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読書案内 チャン・キルスとその家族著、風媒社発行、1700円
かけはし2002.9.9号より
『涙で描いた祖国』―北朝鮮難民少年チャン・キルスの手記
悲惨を極める北朝鮮社会の実像を描く
難民は出稼ぎ労働者なのか
『人民の力』(第749号、8月1・15日付)の「世界が注目、この頃の朝鮮半島」(連載『コリアばなし』E)で、大畑龍次さん(日韓民衆運動連帯全国ネットワーク会員)は、北朝鮮難民について次のように書いている。
「基本的には出稼ぎ労働者であるという報告もある」、「強制送還後の『厳罰』というのも作られたもののようだ。こうした現実は、出稼ぎ労働者という説明に信憑性を与えてくれる」、「『企画亡命』とは、こうした人たちに『亡命』をけしかけ、北朝鮮体制批判の道具として利用したものだ。……中国当局の取り締まりが強化されたというが、……『企画亡命支援団体』の取り締まりであって、不法越境者へのそれではない」。
北朝鮮難民が「出稼ぎ」なのではなく、飢餓から逃れるため、自由を求めて命懸けで中国に脱出し、それから韓国への亡命を求めて来た人々であることは、韓国の「ハンギョレ21」4月18日号の「捕らえられて送還されても再び脱出する人々」(本紙4月29日号)がはっきり指摘している。また、北朝鮮から中国に脱出し、北朝鮮に強制送還され虐殺された韓元彩さんの手記『脱北者』や、二十六回も中朝国境で北朝鮮難民を取材したジャーナリストの石丸次郎さんの報告(いずれも、「かけはし」7月22日)などによっても疑問の余地はない。
日韓・日朝連帯や東アジアにおける平和を求める運動を進める者にとって、北朝鮮がどのような国家であり、民衆がどのような状態に置かれているかを冷静に判断することは、必要不可欠なはずだ。
以下は北朝鮮難民少年チャン・キルスの手記である。
北朝鮮から脱出したキルス一家
二〇〇一年六月、北朝鮮出身のキルス君一家七人は北京の国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)に籠城し韓国への亡命を果たした。キルス君一家が話題を呼んだのはキルス君らが北朝鮮で起こっている悲惨な現実を訴えた画集を、世界的な時事週刊誌『ニューズウィーク』誌が報道したことや韓国で『涙で描いた虹』が出版されたことだ。
キルス君は中国への脱出の理由を以下のように記している。
「ぼくは十五歳になるチャン・キルスといいます。ぼくは……高等中学校に通っていましたが、あまりにひもじくて、生きる道を求め、一九九九年一月十一日に、銃をたずさえる国境警備隊の目を避けて、何日も食うや食わず、凍えながら、自由の地だという中国にやってきました」
「中国に来てみると、祖国と比べて食べ物はずっと豊富でしたが、自由な世の中ではありませんでした。ぼくは隠れるように暮らしています。一日が過ぎると、ああ、なんとか一日生き延びたと思うのです。中国に来てみても、望んでいた勉強もできないし、自由に外に出かけてとびはねることもできず、こそこそしなければなりません」。
「木の皮をはぐ僕のお母さん」
キルス君らの書かれた絵が随所に掲載されている。北朝鮮の悲惨な様子を知ることができる。
b「公開銃殺」――食糧難によって窃盗や強盗などの犯罪が増えると、公開処刑が頻繁になりました。ぼくが見たのは、隣りの家の食糧を盗んだ男の処刑でした。――ハンギル(冒頭のカギカッコ内が絵のタイトル、次の文章が絵の説明、最後のカタカナが絵を書いた人の名前。以下同じ)。
b「木の皮をはぐぼくのお母さん」――何も食べるものがなくなり、お母さんは山に木の皮をはぎに行きました――ハンギル
b「みんな一緒に死のう!」――「この母は、お前たちの小さなお腹も満たしてやれない身の上になってしまった。そんな私が生きていて何ができようか。今日この川に飛び込んで死んでしまおう」「母さん、二度とご飯ちょうだいなんて言わないから、死ぬのはよそうよ」――キルス
b「ねずみをつかまえて食べる」――「何でも食べて、死なずに生き抜くんだ」。北朝鮮では蛇とねずみはとてもいい栄養食なんです。ねずみをつかまえて食べた日は、運のいい日。――キルス
b「ご先祖様もゆっくり眠れない」――今の北朝鮮では、食べて生きて行くためならば、先祖の墓を掘り返すことぐらい何でもないことです。あの世のご先祖様も、ぼくたちの哀れな事情がわかれば、たぶんそんなに怒りはしないでしょう。――ハンギル
b「ついに人肉まで…」――闇市場で人肉が売られる事件が頻繁しました。「豚肉か人肉か区別がつかず、気をつけないと人の肉をゆでて食べてしまうこともある」――デハン
b「ジャガイモ畑をあさる」――時々大人たちが話すのを聞きました。「死んでいく人はこの三、四年の間に皆死んじまった。今生き残っているのは、やってはならないことだけしてきた人間だろう」。夜中に集団農場のジャガイモ畑をあさる腹を空かせた人民軍。軍隊でも一食一〇グラム運動をしている噂も聞こえてきます。強盗でもやらないと兵隊たちも命をつないでいけません。――ハンギル
b「夜は軍隊の世の中『あいつも敵だ』」――夜になると腹を空かせた人民軍の兵隊が強盗に変身します。民家の壁を打ちこわして、家畜や食糧を持ち去るのが今日の人民軍。ぼくらの敵は米帝国主義でも、南朝鮮でもありません。たびたび強盗に早変わりする人民軍が、一番恐ろしい敵になってしまいました。「人民のために服務する」などとスローガンに書いてあっても、実際は人民の上に君臨する軍隊になってしまいました。――ハンギル。
北朝鮮難民はなぜ発生するのか、社会はどうなっているのかを知る上で貴重な証言だ。 (滝)
http://www.jrcl.net/web/frame096b.html