能不全にするよう仕組まれていた。
この計画は、カスピ海横断の、ナブッコとバクー・トビリシ・ジェイハン(BTC)パイプライン設計から始まった。BTCパイプラインは、2005年、アゼルバイジャンのカスピ海油田から、ジョージアを経由して、トルコまで、石油を送るために建設された。次に計画されたナブッコ・パイプラインは、BTCから、オーストリアのバウムガルテン・ガス・ハブまで、アゼルバイジャン・ガスを輸送し、そこでヨーロッパのロシア・エネルギー需要に割って入るはずだった。NATOによる最終的打撃として、カスピ海横断パイプラインが、カスピ海を横断し、トルクメニスタンのガスと石油を、BTCとナブッコルートを通して、アゼルバイジャン、最終的にヨーロッパに送り、ロシアを孤立させるのが狙いだった。
ロシア-グルジア戦争も、このレンズを通すと理解できる。紛争発生の二日前、BTCパイプラインが、神秘的爆発で被害を被った。この戦争でのプーチン勝利と、それに続いた、南オセチアとアブハジア占領は、紛争地域から、わずか数マイルの、このような費用がかかる事業に、欧米エネルギー企業は投資しないだろうから、ナブッコとカスピ海横断プロジェクトは危うくなった。これら計画はぶち壊された。今、ロシア石油大手ガスプロムは、このような未来のプロジェクトに参加することから、トルクメニスタンの意欲をそぐため、直接トルクメンのガス購入協定に署名している。
クリミア再統合は、元々歴史的にロシアの領域が本来の場へ復帰したものと我々は見ているが、エネルギー戦争でも大勝利だった。クリミア紛争でのプーチンの悪夢は、ヤヌコーヴィッチ打倒が、最終的に、エネルギーが豊富な黒海でのロシア軍基地の排除となることだった。クリミアでの基地強化は、ロシアが、ウクライナを迂回し、黒海海底経由で、ヨーロッパにガスを送ることを可能にたトルコ・ストリーム・パイプライン創造に寄与した。
パイプライン戦争でのロシアの立場は、ロシア・ガスをバルト海経由でドイツに送るノルドストリーム2パイプラインに関する最近の出来事で更に強化された。当然、アメリカはこのプロジェクトを嫌っており、あらゆる手段で建設を遅延させようと努めてきた。
だが、プーチンやロシアの友人とは言えないドイツでさえプロジェクトを推進した。ガスプロムは、イギリスやオランダ、オーストリア、ドイツのエネルギー企業のパートナーとともに、パイプラインを完成するだろう。遠く離れたアメリカが反対するかもしれないが、アメリカが輸出できるものと言えば、ドイツ産業群に電力供給するのに必要なロシアのガスや石油の代用にはなれない不換ドルしかない。
2020年12月、アメリカの抗議にもかかわらず、ガスプロムはパイプライン建設を再開した。実際、ドイツのメクレンブルク=フォアポンメルン州は、最近アメリカによる将来未のプロジェクト中断の企みを事前に阻止できる、制裁を受けない法律を作る票決をした。
何という運命の変わりようか。帝国の地政学的干渉が、平和な貿易に回避され、全能のアメリカが弱まっていくのが見えるの。
だから、パイプライン戦争でのロシアの勝利は明白だが、戦争は他の分野でも行われている。これまで六年、帝国は、サウジアラビアの石油と、シェール革命で生産される天然ガスという二つの主要武器によって、価格設定戦で勝利していた。
2014年9月、ジョン・ケリーとサウジアラビア国王が会談して、石油価格戦争が始まった。バッシャール・アル・アサドを打倒する上での、アメリカ軍の支援と引き換えに、ロシア経済を弱体化させるため、サウジアラビアが原油価格を抑えるお膳立てがひねりだされた。サウジアラビアが、あらゆる主要生産国中で抽出経費が最少(2020年時点で、一バレル3ドル)なので、ロシアやイランやシリアのような、よりコストが高い石油を産出する競争相手より、ずっと安い価格で利益を得ることができる。この新しい仕組みの下で、原油価格が新安値に下落する中、東シリアでISISが作り出され、自由シリア軍はアメリカから重装備の武器を与えられた。
次の二年にわたり、ロシア経済は、ほぼ40%縮小した。比較すると、GDPが、わずか2.5%減少した後、アメリカ「大不況」は、金融システム全体をほとんど押しつぶした。プーチン下、ロシア金融政策が、正味ゼロ負債の維持に注力していたため、ロシアは巨大収縮に耐えることが可能だった。(チェチェン共和国で、イスラム主義者と戦ったかどで、ロシアを罰するよう意図した)サウジアラビアの価格抑制が、原油価格低下を加速し、1998年、ロシア金融危機をもたらした1990年代と大違いだ。ロシアが対外債務なしで活動している今、これら価格戦術は、民衆には打撃だが、もはや国家機能を危うくしない。
2020年、更に、サウジアラビアによる価格抑圧が進んでいるが、王国の長期的見通しは急落している。サウジアラビアの下にはイエメンがある。出生率の高さが、天然資源供給にまさるため、イエメンは、貧しい、急進的な若者を多数産みだしている。サウジアラビアとアメリカによる空爆に応えて、フーシ派運動は、北の隣人に対抗して、イエメンのシーア派とイスラム教スンニ派を共通の旗の下に団結させた。今イエメン反政府派は、2019年9月の攻撃が、石油価格をほぼ20%急騰させた、益々頻繁な無人機攻撃で、サウジアラビア石油施設に標的を定めている。
サウジアラビアにとって、もう一つの問題は資源枯渇だ。サウジアラビアは、残っている石油量について組織的にウソをついている。漏洩した通信が、アラムコ前副社長が、アメリカに、彼らの石油埋蔵が、実際主張しているより40%少ない可能性があると警告しているのを示している。それまでの合意は、ガワール油田は、500万バレル/日の能力があるということだった。アラムコのIPO申請は、380万バレル/日という最大容量を明らかにしている。それは、サウジアラビア石油の3分の1を産出する最大油田なのだ。
もし彼らの石油埋蔵量が問題ないのであれば、王国は、なぜこれまで5年間、うろたえたように、経済多角化の話をしていたのだろう?なぜアラムコが、IPOしなければならないのだろう?原油戦争の中で、アメリカ属国は干上がりつつあるように思われる。
エネルギー価格競争でのもう一つの武器は、シェールガス革命だった。横方向掘削と水圧破砕の新しい進歩が、それまで、アメリカが到達しにくかった「非在来型」原油やガスにアクセスするのを可能にした。多くの小規模、中規模抽出企業が2010年代半ばに急速に事業を展開するにつれ、世界は安い天然ガスで溢れ、ロシアのエネルギー収入を下げた。だが、これら企業の多くは採算性が悪く、当時利用可能だった超低金利が、数年間、損失をだしながら、企業操業を可能にしていたがゆえ、存在していたのだ。つまりロシアを傷つけた採算性が悪いシェール革命は、事実上連邦準備銀行に資金供給されていたのだ。
2020年に、この産業が莫大な弱さの兆しを示すにつれ、アメリカ・シェールの墜落が地平線に姿を現したように思われる。石油とガス破産が2019年から2020年までに四倍になり、アメリカで最も広い油井の生産水準が低下した。イーグルフォード・フィールドは2019年から30%減少し、ニオブララは35%減少し、アナダルコは40%減少した!アメリカにとって最善なのは、これらが低価格のための自発的生産減少だった場合だ。最悪なのは、これらがサウジアラビアに起きている枯渇と同じ運命、末期症状だった場合だ。
たとえ巨大アメリカ油井が以前の生産水準に戻ったとしても、破産の波は、基本的に何年も営業損失を出しながら掘削している多くの小規模生産者を市場から排除するだろう。
エネルギー戦争で、帝国が敗北しているのを示唆する他の進展もある
1.アルメニアで見せかけの訴訟でガスプロムに標的を定めたニコル・パシニャンは、プーチンに面目をつぶされた。アルメニア-アゼルバイジャン和平協定を仲介して、ロシア軍は今コーカサスを永久占領している。それが五年に限定されると本気で信じる人は、沿ドニエストル共和国という小国に、ロシア軍を、ほぼ30年配備している「暫定平和維持活動」に目を向けるべきだ。今、地域における重要なエネルギー中枢というロシアの立場は、ソ連以来のどの時点より強い。
2.アメリカ制裁に逆らって、イランは、国産部品で新石油タンカーを組み立てることで、国内造船業を再起動した。新アフラマックス巨大タンカーは原油750,000バレルの積載能力があり、イランの貿易相手に密かに石油輸送するため使われるだろう
3.サウジアラビアと類似のエネルギー埋蔵量を持った唯一の国ベネズエラに、フアン・グアイドを据えるワシントンの脆弱な努力にもかかわらず、マドゥロへは依然権力の座にあり、ロシアと中国はアメリカ制裁を避けるために今協力している。2020年中、石油船積み港がマレーシアであるかのように見えさせたロシア国営石油会社ロスネフチの支援を得て、アメリカによる発見を避け、こっそり輸送され、ベネズエラ原油が中国の港に到着した。
すると、これら事象の結論は何だろう?
第一に、ヨーロッパがロシア・エネルギーの必要性に目覚めたのがわかる。アメリカの、あらゆる大げさな話にもかかわらず、アメリカはイデオロギーで同調している国々にさえ可能な選択肢を提供できないのだ。もちろん、地中海で、亀裂から非在来型ガスを採掘するなど、場当たり的試みがあるだろうが、それらは最善でも、部分的解決にしかならない。第二に、制裁は裏目に出た。ロシア経済は、今十分復元力があり、利益も出ている。既に世界的金融システムから隔離されている国に対して経済戦争をするには、それ以上の方法はない。石油貿易では、制約が多い制裁を課すアメリカの意欲は、それを迂回したいと望む国々の創造力の返り討ちにあったのだ。とうとう、価格競争の最も厳しい期間は終わったように思われ、パイプライン戦争の勝負はついたのだ。
Isterは金融市場と地政学研究者。Isterの著書:Escape America
記事原文のurl:https://thesaker.is/the-empire-is-losing-the-energy-war/
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