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CAが空港で検疫補助業務、PCR検査せず国際線乗務…委託元の厚労省「確認を行っていない」
https://biz-journal.jp/2021/07/post_237421.html
2021.07.10 06:00 文=松岡久蔵/ジャーナリスト Business Journal
菅総理と田村厚労相(首相官邸のHPより)
本連載では前回、ANAホールディングス(HD)が政府から受注した成田空港国際線での検疫補助業務で、業務を実施するANAHD完全子会社のエアージャパン(AJ)のCAが業務後にPCR検査を受けずに国際線に乗務している実態をANAHDが認めたことについて報じた。今回は、この検査体制は菅政権が「公認」したものであることを示した上で、制度設計した厚生労働省の見解をご紹介する。その上で、今回のずさんなコロナ検査体制が政府とANAHDの無責任な姿勢の産物であることを明らかにする。
■ANAHD受注の検疫補助業務について、立憲民主党が質問主意書提出
先の6月16日に閉会した通常国会で、筆者の連載第11回の記事を読んだ立憲民主党の中谷一馬衆議院議員が、検疫補助業務についての11日付の質問主意書を国会に提出していた。質問主意書は国会議員が政府に対して書面で質問するもので、2週間の回答期限の後、閣議決定を経た正式見解が回答として公開される仕組み。今回は25日付で回答が返ってきた。
質問は以下の通り。
(1)検査補助業務において、検査補助業務終了後に補助業務の従事者に対してPCR検査を実施しているのか、詳細について政府の把握するところを確認したい。
(2)検査補助業務の従事者の中に国際線業務に従事する客室乗務員は含まれているのか、詳細について政府の把握するところを確認したい。
(3)検査補助業務に従事した客室乗務員が検査補助業務終了後にPCR検査を受けずに、国際線業務に臨んでいると報じられているが、このような事実があるのかについて、政府は確認を行っているのか、所見を伺いたい。
(4)検査補助業務に従事している航空会社職員は、検疫所の指導のもと、それぞれの場所に適した感染防護具等を使用し、乗客の誘導や質問票等の関係書類の確認を行っていると認識しているが、これらの感染防護具等は、航空会社から支給されているのか、それとも職員自らが用意しているものであるのか、詳細について確認したい。
■菅内閣「PCR検査を実施してない」、CAが業務従事「把握してない」
これについての菅義偉総理名義の政府回答は以下の通り。
「(1)について。御指摘の「検査補助業務」の具体的に意味するところが必ずしも明らかではない が、成田空港検疫所は、同検疫所において実施する新型コロナウイルス感染症に係る検疫に関す る業務を補助する業務の一部(以下「補助業務」という。)を航空会社等に委託しているとこ ろ、補助業務に従事する者に対し、PCR検査を実施していない。
(2)と(3)について。御指摘の「検査補助業務」の具体的に意味するところが必ずしも明らかではないが、成田空港検疫所と航空会社等との補助業務に関する契約において、同検疫所において実施する補助業務に従事する者の属性については指定しておらず、「国際線業務に従事する客室乗務員は含まれているのか」とのお尋ねについては把握していない。また、「このような事実があるのかについて、政府は確認を行っているのか」とのお尋ねについては確認を行っていない。
(4)について。御指摘の「検査補助業務」及び「それぞれの場所に適した感染防護具等」の具体的に意味するところが必ずしも明らかではないが、成田空港検疫所と航空会社等との補助業務に関する契約において、例えば、同検疫所において実施する補助業務に従事する者に対して、当該 補助業務において使用するマスク、フェイスガード及び手袋を支給することとしている」
政府は、補助業務従事者の業務後のPCR検査を「実施してない」と認め、国際線のCAが業務しているのかについては、そもそも「属性を指定しておらず」「確認を行っていない」とし、検疫所では「マスク、フェイスガード及び手袋を支給することとしている」という。
まず、航空会社に業務委託する以上、「属性を指定」することは当然であろう。総合職や地上職といったオフィスワーカーならともかく、CAやパイロットは移動範囲が広く、感染を拡大しうる職種であることは容易に想像できるはずだ。それに、空港での検疫補助業務は感染リスクが高くPCR検査は必須だろう。道案内や書類記入などの業務でも感染リスクはある。また、フェイスシールドは貸与制で、従事者が装着していないケースが少なくないのは前回に報じた通りである。
■厚労省に質問状を送付、質問主意書の回答についての見解求める
さて、筆者は当サイト編集部を通して、感染対策の実務を担う厚労省に、以下の質問状を送付した。
Q1:補助業務従事者に対するPCR検査を実施する必要はないとご判断された理由につきまして、ご教示いただけますでしょうか。
Q2:同質問主意書の以下の厚生労働省様のご回答についてお伺いします。
「成田空港検疫所と 航空会社等との補助業務に関する契約において、同検疫所において実施する補助業務に従事する者の属性については指定しておらず、『国際線業務に従事する客室乗務員は含まれているのか』とのお尋ねについては把握していない。また、『このような事実があるのかについて、政府は確認を行っているのか』とのお尋ねについては確認を行っていない」
「補助業務に従事する者の属性を指定していない」とありますが、民間航空会社に補助業務を委託する以上、客室乗務員(CA)など乗客と直接触れ合う職種の人間が補助業務に従事することは、一般的に感染リスクが高いと考えられます。
委託業務を受注したのが民間航空会社であることが決まった時点で、職種の指定や補助業務後のPCR検査の義務化などの検査体制の充実、感染リスクを高めない勤務シフトなどの工夫を、厚生労働省様がANAHD側にご要求されなかった理由につきまして、ご教示いただけますでしょうか。また、今後ご要求されるご予定はございますでしょうか。
Q3:実際にはAJのCAは、補助業務後にPCR検査を受けないまま、国際線に乗務しているとの情報を得ています。これについて厚生労働省様が今後、調査し是正させるようANAHDおよびAJ側に働きかけるご予定はございますでしょうか。
■厚労省が回答「対策に懸念ある場合、再度の徹底をお願いする」
厚労省からの回答は、全質問項目に対し以下の通りだった。
「委託先の感染対策につきましては、適切に対応いただいているものと考えております。現状において、委託先の状況に応じて、適切に対応いただいているものと考えておりますけれども、仮に感染対策に関して懸念される状況がある場合は、再度、感染対策の徹底をお願いすることになると思います」
すでに本連載で指摘しているように、AJのCAが実施している検疫補助業務の労働環境は、とても十分に感染対策が施されているとはいいがたい。「仮に感染対策に関して懸念される状況がある場合は、再度、感染対策の徹底をお願いすることになる」とのことだが、ANAHDや現場からの正確な報告を受け、感染対策の強化を早期に行うべきだろう。
■菅内閣、厚労省、ANAHDの三者とも、CAと乗客の安全を軽視する姿勢が明らかに
菅内閣、厚労省、ANAHDの見解を総合すると、政府はANAHDに仕事を丸投げしたものの、国際線CAが補助業務の後にそのまま飛行機に搭乗するとは想像していなかったと考えられる。その結果、菅内閣は「厚労省から上がってきたガイドラインをそのまま認めただけ」、厚労省は「ANAHDが受注したのだから実務はきちんとやってくれるだろう」、ANAHDは「厚労省がPCR検査をしろと決めてないからやってない」という、全員が責任をなすりつけ合うという状況が生まれたというわけだ。
この無責任のトライアングルのなかで無視されるのは、現場のAJのCAはもとより、乗客である。政府発注の業務は税金で運営されており、国民が感染しないように最大限配慮するのが当然だろう。東京五輪で出入国者が増加することは避けられない以上、菅総理、厚労省はPCR検査を実施することを義務付けるなど、体制を改めるべきではないか。ANAHDも厚労省に指摘される前に、自主的に対策強化に踏み切らなければ、ナショナルフラッグキャリアとしてはとても世界に顔向けできまい。
AJのCAが置かれた、感染リスクが非常に高い検疫補助業務の劣悪な労働環境については改めて詳報する。
(文=松岡久蔵/ジャーナリスト)
●松岡 久蔵(まつおか きゅうぞう)
Kyuzo Matsuoka
ジャーナリスト
記者クラブ問題や防衛、航空、自動車などを幅広くカバー。特技は相撲の猫じゃらし。現代ビジネスや⽂春オンライン、東洋経済オンラインなどにも寄稿している。ツイッターアカウントは @kyuzo_matsuoka
ホームページはhttp://kyuzo-matsuoka.com/
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