<■94行くらい→右の▽クリックで次のコメントにジャンプ可> 慢性消耗病(Chronic Wasting Disease; CWD) ファクトシート 食品衛生委員会 https://www.fsc.go.jp/factsheets/index.data/factsheets_cwd.pdf5.CWD の病態、診断及び感染経路※8 (1)CWDに感染したシカの臨床症状(臨床的兆候) 特徴的な症状は、消耗症状として元気がなくなり(元気消失)、痩せ細り(削瘦)、著しく体重 が減少する。病気が進行して末期になると、水を多く飲み(多飲)、尿量が増え(多尿)、唾液の分 泌量が増える(流涎)。最期には、ふるえ(振戦)、歩行異常、運動失調、四肢の麻痺等の神経症状 の後、起立不能となり、死亡する(参照17,20)。 CWDの診断は、臨床症状のみに基づいて行うことはできず、実験室でのPrPScの検出による確 認が必要となる。 (2)発症時期(潜伏期間) 米国での実験条件下では、CWDの潜伏期間はミュールジカで15〜23か月、エルクで12〜34 か月であった(参照18)。 野生のシカの感染時期は不明なことから、潜伏期間を特定することは難しいが、一般に2〜4年 (発症まで最低16カ月)と考えられている(参照3)。 6.ヒトのリスクに関する科学的知見 査読を受けた科学論文として報告されているCWDプリオンのヒトに対する影響に関する研究 結果の概要を以下にまとめた。 ・CWDプリオンがヒトプリオン病の原因となったことを示す疫学的な知見はない。 ・サルへの接種実験では、リスザル( Saimiri sciureus)がCWDプリオンに対して高い感受性 を示す一方、カニクイザル(Macaca fascicularis)に対しては、高い種間バリア(いわゆる 「種の壁」)※16の存在が示唆されている。また、ヒトのPrPを発現するトランスジェニック マウス※17への接種実験においても、高い種間バリアの存在が示唆されている。 ・脳内接種によりCWDに感染したウシの脳をカニクイザルに経口接種した結果、現時点で感 染は確認されていない。 (1)疫学※18(感染症の発生頻度・要因等) CWDプリオンへヒトへの伝達について、系統的レビューを行った報告がある。本報告では5件 の疫学的研究について分析を行い、CWDへのばく露とプリオン病の発症との間に関連性をみい だしたものはなかったとしている(参照88)。5件の疫学的研究の概要について以下に示す。 1997年から2000年にかけて、シカやエルクの肉を食していた3人の若齢者がCJDと診断さ れ死亡したという報告(参照89)、ウィスコンシン州で野生動物の饗宴に参加した狩猟者がCJD と診断された報告(参照90)、コロラド州でCWDの実験室内ばく露を受けた52歳女性が若年 性アルツハイマー型認知症と診断された報告、CWD流行地域でシカ肉を摂食した25歳男性がゲ ルストマン・シュトルロイスラー・シャインカー(GSS)症候群であった報告(参照91)等、CWD の流行地における症例研究では、プリオン病と診断された症例はいずれも遺伝性又は孤発性と判 断された。小規模ばく露コホート調査として、ニューヨーク州オネイダ郡の運動競技会の饗宴で 200人がCWDに感染したシカ肉を摂食した最大規模のばく露が発生した。この中の81人の参 加者を6年間追跡調査したが、CJD症例は確認されていない(参照92)。コロラド州で死亡登録 調査をした研究では、CWD流行地内でのCJD症例の統計的な有意な増加はないことが示されて いる(参照93)(詳細については表2)。 (2)ヒトPrP※19の試験管内変換(in vitro モデル) CWDプリオンの感染性を検討するにあたり、試験管内変換で得られた知見は、生体内でのより 複雑な感染機序を省略化したものであり、実際の感染性を必ずしも反映するものではないが、試 験管内で超音波処理を繰り返してPrPの構造変換を誘導してPrPScを増幅するPMCA法や、プリオ ンのシード依存的凝集反応を利用したRT-QuIC法を用いた試験管内の反応系で、PrPScによって ヒトPrPがPrPScに変換されるといった現象が報告されている(参照94, 95)(詳細については表3)。 (3)CWDの人獣共通感染症※20の可能性に関する生体内(in vivo)での研究 @ヒト PrP 発現トランスジェニックマウスへの接種実験 ヒトのPRNP(コドン129)を生理的な発現量の1倍から16倍発現するトランスジェニッ ク(tg)マウス系統(MMの8系統、MVの1系統、VVの2系統)を用いて、エルク、ミュ ールジカ又はオジロジカ由来の北米CWD分離株を脳内接種した6件の感染実験(Raceらの 実験は継続実験を含め1件としている)では、いずれのtgマウスでも伝達は確認されなかっ た(参照96-101)。このうち、Raceらの継続実験において、免疫組織化学検査及びウエスタン ブロット解析で、いずれのマウスにもPrPSc蓄積はなかったが、RT-QuIC法でエルク又はオジ ロジカの脳組織を接種されたヒト化tg66(129MM)マウスで弱陽性反応が確認された(参照 98)。この結果について、偽陽性反応、残存した接種物、又はCWDが種の壁を越えてヒトに 不顕性に感染する可能性があったため、その後、継代感染実験が行われたが、RT-QuIC陽性マ ウスの脳をヒト化tg66マウス(129MM)に継代しても発病しなかった(参照102)。 ヒト化tg650(129MM)マウスにオジロジカ由来CWD分離株を脳内接種したところ、臨床 症状と脳や糞便中にRT-QuIC法でプリオンシーディング活性が確認された。このうちの1匹 を用いて継代接種したところ伝達した。また、10匹中各1匹がウエスタンブロット解析ある いは免疫組織化学検査で陽性となった。脳内PrPScのウエスタンブロット解析パターンは、家 族性ヒトプリオン病(GSS)と類似していた(参照103)。 北米のCWDとは株が異なるとされているCWDに感染したノルウェーのトナカイとヘラジ カの脳組織をヒト化tgマウス(129VV、129MM)に脳内接種したところ、tgマウス生存期間 中にプリオン感染の証拠はなかった(参照104)。 PMCA法を用いて、正常ヒト脳乳剤※21中のPrPC(129MM)をエルクPrPScでシード変換 し、CWD由来の感染性ヒトPrPScが初めて作成された。このPMCA産物をコドン129にバ リン(V)又はメチオニン(M)を持つ2系統のヒト化tgマウスに脳内接種したところ、プリ オン病を発症した(参照105)(詳細については表4)。
|