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議会突入の「戦犯」は誰なのか? トランプと一族、取り巻きたちの全内幕
https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2021/01/post-95422.php
2021年1月18日(月)16時20分 ビル・パウエル(本誌記者) ニューズウィーク
ホワイトハウス近くに集まった支持者に議事堂への行進を呼び掛けるトランプ(1月6日) TAYFUN COSKUN-ANADOLU AGENCY/GETTY IMAGES
<ホワイトハウスのスタッフ、選挙陣営の補佐官、トランプ一家の友人らに取材。トランプが不正選挙の糾弾訴訟に失敗し、前代未聞の議事堂占拠を招くうえで鍵となった複数の人物が浮かび上がった>
年が明けて数日間、ドナルド・トランプ米大統領の周囲の人々は、任期の残り2週間を大きな事件もなく乗り切れるようにと、ただ願っていた。
自分たちには「願う」ことしかできないと、選挙陣営の補佐官は本誌に語った。「誰もトランプを制御できないのだから」
そして1月6日、トランプ支持者が暴走して連邦議会議事堂を踏み荒らし、その願いはずたずたになった。
昨年11月の大統領選以降、トランプは選挙結果に恨みを募らせ、ジョー・バイデンの当選の合法性を認めず、2024年の大統領選に再出馬する準備を試みた。その過程で、「選挙結果を覆せるかもしれない」という支持者の信念をたき付けた。
しかし1月6日、選挙結果の確定を前に、彼らの希望は怒りに変わった。そのときトランプ復活の望みは絶たれた。
投票日の何カ月も前からトランプはツイッターで、郵便投票が不正を誘発すると訴えていた。投票日翌日の11月4日、トランプが起床した頃には、激戦州の前夜までのリードが、主に郵便投票の開票が進んだために消えていた。トランプは票を「だまし取られた」と確信したと、後にある友人に語っている。
本誌は今回、ホワイトハウスのスタッフ、選挙陣営の補佐官、トランプ一家の友人ら6人以上に話を聞いた(いずれも率直に語るため匿名)。
トランプの確信が、複数の州で選挙結果に異議を唱える散発的な試みに拍車を掛けた。法律顧問の顔触れが次々に替わり、選挙法の専門知識があるのは数人だけ。陣営の戦略は混乱と機能不全に陥った。
陣営内外の人々が、開票結果を認めずに戦えと大統領をけしかけた。米チャップマン大学教授(当時)で憲法学者のジョン・イーストマンは、カマラ・ハリスの出生をめぐって副大統領になる資格を疑問視する論説を本誌に寄稿し、トランプの関心を引いた。ちなみに、イーストマンの指摘は広く否定されている。
身内では、長男のドナルド・トランプJr、スティーブン・ミラー大統領上級顧問、私的な顧問弁護士のルディ・ジュリアーニ、マイケル・フリン元国家安全保障担当大統領補佐官などが強硬論を唱えた。スティーブ・バノン元大統領首席補佐官・上級顧問と保守系ラジオの司会者マーク・レビンはラジオやポッドキャストで、不正行為があったと執拗に繰り返した。
ホワイトハウス関係者や家族の友人によると、トランプの長女イバンカと娘婿のジャレッド・クシュナーらは、選挙の不正をめぐる戦い方について慎重だった。
イバンカ夫妻の友人は次のように語る。「しかるべき時が来たら身を引かなければトランプの名誉が傷つくと、彼らは懸念していた」
バノン(左)、長男のトランプJr(中)、フリン(右)らは大統領選で不正が行われたと執拗に主張した FROM LEFT: ANDREW KELLY-REUTERS, DARREN HAUCK/GETTY IMAGES, JONATHAN ERNST-REUTERS
トランプは2人には早くから、平和的に退任するつもりだと話して安心させていたという。11月26日には、選挙人の投票結果が認定されたら退任するかと記者に問われて、「もちろん、そうするつもりだ」と答えている。
もっとも、トランプはこう付け加えずにいられなかった。「しかし、今から1月20日までに多くのことが起きるだろう。大規模な不正が発覚した。まるで第三世界の国だ」
■暴走する弁護団の主張
その頃には既に、不正疑惑を追及するトランプの試みは混乱していた。陣営に加わったシドニー・パウエルは、フリンがロシア疑惑をめぐってFBIに偽証した罪で起訴された際に弁護人を務めてトランプの目に留まった人物だ(フリンは罪を認めたが後に撤回。昨年11月にトランプが恩赦した)。
フリンはホワイトハウスにパウエルを同行した。11月中旬の記者会見でパウエルはジュリアーニらと並んで立ち、次々に陰謀論を繰り出した。投票集計機メーカーのドミニオン・ボーティング・システムズの裏にベネズエラがいるという主張も、その1つだ。
パウエルの主張はあまりに荒唐無稽だったため、ホワイトハウスの法律顧問パット・シポローニは陣営を代表する立場でしゃべらせるべきではないとトランプに助言した。
トランプの家族もパウエルの発言に「ドン引き」していたと、ホワイトハウスのスタッフは明かす。11月22日にジュリアーニと陣営の弁護士ジェナ・エリスは声明を出した。いわく、「シドニー・パウエルは......トランプの法律チームの一員ではなく、トランプが個人的に雇った弁護士でもない」。
パウエルを引っ込めることを渋々認めたトランプだが、「選挙は盗まれた」という思い込みは揺るがなかった。ジュリアーニとエリスは重要な激戦州で不正投票がなかったかを調べ始めた。
トランプが気を良くしたのは、イーストマンが保守系テレビのFOXニュースとニュースマックTVに出演し、いくつかの州の選挙人票は憲法上無効だと主張したことだ。
その論拠は? それらの州では、地方裁判所が州議会の承認なしに郵便投票に関するルールを変えていた。例えば郵便投票の署名が有権者登録ファイルの署名と一致しなくても有効と見なされる、といった具合に。合衆国憲法第2章には大統領選挙で「各々の州はその立法部が定める方法により......選挙人を任命する」と明記されている。
イーストマンによれば、ペンシルベニア、ジョージア、アリゾナの各州では立法部、つまり州議会の役割を裁判所か州務長官が奪ったため、これらの州の選挙人票は憲法に照らせば無効だというのだ。
■目的は4年後の再出馬
ラジオ司会者のレビンは11月末からこの主張を毎晩自分の番組で流し始めた。1月6日に連邦議会で選挙人票の確定作業が行われるときに、マイク・ペンス副大統領が一部の選挙人票を無効と宣言する──トランプはそんな展開に望みを託すようになった。
この主張の法的根拠はともあれ、法律顧問も含めホワイトハウスのスタッフはこの頃には裁判で選挙結果を覆すのは難しいと考え始めていた。
イバンカとクシュナーは不正をめぐる戦い方には慎重だった CARLOS BARRIA-REUTERS
テキサス州はイーストマンの主張を根拠にミシガン州やペンシルベニア州などの選挙人票を無効とするよう連邦最高裁に訴えた。イーストマンが原告側弁護人となり、トランプも原告団に加わろうとしたが、最高裁はこの訴えを退けた。テキサス州が他州の選挙人票の正当性に異議を唱える資格がないのは明らかだ。
「こんな訴えが受理されるわけがない。バカげている」と、元法律顧問は吐き捨てる。
法廷闘争が行き詰まるなか、トランプの政治顧問たちはあることに気付いた。「盗まれた選挙」の訴えは政治的に利用できる、ということだ。
トランプの「4年後の大統領選出馬に向けた地ならしになると、誰かが言いだしたわけではないが、誰もがそう思っていた」と、ホワイトハウスのスタッフは認める。
主流派メディアは選挙不正の訴えを「根拠なし」と切り捨てたが、12月初旬の世論調査では共和党支持者の77%が選挙は「不正操作された」と信じていた。トランプは4年後をにらんで今回の選挙の不正を訴え続ける覚悟を固めた。
だからこそ12月1日にホワイトハウスでクリスマスパーティーを開いたとき、支持者に向かってこう言ったのだ。「われわれはあと4年務めようとしているが、それがかなわなければ4年後に会おう」
聴衆は歓喜し絶叫した。
12月末までは、トランプ陣営から見れば、その政治戦略はうまくいっていた。選挙結果に異を唱えるトランプを彼の支持基盤は団結して支持していた。しかし訴訟戦略は揺らいでいた。トランプ側が全米からかき集めた「不正」は実体のないものばかりで、大半がイーストマンの指摘どおり、証拠うんぬんではなく手続き上の理由で却下された。
12月18日、フリンは再びホワイトハウスでの会議にパウエルを同行。トランプは彼女を選挙不正を捜査する特別検察官に任命するつもりだったが、マーク・メドウズ大統領首席補佐官らが強く反対。電話で参加したジュリアーニも反対した。会議は紛糾、怒号が飛び交った。パウエルはトランプに選挙結果を覆す戦いを「放棄」するべきではないと力説したが、結局トランプは任命を断念した。
トランプはフロリダ州の別荘で家族とクリスマス休暇に入ったが、彼の頭の中では選挙不正をめぐる戦いがピークを迎えていた。毎年恒例の新年のパーティーも取りやめ、12月31日にワシントンに戻った。(新型コロナ関連の追加経済対策に盛り込む)1人2000ドルの直接給付金を推進しているとアピールするためでもあったが、「主に上下両院の議員たちに『6日』の件でハッパを掛けたかったからだ」とある選挙参謀は言う。
「6日」とは大統領選の投票結果を認定する1月6日の上下両院合同会議──バイデンの勝利確定の最終プロセスだ。複数の消息筋によれば、イーストマンは(上院議長である)副大統領にはペンシルベニアなど接戦州の集計結果を認めず州に差し戻す権限がある、とトランプを説得。バノンは自身のポッドキャストで、ジュリアーニら弁護士が不正の証拠を握っており、ペンスは「正しいことをする」べきだ、と主張し続けた。
1月4日、ジョージア州の上院選決選投票の応援演説で、トランプはペンスが行動しないなら「彼をよく思わなくなるだろう」と暗に圧力をかけた。トランプは自分が「強い立場」のつもりでこんな発言をしたと、側近らはみている。2024年の大統領選で最有力候補になる、たとえ出馬しなくても共和党の最有力者として後継者を決められる。結局、自分ほど大衆を引き付けられる人間はいない、と。
■「最後まで戦う」はずが
1月6日朝、それは一目瞭然だった。ワシントンに「盗みをやめろ」と訴える数万人が集結。トランプは彼らに「平和的かつ愛国的に」議事堂に向かって行進するよう呼び掛けた。バイデンの勝利認定を阻止したいとの思惑からだ。だがわずか数時間後、彼はホワイトハウスでデモ隊が議事堂に突入する映像を目にし、ペンスは議事堂から急いで避難する羽目になった。
トランプと彼の家族や忠実な側近にとっては最悪の出来事だった。集会はトランプの政治的将来のため──最後まで戦う姿勢を示すためだった。だが1日が終わる頃には、それはもはや不可能になっていた。家族ぐるみの友人の中でも「これが大惨事だったと考えていないのは取り巻き中の取り巻きだけ」だと、友人の1人は語っている。
トランプ一族も個人的代償を払った。クシュナーの義妹でモデルのカーリー・クロスは、「民主的に行われた選挙の結果を受け入れるのは愛国的、受け入れずに暴力を引き起こすのは反米的」だとツイート。義兄夫婦にそう伝えたらとフォロワーに聞かれると「もうやってみた」と答えた。クシュナーとイバンカはこの公開の場でのやりとりに激怒したという。トランプワールドでは忠誠が第一なのだ。
だがイバンカ夫妻も、友人や知人の多くがクロスと同じ気持ちだと気付いている。「彼らは関係修復に取り組むべきだと分かっている」と夫妻のニューヨーク在住の友人は言う。「2人ともばかじゃない」
議事堂突入の1週間後、上院でのトランプの2度目の弾劾裁判が決定。4年間トランプと密接に連携してきたミッチ・マコネル共和党上院院内総務もトランプは弾劾に値する罪を犯したと周囲に語った。大統領就任当初からの側近の1人は落胆を隠さない。「一時は、選挙結果を覆せないと分かっていても、自分たちの勝ちだと考えていた。実際、勝っていた。あんな大混乱になるまでは」
<本誌2021年1月26日号掲載>
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