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反戦運動について(イラク情勢) [『ガーディアン』紙のチョムスキー・インタビュー、2003年2月4日]
http://www.asyura.com/2003/war24/msg/282.html
投稿者 あっしら 日時 2003 年 2 月 18 日 19:18:51:


『ガーディアン』紙のチョムスキー・インタビュー、2003年2月4日

Chomsky On The Anti War Movement、An Interview In The Guardian by Noam Chomsky、The Guardian、February 04, 2003

(翻訳:寺島隆吉+岩間龍男+寺島美紀子)、翻訳公開2003年2月17日

ノーム・チョムスキー:

平和運動はもうひとつのたいへん注目すべき現象の指標でした。せまりつつあるイラクとの戦争への反対運動は世界中の国々と米国に広がっており、これは米国とヨーロッパの歴史上、人々がかかわっている範囲と規模において、全く先例のないものです。

 戦争が始まる前にこのような大規模な反戦運動があった時代は今まで一度もなかったと思います。イラクに近ければ近い地域ほど、その反対運動は高まっているようです。トルコの世論調査では、90%の人々がこの戦争に反対をし、ヨーロッパでも反対の世論は相当なものです。しかし、あなたが目にする米国でのその反対の数値は誤解を招くものです。なぜなら世界の他の国々と米国とを区別することを考慮していない別の要因があるからです。サダム・フセインがののしられ軽蔑されるだけでなく恐れられている唯一の国が米国なのです。したがって9月以来の世論調査では、米国の60%から70%の人々が、文字通りサダム・フセインが自分たちの生存にとって差し迫った脅威だと考えています。

 現在、米国が例えばクウェートよりもっとサダムを恐れるべきだという客観的な理由はありません。しかしサダムを恐れる理由があります。というのは、9月以来サダムはひどい奴だということだけでなく、今、彼を止めなければ明日にでも実際に彼は我々に襲いかかってくるだろうと米国国民に信じ込ませる大宣伝がなされてきたからです。そのような大宣伝が米国国民に届いています。だからもし米国国内の現実の反戦運動を理解したいならば、その要因を取り除かねばなりません。大規模なプロパガンダによる全く不合理な恐怖の要因、そしてもしあなたがその要因を取り除くならば、(米国の反戦運動の状況も)他のあらゆる場所とたいへんよく似ていることに気づくでしょう。

 報道で指摘されていないことは、このような大衆の反戦運動は全く先例がないということです。そしてこの反戦運動はさらに広がりを見せ、単に戦争反対だけにとどまらず米国の指導者への不信にまで広がっています。世界経済フォーラムが数日前に発表した「指導者への信頼の度合い」の研究をあなたはご覧になったかもしれません。この研究では米国の指導者への信頼が最も低いことを示していました。国民の4分の1少ししか米国の指導者を信頼していません。これは現政権の行動や計画の中ではっきりしてきた冒険主義と暴力への懸念が大きく反映していると私は思います。

 これが中心事なのです。米国国内でさえも圧倒的な戦争反対の声があり、戦争を遂行している指導者への信頼の低下がそれに対応しています。かなりの期間このようなことが少しずつ起こってきていましたが、現在は異常な事態に達しています。人々は週末になるとデモに戻ってくるのです。こんなことは今までにないことです。ベトナム戦争の時と比べてみるとイラクとの戦争の現在の段階は、おおむね1961年のベトナム戦争の段階と同じです。すなわち戦争が実際にまだ始まる前の状態です。というのは米国が南ベトナムを爆撃し何百万もの人々を強制収容所に入れ化学兵器(枯れ葉剤)を使ったのは1962年のことだったのです。しかしこの時は、抗議はありませんでした。実際、抗議行動はあまりにも小さなものだったので、ほとんどの人々は覚えてすらいないでしょう。

 南ベトナムの大部分がB52の集中爆撃を受け、数十万の軍隊が派遣され、数十万の人々が殺された数年後に、はじめて抗議行動が発展し始めました。しかし抗議行動が米国やヨーロッパで大きくなったその時も、さらにその後でさえも、疑いなく犯罪行為である北ベトナムへの爆撃の問題に抗議行動の焦点が合わせられていました。米国がいつも標的としていたのは南ベトナムであり、その攻撃のほうがはるかに激しいものでしたし、その攻撃は続けられていたにもかかわらず。

 ついでに言えばそのことは政府によっても認識されていました。したがってどのような政権でも就任時にまず行うことは、諜報部によって与えられる「世界はどのような状況にあるのか」という世界規模の諜報の評価(アセスメント)を持つことです。これらの評価は秘密であり、それらを見ることができるのは、機密リストからはずされる30年から40年後です。1989年に最初のブッシュ政権が出来た時、その諜報の評価のいくつかが漏れました。この先10年間に何が起きるのか、これらの質問について正確に、これらの評価は明らかにしていました。

 漏洩したいくつかによれば、この先10年間に起きるのは、非常に弱い敵との軍事的衝突であり、その弱い敵は、私たち(米国)が喜んで立ち向かえる唯一の類だとわかっている、つまり必ず起こると言うのです。したがって、とても弱い敵との衝突では米国は「断固として迅速に」勝利を収めなければならないのです。なぜなら、そうしないと大衆の支持が失われ、その支持基盤が非常に弱いことが分かってしまうからです。何年もの間、長い残酷な戦争をし、何の抗議も受けず実際に他国を破壊することができた1960年代とは違うのです。現在はそのような時代ではありません。今、彼らは勝たねばならないのです。彼らは人々を恐れさせ、その存在を脅かすたいへん大きな脅威があると感じさせなければなりません。そしてこの強大な敵に奇跡的で決定的に迅速な勝利を収め、次の段階へと進まねばなりません。

 現在ワシントンで事を取り仕切っている人たちは、ほとんどがレーガン政権時代の人たちであり、1980年代の脚本を本質的には追体験しています。それは適切な類推です。1980年代に彼らは一般の人々に有害で不評な国内プログラムを押し付けようとしていました。人々は、大部分の国内プログラムに反対しました。彼らがその押し付けに成功した方法は、繰り返し人々をパニック状態にしておくことでした。

 そこで、ある年、ロシア人たちが米国本土を爆撃するために使おうとしていたのが、グレナダの空軍基地だったというのです。それはばかげたことのように聞こえましたが、それがプロパガンダによる嘘であり、それは有効に機能したのです。

 ニカラグアは「テキサスから2日歩いて行けば行けるところ」であり、ヒットラーの言葉を借りればテキサスの心臓部に突きつけられた短剣でした。これも人々が笑い転げることだとあなたは思うでしょう。しかしそうではなかったのです。そのことは頻繁に人々を恐れさせるために持ち出されました。ニカラグアは半球を征服する途中で私たちを征服するかもしれないというのです。ニカラグアによる米国国家安全への脅威のために、国家非常事態が宣言されました。私たちの指導者を暗殺するためにリビアの殺し屋(ラテンアメリカの麻薬テロリスト)がワシントンの通りをさまよい歩いているというのです。私たちの指導者たちが主要なテロ戦争を行っている間中、米国国民を常に恐怖状態にしておく必要があったので、次から次へと魔法のごとく、こんな嘘や噂が出されてきました。

 思い出して下さい。この同じ人々が1981年に対テロ戦争を宣言しました。これは主に中米に焦点を合わせた米国外交政策の最も重要なものでした。彼らは中米で対テロ戦争を行い、結局20万人の人々を殺害し4カ国を荒廃させました。1990年以来、米国が再びその4カ国を占領した時には、その4カ国はさらに深い貧困状態に陥っていました。現在、米国は同じ目的のために同じことを行っています。米国は国内プログラムを実行していますが、米国国民は、そのプログラムによってひどい損害を受けるとして強く反対しているのです。

 しかし国際的な冒険主義、つまり私たち米国を攻撃しようとしている敵を、魔法のごとく出してくることは、米国政府の性癖であり、お馴染みのものです。これは米国政府が発明したものではありません。他の人々が今までの歴史の中で同じ事を行ってきたのですが、米国政府はこの術策の達人となり、今再び米国がそれを実行しているのです。イラクを占領したいという理由が米国にはない、などと私は言いたくはありません。もちろん、米国はそのようにしたいのです。誰もが知っている長期にわたる理由から。イラクを支配することは、世界の大きなエネルギー資源の支配を、米国に非常に強い立場で広げさせることになります。それは小さなポイントではありません。

 しかし特別なタイミングという問題も見る必要があります。宣伝の太鼓が打ち鳴らされ始めたのが9月だったというのはとても印象的なことです。この9月には何が起きていたのでしょうか。それは選挙運動が始まった時でした。社会的経済的な問題が優位を占めるならば、共和党は選挙に勝てないということは明らかでした。彼らは大敗していたことでしょう。そこで彼らは1980年代に行ったことと全く同じことを行わねばなりませんでした。社会的経済的問題を安全保障の問題とすり代えれば、安全保障の脅威がある場合には、恐ろしい危険から私たちを守ってくれる強い人物、つまり大統領のまわりに人々は集結する傾向があります。

 イラクとの戦争後の、可能性の高い矛先(ほこさき)は、イランそしておそらくシリアになるでしょう。北朝鮮は異なった事例です。米国が明確に世界に論証していることは、もし米国の侵略を思いとどまらせたいならば、大量破壊兵器(WMD)を持つか信憑性のあるテロの脅威をちらつかせたほうがよいということです。米国の侵略を思いとどまらせるものは他にはありません。通常兵器ではそれはできません。それは教えるにはぞっとするような教訓ですが、まさにそういったことが教えられていることなのです。

 何年間も、主流の専門家たちが指摘してきたところによると、米国がその冒険主義によって武器の拡散を引き起こしているのは、他の国々が大量破壊兵器やテロの脅威以外の手段で自らを守ることができないからなのだ、というのです。ケネス・ワルツはこのことを最近指摘した一人です。しかし何年も前に、ブッシュ政権の前でさえも、主要な体制側の定期刊行物である『フォーリン・アフェアーズ』の中でサミュエル・ハンチントンのような一流の解説者が、「米国は危険なコースを歩んでいる」と指摘していました。彼はクリントン政権のことを話題にして、「世界の大部分の国々にとって今や米国はならず者国家であり、彼らにとっての主要な脅威と見なされている」と指摘していました。実際、現在の戦争反対で顕著なことのひとつは、前例がないということだ、と先ほども述べましたが、政治的スペクトル(主張の多様さ)を越えて幅広く広がっていることです。したがって主要なふたつの定期刊行物『フォーリン・アフェアーズ』と『フォーリン・ポリシー』は最近号の中で、今回の場合、戦争に訴えることに反対する著名な主流の人物によるきわめて批判的な記事を掲載しました。

 米国科学技術アカデミーは、論争の的になる現在の問題には立場をはっきりさせないのが常ですが、今回の問題については国際安全保障委員会による長い記事を公表しました。可能な限り同情的にブッシュ政権の立場の報告を行い、その後、単純に一行一行を非常に厳密な見地で分解していきました。私の好み以上に厳密な見地でしたが、しかしそれでもなお、見事成功しました。

 この米国の冒険主義については多くの不安と懸念があります。あるアナリストはこれを「愚かな肘掛け椅子の幻想」と呼びました。私の懸念は「その冒険主義はイラクの人々に何をもたらすのか」「その冒険主義はその地域に何をもたらすのか」ということです。しかし先に述べた懸念は「その冒険主義が私たちに何をもたらすのか」ということです。

マシュー・テンピスト:

 「解放」後にイラクで民主主義が確立されなければ、そのプロパガンダは自らに跳ね返ってくるでしょうか。

ノーム・チョムスキー:

 あなたがそれをプロパガンダと呼んだのは正しいと思います。もしこれが戦争目的であるならば、なぜ彼らはそう言わないのでしょうか。なぜ彼らは世界の他の国々に嘘を言うのでしょうか。国連査察官を持つ利点は何なのでしょうか。このプロパガンダによれば、私たち(米国)が人前で言っているすべてのことは純粋に道化芝居です。私たち(米国)は大量破壊兵器や軍縮のことなど気にしていないのです。私たち(米国)はあなた方に話していない別の戦争目的を心の中に持っています。すなわち、急激に、私たち(米国)は戦争によって民主主義を引き起こそうとしているのです。もしそれが目的ならば、すべての査察の道化芝居と他のすべてのことは終わらせて、私たち(米国)はみじめな指導者のもとで苦しんでいる国々に民主主義をもたらすために十字軍の遠征をしているのだと言いましょう。実際それは伝統的な十字軍であり、かつての植民地戦争や現代のそれに当たるものの背後にあるものです。そのようなやり方がいかにうまくいったのか示すのに、これまでの長く豊かな記録があります。それは歴史的にはなんら目新しいものはありません。

 今回の対イラク戦争の場合、いったん戦争が始まったら何が起きるのか予測できません。最悪の場合には、諜報局や救援機関が予測している事態になるかもしれません。すなわち米国の攻撃への、抑止や復讐としてのテロが増加します。イラクの人々はかろうじて生存をしていますが、その人々にとっては救援機関や国連が警告していたような、人道主義上の問題のある大災害になるでしょう。

 一方ワシントンのタカ派は次のような事態を望んでいる可能性があります。話題にするような戦闘なしに、この戦争に迅速に勝利し、新しい政権を押し付け、その政権に見せかけの民主主義を与え、イラクの中に大きな軍事基地を米国がもち、効果的に石油の支配をすることは明らかだということです。

 真の民主主義を米国がイラクに許す見込みはきわめてわずかです。民主主義の確立の邪魔になっている大きな問題があります。その問題のために、ブッシュ1世は1991年の反乱を抑え、結局サダム・フセイン政権を転覆することができなかったのでした。結局のところ、その反乱をフセインが鎮圧する権限をもし米国が与えなかったならば、サダム政権は転覆されていたでしょう。

 ひとつの大きな問題は人口のおよそ60%がシーア派(イスラム二大宗派の1つ。歴史的にはアラブがスンニ派、ペルシャ・現イランがシーア派。)であることです。もしイラクになんらかの民主主義的な政府ができるならば、実際シーア派の人々が政府の中で大多数を占めるでしょう。彼らは親イランではありませんが、たぶんイランとの関係を改善しその地域に溶け込んでいき、その地域にイランを再び統合してその地域の緊張のレベルを緩和するでしょう。アラブ諸国の中ではそのような方向での動きがずっとありました。そしてシーア派の大多数もそのような動きに加わる可能性があります。それは米国が最も望んでいないことです。なぜならイランが米国の次の標的であるからです。

 米国はその地域の関係改善を望んでいません。さらにシーア派の大多数がはじめて政府内に発言権を得るならば、少数派のクルド族も同じようなことを望むでしょう。イラク北部地域での一定の自治の要求実現をクルド族は望むでしょう。トルコはそのようなことには耐えられません。トルコはすでにそのような進展を阻止するために、イラク北部に数千の軍隊を展開しています。キルクーク(イラク国内の地名)はクルド族が彼らの首都とみなしている所ですが、ここでもし何らかの動きがあるならば、トルコはそれを阻止するために動くでしょうし、米国も確実にそれを支援するでしょう。これは米国がトルコ南東部で1990年代にクルド族に対する大規模な残虐行為をするトルコを支援したのと同じことです。後に残された選択肢は次のどちらかです。ある種の見せかけの民主主義を持った軍事独裁政権、つまり舞台裏では軍部が動き、投票による議会を持った政権であり、これはおなじみのものです。もうひとつは、過去において経験があるようにスンニ派の少数派のような人々に政権を握らせることです。

 このことについては、だれも予測できません。戦争が始まった時、何が起きるのかは分かりません。CIAもラムズフェルドも誰も予測できません。このことはどのようにでもなる可能性があります。そういうわけで正気の人々は戦争に着手する圧倒的な理由がない限り、暴力の使用は控えます。なぜなら危険があまりにも大きいからです。ブッシュもブレアも戦争目的としてこのような圧倒的な理由を提示しないのは注目すべきことです。彼らは安全保障理事会のところに行って、イラクに民主主義をもたらすために軍事攻撃をする決議をしようと言ったことがあるでしょうか。もちろんそんなことはありません。なぜなら彼らは自分たちが笑い者になることを知っているからです。

 ブッシュ政権は、かつて11月に安全保障理事会に非常に公然と直接的に、こう言っていました。「米国がやりたいことをやり望む時に武力を使う権限を認めるならば、国連は“関係がある”だろう。その権限を認めないとすれば、国連は“無関係”だ。」と。(米国の立場を示す)これより明瞭な言葉はありません。

 米国はやりたいことはどんなことでもする権限をすでに持っていると自ら述べています。あなたがたはやって来てその権限を支持することができます。さもなければ、あなた方は不適切です。あなた方がどう思おうが私たち(米国)は気にしないし、やりたいようにやる、ということを世界にこれほど明確に知らせるやり方はなかったでしょう。それが米国の指導者の権威が世界経済フォーラムの世論調査で崩壊した主な理由のひとつです。

 他の国々は、おそらく米国の戦争についていくでしょうが、恐怖心からだけなのです。

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