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「トヨタはHVを永続させる」…世界の潮流と逆行、EVシフトを“遅らせざるを得ない”事情
https://biz-journal.jp/2021/07/post_238560.html
2021.07.16 06:00 文=編集部 Business Journal
トヨタ・MIRAI(「Wikipedia」より)
トヨタ自動車は6月16日、愛知県豊田市の本社で定時株主総会を開いた。総会には株主383人が出席した。2021年3月期決算はコロナ禍でも純利益が増え、株価は6月15日に上場以来初めて1万円の大台に乗った。
豊田章男社長は2009年の社長就任以降、連結従業員数が5万人増えたことや、時価総額が20兆円増えたことを紹介。リコール問題や東日本大震災に直面したが、「危機があったから私もトヨタも生き延びた」と振り返った。
トヨタは走行時の自動車の二酸化炭素排出削減に向け、2030年にハイブリッド車(HV)、電気自動車(EV)、燃料電池車(FCV)の新車の世界販売を800万台にする目標を掲げている。現行の販売台数の8割程度が、いわゆる電動車に置き変わることになる。
電動車のフルラインをそろえるトヨタの全方位戦略に対し、株主総会に出席した株主からは賛否両論が出た。「もう少しEVに経営資源をかけたほうがいいのではないか」との指摘に、開発担当の前田昌彦・執行役員最高技術責任者(CTO)はEVに不満を持つ顧客の声を例に上げつつ、「多額の投資がかかるが、デジタル化などで開発を効率化する」と説明したうえで、「選択肢を広げる活動を見守ってほしい。いろいろな選択肢をユーザーに提示するのが一番良い」と述べた。
5月21日〜23日、富士スピードウェイ(静岡県小山町)で開かれた24時間耐久レースにトヨタは開発中の「水素エンジン車」で参戦した。レースを通じて技術の開発を加速させる狙いだ。レースは市販車を改造した車両を使い24時間でサーキットを何周できるかを競う。トヨタによると、水素だけを燃料とした水素エンジン車がレースに出場するのは世界初。
24時間でサーキットを358周、トータル1634キロを完走した。レーサー名「モリゾウ」こと豊田社長もドライバーとして出走。「水素社会、そしてカーボンニュートラルの実現に向けた世界初の試みを、ぜひとも応援していただきたい」と語った。
自動車業界には辛口の見方もある。
「トヨタが水素エンジン車を強調し始めたのは、FCVが失速したからにほかならない。FCVはトヨタのミライ、ホンダのクラリティ、韓国の現代自動車のネッソしかなく、年間1万台も売れていてない。ホンダはFCVの『クラリティ フューエルセル』の生産を8月に中止する。
欧米メーカーもバスやトラック以外は撤退し、EVにシフト済み。高級車大手の独アウディは2026年以降に新たに市場に投入する新型車はすべてEVにすると6月に発表した。ガソリンやディーゼルのエンジンは25年までに開発を中止し、中国を除く全世界で33年までに搭載する車の販売を終了する」(自動車担当アナリスト)
アウディの親会社の独フォルクスワーゲンはグループ全体で30年までに世界の新車販売に占めるEVの比率を5割に高めるが、そのなかでもアウディが先頭を切ることになる。水素エンジンは同じ水素を使っているが、FCVとは似て非なるものだ。ガソリンの代わりに水素を使うだけ。「以前、タクシーがLPガスを使っていたが、その代わりに水素と考えればいい。エンジンは現行のガソリン車を改造するだけで使え、旧来の技術でやれる」(ライバルメーカーの技術担当役員)。
「トヨタは水素エンジン車を前面に押し出してきたが、水素エンジン車を本気でFCVの代わりにしようというわけではない。少しでも世界のEVシフトを遅らせるためだろう。トヨタはメインとするHVを永続させる道筋を探している。少なくとも章男社長の任期中はHVでしのぎたいのだ」(在米の自動車評論家)
「トヨタはEV戦線では出遅れている」というのが一般的な評価だ。EVの開発と同時にリチウムイオン電池ではない動力源として、全固体電池を模索中だ。19年6月に行われたメディア向け説明会で、「2020年のオリンピックのタイミングで、なんらかの形で発表できれば」としていたが、6月末現在、全固体電池についての具体的な発表はない。
トヨタはこうしたさまざまな悩みを抱えているが、それとは裏腹に株価は続伸した。6月15日、1万円の大台に乗せ、株主総会があった6月16日にも買い注文が続いて、一時、前日比225円(2.3%)高の1万330円の上場来高値を更新した。豊田社長は「大きな危機に一つひとつ対処してきた結果だ」と前を向いた。株価は1万330円を記録した後、1万円を割り込んだ。
21年3月決算と同時に9月末割当で1対5の株式分割と4100万株(発行済み株式の1.46%)、金額にして2500億円の自社株買いを発表したことが、株価に大きなインパクトとなった。トヨタの株式分割は1991年の1対1.1分割以来のこと。株価が5分の1になれば、個人投資家がトヨタ株を買いやすくなる。
トヨタが株価を強く意識するのには理由がある。トヨタの研究開発費は22年3月期で過去最高の1兆1600億円を予定している。そこで、「今回は英語で決算発表やることにした」(外資系証券会社のアナリスト)。「決算会見にジェームス・カフナー取締役を同席させ、英語でトヨタのカーボンニュートラル戦略を語らせた。質疑応答も口火を切ったのはブルームバーグの記者で、英語でやりとりさせた」(同)
「株価上昇はトヨタ側の完璧な仕掛けの成果」(大手証券会社)との見方が株式市場で広がっている。自社株買い、株式5分割といった株価刺激策を公表したのは「いわばダメ押し」。だが、この作戦の効果は、もう少し長い目で見ないとわからない。株価1万円台を維持するには、全方位戦略のもう一歩の先の明確なビジョンが必要になる。
(文=編集部)
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