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2023年6月11日 12時00分
https://www.tokyo-np.co.jp/article/255977
自動車の安全な走行や維持管理に欠かせない自動車整備。その職責を担う自動車整備士の不足がいよいよ深刻になってきた。少子化などを背景に、なり手不足が叫ばれて久しいが、都心部では「整備の空洞化」とも言える事態が表面化しつつある。車が高度化・情報化し、整備士に求められる技術や責任がいっそう高まる中、整備士人材を育て、定着させていく術すべはあるのか。(岸本拓也)
「東京の都心部では『整備の空洞化』はもう始まっている。何か手を打たないと、近い将来、都心で対応できる整備工場はなくなるかもしれない」
JR秋葉原駅に程近い一角で、整備工場を営む福井自動車(千代田区)の土田千恵社長(56)はきっぱりとした口調で言い切った。
同社は、江戸時代に木と木を組み合わせて家具や建具などをつくる指物さしものを祖業とし、時代と共に業態を変えて現在は自動車整備を主な生業としている。安政の大地震、関東大震災、戦災と三度の被災を乗り越え、170年以上にわたって地域に根付いてきた。だが今、会社を取り巻く環境変化に憂いは募るばかりだ。
◆安すぎる委託料で増える業務 補充も難しく
7代目となる土田さんが会社を継いで10年がたった。周りを見渡すと「私が社長になったときは、この付近に40社くらいあった民間の整備工場が今では12社くらいに減った。昨年も2社がやめた」。
背景には、東京特有の事情があるという。国土交通省のデータによると、この10年で都内の自動車保有台数は約440万台でほぼ横ばいだが、車の整備を行う認証工場と整備士数は10%以上減っている。単純計算で仕事量が1割増えたことになる。
さらに、千代田区のような都心部で、整備工場が請け負うのは、個人の自家用車ではなく、企業の社用車や官公庁の公用車が中心。福井自動車でも顧客の8割近くが法人だ。
問題は、社用車などの多くを保有する大手リース会社から委託されるメンテナンス料金が安すぎることだという。土田さんは「委託料は、自家用車と比べてざっくり半分くらい」と明かし、「単純に2倍働かないと売り上げが同じにならない。安請け合いしてどんどん工場が高稼働になって整備士が疲弊してやめていき、でも整備士不足で新しい人が採れない。完全に悪循環に陥って疲弊し、経営者の高齢化や後継者不足も相まって廃業を選ぶ同業者が増えている」と話す。
地価の高い都心部では整備工場を畳んでも、マンションやコンビニ経営に切り替えたりしやすいことも廃業を加速させる遠因になっている。
その結果、生じているのが「空洞化」だ。「いま都心のリース会社は委託先を探すのに苦労していて、うちも『何とか5台だけお願いできないか』とよく頼まれる。でも、言われるがままにやっていてはこちらが疲弊するだけ。適正な料金で支障がない程度しか受けていない。そうやって自衛していくしかない」と土田さんは語る。
現在、会社には30〜50代の整備士が5人在籍し、仕事は問題なく回せている。しかし、先行きを考えると、不安が付きまとう。「もし欠員が出たり、定年を迎える人が出たりしたとき、今の人手不足の中で新しく整備士を雇える自信は全くない。どうやったら整備工場で人を雇い、定着する環境をつくれるのかは業界全体が考えないといけない重い課題だ」
◆整備士、10年で1万6000人減 志望者も増えず
地域や会社によって深刻さに濃淡はあるが、整備士不足は全国的な問題だ。
日本自動車整備振興会連合会の整備白書によると、整備士は2011年度の約34万7000人をピークに減少に転じ、22年度は約33万1000人と、10年ほどで約1万6000人減った。近年は女性や外国人の採用も増えているが、減少傾向に歯止めがかからない。
整備士を志す人も減っている。資格を取得するための自動車整備士試験の申請者数は21年度が約3万8000人と、ピークの04年度(約7万2000人)と比べてほぼ半分に。白書は、その背景を「人口減少や待遇面の不満だけでなく、趣味の多様化がもたらす若者の車離れなども影響している」と分析する。
◆EVも旧車も対応求められるのに「待遇見合っていない」
最近は自動ブレーキなどの高度な先進安全装備や、電気自動車への対応も求められる。車の性能が上がって平均使用年数は長期化しているため、古い車に対する技能や知識も必要だ。都内の専業の整備工場で働く整備士の男性(45)は「新たに覚えることは山ほどあるが、待遇が見合っているのか疑問に思うことはある」とこぼす。
その待遇には濃淡がある。整備白書によると、自動車整備要員の22年度の平均年収は、新車ディーラーが約480万円と全産業平均と遜色はないものの、専業の整備工場は約370万円。会社の規模によって格差が大きい。
◆「手抜き車検」の一因に 揺らぐ安全
人手不足は車検不正など「手抜き」を招く要因にもなっている。21年には、東京都や愛知県のトヨタ自動車系列ディーラーなどで必要な検査を行わない不正が相次いで発覚。ディーラー側は「慢性的な人員不足」を一因に挙げた。
国土交通省の有識者検討会が3月にまとめた報告書では、日本では整備不良が原因の交通事故率が0.1%と、1〜2%程度ある欧米と比べて低い理由として、「とりわけ整備士の貢献が大きい」と指摘した。だが、不正を招く人手不足は、安全な車社会の足元をぐらつかせている。
国も整備士不足に強い危機感を抱き、業界団体と組んで高校生に整備士の魅力をPRしている。岸田文雄首相は昨年1月、都内のディーラーで整備士らと意見交換し、人材獲得や定着には、「賃上げも考えていかなければいけない」と話した。
◆賃金も働きやすい環境の整備も大事
しかし、整備士の労務管理に詳しい社会保険労務士の本田淳也さんは「賃金も大事だが、やりがいや人間関係といった職場環境を整える方が有効だ」と話す。「工具が散乱していたり、作業手順がマニュアル化されず、無駄な時間を取られるような工場はまだ多い。仕事の進め方を一つ一つ見直して業務量を減らせば、生産性が上がり、人材の定着にもつながる」
先の有識者検討会で委員を務めたリクルートの調査研究機関「ジョブズリサーチセンター」の宇佐川邦子センター長も、若者だけでなく、女性や中途採用など新たな人材を呼び込むには、業界の慣習に根付いた働き方を改める必要があると指摘する。
「年末や決算期の商戦を理由に、車検が特定時期に集中し、繁閑差が激しいのが整備業界の特徴。繁忙期は残業や休日出勤もざら。これでは働き方を重視する若者だけでなく、子育て世代が離職するリスクも上がる」とし、車検の受け入れ時期をずらして仕事を平準化したり、複数の整備士でチームを組んで休みの調整をしやすくするといった具体策を挙げ、こう続ける。
「いろんな産業が若者や人材の取り合いをする中で、これをやれば解決する、というようなうまい話はない。働き手が何を求めているのかくみ取り、小さなことでも草の根で取り組んでいく事が大事だ」
◆デスクメモ
物流業界のドライバー、福島第一原発の廃炉作業員…いずれも最近、東京新聞「こちら特報部」で人手不足を伝えた業界だ。自動車整備士もそうだったということだが、重労働で将来性にも不安があるのに、待遇がよくないという共通点がある。人の手でなければ、という仕事をもっと大事にしないと。(歩)
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