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■アメリカのイラク攻撃を止める日本の「責任」
一水会代表 木村三浩
●いい加減なパウエルの「新証拠」
先の国連安保理演説でパウエル米国務長官が提示した、イラクの大量破壊兵器開発を示す「新証拠」は、もったいぶった割には説得力がなく、まさに「眉唾物」といっていい代物だった。電話傍受のテープや兵器工場の写真など生々しい材料は出たものの、これらはいくらでも捏造やデッチ上げが可能だし、もし事実だったとしても、状況証拠にしかならないものばかりである。
しかも、パウエル演説で引用されたイギリスの諜報機関(MI6)による「機密文書」が、イラク系アメリカ人学生による論文のパクリだったことまでが、英『タイム』紙によって暴露される始末だ。アメリカとしては、キューバ危機の際に国連大使が突きつけた「ミサイル基地の航空写真」と同様の効果を狙ったのだろうが、とんだインチキぶりを露呈してしまったといえよう。
これほどお粗末な「証拠」を信じる国が果たしてあったのかどうか。それは演説後の各国の反応を見れば一目瞭然だ。イラクが具体的な事実を挙げて反論したのは勿論のこと、ロシア、フランス、中国はあくまで査察を通じた問題解決を主張しているし、同じころ来日した元査察員のスコット・リッター氏も、パウエル演説を真っ向から否定する発言をしている。
例えばイラクの炭疽菌保持の実態について、「イラクの持っていた炭疽菌は3年で使用不能になっているはずだ。今所持していることはありえない」とし、さらに、「イラクは変わった。今は他国への侵略能力はなく、国連査察のため大量破壊兵器の開発もできない。悪質な意図があっても、危険な国ではない」と断言している。
また、査察委員会のブリクス委員長すらも、これまでの査察では大量破壊兵器開発を示す「決定的な証拠」は見つかっていないと報告しており、IAEAのエルバラダイ事務局長も、アメリカがイラクの大量破壊兵器保持を主張するならば、「アメリカが持つ具体的な情報を提供してくれ」と述べて苛立ちを隠さない。それに、「イラクが核開発計画を完全に隠すのは困難で、自前で核保有するにはほど遠い」と指摘している。つまり、現場で実務をしている担当者の認識としては、イラクの大量破壊兵器開発・保持という疑惑は、限りなく「シロ」に近いのだ。
そもそも、アメリカがアフガンからイラクへと戦火を拡大しようとする根拠は、9・11に類する事件の再発防止、すなわち「テロ撲滅」だったはずだ。だが今回のパウエル演説では、「アルカイダとイラクとのつながり」を示す根拠は申しわけ程度に挙げられたのみだ。
曰く、アルカイダ幹部のザルカウィなる人物がイラクに潜伏していたとのことだが、氏はイラク北部のクルド人自治区を拠点としており、イラクの主権が及ばないこの地域で何が行なわれようと、イラク当局に責任はないずだ。それどころか、氏はこれまでイラク政府へのテロ行為を行なってきた人物だ。ここまでくると不勉強も甚だしいではないか。
●日本はアメリカにとって「利用できる」存在
あのような茶番劇に、さも感じ入ったかのような顔をして「疑惑は深まった」「アメリカの同盟国として責任ある対応をしなければならない」などと発言したのが、日本の小泉純一郎首相だ。世界中がアメリカのイラク攻撃に疑惑を呈し、あくまで外向的な解決を模索しようとしている時に、なぜこれほど盲目的にアメリカに追従することができるのか。
大変不名誉なことだが、今回のイラク攻撃において、日本はアメリカを二つの意味で後押しする存在になっている。
まず一つは、ドイツやフランスなどの欧州各国が戦争に反対し、イギリスすら国内世論の支持を得られず躊躇する中で、日本だけが唯一アメリカ側に立っているということだ。
この点に関連して、フランスの人類学・歴史学者のエマニュエル・トッド氏の見方を取り上げたい。
2月8日の『朝日新聞』に掲載されたインタビューで、彼はアメリカを「崩壊しつつある帝国」に例えた。そして、イラク問題の本質は、経済的に弱体化しつつある「アメリカ帝国」と、共通の政治・経済システムによってアメリカに対抗する一大勢力になりつつあるヨーロッパとの対立だと説き、イラクは脇役にすぎないという。中でもドイツのシュレーダー首相が「戦争反対」を唱えていることは、これまでアメリカが日独を支配することで成り立ってきた世界経済のバランスを崩すものだとしている。
「欧州の主要国が同調せず、膨大な貿易赤字をかかえてドルが下がり続ける中、どんな戦争ができるのか。湾岸に15万人の兵力を置けば、1週間で10億ドルの出費だ。ところが、米国は貿易赤字を埋めるために1日に15億ドルの資金を必要としている。本当なら戦争など避けたいはずだ。だが、政府もメディアも一体になったようなこけおどしを続けたために、抜き差しならなくなっているのだろう」
実際に攻撃が始まり成功すれば、兵器産業や石油産業が潤い、景気回復も期待できるかもしれない。二期目の大統領選で敗北を喫した父親の失敗を繰り返したくないブッシュ・ジュニアにとっとは、イラク攻撃は一か八かの大博打でもある。だが、負けた時にどん詰まりになるような博打はいくらなんでも打てない。そこでアメリカが頼りにしているのが、日本の存在なのである。
トッド氏の言うように、1日に10億ドルの戦費は今のアメリカにとって大きな負担に違いない。戦後復興にも莫大なコストがかかる。だが、それらの一部、あるいは大部分を日本から引き出せるとなれば、アメリカも安心して戦争に打って出られるというものだ。
ここが問題なのである。現在アメリカは岐路に立たされており、全世界が戦争に反対し、金も人も出さないということになれば、いくらアメリカでも戦争に踏み切ることはできないはずだ。だが、日本の出方が安全パイであれば、戦争突入もさほど難しくはない。そして、ひとたび攻撃を開始すれば、戦後のイラク利権を狙う欧州各国が同調せざるを得ないことを、アメリカは計算済みである。だからこそ戦争に入る前になんとかしなければならないのだ。ここで日本がアメリカの戦争開始を後押しすれば、崩壊しつつある「アメリカ帝国」の延命を手助けし、その身勝手さを助長させた国として、歴史に汚名を残すことになろう。
●GHQ方式ではイラクは統治できない
もう一つ、日本がアメリカを勇気付けていると思われる点がある。それはアメリカが、「フセイン後」のイラク復興を、日本の戦後復興をモデルにして楽観的に考えているという点だ。昨年末、ブッシュ政権がイラク攻撃後に日本と同じ「GHQ方式」の長期占領を検討しているとの報道がなされた。それによると、まずフランクス米中央軍司令官がマッカーサー役としてイラク入りし、駐留米軍がイラク全土の大量破壊兵器(そんなものがあればの話だが)を全て廃棄する。そして、東京裁判と同様、イラク指導部や軍の幹部らを軍事法廷で裁き、イラク反体制派を主体にした新しい「民主的」政権を作るという。
だが、私はこれは絶対にうまくいかないと思う。だいたいアメリカは日本とイラクの歴史的な違いをまったく分かっていない。日本とイラクの間で決定的に異なる点を挙げれば、まず第一に、日本が大東亜戦争終結まで植民地化されたことがなかったのに対し、イラクはイギリスに植民地支配された苦い経験を持っている。ゆえに、イラク人の反植民地感情や、アメリカ支配への抵抗感は並大抵ではない。長期占領を行なえば、激しい抵抗運動が展開されることは容易に想像できる。
日本とイラクが異なる第二の点は、日本を統治する際には日本人だけを丸め込めばこと足りたが、イラクの場合、民族や文化を同じくするアラブ・イスラム世界が黙っていない、ということだ。
アラブ諸国の支配層には、政治的・経済的利益のため、アメリカに寝返っている者も多いが、草の根の民衆レベルでは、イラク国民を痛めつけ、イスラエルを擁護するアメリカへの反発は根強い。そして、アメリカのイラク支配を黙認すれば、エジプトやサウジといった親米国の指導者たちも、下からの民衆運動に突き上げられ、難しい立場に立たされるだろう。
また、このことでパキスタンの政権が不安定になれば、核の管理が杜撰になり、あらぬところへ持ち出される可能性も否定できない。
しかも、イスラムの教えからすれば、異教徒であるアメリカの軍隊が自分たちの世界に居座る状態は「防衛ジハード」の対象になる。
つまり、「武装した異教徒を追い出すための戦い」が成人男子全員の義務とみなされるのだ。今でさえサウジの駐留米軍はイスラム過激派の「防衛ジハード」の対象になっており、穏健派ムスリムにとっても不愉快な存在だ。イラク国内をうまく治められたとしても、こうした外からの強いサポートがある限り、米軍と米本土は今以上の危険にさらされるだろう。
そして第三に、イラクと日本には大きな文化的相違がある。日本はアメリカの占領と日米安保体制によって経済的繁栄を手に入れたものの、政治的には全く骨抜きにされてしまった。伝統文化や共同体の破壊もかなりの度合いで進んでいる。これは、日本が古来より異国の文明を「受け入れ」、日本風に消化し独自の文化にしてきたこととも関係があるだろう。一方で、イラクはメソポタニア文明の揺籃の地であり、文明を「発信する」側であり続けてきた。アッバース朝時代には同時代のヨーロッパより優れた都市文明を築いていたほどだ。イラク人は現在でもこのことを誇りにしており、精神的に堕落した欧米より、自分たちの文化のほうが豊かだとも考えている。
アメリカが簡単にイラクを統治できると考える傲慢さは、道義的にも許されるものではない。イラクは、アラブ諸国の中でも唯一主張を曲げず、アメリカに堂々と異論を唱えてきた国であり、パレスチナ人の戦いを物心両面で支えてきた国だ。20世紀最大の不正義であるパレスチナ問題を放置しないという気概を持ち続けたのはイラクだけだ。
フセイン政権がアメリカによって倒され、仮にもイラク国民が日本人と同様にアメリカに従順になってしまえば、国際社会でアメリカを批判する国がまた一つなくなってしまう。だが、パレスチナ問題などが未解決である限り、アラブ・イスラム世界では不満がくすぶり続けるのであり、それを表立って表現することができなくなれば、過激な地下活動へと移行するだろう。こうなれば、アメリカへのテロ行為はますます先鋭化していくだけだ。
●帝国の「終わりのはじまり」を認識せよ
アメリカの日本研究家、チャルマーズ・ジョンソン博士は、一昨年の9・11事件が起こる前に『アメリカ帝国への報復』という著書の中で、アメリカの覇権主義を諌め、アメリカが世界中で行なっている不法行為が、いつか報復となってはね返ってくると警告していた。一昨年の9・11事件がまさにそうだったが、アメリカが力づくで不正義をごり押ししようとすれば、それに反対する運動が各地で起こる。それは止めようがないことだ。
かつてのローマ帝国、フランスのナポレオン、ハプスブルグ帝国などが領土の拡張によって抜き差しならぬ状況に陥ったように、このままアメリカが世界の軍事支配へと突き進めば、歴史上の帝国と同じ運命を辿ることになろう。
興味深いのは、ハプスブルグ帝国が、隣のオスマン・トルコ帝国(=イスラム世界)から、ヨーロッパ・キリスト教世界を守るという役割を背負っていたということだ。これは、ブッシュ大統領が思わず口を滑らせた「十字軍」の発想と、驚くほどよく似通っている。
私はつくづく思う。今のアメリカが置かれている状況が一時の繁栄であるということを深く認識し、いざとなればアメリカから独立して生きることを考えるべきであると。いつまでも対米従属の姿勢で思考停止に陥る愚だけは避けなくてはならない。
世界は西側だけで動いているわけではない。
一歩、世界に出てみれば、多種多様な価値観や文化・伝統がある。すべての民族が互いにそれらしく生きることを重んじる民族主義の立場からすれば、アメリカがイラクに行なおうとしていることは、民族の固有性を圧殺する行為であり、到底容認することはできない。
明治時代、岡倉天心が「西洋の栄光は東洋の屈辱なり」と喝破したが、私はその状況はいまだに本質的な部分で続いていると認識している。日本は表面的に西洋の仲間となった「名誉白人」と思い込み、アラブで進行する「国際規範破り」を黙認して良いのだろうか。
実はイラクとアメリカの問題は、日本の在り方そのものや、これから進むべき道を考える上で、我々にとって重要、かつすぐれて考察しなければならない意味を持っているといえよう。
私は闇雲な反戦論者ではない。しかし、今回の戦争は一切の理義が感じられない。だから、徹底的に反対する。
そして、「アメリカのイラク攻撃反対」という私の声は小さいが、出来うる限り身体を張って、この不当な戦争の回避に全力を尽くしたい。この記事が世に出るころには、私はバグダッドの国際会議場でアメリカの政策を批判する演説をしている。また、「人間の盾」として、各国からやってきた活動家たちと最後の最後まで戦争回避の行動を貫く所存である。