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ANA、CAのパジャマ紹介する新事業で炎上…マスコミがANA批判報道を避ける本質的原因
https://biz-journal.jp/2021/04/post_220559.html
2021.04.17 05:55 文=松岡久蔵/ジャーナリスト Business Journal
ANAのボーイング737-700(「Wikipedia」より)
ANA(全日本空輸)への批判的報道はコロナ禍より前にも後にもほぼ皆無といってよい。多額の広告宣伝費に加え、マスコミに対する空港での取材協⼒などによる懐柔が効果を発揮している。さらに、この連載で指摘してきたように、日本の航空業界はオトコ社会であり、記者クラブメディアに代表される国内メディアもまったく同様の業界体質であることが本質的な問題として横たわっている。
■ネット反応に記事削除の圧力
ANAのメディアに対する影響力は、今年1月、同社が昨年末に始めたオンラインツアーに関連する記事がネット公開された直後に軒並み削除されたことで話題となった。以下、スポーツニッポンが1月30日付で配信した記事を全文公開する(現在は削除済み)。
<ANA起死回生、オンライントラベルにCA投入大作戦!素顔やパジャマも見られる!
新型コロナウイルス感染拡大で航空需要が大きく落ち込み、厳しい経営が続くANAホールディングスが、客室乗務員(CA)をバーチャル旅行の業務に投入している。CAにとっては乗務機会が大きく減った機上から机上へ斬新な“配置転換”となる。
昨年12月発売の「ANA国内線・国際線オンライン巡礼旅」(税込み3980円)で、CAらがウェブ会議システム「Zoom」を通じて、世界各地のおすすめスポットやレストランを座談会形式で紹介する。利用客は約1時間半、自宅にいながら旅行気分を味わうことができ、今月22日に行われた第4回「ハワイ行き」も、募集の限定30人の枠が完売した。
同社は2021年3月期の連結純損益が、創業以来最悪となる5100億円の赤字となる見通し。そんな中、非航空事業の収益化を目指しており、オンライントラベルは目玉の一つと位置づけている。利用客にとって注目すべきは、普段深く接することのないCAのプライベートな部分まで踏み込める点。利用客との質疑応答もあり、CAの私物紹介コーナーでは、フライト先で滞在中に着用するパジャマやワンピースを見ることもできる。バーチャルトラベルのリアルさを追求するよりも「CAらとのコミュニケーションを通じ、コロナ禍で旅行に行きたくても行けない人に少しでも楽しんでもらう」(広報担当者)ということが狙いで、グループのリソースを最大限活用する格好だ。
1度の配信にCA4人を含むスタッフ約15人が携わるため、担当者によると収支は「五分五分」。今後、座談会形式以外のトラベルも検討しているが「視聴してくれる一人一人のお客さまと向き合いたいので、座談会の募集人数はこのくらい(約30人)で続ける」という。経営難にあっても「いつもお客さまに寄り添う」という同社の理念は崩さない。
見据える先はポストコロナ。日本を代表する航空会社「ナショナルフラッグキャリア」の看板を背負うANAは苦境にあっても「おもてなしの心」を忘れない>
この記事が公開されると、たちまち「ANAがオンラインでCAを利用したクラブを始めた」などのコメントがあふれ炎上状態になった。その直後、この記事はスポーツニッポンや記事配信先サイトからも削除された。このオンラインツアーをネタ的に扱った他社の記事も軒並み削除されたという。
一方で、「CAのプライベートな部分まで踏み込める点」である「CAの私物紹介コーナーでは、フライト先で滞在中に着用するパジャマやワンピースを見ることもできる」という点を記事中で触れなかった、「Traicy」の記事や「地球の歩き方」の記事は削除されていない。
このオンラインツアーでパジャマやワンピースを見せるコーナーがあったことは事実であったため、記事削除についてANA側やスポニチなどメディア側から何の説明もないことがかえって不信感を煽り、ネット上では「ANAが圧力をかけた」などというコメントがあふれた。
メディア側にANA側からのクレームと削除要請があったとも推察される。ただ、メディアの取り上げ方以前に、CAのパジャマや私服を公開して商売にしようとするセクハラじみた感覚が稟議を通って事業として世間に出た時点で、企業倫理として問題があるといわざるを得ない。
筆者は昨年、ANAが航空便の運休などの影響で業務量が減ったCAに医療用ガウンの縫製業務を担当させることを「時代錯誤のCAお針子問題」として報じた。ネット上の批判が多く、ANAはその後パイロットなど他職種の男性にも担当させるなどしたが、このパジャマ問題にも男性中心主義がまかり通るANAの体質が垣間見える。
■広告宣言費は意外と少ない年間120億円規模
企業がメディアの批判を封じるのに最も手っ取り早いのが、広告費をばらまくことである。経営難が続く、新聞、テレビ、雑誌にカネをばらまけば批判対象から「大切なお客様」となり筆も甘くなるというわけだ。
ANAの持ち株会社であるANAホールディングス(HD)の有価証券報告書によると、ANAHDの広告宣伝費は2020年3月期が118億円、前年の19年3月期が128億円と、例年110億から130億円の範囲で推移している。一般水準としては多額とはいえ、国内トップのトヨタ⾃動⾞の例年5000億円規模の巨額投⼊に⽐べれば、微々たるものだ。メディアがANAに甘いのは別の要因があると考えるべきだろう。
■テレビ局は撮影の場所とヘリで懐柔
まずテレビ局だが、撮影に頻繁に航空機を使用する。CA(客室乗務員)やパイロットが主役のドラマだけでなく、刑事ドラマなどにも使用する機会は多く、航空会社の協力がないと番組制作自体が滞りかねない。テレビ局のニュースは基本的にバラエティの延長であり、昨今ではキー局プロデューサーが「自社取材なんてコストがかかるからムダ。コスパのいい(週刊)文春の後追いで十分」と平然と言い放つ始末で、取材力、番組制作力の低下は著しいという。
そんなテレビ局がANA側が不祥事を公開しない限り、批判的な報道などするはずがない(なお、テレビ局の現状についてはすでに書いたのでご参照いただきたい)。
そんなテレビ局側の事情に加え、ANAの歴史的な経緯もテレビ局との関係を密にしている。ANAは1952年に前身である「日本ヘリコプター輸送」という初の民間会社として産声を上げた。撮影にヘリを多用するテレビ局との関係が深まるのは当然で、ANA関係者の間では「政府とメディアは味方」というのが共通認識となっているという。
■新聞もテレビも幹部に女性幹部はほぼゼロ
テレビはともかく、新聞が批判的にならないのはどういうわけか。筆者の見立てだが、航空大手と新聞をはじめ記者クラブメディアは「超オトコ社会」という点で同じ穴のムジナのため、女性の労働問題にそもそも関心がないことが本質だと考えている。
この連載の第3回で触れた通り、ANAの女性取締役は15人中1人でCAの生え抜きのみで、JALは10人中、社外取締役に1人女性がいるがJALの生え抜きではない。
国内メディアも同様である。日本新聞労働組合連合会(新聞労連)などが2月3日付けで日本新聞協会、日本雑誌協会、日本書籍出版協会に提出した「業界団体および加盟社の女性登用についての要請」によると、日本民間放送連盟(民放連)、日本新聞協会(新聞協会)、日本書籍出版協会(書協)、日本雑誌協会(雑協)の女性役員人数は、民放連45名中0人、新聞協会53人中0人、書協40人中1人、雑協21人中1人とまったく女性進出が進んでいないことがわかる。これでは先ほど取り上げたテレビだけでなく、新聞、雑誌、書籍も女性を取り巻く問題について、どうしても関心が薄れてしまうのは否めない。
■メディア側のオヤジジャーナル化が課題発見を遅らせる
情報提供者によると、ANAの問題に関心を持つ記者クラブメディアの女性記者が過酷な労働に苦しむCAに接触したことが数回程度ではあるが、あったという。記者個人の関心や能力もあるだろうが、女性記者の割合が多ければ取材テーマとして取り上げられる可能性は高くなるのはいうまでもない。
例えば、男の職場である新聞・テレビでの「CAの取り上げ方」というと「合コン」だの「デート」だの、「キラキラした世界で遊んでいる若い女性」というイメージを前提とすることが多く、せいぜい航空会社のCAを扱った施策をヒマネタとして取り扱うくらいだった。それに加え、「どうせ20代で寿退社する」という航空業界の男性幹部同様の思い込みがあるため、「同じ労働者」という認識は生まれづらく、CAの労働環境の話はメディアの男性幹部の琴線に触れない。それが実際にどれだけブラック労働だとしても、である。まさに、オヤジジャーナルの弊害である。
今回のコロナ禍でCAが他業界への出向を余儀なくされた後も、乗務手当がないことで手取りの給与が著しく下がったことが報じられたのは、少なくとも新聞では随分遅れてからだったと記憶している。
■森失言問題で表れたメディアの偽善性
筆者は2月に日本を騒がせた、東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会の前会長であった森喜朗氏の「失言」問題について「偏向報道の被害者」という観点から擁護した。もちろん森氏の発言は時代錯誤で許されるものではないが、ここでメディアやスポンサー企業の幹部がほぼ男性で占められている現状を指摘し、「森氏に斬りかかれば自分を斬ることになる」と書いたが、今回のANAのCAの労働問題はまさにそれである。
女性差別だと森氏をその場の勢いで魔女狩りしたのは結構だが、ANAのCAのようなブラック労働問題について、これまでどこのメディアも報じてこなかった点で、そして経営幹部に女性をまったく登用しようとしてこなかった点で、ダブルスタンダードの偽善でしかない。
日本テレビは4月からCS放送『日テレNEWS24』のキャスターに、ANAグループ社員5人を受け入れている。相変わらずキラキラしたCAの世界がここでも展開されているが、その影で何が起きているかを見極めるのがメディアの本来の役割ではないだろうか。
■男女格差ランキングで日本は中国、韓国にも劣る最低ランク
世界経済フォーラムが06年から調査している「グローバル・ジェンダー・ギャップ指数(GGGI)」の最新版が3月31日に発表になった。政治、経済、教育、健康の4分野で男女格差がどのくらいあるかを数値化した国別のランキングだが、日本は156カ国中120位と最低ランクで、お隣の中国(107位)、韓国(102位)にも19年から抜かれている。女性国会議員と女性閣僚の少なさが足を引っ張ったようだが、日本の場合、先に見たようにメディアも同様に惨憺たる有様だ。
今後もメディアが若い女性を使い捨てにするANAの体質を報じない状況が続けば、女性を少しでも社会進出させようという世界的な努力から、日本社会を逆行させていくことに荷担することになる。
ジャーナリズムには「不報(報じないこと)」という罪があるが、可能な限りこれを犯さないよう努めるべきだろう。
(文=松岡久蔵/ジャーナリスト)
●松岡 久蔵(まつおか きゅうぞう)
Kyuzo Matsuoka
ジャーナリスト
記者クラブ問題や防衛、航空、自動車など幅広い分野をカバー。特技は相撲の猫じゃらし。現代ビジネスや⽂春オンライン、東洋経済オンラインなどにも寄稿している。ツイッターアカウントは@kyuzo_matsuoka
ホームページはhttp://kyuzo-matsuoka.com/
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