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相続対策のタワマン節税・アパート投資が子どもを苦しめる、これだけの理由
https://biz-journal.jp/2022/05/post_296936.html
2022.05.21 05:30 文=牧野知弘/オラガ総研代表取締役 Business Journal
タワーマンション(「gettyimages」より)
不動産価格はなかなか下がらないどころか、都心部はどんどん高くなる。新築マンション価格は東京都区内ではすでに8000万円台の大台に乗り、一般庶民には到底手の届かないものになってしまっている。
こうした状況の背景には、国内外の投資家マネーが入っていること、パワーカップルと呼ばれる夫婦共働き世帯が夫婦ダブルローンで背伸びしてでも買っていることなど、いろいろいわれているが、実はマンション価格を釣り上げている大きな要因が、高齢富裕層による節税目的のマンション投資である。
空き家戸数が全国で848万戸におよんでいるかたわら、住宅の新築着工戸数は年間で83万戸。人口が減少に向かい高齢化が急速に進むのに、そんなに家が足りないのか、これも不思議な現象だ。住宅着工が多いと聞くと、マンションや戸建て住宅の供給が多いように感じがちだが、実態は違う。着工戸数の約半数は貸家、つまりアパートである。アパート建設が相続税を節税したいという目的からさかんに建設されている。
マンション購入とアパート投資は、いずれも不動産を使った節税目的が後押しをしているのである。一般庶民とは関係なく、日本の不動産マーケットはとにかく税金を少しでも安くしたいという歪んだ欲望のもとに成り立っているのである。
アパート投資による節税は、節税だけに目的を絞り、需給バランスにほとんど目を向けなかったことから、競合が続々誕生する。たとえば郊外の田園地帯。とても多くのテナントがいるとは思えないところでアパート建築が相次ぐのは、節税したい地主が多く、そうしたオーナーを目当てに野放図に営業するアパート業者、税理士、金融機関がいるからだ。だが建設した後が問題だ。テナントがつかなければ運用収入がなくなる。賃料保証がある期間は安心だが、保証期間が切れると地獄の幕開けである。
アパートは賃貸マンションよりも安普請のものが多いため、大規模修繕や設備機器の劣化も早い。こうした工事関係も当初のアパート業者が仕切る。他社に頼めば賃料保証は受けられなくなる。悪循環である。
マーケットから放り出されたアパートは、相続されたのちも子供たちがこれを引き継ぐことになる。資産性がある優良な賃貸資産であればよいが、田園地帯に佇み、相続される頃にはややくたびれてしまったアパートを相続した子供たちの未来はどこにあるのだろう。借入金をなるべく多く調達すれば節税効果はさらに増します、といわれていたはずだ。その借入金の元本は、あまり減ることなく相続発生後に子供たちに引き継がれている。
「貸した金返せよ」の声がリフレインする。だが返済原資であるはずのテナント賃料がままならない。アパートも売却できればよいが、どうだろう。田園地帯の中にある、空き住戸の多いアパートを何の理由で買う投資家がいるというのだろうか。この頃になると金融機関も頭を抱え出す。担保であったはずの土地建物の評価額が下がってしまうと、貸し付けた元本の回収ができるのかどうかという懸念が持ち上がっているだろう。差し押さえたところで、やはりマーケットで売却できないならば、今度は金融機関が抱え込むよりほかに術がなくなる。
不動産業者は涼しいものだ。もう売却してしまったし、運用での手数料なんてしれたものだ。すでにその後に建設したアパートの営業に忙しく、新築物件にテナントを連れて行ってしまうなんていう悪辣な行為もお手のものだ。家賃保証もトリガーにかかれば簡単に外すことができるからだ。
結局、相続した子供たちは親が残したパッとしないアパートと多額の借入金に悩まされ、潤沢に現金でも持っていない限り、せっかく親から譲り受けた土地を売却して返済するしかない。売却できなければ自己破産が待っている。良かれと思って始めた不動産投資が刃になって戻ってくるのがアパート相続対策の悲しい未来だ。
■危険なタワマン節税
タワマン節税もそんなにバラ色な未来が待っているわけではない。タワマン節税が本当にハッピーエンディングを迎えるためには、タワマンがこれからの未来、どこまで価格を維持、値上りできるのかにかかっているからだ。
すでに首都圏ではタワマンが900棟以上林立している。初めの頃こそレアものだった超高層からの眺めも、たとえば豊洲エリアでは、すでに高層階からの眺めも眼前に立ち上がった別のタワマンに塞がれてしまい“窓の外には他人の家”という状態になっているマンションが多くなっている。
マンションは新しさが命。続々立ち上がるタワマンの賞味期限は、未来において意外に短いのかもしれない。本来の不動産投資をやっているのであれば、目の前に他物件が建ちそうだ、家賃はそろそろピークアウトしそうだ、ライバル物件が増えて価値が下がりそうだ、と判断すれば、その心配が現実化する前に売り抜けることができる。ところが相続対策が厄介なのは、親が亡くなってくれないとミッションがコンプリートされないところにある。これでは売り時を失ってしまうのだ。
たとえば1億円で買ったタワマン。相続評価では簿価よりも安く評価される。土地は路線価評価、建物は固定資産税評価で計算されるため、相続時には簿価のおおよそ6割程度まで評価額は下がる。簿価との差額分4000万円の相続税率分だけ相続税を節税できるというのがポイントだ。さらに購入に際して評価額以上のローンを組んでいれば、評価額はローン分が控除されてゼロになり、実質相続税を払わなくて済む。こんなにうまい話はない。
だが、相続が生じた後、このマンションを引き継いだ子供たちの未来はどうなるだろう。相続後にマンション相場が2割下がってしまうと、節税できた分なんて簡単に吹っ飛んでしまうのだ。それでも売却して借入金を返済できれば良いが、ローン返済ができなくなるケースも考えられる。いったい何のための相続対策だったのか、子供たちに暗く厳しい未来を残すことになるのである。
子供たちが楽できるように考えて決断した対策が、彼らの未来を苦しめる。なんとも皮肉な結果であるが、これからの未来は、この失敗してしまった相続対策の犠牲となる「相続難民」が続出しそうである。
■不動産は市況商品という認識の欠如
こうしたピンチに陥った場合、最も有効なのはやはり現金を持っていることである。現金は相続時に額面通りの評価となってしまい、なんだか損をしたような気分になるが、実はそこが間違いなのだ。いくら相続税の税率が高くとも、額面以上に税金をとられることはない。
不動産は一見すると低い評価額になることから、不動産にしておいたほうが得のように思える。だが、そのように考える人は、なぜ不動産だと現金よりも低く評価してくれるのかに考えが及んでいないのである。
不動産は市況商品なのである。この先地価が上がるかもしれないが下がるかもしれない。だから下がった場合に備えて低く評価しているのである。土地とはいえ、天変地異が起こるかもしれない。現金は手にもって逃げることができるが、不動産は動かすことができないのだ。建物にいたっては経年劣化する。劣化してしまう資産を現状での高い評価をつけるわけにはいかない。だから圧縮率も高いのだ。ただし現金のように身軽な資産ではないし、評価額は時代によって変わる。ましてや買い手がつかなくなるような時代の変化が起これば、出口のない不良資産に化ける危険もある。
特に策を弄しすぎて身の丈余る借入金を背負う。これが一番危険だ。借入金は事業をさらに推進、拡大するエンジンとしては極めて有効に機能するが、ただ節税するためだけに使うテコであるならば、大きなテコは、自分の身を滅ぼす刃に変わることを肝に銘じるべきであろう。
無理したツケは必ず戻ってくる。節税不動産の未来は相続難民の時代の到来を意味しているのかもしれない。
(文=牧野知弘/オラガ総研代表取締役)
●牧野知弘(まきの・ともひろ)
オラガ総研代表取締役。金融・経営コンサルティング、不動産運用から証券化まで、幅広いキャリアを持つ。 また、三井ガーデンホテルにおいてホテルの企画・運営にも関わり、経営改善、リノベーション事業、コスト削減等を実践。ホテル事業を不動産運用の一環と位置付け、「不動産の中で最も運用の難しい事業のひとつ」であるホテル事業を、その根本から見直し、複眼的視点でクライアントの悩みに応える。
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