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リニア、ルート変更で「静岡抜き」も現実味…地元の要望無視したJR東海の傲慢がアダ
https://biz-journal.jp/2021/06/post_231604.html
2021.06.13 05:55 文=編集部 Business Journal
静岡県庁本館(「Wikipedia」より)
静岡県知事選(6月3日告示、20日投開票)は現職の川勝平太氏が4選を果たしそうだ。自民党静岡県連は、参院議員を務めた岩井茂樹氏を擁立。ただ、もともと知名度も高くない岩井氏は秘書に暴行を加えるなどのパワハラ疑惑が報じられ、逆風が吹く。JR東海リニア中央新幹線の工事着工に反対する川勝氏の勝利が見込まれており、リニアの2027年の開業は絶望的となりそうだ。
■水量減り農業に影響も
今回の知事選の最大の争点は、まったく進んでいないリニア新幹線静岡工区のあり方だ。川勝氏はトンネルの掘削を行えば、大井川の水量が減って農業に支障が生じると主張。トンネルを貫く南アルプスの生態系に悪影響が出るとも指摘しており、工事を認めていない。
JR東海は工事に伴い発生する湧き水をポンプで戻す案を提案。これは10〜20年かけて流出した量と同じ分を戻すもの。川勝氏はあくまでも「全量戻し」にこだわる。JR東海が示す案は時間がかかり、全量戻しに相当せず、利水者が不利益を被る可能性があるとして、批判を強める。
静岡工区を挟む山梨、長野両県では、工事がすでに始まっている。しかし、同工区をめぐっては、トンネル掘削の前提となるヤード整備などの準備工事にも入れず、膠着状態が続いている。
■自民党会派は「ヤクザ」「ゴロツキ」
リニア以外でも、川勝氏は周辺との軋轢を生むことが多々ある。例えば、文化拠点の整備計画に反対する県議会自民党会派を念頭に「ヤクザの集団」「ゴロツキ」と罵ったほか、リニア新幹線の駅設置をめぐる三重県知事の説明に関して「嘘つきは泥棒の始まり」と非難するなど、暴言エピソードは枚挙にいとまがない。JR東海関係者は「川勝氏の言動は滅茶苦茶なため、県幹部も面従腹背だ」と指摘する。
本来協力し、地域活性化に取り組まなくてはいけない静岡市長とも折り合いが悪い。田辺信宏市長は5月14日の記者会見で、川勝氏について「いろいろな組織を攻撃、批判してばかりの方とは連携がなかなかできない」と非難している。
■自民、擁立作業が難航
自民党静岡県連は、リニア問題も含め県政の刷新を図ろうと画策するも人選は難航。川勝氏は「中高年の女性にも人気が高い」(大手メディア関係者)強敵のため、接触した多くの候補者が尻込みしたものとみられる。
最終的に岩井氏の擁立が確定したのは、投開票まで2カ月あまりとなった4月に入ってからのこと。県連は前回の17年の知事選で独自候補を立てられなかった。
岩井氏は自民党水産部会長や国土交通副大臣など要職を歴任。川勝氏は岩井氏が直前まで国交副大臣を務めていたことを引き合いに、「リニアを推進する側」とレッテルを貼る。
岩井氏も水の問題は重視している。両者の最大の違いは、川勝氏が頭ごなしにJR東海を非難するのに対し、岩井氏は対話や調整を重視する点だ。
■秘書を暴行?
一方、岩井氏をめぐってはパワハラ疑惑が浮上。疑惑を報じた「週刊現代」(講談社/5月22・29日号)の一部を引用する。
<「気に入らないことがあると人や物に当たる。秘書やスタッフに怒鳴り散らす声を、議員事務所の壁越しに何度か聞きました」(自民党中堅議員)
複数の事務所関係者が、岩井氏に暴行を受けた疑いが浮上しているのだ。
「移動中の車内で脇腹や足を蹴られた、いきなり胸ぐらを摑まれて罵倒された、手近な物や書類を投げつけられた、といった話が数年前から出ていた。東京と地元静岡の双方で、複数の事務所スタッフが暴力やハラスメントを苦にして辞職している」(自民党関係者)
前出の中堅議員が言う。「この件は党本部も把握しており、岩井氏は改選となる来年の参院選出馬を危ぶまれていました。そこで今回、なんとか知事選の候補者を立てたい地元県連の要請に応じて、活路を見出そうと立候補した。しかし(対抗候補で現職の)川勝平太が相手では厳しいでしょう」>
川勝氏に対して撃沈するとの見方が支配的な岩井氏は「捨て駒」(全国紙政治部記者)と化してしまう可能性が高いのだろうか。
■傲慢なJR東海
最大の争点であるリニアに話を戻す。川勝氏が着工に反対しているのは、環境問題がクリアできていないためだが、別の事情もあるようだ。それは東海道新幹線の新駅問題。静岡県は、JR東海に対し、静岡空港と直結する東海道新幹線の新駅建設を以前から要望している。しかし、同社はまったく取り合わない。
神奈川や山梨などの知事は予定通りの27年の開業を望んでいる。両県にはリニア駅が設置される一方、静岡県は駅が設けられず、「素通り」されるだけ。これでは静岡県民のメリットはゼロ。しかも、県側が環境問題に懸念を抱いている以上、着工を認める理由は見当たらない。
そもそも、同社は地域の観光振興に貢献しようという気はさらさらない。リニアについても、東京・品川と名古屋や大阪をいかに早く結ぶかにしか関心がないとされる。山梨や長野、神奈川の駅にはできるだけ停車させたくないというのが本音だろう。
■ルート変更も現実味
対話を重んじる岩井氏は5月25日の川勝氏との公開討論会で、リニアについて「ルート変更や工事中止も選択肢」と踏み込んだ。川勝氏は以前からルート変更も解決策の一つとの認識を示している。岩井氏の発言は、リニア問題を争点として弱め、川勝氏の票をもぎ取ろうとの思惑が透ける。
ただ、3期12年で築いた川勝氏の牙城は堅い。どのような勝利の仕方であれ、川勝氏が4選を果たせば、間違いなく勢いづく。JR東海はその時、真剣に「静岡抜きのリニア」を考えざるを得なくなるかもしれない。
(文=編集部)
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