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トヨタ、ブラック体質に社員から悲鳴…土曜に職場の飲み会、“自宅残業”が常態化
https://biz-journal.jp/2020/01/post_131189.html
2020.01.05 07:10 文=編集部、協力=山岸純/山岸純法律事務所・弁護士 Business Journal
GettyImagesより
日本を代表するリーディングカンパニーで発生したパワーハラスメント自殺が波紋を呼んでいる。毎日新聞などは昨年11月19日、「トヨタ自動車の男性社員(当時28歳)が2017年に自殺したのは、上司のパワハラで適応障害を発症したのが原因だとして、豊田労働基準監督署(愛知県豊田市)が労災認定をした」と報じた。トヨタといえば、日本を代表するグローバル企業であり、手厚い福利厚生と働き方改革に率先して取り組むクリーンなイメージがある。新卒者の就職希望ラインキングでベスト10に入り続ける人気企業でもある。そんなトヨタに何があったのか。
■復職後にパワハラ上司が斜め向かいの席に
各社報道によると、労災認定は昨年9月11日付。亡くなった男性は東京大学大学院卒で15年4月に入社。16年3月、本社(豊田市)の車両設計部署で働いていた。その後、男性は直属の上司から「ばか」「アホ」「死んだほうがいい」などと叱責を受け、同年7月に休職し、適応障害と診断された。10月に復職し、別のグループに異動したが、席の斜め向かいにはこの上司が座っていた。男性は「死にたい」と周囲に漏らすようになり、約1年後、社員寮で命を絶ったという。
そのうえで毎日新聞は次のように指摘する。
「同社社内の調査に対し、上司は暴言についておおむね認めたという。トヨタ側は、上司の言動が原因で男性が休職したことは認めたが、自殺との因果関係は否定していた。復職後の自殺は、通院を続けていないと、病気が治っていたと判断されて労災と認められにくいという。男性は通院をやめていたが、豊田労基署は、上司のパワハラで適応障害を発症し、自殺まで症状が続いていたと判断したとみられる」
■パワハラの有無は部署による
一連の報道を受けて、当サイトではトヨタ自動車の複数の社員に職場の労働環境について聞いてみた。非技術職の女性は次のように話す。
「大きな会社なので、良い部署と悪い部署、良い上司といただけない上司がいます。そういう意味で、最初の配属がどこになるかで、ホワイト企業に入社したのか、そうではないのか感想が変わると思います。基本的にほぼグループ企業の方とのやりとりですべてが完結するので、外部を知るきっかけはあまりありません。社内におかしなことがあっても気が付かない風土なのかもしれません」
また、同じく非技術職の男性は以下のように語った。
「良い意味ですごくチームワークがある、悪い意味ですごく閉鎖的なコミュニティーという感じです。パワハラとかがあるかどうかは、本当に職場によるとしかいえません。ただ、ここまで大きな会社だと内部統制を効かせることは容易ではないだろうなと思います」
そんななか、少し気になる話も出てきた。いくつかの項目ごとに証言を掲載する。
■土曜日に飲み会
「土曜日に職場の飲み会があります。忘年会・歓送迎会シーズンになると、日曜日もつぶれることがあります。研究会や講演会、展示会などへも職場のグループで出かけるので、仕事以外の自分の時間が持てません。チームワークや仲が良い職場ということなのかもしれませんが、参加しない同僚がLINEで陰口を言われているのをみて参加するようになりました。
参加しないとみんなに『向上心がない』とか『やる気がない』と言われるのが怖いです。飲み会では 9 割が仕事の話で事実上、仕事のミーティングではないかと思います」 (技術職)
「工数削減が常態化していて、常勤は休みの予定がまったくたてられない。期間工の休みを優先するので、そのしわ寄せがきているイメージがあります」(技術職)
■昭和な雰囲気の職場
「工場に女子トイレと更衣室が少なすぎます。しかも場所が遠く、休憩時間もトイレに行って終わりになります。営業系の職場には女性の社会進出が進んでいますが、工場は女子の割合が増えているのにそんな状況です」(技術職)
「良くも悪くも昭和な雰囲気です。男性が多い職場ですし、あまり飲み会や会社の行事などには参加したくないのですが、出欠表で男性が全員参加しているのに自分だけ参加しないというのは、空気が読めないみたいな気がするので、 (断るのは)難しいです。結婚の話とか、付き合っている男性がいるのかとか、 『これはセクハラじゃなくて、職場のスムーズな運営のためだ』という前置きで話を振られることが多々あり、良い感じはしません。前に飲み会や会社の行事に参加しない同僚がいて、飲み会で悪口を言われているのを見かけました。それ以来、毎回、出ています。 女性上司のところに配属されるかどうかはかなり大きいです。きっと、聞き分けの良い娘を演じ続けることができれば、うまくやっていけるのかもしれません」 (非技術職)
■残業抑制策が裏目に
「入社 10 年目以上の主任級社員には、本人の申請で45時間分の残業代として一律 17 万円が支給されることになっています。申請しないという雰囲気は職場になく、みんな申請しているので、申請しました。 効率よく仕事をすれば、確かに所定時間働いていなくても、残業代をもらえる仕組みですが、仕事量は前と変わっていないので 45 時間ではとうてい終わらせることができません。
45 時間以上の残業をすると上司からものすごく怒られます。効率的に働けと言われるのですが、そもそも社内の決済システムが効率的ではないので、どうしようもありません。当然、休日出勤すると上司にも怒られますし、職場でも『仕事ができない』と陰口を叩かれます。
会社のパソコンを持ち帰ることもできないので、家で同じようなエクセルなどのフォーマットをつくって、仕事をしてプリントアウトして職場に持って行き、それを会社で打ち込んでいます。いろいろ社内規定に違反しているのはわかっているのですがそうしないと査定に響き、ボーナスに直結します。非常にしんどいです」(非技術職)
この社員が話しているのは、トヨタが2017年に導入した「入社10年目以上の社員に実際の残業時間にかかわらず毎月17万円を残業手当として一律支給する制度」のことだと思われる。
残業を短くするほどメリットが大きい仕組みとなっており、仕事の能率を向上し、長時間労働を無くすのが狙いだった。対象は主任級以上の社員で、本人の希望で申請し認められれば適用される。17万円は主任級の残業代だとおよそ45時間分に相当。これを超過して残業した分は上乗せして支払われるという。
いずれも社員証を確認の上、取材した。なかには、飲み会でのやり取りをICレコーダーに録音しているケース、約5年間継続的につけている日記帖にその日の就労状況に関して記載している例などもあったので、社内の相談窓口や労働組合に行くことを勧めたのだが、ある社員は次のように語った。
「相談や申請して、社内で変な目で見られたくない。守秘義務は守るとしていますが、会社の雰囲気的に絶対身バレすると思います。仕事は楽しいし、やりがいもあるので、会社に居づらくなるのも、辞めるのも嫌です。こういうやり方は批判を受けるかもしれませんが、もっと会社の雰囲気を良くしたいと思って取材に応じました」
大きなパワハラ案件が発覚する陰には、上記のような小さな職場トラブルがたくさん発生していることが多い。同僚が命を絶つという悲劇に至る前に、なんとかすることはできなかったのか。パワハラ自殺に関し、トヨタ労働組合は次のような見解を示す。
「事実として、我々組合員がしっかり労働者に寄り添う姿勢にあったのかをしっかり振り返りを行いたいです。職場の組合員と連携を取りながら、困っている労働者がいないかしっかり見ていかなければならないと思います。相談を受けるまで動かない待ちの姿勢ではなく、積極的に声を拾っていく方針です」
またトヨタ渉外広報部は次のように話した。
「お亡くなりになられた方に対して、心をこめて冥福をお祈りいたしますとともに、ご遺族の方に改めてお悔みを申し上げたいと存じます。ご遺族のお気持ち、亡くなられた大切な仲間のことを常に心にとどめながら、なぜこのようなことが起きたのか、改めて徹底的に調査による真因の究明を進めることにより、あらゆる観点から再発防止に努めてまいります。
また、ご指摘いただいた事例に関して、具体的な部署名などがわからず、個別に事実確認は難しいため、直接のコメントは差し控えさせていただきます」
より良い職場づくりは労使双方が望むことだ。今回紹介した証言に関して、法律的な見解を山岸純法律事務所の山岸純弁護士に聞いた。
●山岸純弁護士の見解
まず、“休日の飲み会”ですが、あまり件数は多くありませんが、「会社の飲み会」が「業務(労働時間)」に該当するかどうかが争われた裁判があります。
この裁判(東京地方裁判所平成23年11月10日判決)では、「会社業務終了後の懇親会・食事会等は、業務終了後の会食ないしは慰労の場に過ぎ(ない)」とし、原則として業務(労働時間)には該当しないと判断しました。
もっとも、“会社の飲み会”などが「予め当該業務の遂行上必要なものと客観的に認められ、かつ、それへの出席・参加が事実上強制されているような場合」には、労働時間に含まれることがあるとも判断しています。
トヨタの場合も、上記に該当するような”休日の飲み会”なのであれば、休日手当を支払わなければならない場合があるかもしれません。
“残業抑制”については、45時間以上の残業をさせない(残業代を払わない残業を発生させない)ことは、法令遵守の観点からは良いことです。
もっとも、事実上、自宅で仕事をしている状況が恒常化しているのであれば、結局のところ違法残業(残業代を払わない残業)となるわけで、
・45時間以上の残業をさせない方針でありながら、
・部下が自宅などで仕事をしていることを知っていた(さらに、これを改善することを怠っていた)
ような場合には、法定の労働時間の観点、残業代の観点などから労働基準法違反となりかねません。
(文=編集部、協力=山岸純/山岸純法律事務所・弁護士)
●山岸純/山岸純法律事務所・弁護士
時事ネタや芸能ニュースを、法律という観点からわかりやすく解説することを目指し、日々研鑽を重ね、各種メディアで活躍している。また弁護士法人ALG&Associates所属時代は、執行役員として同法人によせられる離婚相談、相続問題、刑事問題を取り扱う民事・刑事事業部長として後輩の指導・育成も行っていた。芸能などのニュースに関して、テレビやラジオなど各種メディアに多数出演。また、企業向け労務問題、民泊ビジネス、PTA関連問題など、注目度の高いセミナーにて講師を務める。労務関連の書籍では、寄せられる質問に対する回答・解説を定期的に行っている。弁護士としては、企業法務、交通事故問題、離婚、相続、刑事弁護など幅広い分野を扱い、特に訴訟等の紛争業務にて培った経験をさまざまな方面で活かしている。
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