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オムロンの遠隔医療サービス、世界で重要度高まる…国の医療費抑制と予防医療に大きく貢献
https://biz-journal.jp/2021/08/post_244711.html
2021.08.16 06:00 文=真壁昭夫/法政大学大学院教授 Business Journal
オムロンのHPより
デルタ株の感染をはじめ新型コロナウイルスの感染が世界的に再拡大している。それに伴い、わたしたちの健康管理の重要性が一段と高まっている。特に、オンライン診療など、自宅に居ながらにして医療サービスを受ける体制整備は重要だ。
それは、ヘルスケア関連(血圧などの測定機器や、医療、医薬品などの製造や関連サービス)ビジネスの中長期的な成長期待を高める要因だ。その状況下で注目したい企業が、オムロンである。コロナ禍の発生によって、オムロンが生産する体温計をはじめヘルスケア機器への需要は高まった。それに加えて同社は海外で遠隔医療サービスの拡大を目指している。
現在、中国などアジア新興国や欧州でのファクトリー・オートメーション(FA)関連の制御装置需要を取り込み、オムロンの業績は回復している。それに加えて、海外でのヘルスケア関連事業の成長を加速させることは、同社の企業価値向上を支えるだろう。
■オムロンの遠隔医療ビジネス
近年、オムロンは米国や英国、アジア地域での遠隔医療ビジネスを強化している。遠隔医療の概念は、オンライン診療よりも広い。遠隔医療では、ビデオ通話システムを用いた診療や健康増進のための相談や医療行為の提供(医師から患者へ)に加えて、医師と放射線の専門医などが患者の画像診断データなどをやり取りして(医師から医師へ)、より良い治療が目指される。
オムロンが取り組んでいる遠隔医療の主な対象の一つが高血圧の分野だ。一般的に高血圧治療では、定期的に患者が通院し、対面診察時の血圧データなどを医師が確認し、治療方針が決められる。ただし、わたしたちの体調は常に変化する。それに加えて、高齢者にとって通院や治療薬の受け取りのために移動する負担は大きい。
遠隔医療のベネフィットは大きい。日常生活の中で測定した血圧などのバイタルデータを医師が手に入れることは、より良い治療の方針を決定することにつながる。患者は移動の負担からも解放される。その点に着目し、オムロンは家庭で血圧などを測定し、それを医師と患者が共有し、治療に役立てる機器やシステム開発を進めている。
具体的に米国でオムロン傘下のオムロンヘルスケアは、遠隔医療システムの「バイタルサイト」を販売している。イメージとしては、データ送信機能をもつ血圧計などを思い浮べるとよい。患者が血圧計や体重計を使用すると、データがネット上の電子カルテに送信される。そのデータは医師および医療従事者と共有され、患者の体調をより高頻度で確認することができる。また、血圧などが大きく変化すると、医師にアラートが届く。
遠隔医療への需要は、新型コロナウイルスの感染拡大によって一段と、かつ急速に高まっている。感染のリスクを避けつつ、わたしたちが必要な医療サービスを必要なタイミングで受けるために、オンライン診療、および遠隔医療は人々の安全と健康を守るために不可欠な社会インフラとしての性格を強めている。日本でオンライン診療が恒久化されたのは良い例だ。オムロンは海外でそうした需要の開拓を進め、新しい成長の柱に育てようとしている。
■予防医療ビジネスの成長期待
一つの着目点として、オムロンの遠隔医療技術は、予防医療の促進に貢献するだろう。予防医療とは、生活習慣の改善や予防接種の実施によって病気を未然に防ぐこと、定期健診などによって早期の病気発見と治療を目指すこと、病気になった時の症状の増悪の防止や再発防止を目指すことだ。
世界的に予防医療の重要性は高まっている。なぜなら、医療費が個人、企業、国の財政に与える影響が大きくなっているからだ。日本では少子化、高齢化の進展によって医療費が増大している。それは、財政悪化の主たる要因だ。人々の医療関連支出を抑えるには効果的な予防が欠かせない。それは、これまでに享受してきた医療サービス(既得権益)を失うという人々の不安心理に配慮し、医療関連の財政支出を抑制する方策の一つといえる。
日本と異なり、米国にはすべての国民を対象とする公的な医療保険制度がない。米国では人々が民間医療保険に加入し、保険でカバーされない医療費を自分で支払う。それに加えて、医療費が上昇していることもあり、企業が従業員に対して支給する医療関連のベネフィット(福利厚生)費の増加も問題となっている。その一方で、医療機関にとって医療費は重要な収入源だ。そのため、経済全体で見ると医療費の抑制は難しい状況が続いている。
医療費の高騰を抑えるためには、生活習慣病の検査などをより身近にする必要がある。その分野でもオムロンは取り組みを進めている。米国で同社が「COMPLETE」という商標の血圧測定と心電図の記録を同時に行う検査機器を発売したことは、その代表的な取り組みだ。COMPLETEでは、アプリをダウンロードしたスマホを血圧計本体につなぎ、血圧と同時に心電図を測定・記録する。
世界的に見ても、食生活の変化や高齢化の進展とともに高血圧症などの検査需要は拡大傾向で推移するだろう。そうした展開予想をもとに、オムロンは中国の薬局チェーン大手と提携して糖尿病などの簡易検査事業も進めている。コロナ禍以前、人間ドックを受診するために訪日する中国人観光客が増えたことを考えると、オムロンの遠隔医療や予防医療関連の技術は、健康向上への人々の関心を引き付け、より多くの需要を獲得する可能性がある。
■ヘルスケア分野でのIoT技術活用への期待
過去から不老不死の薬を求める逸話が多くあるように、いつの時代もわたしたちは健康を維持したい。中長期的に世界経済全体でヘルスケア関連技術の重要性は高まる。アップルの「アップル・ウォッチ」には血中酸素の計測機能などが搭載され、グーグルはFitbitを買収した。いずれにも、健康維持に関する世界の需要を獲得する狙いがある。今後、多様なオムロンの事業展開が考えられるなか、家庭へのIoT技術の導入、および、透明性あるデータ管理体制整備の重要性は増すだろう。
2つの要素の集合をイメージするようにしてオムロンのビジネスモデルを考えると、同社はFA関連の制御技術とヘルスケア関連の技術という2つの成長の要素を持つ。同社の業績は、FA関連のセンサや産業用ロボット需要を取り込むことによって回復している。それに加えて、ヘルスケア事業も感染症対策としての体温測定の増加などに支えられて成長している。
オムロンにとって重要と考えられるのは、2つの集合の積集合の部分を増やすことだ。つまり、IoTの技術を、遠隔医療と予防医療に結合する。それによって、人々はより気軽に遠隔医療のサービスを活用することが可能になるはずだ。定額課金制での遠隔医療サービスの提供拡大など、IoTとヘルスケア事業のシナジー効果は大きいだろう。
そのためには、信頼できるデータ管理体制の整備が欠かせない。近年、日本では当初の説明と異なる国でSNSなどのデータ管理が行われ、一時ユーザーのデータが社外からアクセス可能な事態が起きた。それは、企業の社会的な信用を低下させる。逆にいえば、オムロンにとってIT先端企業との提携などを強化することによってデータ管理体制の強化を徹底する意義は高い。
IoTとヘルスケア関連技術の結合を目指し、それにデジタル技術の積極的な活用を目指すことによって、オムロンがさらなる成長を目指すことは可能だろう。また、オムロンがデジタル技術を積極的に活用して欧米などでの遠隔医療への需要をより多く取り込むことは、日本の社会と経済の変革にも無視できない影響を与えるだろう。
(文=真壁昭夫/法政大学大学院教授)
●真壁昭夫/法政大学大学院教授
一橋大学商学部卒業、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。ロンドン大学大学院(修士)。ロンドン証券現地法人勤務、市場営業部、みずほ総合研究所等を経て、信州大学経法学部を歴任、現職に至る。商工会議所政策委員会学識委員、FP協会評議員。
著書・論文
『仮想通貨で銀行が消える日』(祥伝社、2017年4月)
『逆オイルショック』(祥伝社、2016年4月)
『VW不正と中国・ドイツ 経済同盟』、『金融マーケットの法則』(朝日新書、2015年8月)
『AIIBの正体』(祥伝社、2015年7月)
『行動経済学入門』(ダイヤモンド社、2010年4月)他。
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