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なぜ、コロナ禍でも世界で不動産ブームが起きているのか?住宅価格高騰、予測不能状態に
https://biz-journal.jp/2021/07/post_235455.html
2021.07.01 05:55 文=藤和彦/経済産業研究所コンサルティングフェロー Business Journal
「Getty Images」より
新型コロナワクチンの接種が進み経済がV字回復しつつある米国で、気になる現象が生じている。空前の不動産ブームである。
6月29日に発表された全米の住宅価格の指標となるS&Pコアロジック・ケース・シラー指数(今年4月時点)は、前年同月比14.6%上昇し、過去30年あまりで最大の伸びとなった。昨年10月以降、上昇率が平均で10%を超えており、今年3月時点の米国の住宅価格の水準は、前回の住宅バブルのピークだった2006年4月を16.8%も上回っている。
住宅ローン金利が10回以上も史上最低を更新したことに加え、コロナ禍を機に在宅勤務が増え、都市部から郊外へ移り住む人が増加したことで住宅ブームに火が付いた形である。米国の木材価格がこの1年で6倍に高騰したことも、住宅価格の急上昇に拍車をかけた。材料不足に加え、資材を運ぶトラック運転手をはじめ労働力不足が顕著であることから、「米国の住宅市場は『ハイパー・インフレ』に見舞われている」との叫び声が聞こえてくる(6月24日付ブルームバーグ)。
突然の住宅ブームにより「米国の住宅不足の解消までに10年を要する」との見方が浮上している(6月24日付Forbes)が、購入希望者にとって住宅が「高嶺の花」になってしまえばブームは終焉を迎えてしまうことは過去の歴史が示すとおりである。
2005年から06年にかけての住宅バブルがその後の金融危機の起点となった経緯から、一部に「足元の不動産ブームが今後金融システムの安定を損ねる事態を招くのではないか」との懸念の声が上がっているが、米連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長は「2000年代半ばの住宅バブルとは構図が異なる」と指摘する。当時、家計債務はGDP比で100%近くに達していたが、現在は80%程度にとどまっている。サブプライムと呼ばれる低所得者向けの融資が横行し、収入に見合わない住宅購入が相次いでいたが、今回はこのような問題含みの融資は見当たらないというのがその理由である。
■加熱する住宅市場、冷却の動き
不動産ブームは米国にとどまらない。世界的に住宅価格が急騰しており、リーマンショック前の2006年第4四半期以来の上昇率となっている。6月3日に発表された不動産仲介会社ナイト・フランクの世界住宅価格指数レポートによれば、今年3月までの1年間に住宅価格は平均で7.3%上昇し、コロナ禍で住宅市場が突出して好調ぶりを示していることがわかる。国別に見ると、トルコの32%上昇がトップ、続いてニュージーランド(22.1%上昇)が続き、米国は5位(13.2%)となっている。
前回のサブプライムローンのような問題は表面化していないが、大手銀行からノンバンクへの融資が2020年末で1.6兆ドルと過去最大となっており、金利高騰などで市場にショックが加われば不動産マネーが逆回転しかねない。
過熱する住宅市場に対し、いくつかの国はすでに加熱する住宅市場の冷却に動いている。ニュージーランドは不動産投資家を対象とした税優遇措置を撤廃し、中国は不動産業界への銀行融資や開発業界の動きを抑制する一連の措置を打ち出した。そのほか年内には多くの国で財政刺激策が縮小される見通しであることから、住宅市場の熱狂は徐々に弱まるとの見方が広まりつつある。国際通貨基金(IMF)は主要都市の住宅価格の連動性が高いことから、「他国の住宅価格の異変が国内に影響する可能性を無視すべきではない」と警告を発している。
■感情が市場を動かしている?
しかし、コロナ禍で降って湧いたような不動産ブームは、これまでとは異なる要因で起きたのではないだろうか。
思い起こせば、昨年春のパンデミック発生で世界の住宅市場はほぼ休止状態となった。専門家たちは「リーマンショック後の2009年のように住宅価格は最大で25%下落する」と悲観的な予測を立てていたが、その後の住宅価格の急上昇はまったく予想外だったようである。
不動産投資のベテランは「パンデミックは人々の感情に火を付け、これまでにないほどの住宅購入ブームが起きた。どれだけ確実に見える予測も強い感情の前にはもろくも崩れ去ることを思い知り、大いに驚かされた」と述べている(6月5日付Forbes)。
感情が投資に多大な影響を及ぼしたとすれば、どのような感情なのだろうか。前述の住宅価格指数を開発したエール大学のロバート・シラー教授は6月23日の米CNBCのインタビューで、住宅価格の実質価格(インフレの影響を除去した価格)が過去100年間で最高となったことについて「住宅価格は『価値』ではなく市場の『心理』により左右されている。人々の間で『西部開拓時代』の思考が生じている」と懸念を示した。西部開拓時代の米国人にとって住宅は厳しい大自然から身を守る最も大事な資産だったが、突然のコロナ禍で日常生活の大半を自宅の中で過ごさざるを得なくなったことで、現代の米国人にとっても居住空間(住宅)が極めて重要な資産となったというわけである。
このことが今回の不動産ブームの真の原因だとすれば、パンデミックがおさまり、人々がコロナ以前の生活を取り戻すようになれば、「感情」に支配された住宅価格の歴史的な高水準は維持できなくなる。高値となった住宅市場に強気のセンチメントで新規参入している買い手がいなくなれば、一巻の終わりである。
いずれにしても、人間の感情が市場を動かしているのだとすれば、将来の価格の動向を予測することは不可能である。今後起きるであろう不動産ブームの終焉は、世界各国の財政金融政策をウォッチしていてもわからないのではないだろうか。
(文=藤和彦/経済産業研究所コンサルティングフェロー)
●藤和彦/経済産業研究所コンサルティングフェロー
1984年 通商産業省入省
1991年 ドイツ留学(JETRO研修生)
1996年 警察庁へ出向(岩手県警警務部長)
1998年 石油公団へ出向(備蓄計画課長、総務課長)
2003年 内閣官房へ出向(内閣情報調査室内閣参事官、内閣情報分析官)
2011年 公益財団法人世界平和研究所へ出向(主任研究員)
2016年 経済産業研究所上席研究員
2021年 現職
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