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2024年2月25日 07時01分
https://www.tokyo-np.co.jp/article/311289?rct=hissen
永井荷風に「震災」という詩がある。「われは明治の兒(こ)ならずや。/その文化歴史となりて葬られし時/わが青春の夢もまた消えにけり。」−
震災とは1923(大正12)年の関東大震災。荷風は震災が江戸の残映や風情までも奪ってしまったと嘆いている。「江戸文化の名残烟(けむり)となりぬ。/明治の文化また灰となりぬ。」。荷風の慟哭(どうこく)が伝わってくる。
設立のきっかけはその大震災だった。25日で発足100年の節目を迎える落語協会である。震災で寄席が焼失。落語文化の危機の中、東京の落語家が「大同団結」を図った。
そこから1世紀。協会と落語は戦争や貧困の時代も乗り越え、テレビ・ラジオやネットなどの娯楽のライバルたちとの競争にも生き残った。
変化との闘いでもあっただろう。100年前とは言葉も暮らしも大きく変わった。「へっつい」(かまど)を知らぬ世代に「へっつい幽霊」を語るのは難しかろう。廓(くるわ)、花魁(おいらん)と口にすれば気を悪くする人もいる時代である。
それでも落語が生き延びたのは噺(はなし)の中に生きる住人たちの魅力に他なるまい。ケチ、意地っぱり、見えっぱり。人の本質を隠さぬ笑いと情の世界は複雑な「今」を生きる者も楽しませ、慰めている。荷風の惜しんだ江戸文化の「烟」。その烟がかすかとはいえ令和の寄席にもただよっているのがありがたい。さて次の100年。烟の無事を祈る。
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