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2022年5月3日 06時00分
https://www.tokyo-np.co.jp/article/175183
新型コロナウイルス特別措置法に基づく営業時間の短縮命令は「営業の自由を保障した憲法に違反する」などとして、飲食チェーン「グローバルダイニング」(東京)が東京都に賠償を求めた訴訟の判決が16日、東京地裁である。この2年余り、責任の所在があいまいな要請などに振り回されてきた飲食店。戦後の新憲法下で自由を謳歌おうかして育った同社社長と、「空気」が支配する社会を危ぶむ代理人の弁護士は、法廷で日本の民主主義を問いかける。(小嶋麻友美)
◆命令出した32店舗中26店が同社「狙い撃ちだ」
東京都は2021年3月18、19日、緊急事態宣言下の時短要請に応じなかった飲食店計32店に対し、過料の行政罰を伴う時短命令を出した。このうち大半の26店が同社の店舗だった。「狙い撃ちじゃないか」と怒った長谷川耕造社長(72)は同月22日に提訴した。
同社は首都圏を中心に、イタリア料理店「ラ・ボエム」や「モンスーンカフェ」など40店以上を展開。コロナ禍1年目の20年には、東京・銀座の5店舗が閉店に追い込まれ、同年12月期の損失は約15億円に上った。借り入れも限界に達し、年明けの21年1月にホームページで、1日6万円の協力金では雇用が維持できないなどの理由とともに「宣言発令後も平常どおり営業する」と社長名で発表した。都の命令書では、同社が時短要請に応じない考えを「強く発信」した点も理由に挙げていた。
戦後生まれの長谷川社長は「民主主義のありがたさを感じて生きてきた」と語る。社内でも「自由」を重んじ、情報公開とオープンな議論を徹底してきた。コロナ禍では「強制力のない『要請』に、皆がはいはいと従うのはおかしくないか」と感じた。一人で行政に立ち向かうことに迷いもあったが、民主主義の危機感から「一石を投じる」と提訴を決意した。
◆「市民同士で監視、不信があふれている」と危惧
長谷川社長の背中を押したのは、倉持麟太郎弁護士(39)だ。法的強制力のない「自粛」や「要請」で人々が行動変容を迫られ、弱い立場ほど追い込まれる現状に疑問を抱いていた。長谷川社長と面識はなかったが、ともに闘いたいと代理人を買って出た。
倉持氏は、強い権利制約とあわせて救済措置も備える欧米などと比べると、日本は「ゆるふわな『要請』で救済も不十分」と指摘する。同調圧力が強い日本で責任が個人に転嫁され、政府には都合がよいとみる。「市民は権力を監視し、市民同士は連帯するのが民主主義社会のはずだ。今は逆に市民同士で監視し、不信があふれている」と危惧する。
都への請求額はたったの104円。一方、訴訟費用を支援するクラウドファンディングでは、約3600人から2500万円が集まった。飲食関連の納入業者や個人事業主など「声なき声」が加勢する。倉持氏は訴える。「一飲食店の訴訟ではない。空気が支配する社会でよいのか。答えとなる判決を期待したい」
◆命令が「特に必要」かどうか、法の下の平等も争点
新型コロナウイルス特別措置法は、国民の自由や権利の制限について「必要最小限のものでなければならない」とした上で、緊急事態宣言やまん延防止等重点措置の発令時に「必要」と認められれば自粛を要請できるとしている。「正当な理由」がなく、要請に応じない場合の命令は「特に必要があると認めるとき」と厳しく限定している。
今回の訴訟は、都の時短命令が「特に必要」といえるかどうかが争点の一つ。原告のグローバルダイニング社側は、判断根拠が不明だとし、雇用の維持など「正当な理由」もあったと訴える。2020年1〜3月の緊急事態宣言下、都は飲食店など約9万5000店を目視で調査し、2000店以上が時短要請に従っていないことを確認したが、命令発出は32店。「狙い撃ち」としか考えられず、憲法が保障する法の下の平等に反するとも主張する。
これに対し、都側は影響力の強い同社が要請に応じないと発信したことで「他の事業者の不協力を助長し、感染リスク増大を誘発する」などと反論している。
都はこれまでに、時短や酒類提供の禁止などの命令を計192店に出し、命令に従わなかった155店に対して15万〜30万円の過料を裁判所に求めた。グローバルダイニング社は、21年4〜7月の緊急事態宣言下の過料を巡っても、抗告して争っている。
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