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2008年2月14日
https://toyokeizai.net/articles/-/51
あらゆる職種で急増している個人請負。労働法はいっさい適用されず、社会保険は全額自己負担。使用者側から見れば究極の低コストワーカー。ILOでは偽装雇用と指弾された。
(週刊東洋経済2月16日号より)
牛丼チェーン「すき家」を展開する外食大手ゼンショーから2007年11月末に届いた準備書面の内容に、首都圏青年ユニオンの河添誠書記長は目を疑った。
「『アルバイト』と称する者らの業務実態を精査した結果、『アルバイト』の業務遂行状況は、およそ労働契約と評価することはできないことが判明した」「会社とアルバイトとの関係は、労働契約関係ではなく、請負契約に類似する業務委託契約である」--。つまり「すき家」のアルバイトは会社に雇用されているのではなく、個人事業主として業務委託契約を結んだ個人請負だというのだ。
06年に「すき家」渋谷道玄坂店のアルバイトが不当解雇を訴え組合に駆け込んだことで、同社の残業代の割増分の不払いが判明した。解雇は撤回され、ゼンショーは彼らに謝罪。過去2年分の割増賃金も支払われたが、その後、組合に加入した仙台泉店のアルバイトに対する支払いは拒絶。組合との団体交渉も拒否するようになった。組合が救済申し立てを行った東京都労働委員会の審理の場に提出されたのが、上記の主張である。
個人請負となると労働基準法、労災保険法などの労働法がいっさい適用されない。その結果、解雇規制はなく、失業保険給付もない。労働時間規制がないため時間外、休日、深夜労働手当がなく、有給休暇もない。年金、健康保険もすべて自己負担だ。つまり一たび個人請負となると、非正規社員に輪をかけた「無権利状態」に置かれるのだ。
こうしたゼンショーの主張に河添書記長は「東証1部上場の大会社が、こんな不誠実な主張を行っていいのか。コンプライアンス以前の問題だ」と憤る。同社の主張の根拠は、シフトをアルバイトの自発的調整に委ねている点に尽きるが、個人請負問題に詳しい東洋大学の鎌田耕一教授(労働法)は、「仮にそうした実態があったとしても、シフトに穴が開かないように最終的に会社がアルバイトの就労日、時間帯を管理しているとすれば、個人請負との主張は難しい」と分析する。「個人請負とするにはアルバイトの採用時に労働者ではないことを面接、求人票、求人広告において示しておくことが必要。また、報酬が時給で支払われていたらやはり個人請負とはいえない」(鎌田教授)。これに対して会社側は「法的手続きに沿って行っている。当方の主張は書面どおりに受け取っていただいて結構」(広報室)と語る。
急増する個人請負行政もようやく対応
こうした個人請負で働く人は近年急増。一説には全国で200万人ともいわれている。
07年10月、東京都労働委員会は、東京メトロの子会社で売店を運営するメトロコマースに対して、売店の委託販売員が加盟する労働組合東京ユニオンとの団体交渉に応じるよう命じた。命令書によると組合側の団交申し入れに対して、同社は「委託販売員は労働者ではない」と拒否していた。だが都労委は専属性、拘束性が高く、委託料は労務提供への対価だとして委託販売員は労働組合法上の労働者に当たると認定した。
委託販売員の男性は「かつては社会保障が完備され、賞与もあったが、契約更改のたびに一方的に切り下げられた。1日15時間、週6日の週90時間を夫婦2人でカバーしないとならない。親の葬式でも子どもの事故でも休んだらペナルティ扱いされ、その月の最低保障を外される」と実情を語る。メトロコマースは都労委命令を不服として中労委に再審査を申し立てた。
個人請負とは異なるが、長らく社会保険はなく、「みなし労働時間制」で労働時間規制も及ばない環境に置かれていたのが、旅行添乗員(ツアーコンダクター)だ。添乗員は実態としては継続して長年働いていても、ツアーごとに契約を結び派遣される短期契約で、社保の加入要件を満たさないというのが業界慣行だった。
07年、阪急トラベルサポートの添乗員が労働条件の改善を求め全国一般東京東部労組に加入。労基署や社会保険事務所に申告し、会社は保険加入と残業代の支払いを指導された。26年目の添乗員、江口美佐恵さん(48)は中2日でヨーロッパへの添乗を繰り返すなど、働きに働いて年収400万円台を維持していたが、体調を崩して半年間働けなかった06年の年収は90万円にまで落ち込んだ。「倒れても労災や雇用保険はなく、会社からも半年間、お見舞いどころか電話連絡すらなかった。使い捨てなんだと身にしみた」と語る。
行政もようやく重い腰を持ち上げ始めた。07年9月、厚生労働省労働基準局長名で各都道府県労働局長宛に「バイシクルメッセンジャー及びバイクライダーの労働者性について」と題された通達が出された。本誌07年1月13日号で詳述のとおり、個人請負の代表例とされてきたバイク便ライダーだが、使用従属関係が認められるため労基法の適用される労働者であると認定され、11月には全国の事業者一斉に労働局から指導が入った。連合東京が業界最大手のソクハイで組合を立ち上げ行政に働きかけた結果だが、遅きに失した感がある。国際労働機関(ILO)が「偽装雇用」と断じた制度適用逃れの個人請負には、労働行政の本腰を入れた総合対策が求められる。
(週刊東洋経済編集部)
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