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2022年4月24日 07時25分
https://www.tokyo-np.co.jp/article/173570
ゾウというのは、性穏やかなイメージと悠揚迫らざる雰囲気で、動物園でも人気の動物です。しかし、その特徴は何といっても、あの巨体でしょう。かなり前になりますが、ケニアのサバンナで野生のアフリカゾウ十頭ぐらいにサファリ用のミニバスを囲まれた時には、恐怖さえ感じました。
◆「拒否権」という不平等
そのサイズが肝ともいうべき英語の慣用句にelephant in the roomというものがあります。そのまま「部屋の中のゾウ」ですね。
ロシアの寓話(ぐうわ)に起源がある表現のようですが、あれほど大きな動物が部屋の中にいて気がつかないなんて…というわけで、重大な問題があるのは明らかなのに、それを議論の対象にすると居心地が悪くなるので、その問題が存在していないみたいに振る舞う、といった場合に用いられるようです。
さて、ロシアによるウクライナへの侵攻が、白日の下にさらした酷薄な世界の現実の一つが、国連の限界でした。その根幹は、安全保障理事会の機能不全です。常任理事国の一つが国連憲章も国際法も無視した侵攻の当事国なのですから当然、ロシアへの非難決議一つままならない。ウクライナのゼレンスキー大統領は安保理緊急会合にオンラインで参加し、安保理に「改革するか、解散するかだ」と迫りました。
安保理の問題こそ、「部屋の中のゾウ」に思えます。重大な問題があるのは明らかなのに、あたかも、そうでもないみたいに世界は国連と接してきたのですから。
その問題の核心を、ある悪名高き人物が二〇〇九年、初の国連演説に臨んでズバリと言ったことがあります。「国連では、大国も小国も平等だというが、常任理事国に拒否権がある安保理は平等か。ノーだ」
◆核保有の「二重基準」
発言者は「中東の狂犬」とも呼ばれた当時のリビア最高指導者カダフィ大佐。無論、ウクライナ大統領の時とは違い、各国もメディアも聞き流しましたが、指摘はもっとも至極です。
米、英、仏、中、ロという第二次世界大戦の戦勝五大国だけが常任理事国を占め、それぞれが拒否権を持つ。国連は各国の「主権平等」を原則に掲げ、国連憲章前文では明確に「大小各国の同権」をうたっているのにです。中ロはともかく、民主主義を奉じる米英仏までがこの矛盾、非民主的な状況を放置してきているわけです。
ロシアによる武力侵攻は無論、暴挙ですが、その後、プーチン大統領が核兵器使用をほのめかしたのにはまた驚き、あきれました。
ソ連崩壊後、独立国家となったウクライナは米ロに次ぐ規模の核兵器を保有していましたが、それを放棄し、核拡散防止条約(NPT)にも非保有国として加盟する道を選びました。その際、ほかならぬロシア、米国などとウクライナの主権と領土の安全を保障する「ブダペスト覚書」を締結しているのです。なのにロシアは、武力侵攻でその約束を完全に反故(ほご)にしたばかりか、核をちらつかせて威嚇しているのですから、もう非道というほかありません。
ただ、一九七〇年に発効したNPT体制が抱える問題ももう一頭の「ゾウ」かもしれません。例の五大国にのみ核兵器保有を認め、その他の国には保有を許さないという取り決めなのですから二重基準そのもの。しかし、それでも、日本など百八十を超える国・地域は、いわば部屋にゾウなどいないというように、その明らかな矛盾に目をつぶって、非保有国として加盟し核不拡散を支える枠組みとして重要視しています。
◆矛盾抱えた世界秩序
現下は、五大国の中の米英仏、それに日本など多くの国が一体となってウクライナを救い、ロシアに相応の責任をとらせることが急務だ、ということは理解しています。そんなタイミングで、世界の戦後体制の核心にある「五大国の特権」という矛盾を云々(うんぬん)するのは的外れなのかもしれません。そもそも五大国に拒否権や核兵器を捨てさせるなんて現時点では夢物語に近い。遅々とした歩みでも、既に長く議論されている安保理改革や、NPTの約束に沿った核保有国の核軍縮進展に期待すべきだと指摘されれば反論はしません。
さらに、今は、国連やNPT体制の矛盾をあげつらうより「国連も国際法も頼りにならない」「核兵器を保有しないと危ない」という単純で剣呑(けんのん)な考えが広がるのを防ぐべき時だとの見方に、異論はありません。矛盾を抱えながら戦後、曲がりなりにも世界を律してきた秩序を軽くみているつもりも毛頭ありません。
しかし、それでも、です。
部屋の中にゾウはいます。
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