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第一生命も日本生命も「少額短期保険」市場に参入の事情…大手生保会社の危機感と狙い
https://biz-journal.jp/2021/04/post_219621.html
2021.04.13 18:00 文=鈴木純男/金融ジャーナリスト Business Journal
「gettyimages」より
新型コロナの収束がいまだ見えない中、大手生命保険会社の一角、第一生命保険が新型コロナウイルス感染症に罹患した場合の治療費や収入減をカバーする「特定感染症保険」を4月9日に発売しました。
この保険は、第一生命グループが設立した「第一生命スマート少額短期保険」を通じて販売される商品で、契約締結が完全にオンラインで可能だということで注目を集めています。
第一生命グループは2021年度から始動した3カ年の中期経営計画「Re-connect2023」におけるCXデザイン戦略で、新しい商品ブランド「デジホ」を立ち上げています。少額短期保険の新会社設立と新商品の提供は、この戦略に沿ったもので、今後、デジホの商品ラインナップを拡充することを明言しています。
少額短期保険の子会社の設立は大手生保としては初めてですが、日本生命保険も3月19日に、少額短期保険会社の新設に向けた新会社「ニッセイ少額短期設立準備株式会社」の設立を決定したことを発表しました。日本生命の100%出資の子会社で、4月30日設立予定です。
なぜ、大手生保会社がこうした新会社の設立を進めているのでしょうか? その答えの前に、いったい「少額短期保険とは何か?」を説明する必要がありそうです。
■少額短期保険とは何か?
少額短期保険会社とは、保険業を営む保険会社のうち、保険期間が1年以内の範囲で少額の保障のみを引き受ける会社を指します。たとえば生命保険の場合、死亡保険であれば保険金額の上限は300万円、医療保険は80万円までと決められています。
保険会社を設立するための最低資本金が10億円必要なのに対して、1000万円(+供託金)で設立できるため、新規参入がしやすく、2006年の少額短期保険業制度導入以後、これまでに100社以上の少額短期保険会社が設立されています。
一般の保険会社に比べて商品開発の自由度が高く、少額の保障から提供できるため、これまでに多くのユニークな保険商品が開発・提供されています。
たとえば、スマホの破損や故障を補償する「モバイル保険」や、がん保険の保険料を後払いで払う「わりかん保険」、賃貸オーナー向けの「孤独死保険」、「不妊治療保険」など、ある特定のリスクに絞った保障(補償)を提供する商品が特徴となっています。
一般の生命保険のように大型の死亡保険の保障はつきませんが、身近に起こる特定のトラブルや危険などを安い保険料でカバーする商品として、人気が高まっています。
しかし、なぜ大型保障の提供を中心とする国内の大手生保会社が、少額短期保険業の分野に参入してくるのでしょうか。
■国内生保会社が新規参入する理由とは
理由の一つに、国内の生命保険市場の今後の伸びに対する危機感があります。少子高齢化や人口減少で、そもそも生命保険に加入する人が今後は減っていきます。しかも、超長寿化社会の進展で、従来のような大型の死亡保険への加入の必要性は薄れ、生きるための医療保険やがん保険のニーズが高まり、収入に当たる保険料の獲得額も大きな伸びは期待できません。
しかも、営業職員を擁する生保各社は最近のセキュリティ強化で、企業への訪問や自宅への飛び込み営業などが難しくなっています。ここに新型コロナの襲来により、対面営業が以前にも増して難しくなりました。
こうした中では、対面ではなくネットや通販で加入できる商品を開発する必要が出てくるのです。ネット加入などは今の若者とも親和性が高く、保険に初めて加入する層の取り込みにも最適です。
第一生命が発売する第一弾の「特定感染症保険」は、特定感染症1〜3類の感染症になった場合に保険金10万円が支払われる保険で、保険期間は3カ月間。保険料は3カ月一時払いで980円からと非常に廉価で、新型コロナの感染状況に応じて毎月保険料が変動するといいます。
第一生命では新ブランドの「デジホ」を「ミレニアル世代に向けた新たな商品ブランド」と銘打っており、若くてデジタル活用に抵抗がない世代の取り込みを狙いとしているようです。
また、この保険の加入者をきっかけとして、第一生命グループの契約者を増やし、ゆくゆくは営業職員を通じて新たな保険商品を提案することも可能になるかもしれません。
■少額短期保険との付き合い方は?
第一生命や日本生命は少額短期保険業への新規参入組ですが、すでに複数の保険グループが少額短期保険を発売しています。
たとえばSBIグループは、既存の少額短期保険会社をM&Aによって獲得する戦略によって商品の多様化を進めています。現在までにペット保険や地震補償保険、家財保険などを扱う少額短期保険会社を傘下に置いており、今後もM&Aを行う方向性を打ち出しています。
また、損害保険グループの東京海上ホールディングスやSOMPOホールディングスも傘下に少額短期保険の子会社があり、これまでの主力の自動車保険や火災保険以外のユニークな個人向け保険の開発に力を入れています。
では、こうした新しい分野の保険商品に対して、我々消費者はどのように向き合っていけばいいのでしょうか。第一に「その商品が本当に必要か見極める」という点では、従来の保険選びと何ら変わりありません。
たとえば、第一生命スマート少額短期保険のコロナ保障にしても、コロナの治療費や入院費は公費でカバーされるため、現在のところは医療費の負担はほとんど発生しないはずです。そのため「コロナが不安だから」といって、すぐに飛びつくのは早計かもしれません。ただ、治療中に収入減になり、その分を保険でカバーしたいと思う人もいるでしょう。
少額短期保険は既存の保険とは一線を画したユニークな商品が多くあり、保障額が小さいため保険料も安く加入できるというメリットがあります。しかも、既存の保険商品の常識を覆すような新商品が登場する可能性はあり、注目しておいて損はないでしょう。
(文=鈴木純男/金融ジャーナリスト)
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