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日本がこの先もずっと低成長しか望めない理由 実質成長率はせいぜい0.6%
東洋経済 2020/02/02
昨今の経済現象を鮮やかに切り、矛盾を指摘し、人々が信じて疑わない「通説」を粉砕する――。
野口悠紀雄氏による連載第7回は、前回「日本はこの先もずっと経済成長を維持できるか」(2020年1月19日配信)に続いて、日本の経済成長の未来を大胆に予測する。
IMFは0.7%だが、日本政府は1.4%
2020年の日本の成長率に関して、さまざまな機関が予測を発表しました。
政府の経済見通しでは、2020年度実質成長率は1.4%です。
日本銀行が公表した「経済・物価情勢の展望」(展望リポート)では、実質成長率を、2019年度は0.8%、2020年度は0.9%、2021年度は1.1%としています。
国際通貨基金(IMF)は、世界経済見通し(WEO)で、2020年の日本経済の実質GDP成長率を0.7%としました。2021年は0.5%ですが、これは潜在成長率に近い値だとしています。2020年は、政府の経済政策によって、これより高い成長率が実現するとしているのです。
以上をまとめると、下の図のとおりです。
(外部配信先では図表やグラフを全部閲覧できない場合があるので、その際は東洋経済オンライン内でお読みください)
日本政府の見通しがかなり高いこと、それに対してIMFの見通しがかなり低いことが注目されます。
政府の高い成長見通しを反映して、税収も高い伸びになっています。
安倍晋三首相は1月20日の施政方針演説で、「来年度予算の税収は過去最高となりました。公債発行は8年連続での減額であります」と述べました。
確かに、2020年度の税収見通しは、63.5兆円で過去最高です。しかし、これは、かなり高い経済成長を想定しているからです。
2019年度当初予算でも、62.5兆円の税収を見込み、安倍首相は施政方針演説で、「過去最高」としていました。しかし、実際には、法人税などが落ち込んだため、補正予算で60.2兆円に下方修正されました。
2020年度も同様の結果となる可能性が高いと考えられます。
このように、経済成長率の見通しは、さまざまな政策の評価に大きな影響を与えます。
1年間の予測ですらそうなのですから、長期にわたる経済成長率の予測は、政策評価に大変大きな影響を与えます。
そこで、日本の長期的な成長率はどの程度の値かについて、さらに立ち入って考えましょう。
経済成長を考える基本式
一定の仮定の下で、経済成長に関する次のような基本式(以下、基本式Aとします)を導くことができます。
実質経済成長率
=ax(労働の成長率)+(1−a)×(資本ストックの成長率)+(技術進歩率)
…… 基本式A
つまり、労働や資本、ストックが増えれば経済が成長するが、それだけでは説明できない要因による影響もあるということです
ここで、aは労働の分配率です。さまざまな実証分析の結果から a=0.6程度と考えてよいでしょう。
基本式Aで「技術進歩率」として示した項は、「全要素生産性(TFP)上昇率」と呼ばれることもあります。
2019年の公的年金の財政検証は、上式を用いて、日本の長期的な成長率の分析を行っています。
ベースラインとして想定すべき値
基本式Aを用いて、日本経済の長期的な成長率を評価してみましょう。
(イ)労働力の成長率はマイナス0.9%
国立社会保障・人口問題研究所が、将来人口の推計を行っています。その結果(出生中位、死亡中位)を用い、年齢階層ごとの労働力率が現在と変わらないとして将来の労働人口を計算すると、下の図のようになります。
労働人口の増加率は、2020年から2060年の平均では、マイナス0.9%となります。
これは、労働力の増加について現在から格別の変化がない場合における状況です。
以下では、ベースラインとして、この数字を用いることにしましょう。
(ロ)資本ストックの成長率はゼロ
国民経済計算によると、固定資本の名目値は、2010年以降の平均では、ほぼ0.9%の成長率で増えています。
しかし、実質値でみると、ほとんど増加していません。
上のグラフに示すように、「固定資本ストックマトリックス(実質:連鎖方式)」における2011年連鎖価格での固定資産合計額は、ほとんど不変です。2008年末には1697兆円であったものが、2012年末には1651兆円にまで減少しました。
その後、増加していますが、2018年末で1686兆円になったにすぎません。
つまり、ここ10年程度の期間の日本の設備投資は、資本減耗(減価償却)を補填するにすぎないものでしかなかったということです。
したがって、ベースラインとしては、資本ストックの成長率をゼロとすることが適切でしょう。
なお、2019年財政検証では、資本ストックの増加率は、2020年には0.9%であり、2039年の0.2%まで徐々に低下していくとしています。
実質成長率はマイナス0.4%程度
以上をまとめると、基本式Aから、「労働と資本の寄与による実質成長率は、マイナス0.4%程度」ということになります。
前回、財政検証ではTFPを除いた場合の実質成長率は、マイナス0.3%からマイナス0.5%程度であると言いました。この中央値は、上で見たのとほぼ同じものです。
(ハ)技術進歩率は1%程度?
基本式Aの第3項は、労働や資本で説明できない経済成長です。
将来の予測を行う場合には、この大きさをどのように想定するかによって、結果が大きく変わります。
その中身は、通常言われる技術進歩だけでなく、規制緩和によって新しい事業ができるようになることなども含みます。このように、ここにはさまざまなものが含まれるため、その見通しは非常に難しいのが現実です。
過去のデータで計算しても、それは「労働や資本という明確に捉えられる要因による経済成長率と実際の経済成長率の差」として計算するだけなので、それが一体どのようなものであるかはわかりません。
そしてこのような要素が、成長寄与要因の中でかなり大きな比率を占めているのです。
公的年金財政検証では、「『平成19年度年次経済財政報告』等において、1%程度の水準まで高まっているとの分析がある」ことを引用しています。
そして実際の計算では、0.7%から1.3%までの値を想定しています。
政策の評価が変わってくる
技術進歩率として1%を想定すると、すでに述べたことと基本式Aから、潜在成長率は0.6%程度ということになります。
これは、従来の長期見通しで想定されていた値よりはかなり低めです。このため、さまざまな政策の評価が変わってきます。
財政収支試算は、「いつになっても目標は達成できず、むしろ赤字は拡大する。財政危機は深刻化すると」と読むべきです。
そして「財政健全化は、消費税の増税や社会保障費の思い切った削減を行わない限り、実現できない」と読むべきでしょう。
公的年金財政検証は、「所得代替率は引き下げざるをえず、年金財政は破綻する」と読むべきでしょう。そして「それに対処するには支給開始年齢を70歳に引き上げる等の措置が必要になる」と読むべきでしょう。
高い成長率を想定する場合には、なぜそのように考えてよいかを明示する必要があります。
そうでなければ、将来予測は、深刻な問題を覆い隠す目潰しにしかなりません。
また、参考ケースを示すのであれば、楽観的な見直しを示すのではなく、慎重な見通しを示すのが望ましいです。
上で述べたように、説明できる成長要因である労働と資本だけをとれば、多分マイナス成長になるのです。ですから、慎重な見通しを示すのであれば、ゼロ成長の場合にどうなるかを示さなければなりません。
https://toyokeizai.net/articles/-/327177
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