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「正義の生命線」を守れ! 理義なき米国のイラク攻撃を阻止せよ!! (月刊日本10月号)
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投稿者 アーヴ 日時 2003 年 2 月 18 日 01:15:07:

「正義の生命線」を守れ!
理義なき米国のイラク攻撃を阻止せよ!!

        一水会代表 木村三浩

●マスコミの軍事情報リークをどう読むか

 このところ私は、連日、新聞やテレビを見るたびに不愉快でならない。
 米国のブッシュ大統領や政府高官たちが、毎日のように「イラクを攻撃しなければならない」と鼻息を荒くしているからだ。しかも彼らがブチ上げているのは、「イラクは大量破壊兵器の査察に応じず、核兵器の開発をしている。これは世界に対しての脅威であり、先制攻撃しても良い」という論理だ。おまけに、それは「緊急性がある」という。あたかも自分を含めた世界のどこかが、「今にもイラクから核攻撃を受けそうだ」、という危機感を煽り、それを封じるためには「先制攻撃あるのみ」という発想なのである。

 だが、過去11年間にわたってイラクと付き合ってきた私からすれば、その論理と発想はあまりにもメチャクチャなこじつけであり、9・11事件の被害者意識を前面に出した偽善としか言いようがない。イラクは過去7年7ヶ月にわたって査察を受け入れてきた実績を持っているし、核を開発して、世界に脅威を与えようなどとは全く考えていない。米国とイスラエルを除いて、イラクが敵対心を持っている国はないのだ。

 ところが、7月以来、米英のマスコミはイラク脅威論をこぞって報じ、イラク攻撃の具体的な計画の内容をタレ流している。7月5日付の米ニューヨーク・タイムズ紙は、米国防総省からのリーク情報として、イラクの北・南・西から最大25万人の地上軍を侵攻させ、サダム・フセイン大統領を政権の座から引きずり降ろす計画をスッパ抜いた。

 この報道に対して、ラムズフェルド国防長官は「リークした奴は監獄に行くべきだ」などと派手に怒りを表してみたが、まるで三文役者の芝居のようで、単なるパフォーマンスであることがミエミエだった。本当に軍事機密が漏れたならば、彼の首が飛んでもおかしくないし、野党の民主党から、この手の情報漏洩を糾弾する動きが伝わってきても良いはずだ。それに、ブッシュ大統領はこれまで「具体的な計画はない」と言って同盟国などからの批判をかわして来ただけに、本人の口から言わずに具体的計画の存在を内外に知らしめることが出来て、むしろ好都合だったのではないか。その後も米英マスコミでは、国防関係者からのリーク報道が加熱気味だが、これらが、リークを装った情報操作であるのは確実である。

 最近では、湾岸戦争時に国務長官を務めたベーカー氏や、スコウクロフト元大統領補佐官など、共和党内部の重鎮から慎重論が出ており、米国内における「慎重論」対「強硬論」という単純な二項対立の図式が伝わってくる。だが、慎重派といえども、フセイン政権転覆に関しては基本的に賛成であり、その方法論での対立にすぎない。こうした対立を演出することによって、米国は内外の反応を見極め、攻撃の時期を探っているのであろう。

 一方、日本のマスコミ報道はどうかといえば、「攻撃の是非」よりも「いつ、どうやって攻撃するか」という「手段」の報道ばかりが目立ってきている。すでに我々日本人も、米国発の「リーク」に、知らず知らずのうちに慣らされてしまっている。大抵の人々が、「米国はいつ攻撃を始めるのか」という方向に関心を示しているからだ。戦争とプロパガンダは、不即不離の関係にあるとはいえ、米国発の情報に躍らされている現実は、あまりに情けないものだ。

●イラク攻撃は9・11事件とは無関係

 思えば、政権誕生当時から、ブッシュ大統領は「ならず者国家」という呼称を復活させて、イラクに対する強硬姿勢を貫いてきた。そして、「憎きサダム・フセイン」を倒すために、あらゆる材料を攻撃のきっかけにしようとしてきたのである。

 最近、そのことをよく示すエピソードが米CBSテレビで報じられた。それによると、ラムズフェルド国防長官は昨年9月11日、国防総省にハイジャック機が突入した直後、側近にこのように指示したというのだ。
「最高の情報を早く集めろ。(情報が)オサマ・ビンラディンだけでなくサダム・フセインも叩けるだけのものかを判定しろ!」
 この発言は、ブッシュ政権が9・11事件以前から、フセイン政権打倒の機会を虎視眈々と狙っていたことの証左であろう。

 9・11事件の直後、イラクが「自業自得た」といって、唯一米国への弔意を表さなかったのも、米国の神経を逆撫でしたようだ。米国にたてつく生意気なイラクを、この機会に片付けてしまいたい──ということで、米当局は必死で情報集めに奔走したようだ。ところが、アルカイダ関与の情報はあったが、イラク関与を裏付ける証拠が見つからない。そこで浮上したのが、ハイジャック実行者のリーダー、モハメド・アタとイラクの情報当局者がプラハで「接触した」とされる、「プラハ・コネクション」の演出である。

 加えて、米国がアフガン攻撃を始めるや否や、米国内では炭疽菌入りの手紙があちこちに送りつけられ、相次いで5人が死亡、生物兵器テロの脅威が全世界に広がった。ここでも、イラクが開発した炭疽菌がアルカイダに渡った、という憶測が盛んに喧伝され、イラクとビンラディンとのつながりを強く匂わす報道が相次いでいた。

 このとき、イラク関与説の急先鋒となったのが、UNSCOM(国連大量破壊兵器破棄特別委員会)の元委員長・リチャード・バトラーである。バトラーはあちこちのマスコミで「イラクが炭疽菌を培養したことを知っている」「モハメド・アタが、イラクで培養された炭疽菌を入手した可能性がある」「イラク人がチェコのプラハで少量の炭疽菌を渡した」「生物兵器の知識や技術がイラクやロシアから流出することも考えられる」などと、いかにも見てきたようなコメントをしたのである。
 この「アタとの接触」と「炭疽菌事件への関与疑惑」が、9月11日以降唯一、米国がイラクを報復攻撃の対象にしようとする根拠であった。

 ところが、「プラハ・コネクション」は、チェコの情報機関が流した曖昧な未確認情報にすぎず、全くの間違いだったことが判明した。米『ニューズウィーク』誌も「とんだ勇み足だった 9・11イラク関与説」というタイトルの記事を掲載し、〈盛んに喧伝された『プラハ・コネクション』は赤面ものの誤報にすぎなかった〉と報じている。『ニューズウィーク』といえば、これまでイラクに不利な捏造記事やデマを報じてきた「紙爆弾」だ。その同誌でさえ、このような記事を載せざるを得なかったところに、米当局が当初、いかに苦し紛れの嘘の情報を流していたかがわかるではないか。

 だが、日本のマスコミでこのことを報じたものは皆無であった。朝日新聞は「テロリストの軌跡…アタを追って」という特集で、「プラハ・コネクション」に触れ、単行本まで出しておきながら、何の弁明もない。事実が判明した以上、彼らは責任をもって、イラク政府に詫び状の一つでも書くべきではないのか。相手がイラク以外の国ならば、とんでもないことになるだろう。私は、日本のマスコミに、ここまでイラク報道へのいい加減さが蔓延していることに怒りを禁じえない。

 炭疽菌事件に関しても、結局イラクとは無関係だった。現在、米陸軍生物兵器研究所の元職員が、容疑者として取り調べを受けている。バトラーの自信たっぷりの言いぐさは一体、何だったのか。しかも彼は、結局はデマにすぎなかった「プラハでの接触」を根拠に、イラクを犯人扱いしていたのだ。嘘を根拠にさらに嘘を重ね、それがバレても謝罪の一つしない、といういい加減さには、呆れて物が言えない。

 ここから学ぶべき教訓は、現在、もっともらしく語られている情報が、半年後、1年後には「嘘の情報だった」として、真相が暴かれることもあり得る、ということだ。そして、我々がそれを知る頃には、もう手遅れであり、米国の政策に影響を及ぼすことも出来ない。日本のマスコミにも、現地取材で真相を報じる気概はなく、イラクはいつも嘘の「書かれ損」ということになる。

●国連はイラクの質問に答えるべき

 とにかく、イラクは9・11事件にも炭疽菌事件にも関与していないのだから、米国に「対テロ戦争」の延長線上で叩かれるいわれは全くないはずだった。
 ところが、それが分かったブッシュ大統領は、方針をがらりと変えた。「悪の枢軸」発言で、「対テロ戦争」の対象を、9・11の「テロリストをかくまう国」から、「大量破壊兵器を保有・開発している国」へと一気に拡大させてしまったのである。

 国連の対イラク経済制裁は、査察の進行状況によって、毎年5月と11月に、制裁を継続するか否か、ということを含めた見直しが行われていたが、米国はこの切り替え時期を狙って、イラクに「24時間、365日、無制限」の査察を受け入れるよう要求してきた。勿論、イラクが受け入れないことを分かった上でのことだ。イラクが拒否すれば、「やはりイラクは大量破壊兵器を持っている」と内外に主張できるからだ。

 これに対して、今年3月、イラクのサブリ外相はコフィ・アナン国連事務総長に、「19項目の質問状」を提出し、国連安保理に回答を寄せるよう迫った。だが、国連は一切の回答を拒否している。私もこれを入手してみたが、過去の査察におけるスパイ行為や、米国の影響をもろに受けている安保理や査察団の実態を突く、至極まっとうで、なかなか鋭い質問である。

一、イラクが7年7ヶ月もの間、UNSCOMとIAEA(国
  際原子力機関)の査察を受け入れ、兵器を破棄したことに
  対してどのような評価をしているのか。

一、査察チームが、イラクに大量破壊兵器を所有していないと
  いう判断を下し、安保理にその事実を報告するのに、一体
  どれだけの時期が必要なのか?

一、米国は、フセイン政権が続く限り経済制裁は続くと宣言し
  ているが、このような当該の安保理決議違反に対して、安
  保理の立場は?

一、停戦決議に定められた、一刻も早い制裁解除、国家主権・
  独立・領土の尊重や、イスラエルを含めた「中東地域を大
  量破壊兵器のない地域にする」という義務を確実にするに
  はどうすればよいか。

一、過去の査察に名を借りたスパイ行為については、元査察官
  や米情報筋、安保理常任理事国の声明、国連事務総長など
  によって暴露されている。それなのに、イラクに査察員が
  戻ることが公正といえるのか?

一、国連は、イラクに来る査察員たちがスパイ行為に関与しな
  いことを確実に保証できるのか?

一、公然とイラクの安全保障を脅かし、イラクに侵略すると脅
  している国々からきた査察官たちが、「イラク国内におけ
  る中立的な国際的権利・義務」を行使出来るのか? 彼ら
  が安保理決議を尊重し、国連憲章通りに、任務の限度をわ
  きまえることが出来るのか?

 国連は、何故こうした質問に、正面から答えないのだろうか。イラクは98年末までに、264回の査察を受け入れ、3858人の査察官が現地入りし、2558箇所での査察を済ませている。公共施設、病院、民家、学校の体育館や実験室、大統領府の内部までも公開させられた。それなのに、経済制裁が解除されないのは何故なのか。イラクがいぶかるのも無理はないだろう。何より、イラクが査察を拒んでいる一番の理由は、過去の査察でのスパイ行為にあるのだから、その部分をハッキリさせるべきだ。

 1998年にイラクに派遣された査察団の団長、元海兵隊員のスコット・リッターは、イラクの工業地帯や経済インフラの場所、大統領宮殿の内部構造、フセイン大統領の生活パターンなどを調べ上げ、米国とイスラエルに報告書を出していた。そして、米英空軍は、その情報に基づいて攻撃目標を選び、1998年12月に、バグダッドに大規模爆撃を加えた。そして、フセイン大統領夫妻が宮殿にいるとの情報に基づいて、その場所をピンポイント爆撃したのだ。その結果、フセイン大統領の次女が負傷している。
 つまり、このときの査察は、米国のフセイン大統領殺害計画に組み込まれた、れっきとした諜報活動だったのだ。これらの顛末については、いみじくもリッター本人が、後に、CNNのインタビューで真相を暴露している。

●イラク攻撃は米国の立場をも危うくする

 このように、イラクが9・11事件と無関係であり、大量破壊兵器の査察そのものも問題をはらんでいる以上、今回のイラク攻撃計画は、法的にも、道義的にも、人道的立場からも、許すことの出来ない暴挙である。
 まず、フセイン政権打倒は内政干渉以外の何物でもなく、アフガン攻撃とタリバン打倒が彼らなりに成功したからといって、イラクに同じことを押しつけるのは国際法違反である。イラクでは議会での政党政治も、選挙も行われており、政教分離や女性の社会進出も進んでいる。サダム・フセイン大統領は、かつて欧米の石油メジャーに握られていた石油を国有化し、その利益を様々なインフラ整備や学校教育に使い、国民の生活レベルを上げたという実績を持っている。「文盲撲滅キャンペーン」によって、国民の識字率も90%以上に上がった。イラク国民は、このような実績を支持しているのである。

 また、米国がアフガンでの北部同盟のような役割を期待しているイラク反体制派だが、彼らの立場はクルド民族主義、イスラム革命を掲げるシーア派、欧米的民主主義を目指す勢力と、てんでバラバラだ。それに彼ら自身も、米国の軍事攻撃による政権打倒を望んでいないと断言している。理由を推測すれば、彼らはイラク国民の間に、どれだけ根深い反米感情があるかを知っており、米国の力で体制を倒し、傀儡政権の座についても、国民の支持は得られないことを自覚しているからだ。

 道義的に見れば、サダム・フセイン政権を倒すという米国の暴挙を許してしまったら、今後、米国の意のままにならない国で、指導者の首が次々にすげ替えられる、という悪夢が出現することになる。自分たちに従わない国や民族を武力攻撃で封じ込めてゆく「力の論理」がまかり通るならば、それに対抗する全ての「抵抗運動」がテロの形態を取ったとしても、正当化されて然るべきではないか。

 人道的にみれば、イラクは現在、米国も深く関与したイラン・イラク戦争や湾岸戦争、12年間続く経済制裁、米英空軍による散発的な空爆などによって疲弊し切っている。経済、医療、教育、公共サービスのインフラはほぼ壊滅状態であり、イラク側の発表では、ここ20年でおよそ150万人が、戦争や経済制裁がもたらした病気・飢餓で亡くなったという。このような状況にある国に攻撃を仕掛ければ、9・11事件などよりはるかに大きな犠牲者が出ることは必至である。バグダッドは人口470万人の大都市だが、制裁による薬品不足などで、水道水すら汚染されているような状況だ。空爆や市街戦が行われれば、戦闘による直接の被害ばかりでなく、伝染病や栄養失調なども蔓延し、バグダッドは「死の街」と化すことは間違いない。

●日本も米国の“犬”になってしまうのか

 このことを明確に認識しているのが、米国の同盟国である欧州諸国だ。彼らはこうしたブッシュ政権の暴挙を見抜き、今度のイラク攻撃計画の不当性を明言している。イラクと自国との歴史的な関係も重視して、英国以外はイラク攻撃に反対の立場だ。中でもドイツのシュレーダー首相は、イラク攻撃には兵士もカネも出さない、という姿勢をキッパリと示している。選挙活動中の発言とはいえ、一国の首相がここまで立場を明確にするというのは並大抵のことでは出来ない。このドイツの姿勢は評価に値するものだ。

 一方で、アラブ21カ国・1機関で構成されるアラブ連盟は、「もし米国がイラクを攻撃した場合は、アラブ諸国全体に対する重大な挑戦である」として、再三、米国の対イラク攻撃を強く牽制してきた。サウジアラビアも、今回は基地の使用をかたくなに拒否している。
 この様な状況の中で、我が日本は、いかなる道を歩んで行くべきなのか。9月上旬に訪米した小泉首相は、米外交評議会での講演、9・11事件一周年の追悼式典への参加という日程をこなし、日米首脳会談ではブッシュ米大統領との協力・友好ぶりを披露した。だが、所期のとおり、日本としてはイラク問題に「外交的な努力を続けるべき」と進言していかなくてはならない。この方針を断固として貫いていくべきだ。

 もし、このまま対イラク戦争が発動され、日本が昨年のテロ対策支援法とそれに基づく自衛艦のインド洋派遣の延長上で、安易に軍事面・資金面での対米協力に踏み切れば、日本は国際社会からまたも対米従属国としての烙印を押され、アラブ世界との距離を決定的なものにする可能性があるのだ。
 現に英国のブレア首相は、「ブッシュ大統領のプードル犬」などと揶揄されている。9・11事件直後の昨年10月、英企業は米国から「次世代戦闘機」開発に際して9兆800億円の受注を取り付け、なんと8000人もの雇用を創出したという。こうした“利潤”がかかっているために、ブレア首相は対イラク攻撃に賛成せざるを得ないのだ。

 このように現実的には、対イラク攻撃は、「対テロ戦争」とは全く様相を異にした、利益追求のための作戦でもあり、軍事力でいえば、300対1と大人と子供ほどの戦力差がある。もはやイラクいじめ以外の何ものでもない。岡崎久彦などを始めとする保守派言論人は、「同盟国なのだから、友人として協力するべきだ」「勝ち馬に乗ったほうがいい」という主張を語っているようだが、利潤の観点からしか物事を見ておらず、理想やロマンを捨てた発言としか思えない。例えば、これから“犯罪”に手を染めようとしている友人を見逃したり、それに加担することが「友情」なのだろうか。私はむしろ、歴史に汚点を残すような行為を諌めるほうが、真の「友人」にふさわしい行動だと思う。

 小泉首相は訪米してブッシュ大統領にゴマをするだけでなく、イラクをも訪問して、査察問題での公平な対応がなされているかを確認し、イラクに査察受け入れを求めるなど、自ら進んで仲介の労をとるべきではないだろうか。世界中で白眼視されているブッシュ大統領の狂気の沙汰に、日本と英国だけが手を貸し、カネを取られた挙げ句、歴史に汚点を残す──そのような事態だけは、何としても避けなければならない。

●「正義の生命線」を守るためにイラク攻撃阻止を!

 いま私は、この米国の無謀な対イラク攻撃をなんとしても止めさせるために動いている。9月中旬にはタリク・アジズ副首相が招集する「バグダット会議」に参加する予定だ。ここには、ロシア自民党のジリノフスキー党首や、英国のジョージ・ギャロウェイ議員など、イラク攻撃に反対する世界の政治家たちが集まり、各国に向けてメッセージを発することになっている。一民間人にすぎない私だが、日本を背負う覚悟で出席するつもりだ。

 私にとっては、イラク攻撃は他人事ではない、ごく身近な問題なのだ。日本の米国からの独立を目指し、世界中に対米自立ネットワークを築くべく活動してきた私は、湾岸戦争をきっかけに、米国と戦うイラクと11年の付き合いを続けてきた。少なくともイラクでの私の知人・友人は50人を超えており、家族を含めれば200人は下らない。やや大袈裟になるが、私にとっては、彼らの生き死にがかかっているのだ。
 これまでの空爆で、画家のライラ・アル・ラッターア文化大臣を含めた私の友人5人が殺されている。私自身も、空襲警報や空爆の地響きを体験し、その深刻さをほんの一端だけであれ味わってきた。イラク南北部の住民は今でも、日常的に空爆を受けているし、首都バグダッドも、米国の意向次第で攻撃にさらされるのだ。そして、イラクの人々が作り上げた、近代都市バグダッドの様々な建築物(政府省庁、企業、ホテルなどの高層建築、民家など)が、見るも無残に破壊されていくのである。

 それに比べると、9・11事件は、米国がイラクの人々に味あわせてきたことを、米国人が初めて、1日だけ味わった事件だった。だが、それだけで彼らは激しく動揺し、パニックに陥り、イラク攻撃に向けて暴走を続けている。何とも滑稽なことではないか。

 つい一ヶ月前にバグダッドを訪れたとき、イラクで最も親しい友人であるアブドル・ガフール氏に、こんなことを言われた。
「もし俺が死んだら、家族のことを頼むよ。木村は俺たちが勇敢に戦ったことを歴史に記録し、記憶の中で讃えてほしい」
 11年の付き合いで生まれた連帯感ゆえに、私はこの「男の約束」を果たさねばと思っている。だがその前に、イラク攻撃を止めさせるため、出来る限りのことをしなければならない。日本では、イラク人と友人として心を通わせているのは少数派だろう。国交があるとはいえ、「負け組」にはつきたくない。という人情のカケラもない冷めた根性ばかりが目立っている。いつから我々日本人は、これほどすかした民族になってしまったのか。しかし私は、世界に13億人いるイスラム教徒もまた、イラク国民の受難をわが事のように思い、深く同情していることを忘れていない。
 再度言いたい。先日、訪米し、得意になっている小泉首相や、日本国民のいったい何人が、イラクについて正しい認識を持ち、イラクの人々が、自分たちと同じ人間であることを心から分かっているだろうか。

 『オリエンタリズム』の著者エドワード・サイード氏は、「欧米の人に、まずパレスチナ人が『人間である』ということから分からせないといけないところに、問題の深刻さがある」と語っていたが、まさにイラク問題に関しても、同じことがいえるのではないか。

 年間3500億ドルもの国防予算を使って軍備を増強し、ハイテク兵器を備える米国と、12年の経済制裁で武器禁輸の状態にあったイラクとの軍事力は、雲泥の差である。しかも、米軍のほうはゲーム感覚で、空から一方的に、強力な殺傷力をもった爆弾を投下するという卑怯なやり方なのだ。
 それでもイラクの人々は国家を防衛する気概を示し、独立を貫く姿勢を保っている。おそらくイラク人の心中には、かつて石油資源を欧米石油メジャーに搾取されていた記憶と、自分たちが「アラブの論理」を貫き、パレスチナとの戦いを支援しなければ、いったい誰が支援するのか? という強い自負があるに違いない。
 エジプトやサウジアラビアといったアラブの大国が、イスラエルや米国に寝返ってしまっている現在、イラクは最後の「アラブ魂」を見せようとしているかに見える。もはやこの地域においても、世界においても、我が身を省みずに米国を批判できる国は、イラク以外にないのではないか。

 私は、こうしたイラク国民と、サダム・フセイン大統領の戦いを断固支持する。そのことが、アメリカの傲慢を糾し、20世紀最大の不正義であるパレスチナ問題を風化させることなく、「正義の生命線」を保つ、誇りある行為であると確信するからだ。


※一水会(木村三浩代表)のグループ36人が2月15日、
 外務省の渡航中止要請を振り切り、イラクに旅立ちました。

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