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哲学クロニクル 第357号
(2003年3月14日)
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イラクとの戦争に反対する理由
スーザン・ソンタグ・インタビュー(2)、シュピーゲル、2003年3月1日
【問】戦争はどう思われますか。あなたは平和主義者ですか。
【答】最近、知人たちと同じように、わたしもニューヨークで反戦デモに参加し
ました。でも平和主義者ではありません。すべての戦争に反対するわけではない
のです。
【問】コソボとボスニアのミロセヴィッチへの戦争は正当だと判断されたのでし
たね。
【答】はい、忌まわしい殺人に対するNATOの介入は、正当なものでした。少
なくともボスニアでは戦争を終わらせるための最小限の介入ですみましたし、そ
れにすでに二年前のことです。それに爆撃でも、それほど多くの犠牲者は出なか
ったと思います。コソボでは残念なことに、はるかに多くの人が犠牲になりまし
たが。
【問】ではイラクへの戦争のどこに、これほど強く反対されるのですか。
【答】反戦という姿勢には複雑なものがあることを理解すべきです。まずフセイ
ンは、限りのない悪意を秘めた独裁者であることを、基本的な確認する必要があ
ります。無数の人々の死の責任があります。わたしたちが反対しているイラク侵
攻は、イラク国民の多数から歓迎されるでしょう。わたしたちはそのことを忘れ
てはなりません。それだけにわたしたちの反対は困難なものになるのです。
【問】それではなぜこの戦争に反対なのですか。
【答】都市を爆撃するよりも、もっと別の方法があるからです。ホワイトハウス
は、ともかくイラクを占領したいので、戦争を始めるのです。
【問】アメリカはベトナム戦争以来、正義なき闘いという亡霊にとり憑かれてき
ました。今回はこの亡霊が姿を消したのはなぜでしょうか。
【答】それはアメリカにはもはや二つの政党がなくなったからです。共和党らし
き二つの政党があるだけです。共和党の末端が、民主党と名のっているだけです。
今のアメリカには真面目に受け取るに値する野党というものがありません。国民
の間には対立はありますが、それが政治プロセスには現れてこないのです。1960
年代と1970年代には、政治的な野党が存在し、政治的な議論が行われていました。
現在ではこれは姿を消したのです。
【問】9月11日の直後にあなたが発表したコメントには、猛烈な批判が集まり、
殺人の脅しまあったほどでした。あなたは「オサマ・ビン・ソンダク」と呼ばれ
たほどでした。
【答】9月11日の後のモットーは、「われわれは一体になっている」というもの
でした。わたしにとってはそれは「愛国主義者であれ、なにも考えるな。お前は言われた
ことをしていればいいのだ」ということを意味していました。
【問】9月11日にはあなたはニューヨークではなく、ベルリンに滞在しておられ
ました。そのことがなにか影響したでしょうか。
【答】そうだと思います。あの文章を書いたときには、テレビをみていて、攻撃
についての報道で使われていたアメリカの卓越と無敵さを誇るイデオロギーに、
反応したのだと思います。
【問】9月11日から始まっているこの衝突について、今の時点でどう思われます
か。これは文明の衝突なのでしょうか。
【答】わたしはそうは思いません。でも近代のプロジェクトと価値をめぐる衝突
ではあります。しかしわたしは人類の半ばを占める女性という集団の一員でもあ
ります。過激なイスラーム教徒は、女性を虐待します。わたしが生きている文化
では、女性は男性と同じように暮らせる可能性があります。そして過激なイスラー
ム教徒は、女性にこの可能性を拒んでいるのです。ですから倫理的な理由からも、
この宗教に反対しています。ただし、あらゆる原理主義は、女性にとって望まし
くないものであることを付け加えておきたいと思います。
【問】アメリカ政府も同じような論拠から、近東に新しい秩序を構築すべきだと
結論しているはずですが。
【答】しかしアメリカ政府は民主主義的でしょうか。この戦争に反対する重要な
論拠として、戦争は現状をさらに悪化させるだけだということがあげられます。
ほとんど取り返しのつかない結果が生まれるでしょう。テロはますます多くなり、
暴力と破壊がますます横行するでしょう。それだけでなく、この地域の世俗的な
力が、ますます弱くなるでしょう。
【問】イラクもある意味では、世俗的な力にくみしているのですが。
【答】フセインは本物の怪物で、それは確認しておく必要があります。わたしは
フセインが追い出されたら、うれしいと思うでしょう。ただフセインにも良いと
ころがあるとすれば、それは彼が世俗的な怪物だということです。長期的にみる
と、フセインを退位させると、原理主義的な政府が生まれる可能性があります。
過激なイスラーム教は、世界のいたるところに共鳴者をもっています。イスラー
ム原理主義は、アメリカに勝利することはできないでしょう。しかし多数の死者
をもたらす力はあるのです。
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ポリロゴス事務局
chronicle@nakayama.org
(c)中山 元
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哲学クロニクル
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