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羽田・新飛行ルート、重大事故への懸念相次ぐ…ANAとJAL、“裏”進入チャート存在か
https://biz-journal.jp/2021/06/post_230438.html
2021.06.06 06:00 文=杉江弘/航空評論家、元日本航空機長 Business Journal
羽田空港(「Getty Images」より)
羽田空港の東京都心飛行ルートが始まり約1年が経過した。世界の大空港で例を見ない3.45度のRNAV(広域航法)進入には、国際団体のIATA(国際航空運送協会)やIFALPA(国際定期航空操縦士協会連合会)も安全運航上の懸念を表明し、共同で国土交通省に直接足を運び改善申し入れを行った。
しかしながら、国交省の航空局はこれらも無視して強行を続けてきた。日本のパイロットは会社内での立場上、声を大にして言わなかったものの、さすがにもう黙っていられないと相次いで自身のヒヤリハットの体験や天候に応じた滑走路の運用について意見を表明したり、新ルートの中止を求めるようになってきた。
■新ルートでの進入方式に悲鳴を上げるパイロットたちの声
我が国にもパイロットが自身のヒヤリハットなどをレポートの形で航空会社や国交省に報告して、情報をすべてのパイロットと共有したり、改善提案ができる制度がある。航空安全情報自発報告制度(VOICES)である。パイロットがどんなに危険な体験や自分のミスを正直に報告しても、会社や政府は、個人を特定して行政処分等の不利益処分の根拠として使用しないことが定められている。パイロットは実名でも匿名でもかまわない。これらのレポートをとりまとめるのは、国交省の航空局や報告者の所属する組織以外の第三者機関である公益財団法人の航空輸送技術研究センターである。
3月31日、同研究センターが航空局に対して「令和2年度航空安全情報自発報告制度に基づく提言について」という要請を行った。その内容は、新ルートの経路の運用について「最終進入において操縦の困難度が高かったとの自発報告が多数寄せられている」というものである。根拠としたパイロットの投稿件数は15件であり、それらには新ルートを体験したパイロットの生々しい悲鳴ともとれるヒヤリハットや改善提案が書かれており、重大な危険事故が発生する懸念が示されている。私は衆議院議員会館において、この問題に関する議員連盟主催のヒアリングで国交省航空局の担当役人たちにも再確認したが、その一部をそのまま紹介してみたい。以下は現役パイロット達の生の声である。
・3000ft以下でのファイナルアプローチではアップダウンを伴う10から15度のヨーイングが度々発生してとても不安定で、あまり経験したことのない揺れでした。
・対地100ft(約30m)でのバンクも左へ9.3°となっての着陸でした。
・1000ft以下では非常にRough Conditionであり、降下率も一時的に1000fpmを超えるような状況であったため、Controlに苦心した。
・(PAPIが)4whiteではPathが不明となるので、一旦G/A(ゴーアラウンド)してやり直すべきであった。
・(強風横風の時の)HND南風運用ではApproach Type、RWYの選択肢が複数あり、予測して着陸準備を全て整えておくことが難しく・・・Safety Marginが低下していた可能性があると懸念します。
・Profile(進入方式)そのものの見直しも必要かと思われます。
※上記、原文ママ。( )は著者による補足説明
これらの意見の意味するところは3.45度の急角度の進入はコントロール(操縦)上困難があること、南西風の強い時にはこれまでB滑走路(方位220度)とD滑走路(方位230度)が使われてきたのに、AとC(方位160度)を管制官から指示されると進入中は右からの横風となり、加えて都心ビル群による乱気流や突風が加わり、危険な着陸の可能性が生じると指摘しているものである。
報告のなかにあった対地30メートルで9.3度も傾いた事例は実に危険な状況で、そのままだと滑走路に翼端を接触していたことになる。強い南西風にもかかわらずAとCに北から侵入させた一例として、3月16日に管制官がとんでもない進入指示を出した経緯を紹介する。
当日は午後から18時まで天候についての現況と予報で風は航空用語で「220/34G46」という、まさに台風や爆弾低気圧並みの強風と突風が吹き荒れていた。このように風が方位220度から約17m、ときどき突風が約23mという状況下にもかかわらず、管制官は方位160度でのAとCの滑走路への進入を指示したものであった。しかし、結果は当然の事として着陸できずG/A(ゴーアラウンド)が発生、そこで担当管制官があわてて従来の海上ルートのBとDの滑走路に戻したというのである。
そもそもBとDの横風用滑走路の向きは、長年の気象庁からのデータを基に航空機が南西風に正対する確率を高くするため、方位を220度と230度にして設計されたものである。それを無視して強引にAとCに北側から方位160度で進入させると真横からの風となり、パイロットの操縦に困難をきたすのは目に見えている。
問題は、なぜそこまでして都心ルートにこだわるのかということである。羽田空港の管制官は明らかに航空機を危うい状況に陥れたのであるが、その理由は明らかにされていない。管制官自身がプロとしての仕事ができなかったのか、上司に忖度したのか、あるいはその上司が国土交通大臣や官邸に忖度したのかは不明であるが、本来航空機の安全運航をサポートすべき国交省航空局が自ら航空機を危険な運航に誘導したことは事実であり、その責任は問われなければならない。そして今回の15件の報告は氷山の一角で、実際は報告書を出せない外国人パイロットも含めパイロット全員が同じ思いをして飛んでいると考えるべきである。
■都心ルートは千葉県の騒音軽減のためと新しい理由を展開
国はこれまで都心ルートの必要性を羽田空港の機能を拡大し、東京五輪・パラリンピック等でのインバウンドを増やすためと説明してきた。ところが今年の4月14日の国土交通委員会で立憲民主党の伊藤議員の質問に対し、赤羽国交大臣は都心ルートを続ける理由として「千葉県の一部地域の騒音軽減のため」と答弁したのであった。
これまで都心ルートが発表された2014年以来このような説明は1度もなく、約10億円の税金を使った「羽田空港のこれから」という分厚いパンフレットなどにも一切書かれていない。これでは、これまで都民や国民に対して虚偽の説明を行ってきたことになり、責任は重大である。唐突な説明変更の理由として考えられるのは、都心ルートの大義名分がなくなったことに尽きるであろう。五輪では外国人も来なくなり、何よりもコロナウイルス感染拡大により直近でも国内線で約50%、国際線では約90%の減便となっている昨今、増便対策という名目はなくなっている。
加えてアメリカや日本でエンジントラブルによる大きな落下物の映像がメディアに流され、いくつかの東京の区でも懸念を国に表明せざるを得なくなった。そして、予定していた騒音値をはるかに超える実態が明らかとなり、パイロットたちから運用やプロファイル(進入方式)の見直し要求が出始めて、国は袋小路に入ってしまった。そのため国は新たな理由として千葉県の一部の騒音対策として都心ルートを続ける必要があると言い出したのであろう。
■正規の3.45度の進入チャートの他に「裏チャート」が存在する
現在世界の航空会社に正規に公示しているAIP(航空路誌)では、RNAV進入は以下に示すように3.45度となっている。
図1 AIPで公示されている正規のRNAV進入チャート
しかし、これとは別に別バージョン、一般の方にわかりやすく表現すると「裏チャート」とでもいえるものが全日本空輸(ANA)と日本航空(JAL)に存在することは、一部のパイロット以外には知られていない。その「裏チャート」も以下に紹介するが、正規のチャートとの違いは、最終的に着陸する時の角度は一般にILS(計器着陸方式)進入などでパイロットが着陸する3.0度であることだ。正規のチャートと最終進入地点と高度は同じであるが、初期の段階で3.45度よりも急な角度(約3.8度)で降りて、高度1500ftから3.0度に修正するというものだ。その地点はA滑走路では品川区の大崎付近、C滑走路では上皇さまの住まわれている高輪から天王洲アイルあたりにかけてとなる。
図2 ANA/JALで実際に運用されている「裏チャート」
そして重要なことは、なぜこのような裏チャートが必要なのかという問題である。答えは、航空会社も航空局も3.45度での着陸はパイロットにとって難度が増し、状況によってはハードランディング等の危険な着陸になることを知っているからである。裏返せば国交省は実は3.45度の進入は危ういことにもなる可能性を自らわかっていながら、ANAとJAL以外の航空会社には正規のチャートに従って急角度での着陸を強要していることになる。まさにダブルスタンダードといわざるを得ない。
そしてこの「裏チャート」での運航は、大きな副作用があることを指摘しておきたい。それは進入角を3.0度に浅くするところでは機首を上げるためにエンジンの出力を上げる必要から、騒音がさらに大きくなることだ。品川区のそれらの地域では3.45度の降下時に比べさらにうるさくなるわけであり、実際に以前よりも騒音が大きいという声が多く寄せられている。いずれにしても、このような騒音被害をなくすためには都心ルートそのものを中止するしかないのである。
■国は説明責任を果たすべき
最後にもうひとつ、ANAはパイロットなどの職員に向けた都心ルートに関する資料で重要な部分を、一旦は配布していながら後になって意図的に削除、廃棄した可能性を指摘しておきたい。まず当初配布していた横田空域に関する箇所を見てもらいたい。
図3 TFG 19−03 2−2. 【飛行方式】RNAV進入
この箇所はA滑走路からの延長線の最終降下地点が横田空域に入っていることを説明したものである。それはパイロットが、自機が横田空域を飛行中であり、米軍の航空機やオスプレイなどが近くに飛行していないかと外部監視をしなければならないために知っておくべき情報である。沖縄の那覇空港の離着陸に際し、米軍の嘉手納空域に入る際にパイロットがニアミス防止のために外部監視を強化するのと同様である。
ところが、私がANAのこの資料を国交省とのヒアリングで取り上げた結果、これはまずいと思ったのか、国交省がANAに資料から削除、廃棄させた可能性があるのだ。ちなみにANAは、このヒアリングの件をはじめ、いきさつを知らなかった可能性もある。もしも、このような飛行の安全にかかわる重要な記述を削除、廃棄して、パイロットが横田空域を飛行していることを知らないで進入するとしたら、ニアミス事故にもなりかねない。
私はメディアや講演会などで、3.45度のRNAV進入は騒音対策ではないと説明してきた。横田空域を飛行することから、米軍側から空域拡大のためにA滑走路の延長線の最終降下高度を引き上げるよう要求があり、国交省が急いでそれを満足させるために進入チャートを作成したと解説してきた。国交省は一貫してそれには反論もせず、騒音が1デシベルくらいは軽減できると虚偽の説明をしてきたのである。国は今でも米軍側との協議内容の公表を拒否しているが、それは事実が明らかになればこれまでの説明と矛盾することになるからだ。
だが、仮に国交省がANAに資料の一部を削除、廃棄させたとしたら、都民、国民の命を無視して危険な運航をパイロットに行わせていることになる。不都合な資料はなかったものにするのは、これまで政権がよく使ってきた手法と同じであるが、そこまでして、なぜ都心ルートにこだわるのか。今こそ国は説明責任を果たすべきであろう。
(文=杉江弘/航空評論家、元日本航空機長)
●杉江弘/航空評論家、元日本航空機長
1969年慶應義塾大学法学部卒、日本航空入社。 DC-8、ボーイング747、エンブラエルE170に乗務。首相フライトなど政府要請による特別便の経験も多い。ボーイング747の飛行時間は1万4051時間という世界一の記録を持つ。2011年10月の退役までの総飛行時間は2万1000時間超。日本航空在籍時に安全施策の策定推進の責任者だったときにはじめた「スタビライズド・アプローチ」は、日本の航空界全体に普及し、JAL御巣鷹山事故以来の死亡事故、並びに大きな着陸事故ゼロの記録に貢献している。 航空問題と広く安全問題について出版、新聞、テレビなどメディア、講演会などで解説、啓蒙活動を行なっている。著書多数。
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